池ポエム
ハンス



 世界の不幸とハードボイルドハードラック

 大抵の小説の主人公って、なんかしら「うらやましい」ところがある。
 魔法使いの中でも特別な実力者だったり、魔王の子供だったり、勇者の子孫だったり、異星人だったり、女の子にやたらモテたり、剣の才能があったり、無敵の殺し屋だったり、遺産を持っていたり。こうして思いつくままに羅列すると、みんな何かを持ってるってことが条件らしい。
 持ってることは、持ってないよりはうらやましがられる度が増す。でも、持ってても別にうらやましくない、むしろそんな境遇には絶対なりなくないねって条件もたまにはあるだろう。あるんじゃないか。
 そう思った。
 逆に、誰からも嫌がられそうな状態であることだって、主人公である条件の一つではある。それだって特別には違いないな。ベクトルが逆なだけか。それを自らが受け入れているか、拒否したくて仕方ないのかでも結構違ってくる。個人的には、誰からもうらやましがられなくても自分がいいと思ってるなら、その主人公はだいぶ報われている分、ドラマティック度は減る気がする。なんとかしたくて足掻いてるけど、解決方法が見つからない方が主人公っぽいよね。
 もしや単に、「不幸な方が主人公っぽい」のだろうか。
 最近考えているのは、読む人がちっともうらやましいと思わない主人公像である。自分がそんなんなったら絶対ヤダ、と思ってもらいたい。もらいたい、って何でもらいたいのかはよくわからないけど、ある日そう思ってしまったので。

・呪われている
・呪いの内容がマヌケ
・呪いの内容がかっこ悪い
・呪いの内容が見た目にモロに出ている

 まず呪いだ。何に置いても呪われていれば不幸だ。でも入墨が背中に入ってるとか、左右の瞳の色が違うとか、髪がかっこいい色(赤とか)になっているとか、耳が尖ってるとか、そういうのはダメだ。かっこいいから。
 絶対マヌケで、かなりなりたくない呪いとして、次のようなものを提案したい。

・左手が大根になっている

 切れちゃうし、腐るし、折れるし、物掴めないし、袖から白いのがにょきっと出てるし。だいぶいやだろう。しかもこれ、解けないのだ。解き方を求めて世界を旅している大根剣士。世界を旅する理由もマヌケになった。よし。

・オレ女

 一人称「オレ」。オレ女は今まで書いたことがない。女の人だとマヌケな不幸を思い切り笑ってしまえないことがあるので、女の人っぽさを極力打ち消したい。ここは笑うところだってでかい声で言いたい。諸君、我々はただ悲惨なだけだ。

・傷だらけ

 元々は優秀な剣士だったのに、片腕が妙なことになって動きづらくなり、色んな輩に寄ってたかってお礼参りされたせいで結構見えるところにざっくり傷がある。本人、傷のことは気にしていないが、見た目がぼろい。歴戦の勇士っぽさは大根のせいで半減している。

・アホ

 うまいこといい方に人生を進められないアホさを出したい。

・相棒が人外
・相棒が煙でできている
・普段は何にも触れないので口だけ
・口が達者でうざい
・雨の日だけ具現化する

 自分も人外になりかけなのに、相棒も人外丸出しな奴である。殴り合いのケンカは雨の日にする。っていうか仲悪い。

 こんな話を考えている。ついでにこの世界は終わりかけている。終わりかけの世界を旅する片手が大根の女と煙の女。
 終わりかけの世界を維持する方法はある。一日に一度の「存続を賭けた闘争」に勝てばいい。それは世界のどこかで偶発的に発生しているらしい。一度でも負けたら? 終わってしまうのだ。たったのワンチャンスが、大勢の人の何気ない日常を支えている。その一瞬のために払う代価は、誰かがどこかで払ってる。
 「不幸を背負って代価を払えよ、リターンはないけどな」
 いつでも不幸な大根剣士は言うだろう。吹いて飛んでしまえ日常、と。

2011年04月30日(土)



