銀の鎧細工通信
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| 2004年08月13日(金) |
遭難者(近藤×高杉) |
ああもう泥の舟だ。 血の粒が粒々と目の横を掠めて、ガギゴンと音たてて、人の油にまみれて 切れない刀で叩き割るように目の前の天人の骨を砕く。
誰が味方だ仲間はどこだ。
もう切れなくなった刀で、切りかかって来た奴の刀を受けて、足元に転がる 死体に(いやまだ死んでないのかもしれない分からない、しかもそれは誰だ?) 突き刺さった刀を力いっぱい引き抜いてぎりぎりと向かいで鍔迫り合う奴の 胴を横からなぎ払う。 ぶしゃあと血しぶき。おお好い刀だ、これを持ってた奴は大して人を切る 間もなく死んだんだろう。
あああ泥の舟泥の舟。仲間はどこだよ俺の大事な隊の仲間は。
また右手後方から走りながら切りかかってくる男が1人、身を屈めて鳩尾に 蹴りを入れてごええと嘔吐する男の頚椎を上から叩き切る。 痛いよ痛いよ辛いよ苦しいよ無念だよ、聞き飽きた。 敵も味方も皆そういって最後の最後には死ぬ、聞き飽きた助けてくれ。 これが現実か、砕けたのは鬼兵隊か俺たちの夢か希望か、俺か? すべては妄想だったのか?
血が流れてくる。熱くてもう自分のものだか人のものだかもわからない。 血がこぼれてくる。生きていたものが生きていなくなる、人だけじゃない。 気が付けばまた切りあっている。もう意味もわからない。 ガッギィン、と硬質の音がして自分の手にしていた刀が折れたことがわかった、 その折れた刃の先をそのまま向かい合う奴の喉に刺す、相手は倒れる。
もう泥の舟だ。こぼれ落ちた。何が?俺の魂か?でも死んでいない。 本当に?
本当に?
助けてくれ。もう声にならない。
高杉は手近にあった(身近に転がっていた死体から肉が刃を締める前に 引き抜いて)3本ほど腰にさして走り去った。 走ったつもりで、もう走れもしなかった。 「血が重い」 一度だけ呟いた。
取り敢えず川まで行ってこの重い血を洗い流したかった。 ようやくの思いでたどり着いた川に服ごと刀ごとざぶざぶざぶと入った。 今の自分の余力では川底の小石に足を取られてよろけても流れて行くだろうので、 浅瀬に座り込んだ。 流れていく水が自分を通り過ぎたところから赤い。 何故か涙が出そうになって眼に手をやった、ら、片目の在る辺りがぐさぐさに なって血がこびりついていた。もう何の感慨もわかずに単純に洗ってみた。 俺の目玉と泥の舟は溶けて沈んだ、仲間はどうしただろう。 水から這い上がれない、自分は泥の舟とともに沈むのか?
「おい、あんた」
「そこのあんた、川ん中に座ってるあんただよ」
自分のことだとはわかっても振り返ることが出来なかった。 不思議と明るく大らかな声の主はそのまま「おーい」と云いながら ざぶざぶと川に入ってきたようだ。 すると両脇の下に手を差し入れられ高杉はずるずると川原まで引き上げられた。
「うわ、他はそうでもないが目は酷いな、見えてるか?」 「・・・いや・・・」 「血で固まってるかもしれないし医者じゃなきゃわからんだろうな」 「・・・・」 「知り合いの診療所があるから、連れて行ってやるよ」 「いや、向こうに仲間がまだ生きているかもしれない」 「向こう?・・・って天人と攘夷志士が派手に遣り合ってたって・・・」 「・・・・」 片目では相手の素性はよく分からないが、侍風の格好の短髪の男、人間だ。 天人との戦を知って此処に来たということは志士か幕府の人間か。 ああしかしこいつ本当に俺の目ェ心配してるな・・・。 太目のきりっとした眉の下で勝気そうな目がおろおろとしている。 「ぐだぐだ考えても仕方ねえ!あんたの怪我は手遅れになると行けねえ、 とりあえず来い!」 おろおろしていた目がカッと生気を取り戻すと男は自分の手を肩にかけた。 もう、されるがままにするしか力が残っていなかった。
連れて行かれて治療を受けた。眠った。起きたらさっきの男が布団の横に 突っ伏して眠っていた。よだれたらしてごおごおと。 その逆の横には刀は拭かれて整えられ、抱えていた3本がきちんとあった。 のそりと布団から這い出して一番まともな一本を吟味し、腰にさした。 「行くのか」 眠っていた男がぱちりと目を開けて訊ねた。 「ああ、世話になった。仲間を探しに行く」 「外まで送る、まあ案内がてらだ気にすんな」 「・・・」 夜の闇は深く、骨に染みるような気持ちがした。 集団で大き目の家屋を間借りしているらしく、にぎわう男たちの声がした。 門のところで振り返った、表札のほかに、「真選組」と書かれた粗末な木の 看板がかけられている。 ああ、最近攘夷戦争も終結しそうになり、幕府方が天人にせっつかれて、 対攘夷志士の幕府による人間の組織を作ろうと募ってるって話を聞いたな。 こいつらはその一組だ。 「じゃあな、お仲間さん、無事だといいな」
「・・・名乗っておくぜ。俺は高杉晋助。鬼兵隊の高杉だ」
「・・・ああ、あんたが高杉か・・・。そうか」
「殺さねえのか。俺の首持って幕府へ行けば即お抱えだぜ」
「いいよ。仲間心配なのはよくわかる。今ここであんたの首斬って成り上がる 気にゃならねえ」 くしゃっと苦笑いを浮かべて頭を掻いた。そのガキ大将のような笑顔。
「あんたの組織はでかくなるぜ、ここで俺に余力があればあんたを殺す処だ」 「そうか、そいつは光栄だ」 高杉はしばらくその男の顔をじっと凝視して、踵を返した。
「俺の名前は近藤だ!立場なんざ関係ねえ、あんたらの無事は願ってる」
背後から声がかかった。 振り返りたくなった。近藤の笑顔がちらつく。 拳を握りしめて高杉は闇の中へ歩みを進めた。 拳を握りしめるだけの力は戻っている、安心した。 後ろで自分を見送る近藤の気配は感じた、けして振り返らなかった。
夜の戦の後、血も青く、むくろだらけの戦場に、徘徊する片目の幽鬼。 黒い黒い犬のような獣を連れて、屍だらけのその中を、さまよう片目の幽鬼。
そんな噂が真選組に入り、やがて噂も消えた。 時期としてはちょうど、川原にさらし首がいくつも並んだ頃のこと。
END&NEXT
可哀相な高杉が書きたかった。鬼兵隊をなくすところと、なくして 黒い獣(狼みたいなイメージ。幻想水滸伝のルカの所為です)に自分や人の 血肉を与えて、大きく大きく自分を食うまでに大きく養わなきゃならなくなった 高杉が書きたかった。 そうじゃない、まっとうな道に生き続ける対比としては銀さんか近藤だと思った。 銀さんと銀色の獣のことは書いたから、銀迦ちゃんのためにも近高にしてみた。 しかも続く。 BGMはアジカン「君繋ファイブエム」とACIDMAN「SlowView」
銀迦ちゃん近高初読み?あげるよ。そのうち絵も描いて贈るよ。
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