銀の鎧細工通信
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「この剣の届く範囲は俺の国だ」 久々に握った真剣が傲慢な台詞を吐かせた。 自分の大事な世界を構成する人間に、物に、勝手に 触れるやつは看過できない。
自分の大事な箱庭を、荒らすやつは斬り捨てる。 我が儘な本性。
自分の守りたいもののためなら何でもする、 ヅラのことをとやかく云えたモンじゃねえ。 我が儘なガキだこれじゃ。 理想の箱庭を守ろうとしたつもりで守れやしなかったこと、 忘れてはいないのにも関わらずこの有様。 「まだまだ俺も青いね〜・・・」
神楽と新八は万事屋に着いて、帰り道で買ってきた カップ麺とコンビニ寿司をたいらげるとすぐさま眠ってしまった。 当たり前だろう。 あれだけ身の危険に晒されて尚この二人は自分から離れていかなかった。 死にもしなかった。今回は、箱庭を守れた。
独善的な自己満足を自覚しながら、銀時はそっと外に出た。 熱を冷まさないと眠れそうもなかった、自分は二人の前でいつもの顔を していられただろうか。エゴ剥き出しの夜叉の顔をしなかったろうか。 月夜が明るい、銀時はまた「青い青い・・・」とため息をつきながら ぷらぷらと静まりかえった夜道を歩く。 銀髪がきらきらと残光を放つ。
ふと前を見ると夜中の闇に尚暗い、黒髪と黒い着流しをまとった 人影が紫煙をくゆらせながら一人で歩いている。
あ、犬が、居る。銀時はとっさに思った。 箱庭の忠実な番犬。 居場所と主を何より愛する番犬。 ちり、と真剣を握っていた手がうずいた。
「お〜おぐっしく〜〜ん」 背後から気を抜いた声をかけると人影は振り向く、月光に照らされた 目が一瞬ちろりと赤く発光する。夜行性の生き物の目だ。
「おめェか。何してんだこんな時間に」 「内緒〜多串くん今勤務時間じゃないでしょ?だから答える義務は ありませ〜ん」 「まぁな。関係ねえことだな」 珍しく素っ気ない反応に銀時はおや、と思った。 「どしたの、多串くん。悪いモンでも食ったの?」 顔を覗き込んで、からかう調子を緩めず畳みかける。 せめていつものように怒鳴りあえたら、 いつもの自分を取り戻せるかもしれない。
「・・・てめェ、瞳孔開いてんぞ」
ひやりとしたものが背筋を通り抜けて地面まで染み渡った。 見透かされているのか?犬は鼻がきく。
「”春雨”っつう天人の海賊船、沈めたのてめェだろ」 「そんな美味そうな名前の船しらねーよ。むしろサラダで食いてえな」 「・・・ふん」 土方はため息とともに煙を吐き出す。 夜空に広がって消えていく、雲散霧消。銀時は熱が治まらないのを感じる。 ざわざわ、ざわ。体の奥で何かがさざめく。
「幕府の天人官僚とシンジケートとの癒着が明るみに出た、 だからって俺たちには関係ねェ。明日っからの仕事が増えるだけだろうよ」 「へえ・・・多串くんたち給料安そうだしなあ、良かったんじゃねーの」 「給料なんざどうでもいいこった」 銀時を見据えてにやりと笑んだ、その土方の笑みは壮絶なものを孕んでいた。 自らの箱庭を見せびらかす機会を得た、自信にあふれた笑み。 ざわざわしていたものが一気に脳天まで駆け上った。
