銀の鎧細工通信
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| 2004年09月14日(火) |
ヴィタール(「白日の…」後談沖土) |
門前で旋風に晒されていると身が引き締まる。 気を抜けば飛ばされるような錯覚、気を許せば吹き飛ぶような錯覚。 束の間手に入れた日だまりの暖かさを、微塵も残さず吹き飛ばせ。 この身に轟々と刃のように突き刺され。 内臓も血も骨も、いつもの自分のように戻れ。 与えられた束の間のぬくもりなど忘れろ。
門前で虚空を見る、黒い髪が風になぶられ舞い踊る。 迫る薄闇は、自分の時間、逢魔が時。 ぬくもりを全て忘れ去るための時間。
土方は腰に差した刀の位置を確認し、屯所の門から踏み出した。 「副長、見廻りですか」 「ああ、ちょっと行ってくる」 「この大風です、嵐でも来るかもしれない、お気をつけて」 「ああ」 門番役の隊士と言葉を交わして土方は強風と宵闇の中に身を躍り込ませた。
振り払え、生ぬるい感傷など。 殺戮しろ、自分の不甲斐ない感情。 ぎゅっと眉根を寄せて、土方は徐々に闇に染まりゆく街を早足で歩く。
昼間の晴天とは裏腹に、どんよりと重くたれ込めた雲と身を切るような風に 店屋は早々に暖簾を下ろしている。 不穏な天候に天人の舟も空に見あたらない。 風の吹きすさぶ音だけが耳に響くような、人気のない街。 土方は当て所もなくただただ早足で歩き回った、 見るもの全てを斬るような目付きをして歩き回った。
誰にも会わない。魔性のものにでも出くわせばいい、斬り捨ててやる。
大風に煙草の火花が土方の後方に流れて散る。 紫煙はたなびくよりも早く掻き消える。
どんよりと薄暗い、人気のないうらぶれた光景が自分には似合いだ、 土方は無性に思いこんだ。 晴天の日だまりに甘んじた自分を罰するようにひたすら歩き回る。 刹那、背後から一直線に射抜くような気配を感じた。 殺気とは言い難い、ただ土方を否応なく射抜く圧力だった。 瞬時に柄に手をかけ振り返る、
「・・・総悟」
灰色の景色に薄茶色の髪がなびいている、少年のような容姿の男が一人 ぼんやりと浮かび上がるようにたたずんでいる。 黒い黒い曇天を背後に従えて無表情に。
「何ですかィ、化け物にでも会ったみてェな顔して」
「逢魔が時だ、化け物にでも会ったら斬ろうと思ってたんだぜ、丁度」
「失礼なお人でさァ、俺は化け物ですかい」
「似たようなモンだろうが」
風の中で、妙に声は互いに響いて届いた。 沖田はいつもより蒼白な顔色をしてたらたらと土方の方へ歩いてくる。 「ずっと、後をつけていたんでさ」 「何?」 「だから、あんたが屯所出たときから、ずっと、後を」 抑揚のない声と青白い顔色、無表情に淡々と語られる言葉に土方はぞっとした。 合わせた目の深さに吸い込まれるかと思った。 ましてや、尾行されている気配など少しも気がつかなかった。
「こんな大風の日でもねェ、あんたの歩いた後には血の匂いが付いていて、 どこに行こうが俺にはわかるんですよ」
ふわりと笑んだ沖田の表情は幽鬼のようだった。 言葉を呑んだ土方に沖田は続けた、 「土方さん、あんたァ胡散臭いモンにほだされたりしちゃ駄目ですぜ」
「…どういう意味だ」 沖田の無表情さに土方は少し焦った、長年の付き合いになる相棒の一人だ、 家族より繋がりは深い。だがしかし沖田の腹の底に潜むものには、内蔵を 掻き分けても届かない気が土方はしている。 内蔵に手を突っ込み合って腹を探り合うような関係。一体いつから。 無邪気な兄弟のように近藤さんと三人で、そこまで考えてちくりと 胸が痛むのを感じた。そこで考えるのを、やめた。
「初対面の男に、好いように抱かれたりしちゃ駄目ですぜ、って 云ってるんでさァ」
「ッツ・・・・!」 土方のまなじりが引きつった。それを見て沖田がニコリと微笑む。 沖田の笑い方は目だけが笑っていない。
「俺はね、土方さんあんたの其の目の中に、苦い苦い光が燃えてンのを 見るのが好きなんでさァ」
どこか歌うように云った沖田は土方の眼前にまで歩みを進めていた。
「誰にも云いやしやせんよ、今日のことも。あんたの気持ちも」
「何だそりゃ、俺の気持ちってのはよ」
食ってかかった土方に、沖田は一瞬きょとんとし、そしてまた無表情な笑みを 浮かべて云った。
「聞きたくないくせに強がるのはいけねーや、土方さん」
曝かれた内臓、か細いぬくもりが指先から「ふ」と掻き消えた。 苦い光とやらの正体も、こいつには解剖できるのだろうか、土方は想った。 曝きだして、取り出せるものなら、なァ、総悟。 口にはしなかった。
「屯所に戻りやしょうぜ、直雨がくる」 沖田は云いながら土方の心臓部分の隊服をわし掴み、唇の触れそうな近さで 其の目を覗き込んだ。 切り開かれる感覚。いや、もうとうに此奴には切り開かれて曝かれているのだ。 「ああ、戻ろう」
云いながらも土方は沖田をそのままにし、二人は灰色の街並みに 黒い影となって佇んだ。
END
初の沖土です。私の書く土方さんは気が弱い気がします・・・。 もう土方の想いが変質した時点で三人の関係は崩れて、危ういバランスに あるのではと思います。長いこと。 近藤への決して云えない想いにもの狂う土方を、沖田は愛でていると良い。
「にがい光」と「血の匂いがついていて」というのは田村隆一の『細い線』と いう詩から触発を頂きました。なんだか沖土な詩です。
「涙をみせたことのないきみの瞳には にがい光のようなものがあって ぼくはすきだ」
「きみが歩く細い線には 雪の上にも血の匂いがついていて どんなに遠くはなれてしまっても ぼくにはわかる」 とか。ああ・・・!
タイトルはお正月公開の、最愛の塚本晋也監督作品、 且つ最愛のCoccoがエンディングテーマ曲、 そして『ACRI』以降のファンである浅野忠信主演の映画のタイトルです。 人体解剖の映画だそうです。楽しみすぎてタイトルに。へへっ・・・。
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