銀の鎧細工通信
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2004年08月28日(土) 牢屋内の独白(アル)

ねえ兄さん、どうして「魂」でこの鉄鎧の四肢は動くのだろうね。

痛覚、触覚、内臓、体液、骨、筋肉、神経、嗅覚、味覚、無いもの。
視覚、聴覚、思考、欲望、有るもの。

どうしてこれらの機能の分類は魂によってなされたのかな。
僕が持っていかれたのは体全体ではないんだ。
何故なら体全体を持っていかれたのなら、

僕は目も見えないし耳も聞こえないはずだから。

声帯もないのに喋ることなんて出来ないはずだから。

苦しむ兄さんを見て僕まで苦しくなったりしないから。

雨に打たれる猫を保護したいとは思わないはずだから。

同じ行為をした師匠に対して云いようのない思いに胸が痛んだりしないから。

元の体に戻りたいと、欲求したりしないから。


魂、じゃなくてもいい。自我でも何でもいい、今の僕は、何?

生きた人間の脳なら休息を必要として眠る、でも僕は眠くならない。
眠り自体が不要。脳がないから。神経もないから。

湯気の立つご飯を見ても「おいしそう」とは思っても食べようとは思わない。
歯も舌も消化器官もないから、食べても仕方ないし熱量を必要としないから。


僕の実存は何なのだろう、虚構じみているのに虚構ではない。
兄さんに作られた鎧人形なのかも知れない、と思ったこともあるけれど、
兄さんがそんな消耗するだけの茶番劇を錬成する意味がないよね。
よほどのマゾヒスティックなナルシストでも無い限りこんな舞台は
演じたがらない。疲れるだけで無意味。






「人間」の形状を破綻した母さんを錬成してしまって、
その代償として罰として、僕は何をもって贖わされたのだろう。
この、正体不明の魂という属性の「人間」=僕

思うことは僕らの犯罪。当然の対価だよ、これは。
してはならないことの分別を無くして。
見境無く命をもてあそんだ。
材料がそろえば人間が作れるなんて醜悪な幻想の愚かさに気がつきもせず。
最愛の人を、取り返しのつかない肉塊として、化け物として捏造した。
あれは、母さんではない。
母さんの形をしたものが出来たとしても母さんではない。
僕らの愚かさと妄想は、当然の結果を招いた。

絶望だなんておこがましい。僕らが絶望?していい筈がない。

この鉄細工の人形の、空洞の中に自責と自虐がいっぱいに詰まっている。

取り戻そうなんて、本当は思ってないんだ兄さん。
ごめんね。
でも、そんな都合のいいことばかり。
母さんを生き返らせて元のように三人で暮らそうとしたこと、
その結果として当然の代償を払って、
それで失ったものをまた取り戻そうなんて。都合が良すぎるよ。

兄さんは僕まで失いそうになって怖かったんだね。
兄さんが僕を繋ぎ止めなければ僕はあのまま「死んで」いた。
独りになるのが怖かったんだね。
母さんも僕も喪って独りになることと、
愛する人を生きた肉塊にしたことの恐怖や後悔から独りになること、
共犯者を失って独りで背負わなきゃいけないことが。
怖かったから、その後の僕のことなんて無視して自分の為にだけに、
僕を、無理矢理、呼び戻して、鉄細工の人形に、閉じ、込、めた。


でもね、僕が此所に今居ることは多分ほんとう。
魂なんてあやふやなもので、何を持っていかれたのかもよくわからない。
でもね、とりあえず見えて、聞こえて、話せて、動けて、此所にいるよ。
感情だってある。
涙が流れないだけで泣くことだって出来る。
出来る、とは云わないのかも知れないけれど。

云わないよ、思うだけで。「別に取り戻したくなんかないんだよ」って。
これは牢屋なんだ。鉄製の牢屋。
兄さんは牢屋に閉じ込められている僕を見る度に、見ている限り、
あの出来事を忘れない。
この鎧は牢屋。
兄さんが年をとって死んでも、僕は朽ちることなく罪のことを思うよ。
血印が消えればそれで牢屋からは解放だもの。簡単なこと。

ねえ兄さん、牢屋に居ながら僕は動き回っていろいろなものを見て、聞いて、
経験できるんだ。
自由な咎人。こういうのは生殺しって云うのかな、それとも幸せって云うの?


兄さん、ねえ兄さん。





END


・・・嫌な弟でしょうか。根暗な自虐趣味の嫌なアルでしょうか。
絶望の淵でも彼は優しく、おおらかです。鋼鉄の天使です。
でも、なんかそれってもう異常なのでは?狂っているのでは?
もしくはもう自分は死んでいるのだと思っているのでは?際限の無い虚無。
そういうSSです。虚無アル。(神楽ちゃん口調じゃなくて)

わたし、エドは身勝手だと思っています。身勝手でも愚かな優しさを
捨てられない、諦めることの出来ないこどもです。




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