銀の鎧細工通信
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| 2004年08月08日(日) |
焼け野が原(ロイ、アルにすがる) |
「アルフォンスくん」 背後から声をかけられる、階段の下のほうに座る僕は見上げる。 かしゃり、鎧の首の付け根のビスが動く。逆光に鈍く映える青い軍服。
(この人の声は、いくら聞き慣れたつもりでも揺らぎがある安定しない声だな。)
「あ、大佐。こんにちは」ぺこりと頭を下げるとかしゃりと腰のパーツが鳴る。 「鋼のを待っているのかい」 「はい」 「今日は日差しが強い、君を慕う鳥が焼き鳥になってしまうから、 私の部屋にでもこないかい」
(この人は、いつも本当に人を見てる。まるで何かに怯えるみたいに。)
アルフォンスは国家に仕える兄の雑務を待つために、本を読んだり 広場の動物と戯れていることが多い。そうして猫を腹に収めては叱られる。 特に餌付けをしているわけでもないにも拘らず、小鳥などがアルフォンスに 近付いてくるのは一重にその無機質さからだろう。あくまでも動く、だけの物。 勿論彼の示す慈しみを安全と見なすからでもある。 安全且つ安心、生ものではないという異質は人間以外には意識されない。
(この人は見ている、しかもそれでいて僕自身がどれだけ日にさらされても 苦痛を感じないことを十分に承知している。)
安堵と諦念と遣り切れなさ、自分の中身が空っぽだと知っている人。 それがアルフォンスの抱く感情。空っぽにして抱くという明白な矛盾。
「・・・じゃあお邪魔します。僕は目立つから、兄さんはちょっと人に聞けば 僕のいる所が分かるだろうし」 自虐の色を多少含んだ物言いにロイは軽く目を細めることで返事をした。
(以前はこんな風な感情の機微は僕らに見せなかった。大佐の中で僕らに 大して何か心境の変化があったのではなかろうか)
人気の無い裏道をわざとエスコートし、自身の勤務室に案内すると、 ロイは階級に見合った大ぶりのソファを大柄な客人にすすめる。 すると何を思ったのか、きちんと礼を述べてきちんと座ったアルフォンスの 向かいではなく横に腰掛けるとぺたりとその半身を寄り添わせた。 「た、大佐?何ですか急に」 「いやあ、本当に熱くなっているよ」 「それはそうでしょう、そうじゃなくて・・・」 何故また急にこんな珍妙なスキンシップを、と問うアルフォンスの言葉を 遮ってロイはずず、と体を前のめりにして俯いて呟く。 「君の中に私が入って、中から焔を熾すとどうなるだろうか、 君は真っ赤に焼けた鉄になり、赤く輝いて触れるものを溶かすのだろうか」
(未だ図りかねている人ではあるけれど、こんなに明け透けに失礼なことを 云うのは珍しいな。しかもこの奇行・・・)
「大佐も分かっているように僕は熱くないですけど、中にいる大佐が熱で 死んでしまいますよ」 本来こんなブラックジョークを交わす相手ではないが、対応に困惑し アルフォンスは無難に冗談として交わすつもりだった。
「そうだね。私が君の中で焼け死んで灰になっても、 君の表面に残った私の焔の熱はしばらく残るんだ。憑かれたようにね」 「体の中は空洞で、体自体も鎧ですけど、僕には魂だけはありますから、 大佐に憑かれたりはしませんよ。何故か自分で四肢も動かせますし」 刺を込めて、しっかりと言い放ってもロイはぴくりとも動かない。
(やはり何かあったんだ)
「・・・僕の体を使って、何かしたいことがあるんですか?」 アルフォンスの右腕にもたれかかり、項垂れたロイにたずねる。 「君を愚弄したいわけではないんだ、けして。 ただね、私は燃やすしか能が無くて、ともに在れるのは君しかいないように 思えたんだ」
ふるえた、声。 ふるえた、手。 この嘲笑を呑み込む様な押え難い悲しみと虚無の名を自分は知っている、と アルフォンスは思った。 他人も理屈も論理も倫理も無視したエゴイズム丸出しの叫びを、 押さえつけて、尚、ふるえる。有無を言わさぬ衝動。
(喪失感。・・・この人は何かをなくしたんだ)
「確かに焼け野が原でも僕は大丈夫です。でも、だからって大佐と居られる わけじゃ、ないです。焼けてしまう人の代わりにはなれませんし」 瞬間、ロイは顔を上げた。力なく身を預けていた体が跳ねるように伸びあがり、 アルフォンスの頭の部分を掻き抱いた。がっちりと。
「私が燃やしたのではない、でも火種を蒔いたのは私だ」 狂気じみた不自然さできっぱりと言った。 「自分の所為にしたいんですか、それともしたくないんですか」 歌うように、けれど残酷に突きつける言葉を放つ。 手負いの獣のように荒れ、取り乱したロイをなだめる様に背中をぽんぽんと叩く。
(自分よりも年上で、色々な経験をしている大人に大して、こんな風に 振舞える自分は、やっぱり空洞だからなのかな・・・) (人がどう振舞っているかを執拗に見ている情緒不安定気味でそれに 自覚のないこの人が、僕を選んだのは、僕がこの体だからだ) (・・・少し兄さんと似ているのかもしれないな。意地っ張りで)
ロイは頭をぎゅうとだきしめたままだし、アルフォンスは取りとめもなく考えを 巡らせる。
そして沈黙。
ぽつりと口を開く。 「どちらもだ」 「そうですか」
「酷いことを云うよ」 「いいですよ」
「君たちは身体の欠落によって自分の所為にせざるを得ない」 「ええ。そうですね」 「私は欠落していない」 「身体は、でしょう。僕に魂があることが、魂の存在証明です、 魂が存在しているということは魂も欠落しえるということです」
「ふふふ。魂の欠落、か。今更そんなにロマンチストにはなれないよ」 「じゃあ焼け野が原で立ち尽くしているのは大佐なんですね」
「そうだよ」 「ひとりで?」 「ひとりだ」 「ひとりじゃないでしょう」 「でもひとりだ」
「大佐は鎧になりたいんでしょう」 「そうかもしれない、と言ったら君に振り払われそうだ」 「事実は事実です。どちらにしても」 「寛容だね、アルフォンスくんは」 「どうしてもひとりにさせちゃいけない人が居ますから」 「義務感のようだね。では君も焼け野が原でひとりきりだ」 「そうですね。大佐は使命感ですか」 「ふふふ」 「ふふふ」
あまりにも哀しみは深く、心は穏やかだった。 あまりにも空洞の闇は深く、逃げ切れなかった。 あまりにも孤独な虚無は深く、呑まれた二人はよく似ていた。 それでも生きていかねばならないということにおいても。 焔を放つ人間は燃やし尽くして焼け野が原に立ち尽くす。 鉄の鎧に魂を包んだ子どもは鉄に熱を孕んで焼け野が原に立ち尽くす。
裏道を使ったがゆえに目撃者が少なく、アルフォンスを探し出せない エドワードが半狂乱の大声で廊下を駆け回り出すまでふたりは くっついていた。
END
久々にパロディ書くのは難しいですね。訳分からなくなってしまう。 話し逸れるし。あれれ?!時間軸も変。取り敢えずヒューズ殺害の後の ロイのやるせなさ爆発ロイアル。 銀迦ちゃんにあげます。変態ロイの片想いというか似たもの同士ロイアルロイ になっちゃったけど。まだロイアルネタあるのでもちっとまとめてから次は 書きますです・・・・。げっそり。 読んでくれた方ありがとうございました!こんな長い駄文を!ぶるぶる。
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