池ポエム
ハンス



 やわらか山脈

 満たされないからってすぐ他の女とでずにー行っちゃうなんてひどいわ!
 という訳で、例の年の差パーソナリティ親友組です。

●宇口裕香(うぐちゆか)
 うぐち、って饅頭喉につまらせた音みたいだが、彼女の愛称は「うぐち」。
 自らのラジオの半分ほどの時間を使って親友である明日見さんの近況を報告するのが愛情表現。うざいメールを送って返信がもらえないのも愛情表現。なんだかんだ言って誕生日に指輪をもらえちゃうのも愛情表現。さりげなく指のサイズを測るのも愛情表現。でずにー関連のホテルに泊まりに行きすぎるのも愛情表現。食べかけのあんず飴奪って食うのも愛情表現。すべてが愛情表現。
 気が合いすぎて一緒にいすぎる親友の明日見さんとは赤裸々な付き合いをしているが、ギタエリには心を開いていないらしい。
 主に宇口からの熱烈アピールを流す明日見、という図式がテンプレ。だが、Jのコンサートに行ったり他の女とでずにー行ったり、意外と気が多いのかも知れない。プレイガールか?

●明日見佳奈(×すみかな)
 本物と読みが一緒なのでちょっと伏せた。『あ』ですよ。
 宇口専用の愛称は「もごたん」「もご」。二人そろってなんか詰まらせた系。
 宇口のうざい愛を受け流すツンデレ。しかし誕生日には指輪を贈る。しかしサイズは合っていなかった。
 実は若干年上なのだが、年の差を感じさせないフランクな間柄。

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 「ほら行け、主人公!」
 「え、ほんとに!?」
 今、明日見さんの隣の席は空いている。ついさっきまでそこにいた人がよその席にちょっかい出しに行ったのだ。かなり激しく絡んでたから、しばらく戻って来ないだろう。チャンスだ。それは私もわかってる。
 でも……。
 「早くしないと誰か座っちゃうって」
 「い、行っても何しゃべればいいんですかね?」
 ぶっちゃけ、宇口先輩を挟んでしか会話したことないのに。酔ったふりして突撃しても話が続かなかったら気まずい。ミッションを果たすなんて夢のまた夢だ。
 「そんなのテキトーテキトー。あ、猫の話しとけばだいじょーぶ!」
 「猫の話? 私、犬しか飼ったことないんですけど」
 「振れば向こうからガンガン食いついてくるから」
 「ほんとですかぁ? そんな食いつきのいい明日見さん、見たことないですよ」
 ごちゃごちゃ相談しつつも、宇口先輩は問答無用で背中を押した。突き出された形でよろよろと近づいて行く。ちょうど明日見さんがこっちを見た。できるだけ酔っ払いっぽい感じで緩く笑ってみる。ここいいですか、と言おうとしたら、どうぞ、と言われた。
 あれ、ちょっとかしこまってる?
 単なるペーペーの後輩相手に、どうぞどうぞとなぜか恐縮する明日見さん。なんか、宇口先輩と一緒の時しか見たことなかったから、ちょっと意外。人見知りなのかな。人のこと言えないけど。
 「どうしたの? さっき宇口と柱の影でもめてたみたいだけど」
 「あ、いや、もめてたというかちょっと交渉ごとを」
 あらら、そっから見られてたのか。
 「後輩に無茶振りすんなって今度言っとくよ?」
 「あはは……」
 可愛い顔して宇口先輩には割とばっさり行く明日見さんのことだ。泣きついたらほんとに言ってくれそう。確かに無茶振りではあるんだけど、今回に限っては本人に言う訳にはいかない。さて、後でどやされるのもアレなので、できるだけやってみますか。
 ちらっと、さりげな〜く明日見さんの指を見る。白くて細い指だな。これは結構小さいサイズだろうな。
 「主人公さん?」
 おっと。目的に集中しすぎて会話ができてなかった。怪しまれてはまずいのでとっさに口をついて出た話題は。話題は……え〜っと。
 「宇口先輩とでずにーすぃー行ったんですよね?」
 めんどくさいミッション押し付けやがってあんにゃろー、と思っていたらつい出てしまった。
 「え、あ、うん」
 と、言ったきり、ちょっと間ができる。あれ、聞いちゃいけなかった? 極秘だった? いや、ラジオで思いっきりしゃべってたから極秘なわけないか。飲み物を飲みつつ、何か考えている様子。こっちのことに気が回ってないようなので、その間も指を観察する。私より一サイズぐらい小さいかな。
 宇口先輩もまどろっこしいことしないで、自分で手をがっと握って調べればいいのに。二人きりで泊まりに行くぐらいなんだから、機会はいくらでもあるだろう。あれでも、前に明日見さんからもらった指輪、全然サイズ合ってなかったらしいし、手は握らないのかな。親友といえども。
 「……主人公さんは、速い乗り物大丈夫な方?」
 「あ、はい? け、結構平気です」
 色々二人の関係について思い巡らしているうちに、話は始まっていたらしい。
 「そっか。やっぱり、乗らないと盛り上がらないか」
 「や、でも歩いて回るだけでもおもしろいですよ」
 宇口先輩情報では、明日見さんはそういう系一切ダメらしい。だからこの間の時も全然乗れなくて、フラストレーション溜まったので翌週別の友達と行ったと言っていた。なんか明日見さん元気ないけど、どっかから伝わったのかな、その話。
 満足できないから他の女と、みたいに捉えちゃってるのかも。あー、なんか語弊あるわ、この言い方。
 「また、行くんですよね。泊まりに」
 「もう。宇口、ラジオでしゃべりすぎ」
 おや、今度はご立腹だ。でもちょっとうれしそう。
 先輩、今度の泊まりで指輪渡すんだって、いつになく真剣な顔で言っていた。だから今日がサイズを知るラストチャンスなんだって。なんだろ、絶対うまくいく気がする。明日見さんのこの表情を見て、そう思った。
 その後はなんだか打ち解けてしまって、宇口トークをしながらどさくさに紛れて手を握った。指輪のサイズ、把握しましたとも。できる後輩でしょう? 宇口先輩。

