酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2006年12月29日(金) 『特別法第001条【ダスト】』 山田悠介

 2011年、ニート急増のため日本は財政難に悩まされていた。政府が打開策として棄民政策を発表。18歳以上の未就労者、未納税者に対し“流刑”を言い渡した。無人島に捨てられた者は500日間生活させられる。国民への見せしめの刑法はダスト法と呼ばれた・・・

 うーん、今ひとつ、残念。山田悠介さんには期待しているのですケレドモ。物語の発想はかの名作バトルロワイヤルの亜流だし、オソロシイ無人島でのサバイバルの様子がかなり甘い。もしかしたら残酷すぎるのをあえて避けたのかもしれなと思います。こういう究極の場所に放り出されたら、人間は人として作用しなくなってしまうのではないかと。聖餐もありでしょうね。自分がそういう場に追いやられた時にどこまで理性を保てるやら全く想像できないなぁと思いながら読んだことでありました。

『特別法第001条【ダスト】』 2006.12.20. 山田悠介 文芸社



2006年12月28日(木) 『独白するユニバーサル横メルカトル』 平山夢明

 あっ!と驚くこのミス1位作品です。ホラーは好きなので平山夢明さんのホラーも好きで多々読んでいます。でもこの作品がこのミス1位ってどうなのだろう。なんだか違和感がぬぐえなかったです。生理的おぞましさのたっぷりつまった短篇集、のどかに過ごしたい日にはオススメできません。

『独白するユニバーサル横メルカトル』 2006.8.25. 平山夢明 光文社



2006年12月27日(水) 『二重誘拐』 井上一馬

 これは内容の紹介をしない方がよさそうです。面白いと書くにも問題がありますし・・・。うーん、現代社会に潜む恐怖、リアルホラーなのかもしれませんねぇ。淡々とすすむので読みやすいです。でも個人的好みとしてはここまでの題材なのだからいっそもっとヘビィに書き込んで欲しかったです。特に病んだ犯人についての描写は絶対的に欲しかった。そちらも浮き彫りにしておいて欲しいです。

『二重誘拐』 2006.10.19. 井上一馬 マガジンハウス



2006年12月25日(月) 『親不孝通りラプソディー』 北森鴻

 博多の屋台の親父キュータは、屋台を譲り渡して消えた親友テッキと体験した騒動を思い出していた。1985年の夏、テッキもキュータも17歳の高校生。美人局にひっかかって法外な金を請求されたキュータが金を作ろうと悪事を働くうちにテッキまで巻き込まれ、そして・・・

 北森鴻さんはものすごく好きな作家さんのお一人で、私的北森鴻NO.1が『親不孝通りディテクティブ』です。忘れられない時期を博多で過ごしたため、自分の思い出とともにフラッシュバックする懐かしい風景にメロメロなのです。しかも、主人公のテッキは愛してやまない博多を捨てて去っていく・・・このエンディングに何度読んでも泣かされるのであります。そのテッキとキュータが帰ってきた(驚)!と言うことで熱い思いをなだめながら一気読みしました。ディテクティブでの終わり方からするとテッキが博多復活はありえないと思っていたので、どう復活させたのか興味津々。まぁ、当然と言うか順当と言うかキュータの回想というカタチを取りました。しかも、ディテクティブよりハードな事件を体験していたあたり、後付の物語らしいと苦笑。ドタバタな事件よりも今回のエンディングにまた鳥肌でした。このラスト数行のために起こった事件と言っても過言ではないのですものねぇ。ディテクティブを超える事はなかったものの、あの心に痛いほどに懐かしい博多の風を感じることが出来て本当に本当に嬉しかったです。テッキ最高v

あちゃあ、なんでんかんでんひっくるめて、ちんちろまいったい

『親不孝通りラプソディー』 2006.10.25. 北森鴻 実業之日本社



2006年12月23日(土) DVD『O【オー】』

 ヒューゴはハイスクールのバスケ花形選手のオーディンに対して押さえ切れない嫉妬を隠し持っていた。エリートハイスクール唯一の黒人でカリスマ性を持ち、校長の娘デジーの心も掴んでしまった。バスケのコーチをしているヒューゴの父は息子よりもオーディンに夢中。歪んだ嫉妬心からヒューゴはオーディンを陥れる罠を張り巡らしていき・・・!?

