銀の鎧細工通信
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2007年01月23日(火) 常冬 (銀土)

どうして傷つけてしまうのだろう。
そんなことをしたって愛されはしないし、むしろ疎まれるだけなのに。
傷つけるよりも、攻撃するよりも、おおらかに愛する方が楽だ。
愛するだけなら、きっと楽だ。
そこに邪推や憶測や妄想が湧いて出るから、愛するだけで居られなくなる。
愛し、想う事をひどく醜く歪ませているのは、
きっと自分自身。

おだやかさ、あたたかさ、やさしさ、おおらかさ、
春に恋焦がれる。
自分には無いものばかりだから。
自分に無いからと求めるくせに、手に入らないからと傷つけにかかる。
壊れてしまえばいい。
俺には出来ない。
だから壊れてしまえばいい。
俺はそうあれない。
だったら傷ついて壊れてしまえばいい。
同じ場所へと貶めれば、もう欲しくならないだろうと、いう期待。希望。
どちらにしろ焦がれているのに。
ままならないなら、もう見たくないんだ。
自分がかわいいだけの感情に、凍えるばかり。
はじめから春を知らなければ、凍える寒さを知る事もなかった。
もう戻れないのに、諦めもつかない。

もういっそ、なくなってしまえ。
なくなってしまえば、いい。





一番寒さが厳しい季節だ。土方は今ぐらいが嫌いではない。
うだる暑さは何かが溶け出す気分がして落ち着かないし、春や秋の何ともフワフワとした所在のなさも得意ではない。ただひたすらに押し黙って、じっと耐えるだけならむしろ気が楽だった。気持ちが凛とするような大気も、自分の背筋を伸ばしてくれる。気を緩めず、気を緩めず、油断せずに身を硬くして寒さに立ち向かうのは自分の性に合っているとしばしば感じた。
「おら、何縮こまってんだ。そんなことだとイザって時に身体が動かねぇぞ」
「今まさに動きません・・・」
1人でも寒稽古に勤しみ、早朝のまだまだ寒い時分から警邏に向かう。門番の隊士らを更に凍て付かせるような言葉と態度と視線。
「ちっ、だらしねぇ。素振りでもしてりゃあったまるだろうが」
門の番を左右両側でしながら、街路に向かって素振りをしろと云うのか。何の罰ゲームだ、その恥ずかしい真似は。不平を眉間で表現しても、いつも通りの冷徹な表情に却って薄ら寒い思いをする。鼻をすすりながら「副長は・・・冬将軍だな」「まさにそうだな・・・」と詮のない遣り取りを交わす。颯爽と立ち去る背中に『冬将軍』の筆書きの文字が見える気すらした。
「じゃあ局長は・・・」
「春の神かね・・・むさくるしいけどな・・・」
口が回らないために、訥々と話す。カイロを仕込んでももひきを穿き、身体をゆすっていても、しんしんと忍び寄る冷えはいつのまにか全身を重くさせた。気がついた頃には芯から底冷えしてしまう。
「あれだ、堆肥から湯気が立ってるみたいな・・・」
「・・・ああ、豊穣のむさくるしい春の神だな」
「おう・・・」
寒さは人を無口にさせる。じっと、内へと籠もるような。表に出さないものを押し抱いて黙らせる。余計な軽口でも叩かなければ、呑み込んだ言葉ごと凍りつきそうだった。
『冬将軍』は、それこそを願っていると知っている者は、多くはない。

寒いのは、いい。感覚が冴え渡る。足早に歩を進めても、通り過ぎた小路まで目を行き渡らせることができる。静けさで、背後で揺れた落ち葉の乾いた音すら耳に入る。寒さが俺の隙を奪えばいい。鋭い風を身にまとって土方は歩く。河原に向かえば風が身を切るように吹きすさぶ。速度を緩めないままで、目に入る銀雪の眩さ。
(あの人間離れしたトンデモ色は・・・)
ベンチにずっこけるように座っているのか、背もたれから頭だけが見えた。酔って寝て、凍死でもしているのではないか、とちらりと思った。(あの根性無しが寒さに強いわけがねぇ・・・)気配を消しながら近付く、そっと窺った表情に土方は目をすがめた。
厳しくもない、辛そうでもない。寒さを少しも滲ませないどころか、むしろ氷の彫像のような無表情。静かで、ただ静かで、氷の塊の様に銀時は流れゆく川を見つめていた。目に見える部分には何の感情も見て取れない、全てを抱え込んで沈黙している人形のような顔。虚ろではなく、冴え渡っているのに、その眼には何の色もない。冷たく冴えて全ての温度を振り払い、凍り付いている。冬枯れの樹木の様に。
(いやなものを見た)
何がどう、というのではない。ただ土方は直感的にそう感じた。見てはいけないものを見た、というような居心地の悪さ。いたたまれない。
踵を返す際に、動揺が砂利を踏んでも気付かせなかった。じゃり、とブーツの底でなじってしまった小石が悲鳴を上げる。「あら」、いつものようにどこか甘くだらしのない口調が頭の後ろからしたが、そんな声を、あんな表情で発していると思うとどこかぞっとする。振り返ることに躊躇すれば、「何このクソ寒いのに」と声が重なった。微塵もそんな事を思っていないくせに!あんな顔で、あんな目をして、何を云うのか。御門違いは解っていても、カッと来て「お前こそ何してやがる、凍死してるかと思ったぜ」と、勢いをつけて食って掛かった。目を直視することに気が引ける。
そうすれば、いつもの半眼の緩みきった表情で「いんや、酒抜いてただけ」と淡々と口にした。そもそも酔ってすら居ないだろうに、思わず警戒して目が細められた。
それを見て取ったのだろう、薄笑いを浮べながら
「何ぴりぴりしてんの」
と、すかさず揶揄される。
「してねえよ」
応えつつ思い起こしていた。銀時は、いつもどんな顔をしていた?
だるそうに飄々と人をおちょくるか、おっさんくさいニヤニヤ笑いで人をおちょくるか、子どもの口げんかの様に意地を張って尚且つ人をおちょくるか、(おちょくってばっかじゃねえか!このちゃらんぽらんが!!)
思い出しムカッで拳を握り締めるほどだ。
やけに熱くなっているのは、いつも他人絡みだ、とも思い出していた。
「何、かんがえてんの」
だらりと気の抜けた、甘い声。近付いてくる手のひらを眺めながら呆然とする。

