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2005年05月02日(月)
生きていくお前(4)










極貧乏で
当たり屋なんかやる夢さえウトウト見てしまう
わたしであるけれど
全ての国民は最低限の生活を営む権利を有する、という
憲法の条文が心の支えの私ではあるけれど

今まで万引きをしたことがないのは
数少ない自慢のひとつである


ところがスーパーのレジを通って
袋詰する台の上に
誰が置き忘れたか知らないが

ご丁寧にビニールをかぶせてある
真っ赤なめんたいこが迷子になってるではないか
価格は300円

勿論わたしは
万引きだってただの一度もしたことがないので
持ち帰るつもりなどないけれど
狙い済まして
めんたいこちゃんのすぐ脇に陣取った

それを何食わぬ顔して
自分の袋へ入れてしまうか店員に引き渡すか
どきどきそわそわ
やきもきたらたら

いや、めんたいこちゃん300円を買えるひとが
しかもそれを忘れて行ってしまう薄情者が
めんたいこちゃん300円ひとつでそんなに困るわけはないだろう

いや、それとも自分と同じような貧乏人が
長いこと苦労してやっと買えた
命のめんたいこちゃん300円なのか?

いや、めんたいこちゃん300円も迷子になって
いまとても心細いに違いないはずである

しかも、ここでめんたいこちゃん300円をわたしが持ち帰っても
これはレジを通ってるし窃盗ではない
落とし物を拾っただけである

しかもこのめんたいこちゃん300円は何時間こうやって
陽にあたっているかも分からない
買ったひとが取りに来たとしても、悪くなってるかもしれないではないか

つまりわたしは
いつ店員に呼び止められるかもしれないという危険を犯して
このめんたいこちゃん300円の健康と
買ったひとの胃を守らなければならないのである



あー。いいことをした。