 あれこれDVDを観ていてお気に入りの俳優さんとなったジョシュ・ハートネット君のハイスクール版オセローです。ジョシュ君演じるヒューゴの屈折した心はウマク表現されていました。これって純粋さが残るハイティーンだからこそだなぁと妙にしみじみ心を痛めて見入ってしまいました。大人になってしまえばこういう愚かな暴走はありえない。大人になってこういうことをしでかしちゃうと、それはただ単に大人になれていないだけのことだわ。若さが純粋さが無謀に走り出して破滅してしまう・・・。愚かなヒューゴ。人に嫉妬してる間に自分を磨きさえすればいいことなのに。人は誰とも比べようがないものなのに。もっと愚かなオーディン。信じるべき人を信じられなかった弱さが破滅へ向わせてしまったのね。それもまた若さゆえの脆さ純粋さゆえなのだから痛すぎました。いやぁ、やっぱりシェークスピアってすごいんだなぁ。ちょっと吃驚。



2006年12月22日(金) 『ワーホリ任侠伝』 ヴァシィ章絵

 ヒナコは商社のOL。直属の上司のセクハラを笑顔でかわしながら、腹の内にマグマのような怒りが燃え盛っている。海外ワーキングホリデーの資金づくりのためにキャバクラでバイトを始め、運命の恋に落ちていく。最高の男に愛されたヒナコだったが、実はその男が原因でトンデモナイ暴力の世界へ墜ちてしまい、ニュージーランドへ脱出。しかしそこでまた・・・!?

 物語のテンポが良くて、主人公のヒナコがからりとしているので陰惨な内容が明るく感じる不思議な物語なのです。マンガや映画を文字で読んでいる感覚ですね。ワーホリってワーカーホリックなのかと思って手に取ったのでワーキングホリデーだとは思わなかった〜。なるほどねぇ。ただ老婆心ながら若い世代の女性がこういう感覚を当たり前の様に受け入れてしまうとしたらスゴク怖い。これは物語だからフィクションだから落ち着くべき場所へ着地できたのであって、現実では絶対にマトモには終われません。そんなに甘くも簡単でもない。危険をキッチリ踏まえた上でフィクションを楽しんで欲しいと思うのでありました。こういう感性はある意味すっごく怖いものだと思いました。あ、なんだか真面目だ。

『ワーホリ任侠伝』 2006.10.19. ヴァシィ章絵 講談社



2006年12月21日(木) 「春日局」 杉本苑子

 お福は熟れの絶頂にある26歳。夫の正成は男ぶりも良く、下淫を好む。お福は夫の出世のために乳母として大奥へ入ることになった。行きがけに夫の愛妾を刺し殺して・・・。禁欲の女の園でお福は乳を与える子供に盲愛をそそぐ。その子供は竹千代。次の将軍さまとなるべき方なのだった。

 大奥に関してはフジテレビのドラマでますます興味を煽られています。日本の歴史なんてものにたいして興味を持たずに生きて参りましたが、近年諸事情により(笑)歴史について勉強するようになりました(遅い)。ただ真っ当に語られている歴史よりも裏の顔、闇の顔にそそれらます。想像するしかない歴史に思いを馳せてみるとドロドロしたものがあるに違いないです。やっぱり人間だから。春日局についても、その歴史に触れるにつけ好奇心が巻き上がります! この女はあなどれない。尋常ではない。そういう鬼気迫るオーラを感じるのであります。おかめ顔でふくふくしい様子の女が高貴で美しいお江与ノ方に敵愾心を燃やす。その心根の捻じ曲がりように寒気がします〜ゾー。たまにどう見ても醜女でありながら太刀打ちできない美女にライバル心を持つ女がいますが、あれっていったいなんなんでしょう。身のほど知らずって言うより妄想に近い気がします。己をキチンと把握できないのですもの。お福もまさにそういうタイプに違いなく、その妄想でのし上がっていく。うーん、興味深い。充たされない想いを敵愾心を燃やす女の子供で晴らすナンテおそろしすぎます。春日局については少しずつ追っかけていきたいのであります。

般若よりも、ほんとうはおかめのほうこそおそろしい。ゆだんがならない

歴史・時代アンソロジー『大奥華伝』より 2006.11.25. 角川文庫



2006年12月20日(水) 『中庭の出来事』 恩田陸

 年末陸ちゃんからのクリスマス・プレゼントはまたしても舞台な物語でありました。恩田陸と言う人の作品って脚本みたいなものなので、違和感はありません。瀟洒なホテルの中庭のカフェで人が死ぬ。その人は人気脚本家。周りには芝居のヒロイン候補の美しき女たち・・・と来たもんだ(笑)。これこのまま舞台に乗っけられるんじゃないかしらん。難しい作品だろうケレドモ、きっと面白いと思います。もしかしたら文章で読むよりも面白いのではないかと思うくらい。何故ならば文章で読むには謎の入り子構造がこんがらがっちゃったから。だから舞台でキャラが立つ方がスンナリ絵で理解できそうに思えたのです。たぶん恩田陸の次なるチャレンジは舞台なんだろうなぁ。しかし、フジツボの都市伝説は怖すぎるよう(涙)。