 明けない夜の三妖怪

 東の空へと旅立って行った師を思う。少しだけ涙が出そうになった。かき消すようにコップの中身を飲み込んだら、隣りに座る仲間が笑った。
 「辛気臭いわ、さる」
 こいつは、師が行く先も告げずに失踪したというのに、いつもと調子が変わらない。けらけら笑うと、店のおねえさんに愛想を振りまきながらおかわりを受け取っている。ちくしょう、こんな時にへらへらするな。師がいれば決して思うこともしない暴言が頭を膨らます。が、口には出さない。たとえ師がいなくとも、師の教えに背くような振る舞いはしないのだ。それが、あの方の第一の弟子であるこのさるの矜持。
 ぐっと歯を食いしばった。
 反対隣りにいる仲間が、ふいに頭を撫でてくれた。突然のことに手を滑らしそうになる。こいつはこいつで、酔ってもやけに無口な上に行動に予測がつかない。弟子の中で一番大きな手が、無造作に髪をかき乱す。いくら櫛もいらない剛毛の短髪とはいえ、そう無遠慮にかき回すのはやめてもらいたい。手を払いのけると、黙って引っ込めた。
 「とん」
 「何よ。『ちゃん』付けろっていつも言ってるでしょ。忘れたの、お皿女。それろもわざと?」
 なんだなんだ。頭を撫でるのをやめたと思ったら、突然人を挟んで口論し出した。二人のテンションと行動原理がわからない。とんに至ってはすでに呂律が回っていない。そういえばこの二人は師がいないと途端に小競り合いが絶えなくなる。ああ、どうして今ここに貴方はいないのか。挟まれて心労が増えるのは自分ではないか。
 「妖怪の分際で、ちゃんなどいるか。何様のつもりだ」
 「失礼ね。妖怪れある前に一人の乙女よ」
 「いや、妖怪でしょうよ」
 思わず割って入る。鶏が先か、卵が先か。それが問題だ。いや、自己申告というか気の持ちようなんだろう。この場合は。自称・乙女であることは師も認めていた。師、いわく。
 「己が大輪の花を咲かせることに全力を注ぐ者。また、咲く前の花であることを信じて疑わぬ者、といったところか」
 「……」
 「どうした、さる。いまいちわからんという顔をしているな」
 「はぁ。なんといいますか、斬新すぎて、私には難しいです」
 ああ、あの時もぼーっとした返答しかできなかったっけ。師は、ぼんくらな弟子になんと応えてくれたか、覚えていない。大概のことは理解できないのだ。かっぱならともかく、語るに値しない不出来な弟子なのだ。
 傍らのとんが身を乗り出してくる。押しのけられて、二人の間からはじき出されそうになる。癪だから無理矢理とんとかっぱの間に居座り続けてやろう。
 「さる、そこをどけ」
 「さる、邪魔」
 酔っているとはいえ、同じ立場の弟子仲間に対して二人ともひどい。いつものことながらくじけそう。ならば二人とも、間に人を挟まずに隣り合わせで飲めばいいのに。そもそも、お供する人がいなくなったのだから顔突き合わせている必要はない。
 「私は、明日は師を探します。お二人はどうしますか」
 師は東へ行くと言っていた。
 「好きでいなくなったんなら、追っかけるなんて野暮だわ。あたしは適当に遊んで寺へ帰る」
 とんは、とんらしい。決して師を追及しない。そのくせ、師の帰る場所をなぜかわかっていて、必ず最後は再会を果たす。寺の門、故郷の街角、西の都の鐘の下、北の不死鳥が棲む丘、等々、簡単に行ける場所でも行けない場所でも見事に出会っている。彼女がいうのだから、今回もいずれ寺へ帰るのだろう。待っているのが、確かに得策といえる。それに倣ったりはしないが。
 とんの意見が気に食わないのか、かっぱはただでさえ暗い眼を一層濁らせる。
 「相変わらず供としての自覚がないな」
 「何よ。供なんかいらないのよ、あの人は。いる時にだけ側にいれば、十分務めは果たしてんの。あんたみたいに、私情入りまくりでひっついてるやつの方が自覚に欠けてんのよ」
 「必要不必要はお師匠が決めるものではない」
 「なんであんたの方に決定権があるのよ」
 「決定権? 私にあるのは意志のみだ。権利の問題ではない」
 「意志って、簡単にいえばストーカーじゃない」
 「まあまあ、二人とも」
 二人の意見はどう頑張っても合わなかった。いつまで経っても永遠の平行線。その線を適当に横棒で繋ぐ。
 「ここで解散にしましょう」
 いや、永遠に交わらない場所まで放り投げよう。
 「それは構わぬが、その女とは決着をつけねばならん」
 「いやよ。服破きたくないし、かっぱとケンカする意味がわからない」
 「私はお前の主義が嫌いだ」
 「あたしも、あんたみたいなのは虫酸が走る」
 そうして言い争いながら、二人は武器を手に店を出る。そのうるさい背中を見送りながら、あの二人の分も払います、とだけ店主に告げた。
 「仲悪いなぁ」
 残った食べ物はぬるくなった豆腐ぐらいしかない。外では野次馬に囲まれて、お金がとれるレベルの剣技を披露しているらしく、歓声とおひねりが飛んでいる。誰にも言ったことはないが、ぬるい豆腐は案外好きだ。
 師、いわく。
 「とんは好きにやっているようで、いつも私を考えている。勝手なようでいつだって他人を計算に入れずに行動できない。かっぱは個人的な執着に捕らわれている。それはただの欲だ」
 言葉だけが頭を駆け巡り、またいつものように意味などわからないまま。うまいことは確かだが、何を食べているのか知らない。そういえば自分は食い物に対してもそういうことが多い。

2011年01月30日(日)
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