「いいよなぁ。てめーの大事なモン見せびらかせる奴は。 箱庭守ってることに臆面もない奴は。無くしたことないんだろ?」 銀時の放つゆらりとした不穏な気配に、土方がやや構えを見せる。 土方がくわえている煙草を指先ですっと取ると銀時はため息と一緒に 吸い込んだ煙を空に放った。熱は逃げない。 煙草を投げ捨て、土方の胸ぐらをつかんで噛み付くように口吻た。 咄嗟に抵抗する土方の両腕をがっちり掴んで動きを封じる。 顎の角度を変えては、貪るように土方の口腔を味わう。 「っふ・・・・んむ・・・ふ」 荒々しい口吻に土方の呼吸が乱れる。 間近で見る土方の目は月光に反射して赤い、 けれど近すぎて焦点を結ばないので赤色が揺らめくだけだ。 土方は銀時の肩越しに見える煌々とした月の逆光で、 きらきら光る銀髪が視界で揺らめくのを見た。 「・・はっ・・・く・・んん」 負けじと舌を絡めだした土方の小さな喘ぎがこぼれる。 「てめ・・・え、だって大事なモン抱えて、ることに臆面も無えじゃねえか・・ ・・んっく、はあっ・・人で、もルールでも・・・ん・・同じこった・・」 口吻の合間に切れ切れに土方が云った。 銀時は驚いてそっと身を離した。
「ガラス箱に閉じこめて見下ろすだけの箱庭じゃなくて、てめェのは 開け放って一緒に連れ歩いてる箱庭じゃねえか」 濡れて光る唇で土方は続けた。 「それとも囲い込んで眺めてるだけで満足なのか?」 「違う。野放しでいいんだよ、好きなことしてんのが一番いい」 ぽかりと口を開けて素直に答える銀時に土方はまた口角をあげた。 「間抜け面だな、銀髪」
真剣の重さと熱さが手のひらから離れていった。するするとふわふわと。
犬は鼻がきく。銀時の消えない殺気に反応したのか、剣と血の鉄臭さか。 この黒犬が護っている箱庭も理想郷じゃない、 それでもこの犬は構わないのだ。 所有したい訳じゃなく、そこに無事にあればいい。 大事な人が笑っていればいい。 後は一人一人が引き受けるだろう。
「間抜けだな〜よりにもよって多串くんにいさめられちゃったよ・・・ ショックだな〜もうショックすぎて失神しそうだ」 「勝手に失神してろ。そんで二度と目覚めるな。 俺は朝っぱらからガマの警護なんだよ、余計な時間使わせやがって」 きびすを返して土方が背を向ける。
「あ、多串く〜ん、口吻の時には舌に噛み付かない方がいいよ〜 危ないからね〜それとも君何?やっぱ獣かなんか?」 「ってめ!!」 振り返りざまの土方の回し蹴りをかわして銀時はひょいひょいと後方へ跳んだ。 土方は夜目にもわかるくらい真っ赤になっている。 何の因果か、野郎と二度も口吻するとは・・・二人はその時同じことを思った。
土方が舌打ちとともに再び背を向けて歩き出した。煙草に火をつける。 くゆらす煙が漂ってくる。 「じゃーまたね、多串くん」 「だから俺は多串じゃねえって云ってんだろ!」 背を向けて歩きながら土方が怒鳴った。
背負いきれないから大事に暖めた。 背負ったものがなくなったから箱庭はなくなった。 また大事な世界が築かれる。 月夜に照らされる小道。 一人、でないことの不幸と幸せ。
END
へたれ銀さん・・・!!誰これ!? いえ3巻でですね、白夜叉で所有欲丸出しで「俺のモノ」発言とかしてるし 瞳孔も開いちゃって真剣とか持ってるから、後で反動が来たりしないかな、 と思って。後悔したり持て余したりしないかなと思って。 そういう反動は、やっぱり自分の”国”に手出しされたら「ぶった斬る!!」 ってなる土方と相通じるかしら、と思って。 あと銀土っぽいのを書きたかったんです、エロリハビリ。 でも土銀みたいかもしれない・・・あれっ!?
達観してる銀さんが好きだけど、まだ青かったり人間くさい銀さんも好きです。 祝★3巻!15訓と17訓収録にもう大変です。 表紙の神楽ちゃんがかわいいよー!!
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