 見ることと見られることは裏返しであり、あなたもあたしも、世界という劇場の中では、常にほんの少しのところで逆転する立場にあるのであります。

『中庭の出来事』 2006.11.30. 恩田陸 新潮社



2006年12月19日(火) 『モノレールねこ』 加納朋子

「シンデレラの城」
 スズさんはミノさんと偽装結婚をした。二人とも気侭な独身生活を楽しんでいるのに適齢期を過ぎて尚ひとりものであることに周囲が家族がうるさいから苦肉の策だった。スズさんにはスズさんの、ミノさんにはミノさんの結婚しない本当の理由があった。スズさんは結婚したことで確実に幸せになっていたのだが・・・

 加納朋子さんの『モノレールねこ』は本当に素晴らしい短篇集です。慈しむ気持ちで一編一編を大切に丁寧に読ませていただきました。クリスマスの贈物に年末年始の忙しかった自分へのご褒美にいいのではないかしら。ただ甘く優しいだけの物語ではありません。どこかに厳しさや痛みを伴った棘があります。物語なのだから甘くて夢のようなものもいいし、この『モノレールねこ』のように甘さと厳しさが同居したものもいいと思います。どの物語も気に入りましたが、一番心にほろ苦く染み入ったのが「シンデレラの城」でした。ネタバレしないように当り障りなくあらすじを書いてみましたが、加納マジックの巧妙さが際立っている作品です。人はひとりで生きていけるケレドモ、誰かと一緒に生きていきたい生き物なのだと思うのですね・・・しみじみと切々と。もうひとつザリガニを主ザリガニ公に据えた「バルタン最期の日」も泣けます。それじゃ、アバヨ。サヨナラだ。(byバルタン) オススメです。

 たかだか婚姻届一枚で誰かを手に入れられると考えている人間が、こんなにも多いという現実が、私には滑稽で、そして不思議でならない。

『モノレールねこ』 2006.11.30. 加納朋子 文藝春秋



2006年12月17日(日) DVD『パラサイト』

 フットボールだけが盛んなオハイオの田舎町のハイスクールに転校生メアリーベスがやって来た。異邦人のように孤独な転校生メアリーベスは孤高のストークリーに近づく。ストークリーは単独行動でSFを好んで読んでいる少女。そのストークリーになにかと絡むデライラはチアリーダーを務める美少女。フットボールの主将スタンはデライラの恋人で進路について悩んでいる。デライラに想いを寄せる優等生で内気なケイシー。優秀なのに不良気取りのシークは自家製のヤクを売りさばいている。そんな彼らの前で教師達の態度が豹変する。ケイシーが発見した謎の生命体が人間の身体に入り込み、人間をホストとして動き始めたのだ。親玉を殺してしまえば元通りになると考えたケイシーたちだったが、自分達の中にも寄生された者がいるのではないかと互いに疑心暗鬼になって・・・!?

 これまた学園青春ホラーの王道ですねー。地球を侵略しようとする謎の生命体=エイリアンの姿カタチって大体似たような感じですが、もしかして本当にそういう生命体が発見されたことってあるのかもしれない・・・なーんて考えてしまうからホラーなのですよね(笑)。なかなかニクイ展開で、「え、そうだったの!?(驚愕)」ってサプライズがこれでもかと盛り込まれているあたり、ザッツエンターテインメント。主人公の内気な優等生はロードオブザリングのイライジャ・ウッド。確かに彼の場合はハイスクールで内気な優等生って感じがします。孤高の少女ストークリー役の女優さんは大人になってはJUONで気の毒な被害者役になってました。アメフトのコーチはターミネーターの追いかける警官役の人、中年女教師はツイン・ピークスのお色気オバサンだったりで見たことのある俳優さんがいっぱい登場。見どころとしては残された高校生たちがエイリアンに立ち向かっていく姿でしょうか。普通、こういう危険な場面では自分のことしか考えられなくて逃げてしまう輩が出てくるものですケレドモ(そうしてそういう馬鹿ほど惨めに殺されてしまう)、みんながケッコーがんばっちゃうから応援せずにはいられない。あんな生理的におぞましい姿のエイリアンと立ち向かえる勇気ってスゴイ。醜悪なものを直視するって勇気がいることだと思うのですよねぇ。私にとってホラーの根源はそこにもあるかもしれないと思ったことでありました。



2006年12月16日(土) DVD『ルール(原題 URBAN LEGEND)』シリーズ

 車に乗る時に後部座席に注意を払わなければならない。斧を持った殺人鬼が潜んでいるかもしれないから・・・都市伝説(URBANLEGEND)のままに雨の夜にミッシェルは殺された。彼女が在籍していた大学では民俗学のウェクスラー教授が都市伝説のルールについて講義をしていた。都市伝説はルールを破る者への戒めである、と。そしてこの大学にもまた伝説が残っている。昔、ある教授が学生を惨殺したのを大学側が隠蔽し、その日に記念パーティを行っているというもの。ナタリーは纏わりついてくるような都市伝説に怯えていた。何故ならば殺されたミッシェルは友人で二人で悪戯に都市伝説遊びをして人を死なせた過去を隠していたから。ナタリーの友人のブレンダやデイモンやポールに元気付けられるものの、ナタリーの周囲では都市伝説を模倣した殺人が次々と発生する。田舎に逃げ帰ろうとするナタリーだったがブレンダの誘いで記念パーティに出席して・・・!?

