池ポエム
ハンス



 ストーリーメーカーと貴種覗き譚

おもしろい本を読んだのだ。

もっぱらアキラの視点でのみ考えてたんだけど、思えばどこを支点に据えても成り立つ。元ネタが隅々まで行き届いたキャラクター性に富んだ作品だから当然ちゃ当然か。己のおかげではない。

気になっているのはサエのことで。
欠如→試練→成長が物語なのだとすれば、まさしくアキラだけでなくサエも主人公なのだ、と。サエの欠如とは、生まれついての自由意志のない立場である。ミカドに嫁ぐためだけの存在。大人にならなければならない入口に立たされて、可能性を求めて挑戦したのだ。
アキラを通して自分の人生を切り開こうとするサエは頑張る若者で、大人っぽくはない。今書いたらもっと違う、別のキャラクターになるかもなぁ。アキラとの関係も、恋というより戦友的な感情から愛着が絡む感じ。
アキラといえば、ベタな貴種流離譚だってことにも今さら気がついたのだった。出自を知らない高貴なお方が、国を出て他国をさすらい苦労する話。いよっ、主人公!

成り立ちがたい思いにもどかしさを感じつつ、単純に言うと老けた。
そんな今日この頃。続きは気になりつつ、もう同じようには書けねえよなあ、と思う。文章自体も、やけに気取ってて読み返して吹いてしまうこともしばしばあり。なんでそんな言い回しなんだお前、と過去の自分をはたきたくなる。ほんとにねぇ。


「すげー!」
「まぁな。もっと褒めてもいいんだぜ」
「・・・褒めるところですか、それ」
わんこ三銃士こと、騎士が三人頭を寄せ合っている。派手な白銀の鎧に赤い布を巻いた精悍な騎士が得意げに微笑む。
「やったことあんのか!?」
「・・・いや、それはねぇ」
「ないんですか!」
途端に、精悍な顔が何かを恐れるような表情に変わった。取り巻いていた二人がめいめい勝手な感想を言う。
「あいつが協力するわけねーだろ。あくまであたしのアイディアだ」
「なーんだ。だんちょー、根性ねーなー」
「イノリさんが良識のある人でよかったです」
壁に耳あり、目もあるから透視もできちゃう話題の人もそれをすぐ後ろで聞いていた。
「私に良識があると実行できないアキラのアイディアって?」
「うおお!!おまっ、真後ろにいたのか!!」
「で?」
「あんな〜」
「ミノリ、言うんじゃねー。これは団長命令だ」
「ミノリ、言ってみて。後でおやつ3倍にしてあげるわ」
「・・・」
団員と団長は堅い忠誠心で結ばれている。その忠誠心の源は名誉と誇り、剣に懸ける情熱など様々であり、迷える一匹の子犬にとっては、
「サエに乗った!」
おやつの三文字に尽きる。
「アキラがびゅーんて飛んでく技あんだろ?あれ使って、服着替えてたり風呂入ってたりするとこに一瞬で侵入できんだって」
「ああー、私が座標計算すれば確かにそれは可能ね」
ものすごくハイスペックな覗きである。
「ほんとにアキラは発想が柔軟というかアホというか」
「アホ!?」
「後でゆっくり力の使い方について話し合いましょうか」
優れた能力と人格は決して比例しないものである。



あの瞬間移動みたいなのはどこまで飛んでいけるのか。そんな自問自答。まさか地球の裏側は無理だろう。
サエが具体的に知覚できる範囲内なんだろう。
だとしても、これはできるよな。ありだよな。いや、そんなことするために磨いた力じゃないけどさ。でもできるよな。光の屈折を魔力でいじって水浴び覗いてた若い魔術師だっていることだしさ。
提案した瞬間モヒカンにされそうな勢いだけど。

2009年09月21日(月)



 練習4

 まだもう少しかかるかな。

 額の汗を拭いて、傍らの石に話かける。涼しいお堂の中ならまだしも、日差しのあたる中庭に放置され、束縛されたこの子は気の毒の一言に尽きる。人の身であった頃はさぞかし色白の美人だったろうに。

――大丈夫よ、私まだ当分ここにいる気がする

 気丈にも、石はそう答えた。
 「いや、そういう訳にはいかないからさ」
 一刻も早い、無駄な束縛からの解放。無用な縁を減らすのも、術者としての大事な務め。何の因果か、朽ちた寺の中庭に縛り付けられた少女の念。この夏が終わるまでに解けると良い。
 とは言っても、これで訪問は3回目だ。治療は依然として続行中。指先が痛くなってきた。これはもう糸ではない。赤い太い縄が、石を這う蔦のように全体を覆っていた。

――今日はひとりなのね

 「そうだよ」
 前回と、前々回はあのきれいな人と一緒だった。
 人間の美醜など、霊体にはほとんど感じ取れないはずなのに的確に言ってのける。まだこちら側に寄っている証拠だ。汗を拭く。手を止めて空を見る。石は八朔の仕草をじっと見ている。

――あなたとあの人、いつも一緒なのにね

 「そうでも、ないよ」
 人間はね、馬の胴体と首みたいにいつも一緒ではないんだ。
 離れて行動することだってできる。

――いなくなったら、どうするの

 石の質問はわかりかねた。この世に一人残された、かつて人だったもの。その名残だろうか。
 「いなくなることもあるんだよ」
 どちらかが先に。
 「でもね、またどこかで会えるから、いいんだ」
 古い縁を振り解いて、待っている場所へ行ける。この縁も解いて、石だって会いたい人にまた会える。そうして見せる。

――また会おうね

 「そうだね。会おう」
 石の淵から乾いた音がした。薄くはがれた欠片が、ぽろぽろこぼれた。

2009年09月05日(土)
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