酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2005年07月30日(土) 『もう一人の私』 北川歩実

「月の輝く夜」
 中学生の幹哉は十四郎と言うハンドルネームで年齢(など)を偽り、パソコン通信をスタート。しかも英語塾の教師・馬島のパソコンで。その上、知り合った月世界という女性に恋をしてしまうのだが・・・

 うわー、大事件発生! やられたかもしれません〜。パソコン通信ものってのは栗本薫さんの『仮面舞踏会』を越えるモノなどないと思っていたのです。でも、これって短篇ながらすっごい面白い〜v 願わくば肉漬けをして長編にして読ませていただきたいくらい。もっともっと書き込んでって気持ちでいっぱいでした。北川さんのチャブダイ返しは一回じゃないもんなぁ。
 もうひとつ「ささやかな嘘」も秀逸。これも長編で読みたいと唸らされた物語です。長編も面白いけれど、短篇もうまい。おそるべし、北川歩実。

 わたしのこと、覚えていてください。

『もう一人の私』 2000.9.30. 北川歩実 集英社



2005年07月29日(金) 『影の肖像』 北川歩実

 理系雑誌の編集者・作間は、仕事相手であり幼馴染の千早の周りでいくつもの不審な殺人事件が起こることに惑わされてしまう。そして事件の背景には『クローン人間が生まれた日』という小説の存在があり、作者が殺される。そして作者は作間の・・・

 うーん、すごい。マイブームとなりつつある北川歩実さん作品読了二冊目です。今回も展開といい、チャブダイ返しといい、お見事としか言いようがないなぁ。
 物語の流れのキィのひとつに難病患者を抱える人間の葛藤そして暴走があり、読んでいて痛々しいんですよね。自分がこの人の立場だったらどうするだろう?と想像すると、同じような事しないとは言い切れなくて。北川歩実さんは発想だけでなく、人間模様までキッチリ描かれているので(時としてもどかしいくらいに)とても面白いと思います。これも個人的にはかなりオススメだわ〜。

 大切な人の命を救うため − 果たしてどこまでが、許される行為なのだろうか。

『影の肖像』 2000.4.10. 北川歩実 詳伝社



2005年07月28日(木) 『透明な一日』 北川歩実

 22歳の僕と19歳の彼女の結婚。周囲の反対は覚悟していたが、まさか彼女の父親が記憶障害になっているとは!? 彼女の父親は記憶の蓄積が出来ず、娘の事すら12歳のまま成長を認知できていない。そんな父親と彼らの周りで次々と殺人事件が発生し・・・

 「うわーっ」と最後にマジに叫んでしまったシロモノ。うーむ、まだまだ未読の素晴らしい作品はこの世に溢れかえっているのだろうなぁ。いったい残りの人生でどれでけの素晴らしい物語を読めるのだろうか(困惑)。
 それくらいこの『透明な一日』のギッシリ詰まった内容の濃さとチャブダイひっくり返しには、ただただ「え?」「えっ?」「ええ〜っ?」でありました。周りにも北川さん読んでる仲間はいたかしら? あまり聞かない気がしますが、きっと読んでる人も多いはず。この『透明な一日』は文庫化もされているし、是非ご一読を。私とおんなじぐらいかそれ以上に騙されまくってください。

『透明な一日』 1999.7.30. 北川歩実 角川書店



2005年07月27日(水) 『腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿』 西澤保彦

 櫃洗市のさまざまな場所に出没する「市民サーヴィス課 櫃洗市一般苦情係」。年齢不詳のお役所人間らしい男が腕貫をはめて、エラソーに待っている。ふらりと相談した人たちは、腕貫男から手掛かりをもらい・・・

 西澤保彦ファンの末席を汚すものとして、ファンクラブの掲示板から誕生した腕貫探偵には思い入れが無茶苦茶強い!のであります。西澤先生に腕貫が似合う話から、とんとんとんからりんっと腕貫探偵なるものが登場し(掲示板の会話で)、本当に西澤先生が物語りにしてくださったというファン垂涎の探偵っ! そしてまた西澤先生らしい小憎らしいいところが、予想をおおいに覆してくれちゃった探偵像でした! たぶんファン全員唖然としたんじゃなかろうか。だから西澤ファンをやめられない。いい意味で裏切り続けてくださるお方です(らぶ)v
 西澤節がさりげなく展開されまくり。言い回しや言葉のテンポの妙があいかわらずよいですのう。たまらんー。これは短篇なので西澤保彦未体験の方も是非ぜひゼヒっ!!! 超花◎オススメでーすv