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 「ところで、ブラのサイズ知りたくないですか? ついでにそっちも知っちゃったんですけど」
 もちろん、酔った勢いのアレコレはこの業界なら淑女の嗜みだからね。ところがお褒めに預かれるかと思ったら、先輩はそっけない。
 「あ、それはいい。知ってるから」
 なんですと。順番おかしくないスか、この女。

2011年08月26日(金)



 やわらか海峡

もし声優、セクハラ編。
主人公が●イム所属ルート(名前は糸里さつき)


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 「やっぱり、ほら、ちゃんと確認しとかないと」
 責任持って応援する方としては、と真剣な顔で前置きする麻衣さん。きちっと正座して、膝に手を置いている。いつになく真面目な雰囲気に飲まれて、隣に座って同じように神妙にしてみた。
 ナボちゃんのことで大事な話があるんだけど、一緒に来る?
 二つ返事でついてきてしまったけど、よかったのだろうか。それにここは……このクーラーの効いた部屋は、麻衣さんの家ではないし、ナボさんの家でもなかった。なんでナボさんのことでこの人?
 「……それ、OKって言うと思う?」
 きちっとした麻衣さんに対面しているこの家の主が、やっと口を開いた。麻衣さんの用件を聞いてからたっぷり5分。なんかもういやになったのか、足を崩してぺたんと座っている。
 「佳奈は優しいし、ナボちゃんのことは大事でしょ?」
 「それと麻衣に胸見せることのつながりがわかんない」
 そりゃそうだ。こっち側についてはいますが、思いっきり埋田さんに同意します。そう、ここは埋田邸。勝手知ったる“うちの”埋田さんに傍若無人なハラスメントを働くために訪れました。本当にごめんなさい。
 あきらかに失敗の気配が漂うのに、麻衣さんは動じない。今、ラジオでナボさんをDにする企画をやっていること、そのナボさんが目標としているのが埋田さんの胸であること、応援団長としてはちゃんとその目標がいかほどのものなのか確認しておきたいこと……等々を一気にしゃべった。さすが声優。立て板に水の見事な説明。全然論理的じゃないけど。普段から異星人なんじゃないかって時々疑うけど、やっぱりこの先輩、今日は一段とぶっ飛んでるなぁ。
 「まぁそりゃ、褒められて悪い気はしないけど」
 「でしょ?」
 「……なんで麻衣に見せなきゃいけないの。百歩譲ってイメトレが必要なのは仁美でしょ」
 「大丈夫。余すことなく伝えるから安心して」
 「いや、そこ安心するとこじゃな」
 「さつき! 今よ、今!!」
 え、今!? 合図が出たらある行動に出ろって言われてたけど、まさかの今!? っていうか無理無理。腕力だって人並みだし、今まで人をそんな風に襲ったことないし、しかも先輩相手に!?
 「早く! うまくいったらナボちゃんの胸触らせてあげるから」
 その報酬で釣られると思われていることが悲しいです……。


 結局すったもんだの末に、麻衣さんにだけこっそり触らせてあげることで落ち着いた。あんまりしつこいから折れたらしい。今、二人は埋田さん家の洗面所に行っている。「覗いちゃダメよ」なんて可愛らしい声で言われたけど、言われなくても覗きませんよ。そんな度胸ないし。
 耳を澄ますと、二人の声が聞こえてきた。養成所では耳がいいことをよく褒められたけど、今のところその能力は盗み聞きにしか活用してないなぁ。あ、ほらまたこんな風に。

『麻衣、私の胸好きでしょ』
【うん】
『少しは遠慮がちに答えるとかしてよ』
【だって嘘ついてもしょうがないもん。佳奈にはどうせ全部ばれてるし】
『まぁね』
【うわぁ、やわらかい】
『そんなに感動する? 初めてじゃないんだから』
【久しぶりだったから。え、でも佳奈大きくなってない?】
『さぁ。どうだろ』
【なってるよ。絶対なってる。え、誰のせい?】
『誰のせい? その発想おかしくない?』
【じゃあ自分で揉んでるの?】
『それは違うけど』
【じゃあ誰? あ、そっか。ラジオの相方だ】
『あの子はそういうんじゃないよ』
【じゃあ誰よ】
『ご想像におまかせします』
【またそうやってリスナーの妄想を煽るようなことを】
『貴方しか聞いてないでしょうが』

 おおー。先輩方、長い付き合いの親友だとは聞いていましたけど。そういうんだったんですね。
 それからしばらく麻衣さんのやわらかい連発が埋田邸に響いてましたとさ。覗く覗かない以前に、声をもう少し抑えてほしい。聞いてるこっちが恥ずかしくなる。

2011年07月19日(火)
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