東京ストリップ
text by 早川瑞与
[MyEnpitu]

2004年05月09日(日) 『東京ストリップ』最終夜

どこかですこし息をはいて落ち着いて、何かを書かなきゃいけないと思っていた。別にそれは日記でもメールでもひとりごとでも、たぶんなんでもよくて、たんに、書くことが必要なのだと思う。書いてみないことには、うまく理解できないのだ。

たとえば日記は、私にとっての定点で、ほんのときたま読み返してみれば、そのときどきの傾向があまりにくっきり浮かび上がって、びっくりしたり恥ずかしくなったりする(と、ついでに今ちらちらと読んでみて、情けない気分でいっぱいだ)。とにかく、無意識にもそれは動き続けて、良くも悪くも同じかたちは二度と生まれない。

振り返って、目を細める。
ずいぶん長いこと歩き続けてきたもんだ。

たぶん私は、たどりついたんだと思う。泣いたり笑ったり歌ったり踊ったりしながら毎日をつづって、ここにきて、初めてその意味を知った。今まで私を突き動かしていた何かは、書かせていた何かは、消えてしまったのかもしれない。今の私には、これまでのような言葉をつづることができない。
だけど私は、それをうれしく思っている。

おおげさだと笑うかもしれないけど、私にとってこれってすごいことなのだ。たいしたことではないけれど、すくなくとも私は、真剣だった。

さて、これからどうしようか。
そう考えたら、結論はひとつしかないようだ。そんなつもりで今日の日記を書き始めたわけじゃなかったんだけど、まあ、遅かれ早かれ、こうなるはずだったんだろう。

さびしくなるとは思う。明日ぐらいにはちょっと後悔しているかもしれない。そりゃそうだ、これだけ毎日書いてきたんだから。私はこの場所を、ずいぶん大切にしてきた。毎晩、数え切れないほどの煙草やコーヒーとともに、何かをしぼり出そうと必死だった。

だけど、いちばん伝えたかったことが伝わった今、もう「早川瑞与」の役割は、終わってしまった。このために私は書いてきたのだ。

ここで、たくさんの人の前で脱ぎちらかすのは今日で終わりにする。
いつか、服を着たまま話ができるようになれば、それはそれでいいんじゃないかと思う。またどこかで何かを書くことになるだろうけど(情けなくも書かずにはきっといられない)、それはまったく別のものだ。別のフェイズ。

思った以上にたくさんの人がここを訪れて、ときどきは真剣にメールをくれて、それはとてもうれしかった。ありがとう。私はあなたと、すこしでも分かり合えたんだろうか? そうだといいな。すべて消してしまおうかとも思ったけれど、なんとなく卑怯な気がするので、このまま残しておくことにする。煮るなり焼くなり猫にやるなり、好きにしてほしい。

もちろん、ここがなくなったからといって、私がいなくなるわけじゃない。
私は東京のはざまで、これからも空を見上げ続けるだろうし、あなたもきっとそうするんだろう。そして私たちは、新宿の交差点や、高い高い空の上や、ふと入った喫茶店の片すみで、これからも出会い続けることになる。

毎日は続いていく。
いやになるくらいに、これからもずっと、続いていく。
月あかり、夏の夜のにおい、すこしずつ染まっていく空、波の音、明けの明星、髪をかき乱す風。いろいろなものが通り過ぎていっては、ときどきは私たちを痛めつけたりもする。それでも1日はちゃんと始まるし、私たちは愛しい世界を暮らしている。

私はそれを、これからはあなたと分かち合いたいと思っている。私はあなたの手できれいさっぱりすべてを脱ぎ捨てて、もうすこし先に進むことにするよ。そうしてもいいかな?

ずいぶん長くなってしまった。すぐに感傷的になって往生際が悪いのも私の悪い癖だ。まあ、最後だからすこしぐらい大目に見てほしい。じゃあ、このへんでひとつ息を吸いこんで、言うことにするよ。

また会う日まで、さようなら。



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