 純也は胸中そっと、いわゆるぎっくり肩をやってしまった友人に感謝の祈りを捧げた。ありがとう泰地、ありがとう友よ。思いがけずこうして筑摩地さんに会え、しかもお話できちゃったりするなんて。これは夢か幻か。こんな千載一遇の機会を与えてくれたおまえからどうしてハヤシライスを奢ってもらえようか。つーか、おれが今度きみに奢ってあげます。ハヤシライスとは言わず、特選和牛ステーキコースでもなんでもっ。

『腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿』 2005.7.25. 西澤保彦 実業之日本社
 



2005年07月26日(火) 『神様ゲーム』 麻耶雄嵩

 物語紹介(もしくはあらすじ)省略。感想「なんじゃ、こらー!!」でありました。びっくりした。こんなもんをミステリー・ランドに持って来てよいのか? フィクションをフィクションとして読む力をオチビさんたちに養って欲しいとは心底思いますよ。ケレドモ、これはいかがなものか? うーん(悩)。
 ミステリー・ランドってチャレンジャーだよなぁとほとほと感心します。相手が子供だからという容赦は一切なしですもん。全部ではないものの、かなり読んできているけれど、これはダントツの異色作と言うか、問題作と言うか。あなたはあのラストをどう解釈しましたか? 

『神様ゲーム』 2005.7.6. 麻耶雄嵩 講談社



2005年07月25日(月) 『陽気な幽霊 伊集院大介の観光案内』 栗本薫

 新聞記者の伊庭公にそそのかされ、ミステリーツアーに借り出されてしまった伊集院大介とアトムくん。行き先は京都。イベントてんこ盛りのツアーで伊集院大介が見切った真実とは・・・

 栗本薫さんの伊集院大介シリーズは、切っても切っても金太郎飴ってわかってはいるけれど、読まずにはいられないデス。ダイスキな昔馴染みですからねv
 伊集院大介シリーズも‘重い’モノと今回のようにライト感覚なものに割り切ってらっしゃる感じを受けます、近年。それはそれでいいのかもしれないけれども、やはりスタートである重いドロドロしたものを読みたいですね〜。そして伊集院さんが苦悩し、憔悴しまくるような(笑)。
 昨今流行のミステリーイベントを栗本薫らしい毒舌でスパッとたたき切っている、そんな物語でありました。

『陽気な幽霊 伊集院大介の観光案内』 2005.5.30. 栗本薫 講談社



2005年07月24日(日) 『極点飛行』 笹本稜平

 日本で問題を起こしたパイロット・桐村彬は南極で飛んでいる。南極大陸内陸部での飛行は常にリスクが大きく、そのぶん実入りも大きい。彬は日系実業家の通称‘アイスマン’という男に誘われ、とてつもなく大きな陰謀に巻き込まれていく・・・

 うーんと、とっても分厚い物語をどんなふうに纏めようか考えたのですが、頭の中がぐしゃぐしゃになっちゃったので簡単に(笑)v この手の冒険小説って舞台も内容も全く想像がつかないので純粋に「すーごーいー」と思いつつ楽しめます。さながらアクション映画を観ている気分で。ハラハラもするし、楽しかったなぁ。

 どんな運命であれ、それは結局、自らの意志で選んだものなんだよ

『極点飛行』 2005.6.25. 笹本稜平 光文社



2005年07月23日(土) 『クドリャフカの順番 「十文字」事件』 米澤穂信

 古典部は、『氷菓』事件をもとに文化祭用文集を作成。ところが刷り上った冊数が2百部! 予定数三十部がいきなり二百部・・・。古典部の4人はそれぞれのやり方で売り込み作戦開始。時を同じくして予告状とともに「十文字事件」発生。狙われた部から、部の頭文字のモノが紛失していくのだ? この事件の解明に暁には文集も売れる!と踏んだ古典部なのだが・・・

 いやー、米澤穂信さん「キテ」ますね〜。これは完全に行くでしょう。独特の青春時代を絡めた日常の謎ってあなどれないから。まだまだシリーズは続きそうで(事件もあれこれ発生しそう)非常に楽しみなシリーズとなりました。
 認知度の低い廃部寸前だった古典部が、手違いで文集を二百冊も刷り上げてしまう。この二百札をカウントダウンしながら減らしていく手法が好物v 緊迫するわー(笑)。奉太郎の姉上殿がもっと事件をややこしくするのかと思いましたが、残念ながら今回おとなしくされてました。次回に期待v

『クドリャフカの順番 「十文字」事件』 2005.6.30. 米澤穂信 角川書店



2005年07月22日(金) 『愚者のエンドロール』 米澤穂信

 省エネ男・折木奉太郎は、千反田えるの「わたしとても気になります」のひとことで2年生F組の文化祭用ビデオ製作に関わる事となる。奉太郎はなりゆきで関わったのか、はたまた誰かの大きな力に寄って動かされたのか?

