先月の4日に、溝の口で大きな火事がありました。
ニュースにもなったので、ご存じの方も多いと思います。
火事になったのは西口商店街。どんどんお洒落になっていく溝の口界隈で、取り残されたように古い商店が軒を連ねていた場所でした。
聞いた話では、溝の口で再開発が進んだのはバブルの時代。
当時、西口商店街もその対象になっていたのですが、バブルがはじけたために計画が頓挫してしまったらしいです。
かつて溝の口の会社に勤めていた弟はそうした時代の溝の口を知っていて、「ずいぶん変わってしまった」と言っていました。
私の知っているのは「お洒落な溝の口」の時代だけです。
でも、この街で生活をすると、「労働者の街」という、溝の口のもう一つの顔がいろんなところに見えてくる気がします。
ちょっとした定食屋とか、立ち飲みやとか、娯楽施設とか。
私は、それでかえってこの町に親しみが湧いてきたのでした。
先日、平日の昼間というのに私は溝の口にいました。
火事のあと、はじめて西口商店街に入りました。
なんでそのあたりにさまよい込んだのか、今となってはよく憶えていません。
燃えたのは西口商店街の一部だったようです。古い店舗がぎゅうぎゅう並び薄暗かった路地が、建物がなくなって驚くほど明るくなっていました。
そこだけ時間が止まっているようでした。

「あー、あのそば屋も燃えちゃったのか」などと思いながら野次馬根性まるだしてのぞき込んでいると、突然、妙に悲しい気分に襲われました。
あまりに唐突で、なんでそんな感情にとらわれたのが自分でも訳が分かりません。
燃え残った黒い建物の奥の方で、誰かがしゃがみこんでこっちを見ていました。
なんであんなところに人がいるのだろう。
気のせいでしょうか。
いや、私はたしかにその人の目を見たのです。
私はその場所から慌てて逃げ出しました。
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西口商店街から駅への階段を上ると、いつも見慣れた改札が現れます。
JR南武線との連絡通路。人の流れが止まらない、賑やかで活気に満ちた溝の口がそこにあります。
私は馬鹿のようにそこに突っ立っていました。何か大事なことを思い出せないような気がしたからです。
迷惑そうな顔をして、ビジネスマンや学生が私をよけて通り過ぎていきました。
ようやく田園都市線への改札を通り、ホームへの階段を上る頃には、もう1か月か2か月すればこの街を去るのだと考えていました。
3月というのに夏のように暑かった午後のことです。