 ホラーが好きvなのでありますが、ホラーに当たりは少ないと思っています。なので気軽に観た作品が意外にイケテルとことのほか嬉しいですね。この『ルール』も期待しなかったぶに面白さに大満足なのでありました(ニッコリ)。こういう青春学園ティーンズホラーって俳優さんたちが若くて瑞々しくてたまりません。私が気に入ったのはブレンダ役の人。この人はすっごくよかったなぁ。残念ながら駄作となってしまった(私的には)『ルール2』にもエンディングに素敵なゲスト出演してるのもベリーグー。内容はツマンナイけどお茶目な演出に嬉しかったです。『ルール3』では魔法なんか出てきてしまって大元の都市伝説とはかけ離れていましたがヒロインが最高級にキュートでめろめろになりました。ファニーフェイス系のかわいこちゃんってのもいいですのう。ブレンダとは対照的な魅力にあふれていました。ついでに『ルール4』になると駄作も駄作と言うか「なんやねん」な展開。ただここでもキュートな女の子が登場して(主人公の妹役の子)目の保養にはなります。うふふ。どかどかどかっと4シリーズを通して観ましたが、一作目の出来の良さは残りの3作品には皆無。シリーズものの悲しい宿命ですねぇ。なんにしても『ルール』はかなり面白かったです。アメリカの都市伝説がアレンジされて日本にも入ってきているなぁと思います。恐怖やタブーの根元なんて人間ならば同じようなことだと言うことなのでしょう。民俗学の教授ウェクスラーの俳優さんがエルム街のフレディ役の人ってことも御洒落なことでありました。



2006年12月15日(金) DVD『ハイ・クライムズ』

 クレアは公私共に絶好調。美人弁護士として活躍し、夫トムとは激しく愛し合っていた。ある日、家に泥棒が侵入し、警察を呼ぶクレア。その時に採取された指紋から夫トムが逮捕されてしまった。なんとトムは別人になりすまし、12年間も逃亡を続けていた。かつて海兵隊の特殊工作員で、潜入先のエル・サルバドルで一般市民9人を殺害したと言うのだ。無実を訴えるトムを信じて軍事法廷に挑む決意をするクレア。閉ざされた世界の特殊な法でクレアはトムを救うことができるのか!?

 陰謀を暴く!モノは観ていてスリリングでとても興奮します。愛する人のために必死で立ち向かう美女の姿はいいものです(ウットリ)。気になったのは編集の雑さでした。ブツブツ途切れた感じがスゴクいや。そのせいで場面転換が唐突で映像の流れに滑らかさがないのですもの。もったいないなぁ。もっと丁寧に繋げてくれればいいものを。
 クレアが辿りついた真実(落ち)は、まぁ想像のつくところ。でもラストにやっぱり逞しく美しい女の姿を見せるあたりザッツアメリカーン! 女はタフでなければ生きていけないっ。それにしてもどうせならマスコミ大暴露までやればいいのに。・・・それでは本当にクレアが消されてしまうのか(怖)。力のある巨大な組織に立ち向かう限界だったかもしれない。それにしても名優モーガン・フリーマンをもっともっと活躍させて映画全体に重みを増して欲しかったものなのでありました。面白いのに妙に軽軽しかったのが難点なり。



2006年12月14日(木) 『ありふれた魔法』 盛田隆二

 秋野智之は44歳。城南銀行五反田支店次長。2歳年上の女房は元同僚、3人の子供あり。過酷な銀行業務をこなし、家庭を家族を大事に生きる男。なのに恋をしてしまった。部下の森村茜に。若く美しく有能な茜との逢瀬は潤いを与え、気がつけば茜のことばかり考えていた。でもその恋が・・・

 恋なんてもうしない。そんなことを思っていたはずなのに狂おしく焦がれるほどの恋に落ちてしまった・・・。そんな秋野さんはなかなかナイスガイでありまして物語的には美しく綺麗に終りました。だけど、だけど、残された方の気持ちはどうなるの。それもまたエンディングではそれなりの道をつけてあげていたケレドモ、なんと言うかそんなにまで保身に走るのであれば手を出すなよと私は言いたい(憤慨)。それはまぁ大変なことになって一番大切なものを再確認できたのだと言われればそれまででありますが。面白かったし、一気に読ませる魅力満載でした。なのに胸に黒いズブズブしたしこりが残ってしまいました。人間の気持ちって憎らしいいものですね。杓子定規にここからここまでいいとか悪いなんて線引きできないのだから。うーん、複雑。そしてオススメ。