 古典部の面々が、えるちゃんの‘わたし気になります’攻撃にやられ、自主制作映画のストーリーづくりに加担。省エネを撤回した奉太郎の推理は冴え渡り?って感じでしょうか。
 いるんですよねぇ。こういう力があるくせに出したがらない奴って。出し方がわからないのかもしれない。それを引き出すのが姉だったり、えるちゃんだったりするのかな。
 前回と今回はイラストが違っていて残念。個人的には『氷菓』の上杉久代さんのイラストが好き。物語にもぴったりだと思う。

『愚者のエンドロール』 2002.8.1. 米澤穂信 角川スニーカー文庫



2005年07月21日(木) 『氷菓』 米澤穂信

 折木奉太郎は、「省エネ」人間・・・だったはずだが、姉の巧妙なコントロールに操られ、廃部寸前の古典部へ入部。名前だけ登録し、幽霊部員のつもりだった奉太郎の前に千反田えるという少女が現れ、古典部に入部。この千反田というお嬢様、不思議を不思議として方って置けない性分のようで、何故だか奉太郎は巻き込まれていき・・・

 高校時代を舞台にされると弱いですね。こんなふうに爽やかな青春を謳歌している彼らを見ると眩しいです。後ろ暗い青春ぶっちぎってましたから(笑)。これは米澤さんお得意のボーイ・ミーツ・ア・ガールなんでしょうね。たったひとりの少女のために事なかれ主義を崩されてしまう主人公。あぁ、青臭くてよいですっ。好みから言うと奉太郎のねぇちゃんが一番グーvでありましたが。

『氷菓』 2001.11.1. 米澤穂信 角川スニーカー文庫



2005年07月20日(水) 映画『姑獲鳥の夏』

 「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君。」
 ・・・ってな訳で(意味なし)、観に行って参りましたv
 何を驚いたかと言うと、パンフレットが既にソールドアウトだったこと。ビックリ!
 このトンデモナイ物語を映像化するにあたり、作り手(俳優陣も含め)は賛否両論を覚悟しての上だろうと思いました。どうしたって「イメージが違う」と言われること必至。そして私自身の個人的感想も・・・やっぱりなにか違う。昭和初期のレトロな感じはよく出ていたケレドモ、うーん、スケールの壮大さが削がれていた気がしました。でもまぁ充分鑑賞に堪えうるシロモノではありますケド。
 配役について言えば、これはもう個人の好みとなってしまいます。堤さんはウマイ俳優さんですが、京極堂ではありません(断言)。シャープさ(見た目も含めて)が無い。そして最愛の木場の旦那。宮迫ファンに申し訳ないけれど、宮迫さん使うなら、くずつながりでグッサンにしてよう〜って悲鳴。体つきがグッサンの方が近いんじゃないかなぁ。でかくてガッシリ。これが木場修の最低ラインだ!! うーん、配役について物申せば言葉が濁流となって押し寄せるので、この辺りで自粛。
 映画を通して感想を述べるならば、関口役の永瀬さんがウマカッタ。彼は役者としては群を抜いてました。危ない際に生きている関口君をあぁも見事に演じ切るとは、永瀬正敏おそるべし。あと作者の某先生(大笑)もやたら出演されていましたケド・・・あれはほんのワンシーンで「え?」くらいの露出に控えられた方がよろしかったのでは????? 老婆心ながら、肥えすぎた某作者はあまり観たくなかったデス。
 映像化して作品を肥える、違う、越えるって至難の業なのだなぁとつくづく感じ入った映画鑑賞なのでありました。ま、1000円だったからいいけど。



2005年07月18日(月) DVD『洗脳』 ※ネタバレあります。

 優秀な兄の自殺にショックを受けたスティーブの一家は、穏やかな田舎町に引っ越した。両親と妹とともに心機一転はじめようと思うスティーブだが、編入したハイスクールは見事にグループ分けされていた。特権階級‘ブルーリボン’というグループは成績優秀、品行方正と思われたが、ときどき思いがけない暴力性を見せるのだった。最初にスティーブに声をかけてくれたギャビンがブルーリボンに取り込まれ、スティーブにも魔の手が伸び・・・