そうか。
凍っているんだ。



自分のことが、凍ってる。



氷の塊になって固く閉ざした口、自分の何をも語らず抱え込んで。表には何も出さない。呑み込む事にも慣れきって、中で永久に解けない氷の様になっている。気を張って凍りつかせているわけでもないから、押し黙りもしない。軽口も叩くし、だらだらもする、けれど、中身が根本的に凍っている。寒さで全ての細胞も記憶もひっそりと、静かに。
「つめて」
頬にそえられた手のひらのほうが冷たかった。よほど冷たかった。
「お前の手のほうが冷たい」
ぽつりと云っても、銀時は少しだけ目を細めて、少しだけ唇の端を持ち上げただけだった。

害が無い、こいつも害が無い。
何も損なわないように、何も表には出さない。誰の何をも奪わない。
損ないたくないのだろう。奪いたくないのだろう。
あるがままを肯定して、そのまま受け入れて、支配もしないし縛り付けようともしない。雪が全てを選ばずに降り積もり包んでしまうように。
(こいつとも、違うんだな)
土方は選ぶ。氷が、張る水を選ぶように。
損なうのも怖い、奪うのも怖い、離れることも怖い。それよりも溶け出して、気持ちや言葉まで溶け出すのが一番怖い。
怖いから、だったらはじめから知らない方がいい。知りたくもない。知ってしまったから、もう後戻りが出来ない。戻れないし、進めない。どこにも行けずに足もとは凍り付いている。
得られた後に、失うぐらいなら、いっそはじめから要らないと突っぱねたい。暖かさなんか知りたくない。凍ったままで居たい。

満たされることを臆病だから願わない。それなのに駄々ばかり。
諦めて受け入れることも出来ないくせに、無いものねだりが止まらない。
全く少しも巧くなんて振舞えない。
自分で自分を騙しとおすことも出来ない。
振りだけ。いつも。本当は。
凍っていたい。
本当は溶けたい。
(臆病なだけ・・・)

はっと目を上げると、覗き込むように眼を見つめられていたと気がつく。何も主張しない眼だ。静かで、何も無い。否、何も無いわけではないけれど、見えないようにしている。厳しくもない、辛そうでもない。ただ自然に、常冬の瞳。
「何だ」
声が震えた。吐く息が熱いと感じた。それが厭だった。温度なんて、俺は要らない。臆病だから、拒否している。
応えないで、まだじいっと土方の顔を、表情を、眼を見つめている。
「何だよ」
つめたいてのひら。静かな冷たさは、いっそ穏やかだった。ひっそりと張り詰めている、孤独の、冬の朝。
条件反射で「いやだ」と突っ撥ねたい。常冬の気配がそれを甘く赦さない。
「おい・・・っ」
声を絞り出したら、
「ほっぺ、あったかくなった。かも」
そう笑って土方をぎゅうと抱き締めた。

服越しにも冷たさが、しみこんでくる。








笑って、俺を、赦さないで


笑って赦さないで









続く

・・・つづく、と さがる、って似てませんか。響きが。
なんでもないです、鉄火です。
連作すきなんですね私。同系統のテーマを別の視点やキャラクターでやるの、すきです。
というわけで冬将軍対決だったんですけども、はい、私の中では銀さんは極寒キャラクターです。
だいぶねちっこく強度の銀さんへの妄想がありまして。激しいですよ、いつだって銀さんのテーマソングは鬼束ちひろの「私とワルツを」ですからね。
で、冬将軍対決ですが、断然銀さんの圧勝です。
譲りませんよ、彼は。冬将軍を。
誰も、もうそんな風にしないために彼は侍魂を貫いていますからね。はい私の中では。

では、妙なテンションの高さですが、あとは常夏と常秋です。
誰が来るかはお察しいただけるかもしれません。判りやすさが身上ですから。お付き合いいただけるとうれしいです。


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