『ありふれた魔法』 2006.9.25. 盛田隆二 光文社



2006年12月13日(水) DVD『THE JUON ー呪怨ー』

 ジャパニーズ・ホラークィーン伽椰子が全米デビューを果しました。今まで観たホラーでイチニを争う恐ろしさだと思っている『呪怨』(ビデオ版)が映画化され、続編も製作され、あれよあれよと言う間にアメリカでリメイク。感染していく伽椰子の呪怨。でもアメリカナイズされた映画では持ち味の不明確さがずいぶんと明確化されてしまい、逆に怖さが曖昧になってしまっていました。残念だと思うものの伽椰子の怖さや恐ろしさは日本人特有の土着の陰湿で粘着質なものから生まれているのでアメリカンには解読不能でありましょう。『THE JUON』では交換留学生のカレンが単位のために介護ボランティアで呪われた佐伯家(と言っても住んでいるのは外国人一家)に訪れて、理不尽な伽椰子の闇に触れ巻き込まれていきます。全米公開リメイクにあたっての苦肉の策と言った感じ。伽椰子は外国人講師のピーターに執着し、ストーキングの末に嫉妬深い夫に殺されたカタチになっています。『呪怨』の特徴的名不気味さのひとつに異常な伽椰子のストーカー日記があって、それまた苦肉の策の変更と言ったところ。もともとは伽椰子の独身時代の恋が妄想とストーキングの果てに子供に恋した男の名前の一文字をつけ、嫉妬深い夫に自分の子供ではないと誤解されたものですケレドモ。あの伽椰子の理不尽な不気味さがスタイリッシュに簡略化。『THE JUON』はそんな映画でありました。じゅうぶん怖いけどー。



2006年12月12日(火) ドラマ『ラブコンプレックス』

 2000年に放送された時、「訳がわからない」と言う声が殺到したそうです。でもこれは今見ても(もしかしたら今だからこそかもしれませんが)かなり面白かったです。なんと言っても主人公の竜崎ゴウ役の唐沢寿明さんの怪演の素晴らしさ! このゴウ役は6年前も今も唐沢さんにしか演じきれない役ですね。だからきっと唐沢さんファンは大喜びな作品だったことでありましょう。下半身にだらしないスケベシーンは笑えて困りました。ふふふ。うまいなぁ。君塚良一さんの脚本は唐沢さんの変な魅力を存分に引き出していました。唐沢さんのために描いたのかもっ!?てくらいでした。
 ワンダーエレクトニクス(パソコン周辺機器製造会社)で起こった横領事件を軸に犯人捜しに秘書室へふたりの男が配属される。その男が竜崎ゴウ真行寺アユム。秘書室には七人の美女。女王様で秘書室を支配するファザコンのシズク。男に裏切られ、男を悪魔と謳う宗教にのめりこんでいるサダ。美しいのに太りすぎていると思い込み過剰なダイエットに嵌るキイコ。常務の愛人として20年過ごし捨てられたお局様のアミ。レズビアンで女格闘家のリリ。優柔不断でリリの誘惑に引き込まれているミヤビ。一番若くていつもニコニコ可愛いミンは裏で煙草を吸い毒づく娘。裏の顔を持ちながら笑顔と美貌で隠している7人をゴウが追い詰め壊していく。ゴウの部下でありながらも、ゴウへの不信感を持つアユムは女たちの力になりたいと必死になって駆けずり回る。何故ならばアユムにも裏の顔、マザーコンプレックスに悩まされていたからだった・・・。
 ざっと粗筋を要約するとこんな感じです。このそれぞれの裏の顔が面白くて、それによって壊れていく様も興味深いものがありました。ただ残念なことは時間的制約のために7人全てのコンプレックスを丁寧に描ききれなかったことにありました。リリやミンやミヤビなんて脇キャラではあるケレドモ、抱えているものは深いし誰の心にもあるかもしれないものですもの。それがトテモ残念。今をときめく伊藤美咲さんがリリ役であったことも新鮮でした。ワンクールではなくってツークールくらいで描ききって欲しかったなぁ。ああ、竜崎ゴウよもう一度。もちろん唐沢さんでv



2006年12月11日(月) 『虹色天気雨』 大島真寿美

 仕事明けでへろへろの市子は朝っぱらから奈津の電話攻撃を受け、朦朧としつつ安請け合いをしたらしい。奈津はいきなり200万持って失踪した夫を探し出しに行くから娘の美月を預かってくれと言う。小学生ながらしっかりしてきた美月と二人で奈津を待つ市子。奈津は夫・憲吾を探し出す事ができるのだろうか。

