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■ 卵とにわとり
「ゆかちんが見たら怒るだろうなー」 「怒るっていうか、ショック受ける?」 「あぁ〜。顔がね」 「そ、顔がね、きっと『こんなん』になると思う」 『こんなん』な表情を作りながらも、食べる手は止めない。るみさん、さすがです。ていうか、やっぱりるみちゃん、ベースはSだよね。ほら、人間、優れたSである人は優れたMでもあるっていう、上手い人はどっちも上手いみたいな話。 「そっかなー」 「どっちがいいの?」 「え?何、今度は津田ちゃんが聞くんだ?」 「だってあたしが尋問されてばっかなのも、不公平じゃない?」 「そう?あたし津田ちゃんになら尋問されたい。拷問は・・・ちょっと厳しいかも」 「しませんよ、てか尋問もしないから。るみちゃんじゃないんだから」 「え〜、あたしだって津田ちゃん以外に尋問なんてしないもん」 「あたしにもしないでください」 「またまた〜」 「最近、ほんとゆずこ分が増えてきてるよね」 「どうする?これが地になっちゃったら」 「役に乗っ取られるのも役者としては本望なのかなぁ」 「・・・」 「干しバウム、食べきっちゃいそうだね。後でおんなじの買い直そっか」 「・・・あ、うん」 干しバウムって、本来ふかふかのふわふわであるはずのバウムクーヘンが哀れにも干からびているという奇妙な一品。その見た目に反して、すごくおいしい。グミみたいな、干し芋みたいな絶妙な食感がたまらない。たまらないので、本来ゆかちんにあげる用だった物を二人で食べ尽してしまったわけで。 「・・・何か考えてる?」 「え?」 「るみちゃんがゆずこでもちなつちゃんでも、あたしはどっちでもいいよ」 SでもMでもどっちでもいいのと同じで。 「他の別の役でもいいし、何の役でもないるみちゃんがあたしの知らないどこかにいたとしても、それでもいい」 私たちは仕事を通じて知り合った。子供の頃や学生時代からの友達ではないし、恋人?っていうかどうかもよくわかんない。だから仕事の時の気持ちがはみ出てるような形で、相手に特別な気持ちを抱いているのかもしれない。でもそれって、そういう仕事だから。自分じゃない人や者の気持ちを、自分のことみたいに考えてみる。それが自分の気持ちか、役としての気持ちか、明確に分けることはできないんじゃないかな。 人に寄るかもしれないけど。少なくとも、るみちゃんはなんか特別。 「ゆかちん、もしかしてこれ知ってるかもね」 「あ〜そうかも。世界中のバウムを味わってるだろうから」 「ね。ドイツ行ってるぐらいだもん、これ蒲田だよ?」 「蒲田・・・ドイツより全然近い」 「もっと珍しいもの探してこよっか?」 「そうだね」 20歳を迎えたバウムマイスターのために、次の収録の時に珍しいバウムを渡して驚かせたい。そうそう、そんな趣旨だった。でもなぁ、20歳になったゆかちんは、今までと変わらずバウムを最上の物として愛せるだろうか。もっとおいしい物を知っちゃったら、それはそれで悲しい。ゆかちんが大人になっちゃった、とみかしー辺りは泣くだろう。 「お酒おいしいって言い出したりとか?」 「じゃあもうバウムって呼べないじゃん」 「JDバウムあらためJD酒」 「それあかんやつや」 「うん、ダメな感じするわ」 「・・・津田ちゃんが結衣先輩じゃなくなったとしても」 「え?」 「変わらないことってないじゃん、私たちだって。ゆかちんほどじゃないけど、まだ若いし。これから成長してったり、退化?してったりするし」 「退化はしないんじゃないかな」 「でも、私は結衣先輩より」 「うん」 「唯ちゃんより」 「うん?」 「津田ちゃんが好き、かも・・・」 「え」 「ほ、本体の方がね」 「それは、眉毛じゃなくて?あたしの顔見て言ってる?」 「言ってる、今日はちゃんと顔見てる。死ぬほど恥ずかしいけど」 「あたしも死ぬほど恥ずかしいです」
これは誰の気持ちなんだろう。 仮初めの言葉に色をつけて、己の声で口にする時。その時、他人事は濃い意識となって、吐き出した分だけ体に入っていく。吸い込んだ気持ちは、元々自分だと思っていた部分を勝手に染めていく。もう、前の状態には戻れない。
(今度、聞いてみよう) 先輩とか、後輩に。みかしー・・・でいいか、まずは。
2013年06月13日(木)
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