銀の鎧細工通信
目次


2004年09月15日(水) 断崖(銀土)



畔道に不自然な赤、ひとつふたつと群れをなし、
やがて田畑を埋め尽くす。

暗い森の中に暗い赤、みっつよっつと群れをなし、
やがて森そのものを赤く染める。

河原に灯る赤、いつつむっつと群れをなし、
やがて水面までを赤で侵す。

岩山に突如表れる赤、ななつやっつと群れをなし、
やがて廻る風車も赤くなる。

断崖に引き寄せる赤、ここのつとおと群れをなし、
やがて招かれ手は血塗れ。


仕事の後は気分が悪い。人間を斬り殺した仕事の後は。
土方は苛ついた気分を自室で悶々と抱いている。
畳に横になり、灰皿を引き寄せてごろごろしながら煙草ばかり吸っている。
もともと喧嘩っ早く、命のやりとりをする瞬間としての真剣勝負の緊張感は
何よりも自分を高揚させ、精神が研ぎ澄まされると感じてはいた。
しかしそれは実際に人間を殺すとか自分が殺されるとかではなく、
そういう断崖ぎりぎりのような切迫した剣の交え方が好きなのであって、
決して斬り殺すのも斬られるのも好きではない。
人殺しが好きなわけではない。
血を見ると昂ぶる、そして同時に死ぬかと思うほどに冷える。

剣しか能がなかった。
奉公に出ても揉め事を起こしては実家に戻り、そこでも諍いは絶えず、
家も飛び出し、落ち着いた先はそうした世間の厄介者や疎まれ者、
不器用で変わっていく世の中に適応していけなかった者、
百姓から徒士から、商家の跡取りから、あぶれた者があの人の道場で
ただ剣術をした。喧嘩をした。揉めながらもともに過ごした。
剣を媒介とすることで他人や世の中と対峙できた。
雇われ用心棒、雇われ喧嘩の手伝い、冷たい目で白い目で見られていた
連中どもが剣を手にしたことで居場所を得た。
近藤さんのところで皆が覚えた剣は、威張るためのものでも、
人を脅すものでもなく、自分の立ち位置としての剣だった。

今も隊士たちは仕事の際、なるべく相手を斬り殺すことを避けている。
もしかしたら自分たちが対峙している相手は、
自分がそうあったかも知れない姿だ。
剣と居場所と己の立ち位置を、天人に奪われることに蜂起した攘夷志士、
自分たちが違う道を選んだのは、きっと偶然なのだ。
もしかしたら自分たちも刀と居場所と己の立ち位置を守るために
幕府に牙をむいていたかも知れない。
そして攘夷志士は本来人間と闘っていたのではなかった、
俺たちのような『幕府の犬』が組織されたから志士たちは天人だけでなく、
人間と刃を交える羽目になった。
だからといってそんな感傷は今更無意味なのだ、よく分かっている。


むしゃくしゃした思いを反映するように手荒く煙草をもみ消し、
土方は刀を掴むと屯所を出た。


夜に街中をうろついていると出くわす奴がいる。
今夜はあの不愉快なにやけ面を見てやっても良い、と思った。
ふと見ると道端のあちらこちらに曼珠沙華が咲いている。
闇夜に鈍く赤が映える。
葉もなく突如として地からのびて、先端が赤く散り開く花。
血しぶきのように赤い花弁が開いている。
夕刻の感触が思い起こされた。土方は舌打ちをする。目の裏を赤がちらつく。
忌々しい。
土方は意識的に、出くわしたくなく、しかし今は会ってやってもいいと
思っている男の住処の方へ足を運んだ。

すると住処の前まで来てしまった。
つくづく忌々しい奴だ、会いたくもないときには人の邪魔をし、
会ってやっても良いと思うときに限って姿を見せない。
土方は自分のしていることの馬鹿馬鹿しさにまた舌打ちをして踵を返した。

帰路にも曼珠沙華が点在し、数本ずつ群生しては
血溜まりを思わせた。
今更人殺しに躊躇いはない、しかし後味の良いものではないのは確かだ。


屯所の横まで戻ると、きらりと光るものが視界に入った。
「万事屋・・・」
意外なところで出くわしてしまい、土方は思いがけず声に出してしまった。
屯所の門から折れた角に銀時は突っ立っていたのだ。
「よう、多串くん。コンバンハ」
「ここに何の用だ」
銀時はへにゃりとしていて何の気負いもない、
「ん〜多串くんで遊びたいと思ってな。来ないかと思ってたんだ」
「あ?何だそりゃ」
「ほれその反応。何か云やァ瞳孔開いて反応してくる、お前、単細胞だから」
にやにやと笑みを浮かべている銀時にここで食ってかかったら奴の思い通りだ、
と土方は平静さを努めて装う決心をした。
「夜な夜な理由もなく市中徘徊してるさびしい野郎に云われたかないぜ」
「さびしいのは多串くんだろ。ムサい連中に四六時中囲まれて、
息詰まっては夜のお散歩なんだろーが。疲れない?そーゆーの」


「余計なお世話だ。大体てめーは何なんだ、一体」


土方は自分の云った言葉にハッとした、お前は何なんだ、それが
人間を斬り殺し、返り血の赤が焼き付いて、考えを巡らせては落ち着かない
夜を過ごしている土方が銀時に今夜出くわしても良いと思った理由だった。

「俺?俺は万事屋銀さんよ」
そう云うと銀時は土方に向き直った、見えていなかった左手には、
曼珠沙華が一本握られている。
まただ。土方の目の裏に赤が蘇る。
「手土産持参だぜ、部屋にあげてお茶とパフェくらい振る舞ってくれや」
真っ直ぐな茎を土方に向けて、赤い花弁を眼前に突きつける。

土方にとって銀時は予想外の行動ばかり取り、目的も正体も掴めないまま
変なところで遭遇しては振り回される、得体の知れない男だ。
見てるものも相手にしてるものもわからない、こいつは断崖のどちら側にいる?
この男は一体何なんだ?

釈然としない感情が二重になって、目の前の赤い花と銀の髪の対比の色彩に、
分からないならその意図の分からない狙いに乗ってやっても良い、
と土方は思った。


「ねーよ、ンなモン。裏門はこっちだ、付いてこい」



NEXT

明日以降、週明けまで更新できないので無理矢理書いておきます。
おかげでもーうまとまってないったらありゃしない。
お題は「彼岸花」と「銀土の関係の発展」です。
今日は巾着田というところで100万本の彼岸花畑を見てきましたよ。
赤にやられたあああああ〜〜〜花に狂ったあああああ〜〜。
うあ〜。ということで20日は・・・オンリーの成果を読んでるだろうし・・・
続きの更新は遅いと思いますが、その分練ります。錬成します、銀土を。

もう寝なきゃ・・・朝から仕事なのに・・・ぐへえ。



銀鉄火 |MAILHomePage