 これは素敵な物語です。読んでいると微笑んでしまうような心に優しいエピソードの数々。奈津の娘の美月を仲間達みんなで慈しむ姿には共感できます。いろんな瞬間に友人になっていった仲間達のそれぞれの人生と心の交流。人と人の繋がりってこういうカタチが望ましい。この輪の中に入っていきたいような、そんなナイスな気持ちになること間違いなしです。オススメですv

 明るくもあり、暗くもある新年。
 年が替わったからといって、何がめでたいわけでもないってことは誰しもが思い、だけど、それでも、おめでとうと言葉を交わし合うのは、励まし合うのにちょっと似ているのかもしれない。くじけないで歩き続けているあなたへ。くじけないで歩き続けている私へ。
 たった一人で歩いているこの道を、たった一人で歩いているべつの人が、すれ違いざま声をかけ合うみたいに。


『虹色天気雨』 2006.11.110. 大島真寿美 小学館



2006年12月10日(日) DVD『THE WATCHER』

 元FBI捜査官のキャンベルは、FBIを辞めてロサンゼルスからシカゴへ逃げてきた。ロスで追い続けていたシリアル・キラーのグリフィンに自分の大事な女を殺されてしまったからだ。シカゴでカウンセラーに通い、日々に埋没するキャンベル。そんなキャンベルを追いかけてグリフィンがシカゴで殺しを繰り返し始めた。しかもターゲットの写真をキャンベルに送りつけてくるのだ。もう一度グリフィンに立ち向かうキャンベルに・・・!?

 ぜーんぜん物足りないっ(大不満)! なんじゃこりゃーっ(あら、お下品だこと)!! うーん、サイコキラーもの大好き人間としては(それはそれでかなり問題が・・・)キアヌ・リーブス演じるシリアルキラーを表面的に美しく描きすぎていて全くつまらなかったです。ぶぅぶくぶー。だいたい猟奇的連続殺人犯なんてものは壊れている訳で、あんな綺麗に女に近寄って囁いて殺っちゃうナンテただのスケコマシじゃん。あれじゃーあきまへん。制作サイドがキアヌ様に遠慮されたのかもしれませぬが、それって完璧逆効果。もっともっとトンデモナイ変な部分を映し出してこそ、うおーキアヌやりおったなーってことになったでしょうに。ああ、残念。キアヌが執着する男役をジェームス・スペイダーが演じていて、久しぶりでオーラが消えていてこれまた吃驚にガッカリでありました。年を重ねて魅力を増す俳優さんが多いと言うのにジェームスさんたらどうしちゃったの? 役作り? うーん・・・なんか違うのですよねぇ。まぁ、最後まで見せてくれるくらいの力はありましたが、物足りなさは否めないのでありました。はい。



2006年12月09日(土) 『還らざる道』 内田康夫

 取材先で知り合った美女から聞いた話に興味を覚えた浅見光彦は、彼女の祖父の故郷を求めて旅をする。三州、吉備、木曾・・・二度と還ることはないと思っていた男が、その場所で殺されたのは何故だったのか。

 うーん、光彦坊ちゃま相変わらずモテモテです。旅先で出会った美女が祖父の死を調べていて、好奇心丸出しで嬉々として調べて彼女に惚れられる、と。もうここまで来ちゃうとモテろモテろ光彦よっ!って気分で笑っています。今回の事件の背景にあった大きな陰謀と闇の歴史には唸らされました。ただ・・・光彦坊ちゃまは時としてトンデモナイ方法で事件の償いをさせることがあります。今回もまたまたそれをやっちゃって、いいとか悪いとか言うより、胸が痛んでいないかしらと心配になってしまいます。多分、内容は、ほぼリアルで、そのトンデモナイ方法だけがフィクションってことではないのかと考えた次第であります。正義とは何なのかと突きつけられてしまいました。決して光彦坊ちゃまの下したことが正義とは思わないし、内田康夫さんだって其れを正義だとか真実だとか思われていない筈。そういう結末を光彦坊ちゃまにつけさせた、と言うだけのことだと思います。はい。

「そうだとしても、正義を貫くためには、死ぬ覚悟はあるでしょう?」
「それも自信はない。それ以前に、はたして自分が正義かどうかが問題でしょう。正義というやつは、相対的なものですからね。自分にとっては善であり正義であっても、対立する相手にとっては悪であり不義であるかもしれないでしょう。中東のテロや戦争は、たがいに正義を標榜している。かつての日本も、正義だと信じて戦って敗れて、とたんに、あの戦争は不義であったということになってしまったのですから」

