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■ 少年
人の期待に応えること。
それが少年の生きている意味だった。 それが少年の自己評価の全てのよりどころだった。
人に評価される自分であること。 そんな自分でなければ、自分を肯定できなかった。 そんな自分でなければ無意味であり、無価値であると、 はっきりと言葉にされた認識ではないにしろ、思っていた。
少年は青年になった。 人は、彼に何も期待しなくなった。 完全な自由の中で、青年は全く空っぽな自分に初めて気がついた。
自分には、自分の考えが無い。 自分には、やりたいことがない。 自分には、自分が無い。
「やりたいことをやりなさい」 と言う、青年にとっては最も難しい課題を与えられた。
操者のいなくなった操り人形。
糸の切れた凧のようにフラフラ当てもなく 風に揺られて右へ左へ。
あらゆる行動と努力の「動機」が無くなった。 苦しさに耐える意味も失った。 生きていく張り合いを失った。
みんなと同じように生きていくために 心の中に染み付いている「倫理」を 一つ、また一つと意図してかあるいは意図せずにも破っていった。 その度に激しい罪悪感を感じて、自分が嫌になった。
みんなが平気で通っていく道が 恐ろしくて、とても平然と歩くことは出来なかった。
「人の目障りになってはいけない。 人の迷惑にだけはなってはいけない。 人を押しのけてはならない。 人を傷つけてはならない。」
彼の倫理は全て彼の恐怖心からでしかない。
人が彼を「良い人」と評せば、 彼はまごうことなく自分を「良い人」として認識し、 人が彼を「クズ」だと評せば、 彼は自分を、真実として、「クズ」だと認識する。
結局、「彼」は最初からいなかったのである。
2003年10月20日(月)
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