妄言読書日記
ブログ版
※ネタバレしています
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| 2005年02月17日(木) |
『オーデュポンの祈り』(小) |
【伊坂幸太郎 新潮文庫】
伊坂幸太郎は初めて読みますが、かなりイイ。 この小説、非常に好きです。 Yoshiとか野ブタとか読んでないで、これを読めばよかった。 出版業界に失望しかけていたけれど、ちゃんとした作家がいるじゃないか。
久しぶりに読書を純粋に楽しめました。 この一冊で数日は前向きに生きられそうです。
裏のあらすじを読むと、なんだかよくわからないファンタジックな話、あるいは村上春樹みたいな小説なのかな、と思っていたのですが、そういうわけでもない。 全体的にとても優しい話だったという印象があります。易しいじゃないよ。 人が何人か死ぬけれど、それを大仰に扱うわけでもなく、当たり前の光景として書いているのに厳粛さを感じる。
以下、ネタバレを含みます。 どうせならこの小説は、裏のあらすじを読んで、一体どういう小説なのだろうと首をひねりつつ読み進めるのが一番楽しいと思いますよ。
主人公の伊藤と一緒に、島を回りながら島のちょっと変わった人々と出会っていくうちに、この島にとても愛着がわいてきます。 人が死ぬ、悪い人間もいる、ひどい犯罪も起こるけれど、大切なものが失われていないように感じます。
しゃべるカカシの優午は、伊藤と何度か話しただけで、殺されてしまいますが、随所で伊藤が優午の話した言葉を思い出すたびに、哀惜をおぼえます。 優午が作られたエピソードの挿入も絶妙のタイミングだと思います。
最後に伊藤は、優午が死んだのは未来を知っていることが重荷になったからだという結論にたどり着き、ちょっぴりそれが寂しい気持ちになったのですが、伊坂幸太郎はそれをも見越しているのか、最後に優午とお雅のやり取りで終わらせます。 その二人のやり取りが粋なんだなぁ。 とても優しいと思う。
この島に欠けているものが、わかる場面にはなるほど!と思うと同時に、思わず微笑むような感動がありました。
いい小説でした。
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