 |
 |
■■■
■■
■ あなたのことがきになるの
初めて声を聞いたのは、いつのことだったろう。 あの時から全ては始まっていたのかも知れない。人の一生は重き荷を負うて道を行くがごとし……それがどんな道であろうとも、始まってしまった以上は歩き続けるしかない。 あの時、あの声さえ聞かなければ。
「……今、どの辺にいるんすかねぇ」
星空が眩しい。都会では想像もつかないほど。空は白く大粒の輝き。降り落ちるほどの輝きは、ちっぽけな迷子の都会人を途方に暮れさせる。 星ぐらいしか見るものがない。目標物、他に一切なし。たどりつくはずだった村は何処へか。傍らでヘッドホンをして必死な顔をしていた相棒は、すでに状況打破を投げ出して空を見上げた。星よ、できたら教えてください。今いるここは、どこなんですか。 古いワンボックスカーに、骨董品寸前のラジオを積み込んだだけ。ぱっと見難民にしか見えない。田舎道通り越してただっ広い平原にたたずみ瀕死寸前。風前のともしび。 しかも何より、これが日常であることが最悪極まりないのだ。 いつから……いや、それは十分わかっていた。でも繰り返してしまう。なんで、いつからこうなった?終わりのない自問自答。人生の袋小路。 大抵の人々は知らないが、祈祷省はデスクワーク中心の気楽な高級取りなんかではない。もちろん、うまくいい部署に配属されたり、精神的にのみ最もきつい部署に勤める者などは、一見気楽で豪勢な暮らしをしているように見えた。そこだけを見て、揶揄する者も多い。 が、大部分の祈祷省職員と言えば。 「腹減った……」 「そりゃそうだよね……昨日、水飲んだっきりだもん」 大平原で遭難寸前だったりもする。これも仕事のうち。最も目立たず、最も薄給で、最もうっかり苦労をしやすいと噂されるお祈り課の職員二人は、今殉職の危機に立たされている。 耳に微かな音が聞こえているのが救い。 これが聞こえるうちは、きっと助かる。きっと、望む場所へ……いや、望んでいなくてもそこへたどりつく。声を聞く者、誰のところへもたどりつかないはずだった声を、拾ってしまう。 「早く見つけてくださいよ」 ついに相棒は本気で険のある眼差しでにらみだした。つか、お前一応部下だろうが。なんでそんなに強気なんだ。一応上司に対して。 大体、この果てしなき旅路(出張)の果てにコンビはケンカする。結構本気で。 「アンタがいっつも迷わなきゃ、死にかけることもないんですよ」 「別に、こっちだって好きで迷ってるわけじゃね……いやだったら早く最新機材をそろえたらいいじゃんか」 「会議を5回に3回はさぼる誰かさんのおかげで、うちの予算減りっぱなしなんすけど」 「出たって減るよ、きっと」 目減りする一方の予算に反比例して、忙しくなる仕事。大きくなる声。ひどい雑音の向こうに、一抹の希望を見つける。 「お!」 その声ははっきりと、誰かを呼んでいた。 たとえその誰かが自分たちではないとしても、祈る乙女のためにお祈り課職員は存在する。 「……なんすか、そのへぼいモノローグ」 「南南西だ。行くぞ」
いつも聞こえていた音が、声になった、あの日。
「君のことが、気になるんだ」
誰が誰に向けて発したのかわからない、あの声を聞いた時から、長い道は始まったんだ。
2009年10月24日(土)
|
|
 |