『還らざる道』 2006.11.10. 内田康夫 祥伝社



2006年12月08日(金) DVD『iDLE HANDS』

 B級スプラッタコメディホラーでありました(笑)。このタイトルのアイドルは《怠情な、のらくらしている》と言う形容詞。映画の主人公アントンはマリファナでラリパッパな毎日を過ごしていて、その手に悪霊が憑りついてばかばか人を殺しまくる、なーんて呆れたパロディな内容なのです。ヒロインがダークエンジェルのマックス役のアノコでとってもキュートv あのスタイルの良さは涎もんです。ハロウイン仮装パーティで天使の扮装をしているのがたまらなく可愛かったです。天使なのに小悪魔。ただ・・・笑えるし、この手のぶにはそれで流してしまえばいいのかもしれませんが、ラストが全く辻褄合わず。アントンの右手は両親、親友、警官とばこばこ殺しまくってて、それはスルーされてハッピーエンドなのかしら。そこがB級ならではのアバウトさと割り切るべきなのでしょうかねぇ。



2006年12月07日(木) 『月光』 誉田哲也

 野々村涼子は18歳で事故死。無免許の同級生のバイクに撥ねられたのだ。姉を大好きな妹の結花は姉の事故死を不審に思い、姉の通っていた高校に入学。探り続けるうちに美しく優しく清楚だった姉の知らなかった姿が見えはじめてきたのだが・・・!?

 人間は誰にでも人に言えない秘密がある。それは言えないから秘密。それを暴くということは残酷で悪趣味なことだなぁと思うのでありました。ただ、この物語の死んでしまったヒロイン涼子ちゃんは謳い文句にあるような“おぞましい”秘密ではなく、その秘密こそが涼子ちゃんの心の美しさを証明したと感じました。涼子ちゃんの悲惨な体験に関しては確かに“おぞましい”ですケレドモ、“おぞましい”のはそれを引き起こした人間の方。若さゆえかもしれない。でもあれはちょっと・・・。

『月光』 2006.11.30. 誉田哲也 徳間書店



2006年12月06日(水) 『魔性』 渡辺容子

 珠世はギリギリ20代ヒッキー処女。母親との確執に悩み、鬱々と毎日を生きていた時に清らかな美少女と出会った。少女の名前はありさ。ありさに導かれ、サポーターとなり、同志の友達も増えた。なのにある日ありさが殺された。珠世は自分を助けてくれた珠世を殺した犯人をつけとめようと・・・!?

 渡辺容子さんの小説を好きでした。だから今回の新刊は本当に嬉しかったし、違和感を感じながらも読み終わりました。ご自身がサッカーファンでいらっしゃることは存じておりましたし、作品に投影するもよしだと思います。でも・・・この詰め込みすぎの何でもありな切り口っていかがなものか、と落ち込んでしまいました。あまりにも期待が大きくて自分的に外れてしまうとつらいものだなぁとしみじみしてしまいました。もちろん物語としてはそれなりに読ませてくださいましたし、これで渡辺さんをはじめて読んで好きになる方もおいでだと思います。それくらいのレベルではあると思います。でもでもファンと言うものはそれはそれはわがままで贅沢だから口が奢ってしまうと前以上を求めてしまうものなのですね。ああ、次は何年後にどうなっているのかしら。それでも読まずにはいられない方ではあるのですケレドモねぇ・・・。

『魔性』 2006.11.20. 渡辺容子 双葉社



2006年12月05日(火) 『ソフトタッチ・オペレーション 神麻嗣子の超能力事件簿』 西澤保彦

 西澤保彦さんのチョーモンインシリーズは個人的にすっごく好きスキな時とフーンと流してしまう時があります。その心は私は西澤保彦さんの描く暗黒モノが好きと言うことなのであります。だからキャピキャピかわいーものよりもドロドロどよどよしてしまうような路線が好き。なんと言っても初西澤保彦が『依存』ですからねっ。だからうぴゃうぴゃかわいい系を読んだ時には驚いたことでした(笑)。レズビアンものや倒錯ものはドロドロどよどよ系の流れを汲むものだと感じているのでことのほかスキ。うふふ。・・・話を戻しまして、今回の『ソフトタッチ・オペレーション』は様々なタイプの事件が盛り込まれていたので読みでがおおいにありました。個人的な見解(大袈裟な)から言いますと「闇からの声」が素晴らしかったですねー。あんなふうに落とすなんて思いもしなくて。「うまいっ!」と声が出ましたわんにゃん。母親と子供の確執、葛藤は西澤作品の隠れテーマ(隠れていないか)ですわなぁ。嗣子ちゃんの手料理は相変わらずトッテモ美味しそうだし、聡子さんも能解さんもそりゃ太るってものです。アハハ。ダーティな西澤世界に浸りたくなってしまったので『夢幻巡礼』を読み返そうかしらん。ドロドロのどよどよだものv

『ソフトタッチ・オペレーション 神麻嗣子の超能力事件簿』 2006.11.7. 西澤保彦 講談社ノベルス



2006年12月04日(月) DVD『マインドハンター』

 FBIの心理分析官を目指すFBI訓練生たちが最終試験に孤島へ飛ばされる。その島で連続殺人犯のプロファイリングをして犯人の正体にたどり着けば憧れのエリートになれる! 7人の卵たちと特別参加してきた刑事だったが、いきなり罠に陥り一人が死んだ・・・。そしてまた一人、また一人・・・次々と仕掛けられた罠に嵌り死んでいく。いったい犯人は誰なのか。この孤島にいるのは私たちだけなのに・・・!?

 うふふ。面白かったです(満足)。優秀な人材が孤島で疑心暗鬼。もう誰も信じられない。となるとサバイバルゲームに発展するのですね。どんなにずば抜けた頭脳でも美貌でもプライドでも恐怖と疑心暗鬼の前で己の全てをさらけ出してしまうのですよ。これはもう心理ホラーとも言えますねー(にっこにこ)。私の好きな俳優さんが出演していて、いきなり殺されてしまって吃驚して笑ってしまいました。主役クラスの方なので、これは一筋縄ではいかないぞ、と。気分を引き締め直して観たことでありました。末はエリート心理分析官たちの弱点や性格を知りぬいた罠(トラップ)の数々は興味深いものでありました。ただ単に殺せばいいってもんじゃないこだわりがあって、殺人犯の異常な執念と頭脳の高さがクッキリ。そう言う点で言えば、犯人が一番優秀だし、誰よりも心理分析官にふさわしいこともまたホラーなのでありますよ。最期に残るのは誰か?も意外性があり、なかなかなのでした。自分の好みを全面に押し出すのであれば・・・もっと違うエンディングが良かったのですケレドモね。うふ。うふふふふ。



2006年12月03日(日) 『わたしを離さないで』 カズオ・イシグロ

 なんだか清冽で壮絶な物語を読むことが出来ました。なんと言うか・・・最初は「なんなんだろう?」と言う疑問からはじまって、ヒロインの回想に引き込まれて迷宮に入り込んでしまったようでした。その迷宮の姿が見えたときに愕然としてしまって。なので何も知識なく読んで驚いていただくことが王道でしょう。動きが大きくないためにイライラしそうなものなのに、しなかったですね。鬼気迫る凄みがそこにあったからでしょうねぇ。読まずに通り過ぎて人生を終えてしまいかねなかった物語を読めた幸運に感謝です。これは読んで欲しい物語なのであります。

『わたしを離さないで』 2006.4.20. カズオ・イシグロ 早川書房



2006年12月02日(土) DVD『ケイゾク』『ケイゾク/特別篇』『ケイゾク/映画』

 お宮(迷宮入り)な事件を鋭意継続捜査する警視庁捜査一課弐係りに東大卒エリートキャリアの柴田純が配属され、ずば抜けた頭脳で「犯人わかっちゃったんですー」と次々と解明していく。そして妹を集団レイプの上、自殺させた男・朝倉を追い続ける執念の刑事・真山徹の事件が交錯し、ダークで不思議な世界が織り成されていく・・・

 うーん、疲れました。テレビシリーズと特別篇と映画をブッ通しで観終わったので(馬鹿)。はぁ、頭の中がパンパンだわ。真山徹を演じる渡部篤郎さんがスゴク素敵で、これって三上博史さんもありだなぁ・・・と思ったところ、最初のキャスティングでは三上さんが真山で渡部さんが朝倉だったとか! うわー、残念無念。その逆のキャスティングでも良かったのに!!! 三上さんが朝倉ってのが極上だったろうなぁ。憑依する悪意・朝倉(と私は解釈しました)のイメージはテレビドラマでは珍しかったのではないでしょうか。テレビシリーズそして特別篇で言うと特別篇がことのほか良い出来で、そのぶに映画がわかりづらかったと言うか、ご都合主義すぎた感がありました。映画でこそもっともっとダークにドロドロにしてしまえばよかったのに。その上で朝倉VS真山(対決)に重きを置いて解明して欲しかったです。しかし、とにかく渡部さんはウマイ。カッコいい上にとぼけてるなんて素敵で素敵でうっとりしまくり。特別篇で出てきた生瀬さんももっと出してもらえてたら、いい味を出しただろうに、これまた残念っ! こんなケッコー血だらけドラマを放送していたTBSってすごいなぁ・・・。(余談でありますが犯行現場=死んだ被害者の上 に寝転がって同化しようとする女刑事って柴田純のが先じゃないかー。>雪平っ)



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