 いや〜、B級ホラーサイコウ〜! ブラボー!! アメリカの片田舎を舞台にマッドな教師が洗脳をしまくっていると言うもの。目に妙なチップを入れ込んじゃって興奮するとロボットみたいに動きがぎこちなくなって暴発。健全な高校生に興奮するなって方が無理だよー。笑えるぅ〜。
 ハイスクールが舞台で、さまざまな高校生が登場し、ワクワクしちゃう。誰でもない自分を探している頃の若者達って見苦しいほど生き生きしててトッテモ素敵。青春だー。ホラーだけど〜。



2005年07月17日(日) 『うなぎ鬼』 高田侑

 倉見勝は借金返済にあえいでいるところを社長に救われる。見た目はごつく強面な勝だが、性格はおとなしく小心者。社長は勝の見た目を利用し、どんどん危ない仕事をさせる。ある日、勝は中味を知らないものをただ運ぶだけでいいという仕事を引き受けるのだが・・・

 うーん(悩)、これってホラーなのかな。これをしてホラーと言うのであれば、人間の性根のおぞましさや醜さこそがホラーと言うことになってしまう。今の社会に溢れている予想もつかない犯罪を鑑みれば、やっぱり人間がホラーなのかもしれないな・・・。
 破滅型の人間の典型の勝が落ちていく地獄。自業自得ではあるけれど、可哀想というか、なんと言うか。面白いというより、ひたすら後味の悪い物語でした。でも読みきったんだからそれなりに面白かったと言うことか。

『うなぎ鬼』 2005.6.20. 高田侑 新潮社



2005年07月16日(土) 『シリウスの道』 藤原伊織

 辰村祐介は38歳、広告代理店勤務。ワケあり十八億、新規競合に参加することになる。仕事とプライベートと過去。辰村を中心にさまざまな思惑が動き始める・・・

 うーんと、むずかしいので内容は簡略に(簡略すぎるケド)。むずかしいと言っても、内容はさほど新しいものではないし、筋道も読めてしまう。いおりん、どうしちゃったのかなぁ。無理して新しさに挑む事もないような気がする。
 勿論、天下の藤原伊織。面白いんですよ。ハラハラもすればドキドキもさせてくれる。でも読み手と言うのは強欲なもので、その作家さんの今まで以上を求めるきらいがあるから・・・。蚊トンボの方が意外性あったかもしれないなぁ。
 辰村と女ボスとのオトナな恋愛模様はトテモトテモ素敵でした。これくらいの年齢になると、簡単に引っ付いたりしない。そこが味があっていいんですよねぇ。インスタントな恋愛は育たないって経験から知っているのね、きっと。うふふ。
 なんじゃそら、な感想でした。

 でもいつまでも逃げまわってちゃ、自分も自分の周りも、なにも変わりはしないの。

『シリウスの道』 2005.6.10. 藤原伊織 文藝春秋



2005年07月15日(金) 『ぶたぶたの食卓』 山崎存美

 山崎ぶたぶた。ピンクのバレーボール大のぬいぐるみだが、人間らしい(笑)。今回はぶたぶたさんが食べ物に関する物語にいろんな関わり方をする。料理中に火で焼け焦げませんように、と言うのはどうやら万人の心配らしい(大笑)v

 うーん、癒されるぅぅぅ・・・なぁーんて書くと、全日本ぶたぶた普及委員会会長に怒られます(大笑)。ぶたぶたさんの物語って、煮詰まっているとふいっと掬い上げてくれるような、優しさや救いや癒し(ハッ、殺される・・・)を感じます。なんとかなるよね、みたいな気分に持ち上げてもらえるような、そんな感じ。
 ピンクのバレーボール大のぶたのぬいぐるみが動いていたら、話したり、食べたり、飲んだり、料理したりしたら・・・それだけでウフフフと笑えてしまう。会長にまんまと布教され、布教する立場に回った者として、これからもたくさんのぶたぶたさんにお目にかかりたい。いろんな姿を見せるぶたぶたさんは、もしかすると007のような諜報部員なのかも。きっと日本人を油断させて観察しているのね。あんなスパイになら騙されてもいいなぁ。

『ぶたぶたの食卓』 2005.7.20. 山崎存美 光文社文庫



2005年07月14日(木) 『MORNING GIRL』 鯨統一郎

 仮想現実物語の流行作家のスティーヴは、スペースアイランド‘飛翔’で不眠を感じていた。人体コンディショナー・エドナに相談に赴くが、期待した回答は得る事が出来ず、睡眠学者のダイアンのところへ行く。不思議な事にスティーヴとダイアンは互いに欲情をする。‘飛翔’では性行為が禁止され、性欲抑制処置を施されているはずなのに・・・

 この物語を開くと「‘訳者’まえがき」が目に入ります。なんでもこの物語はアメリカに住む知人から送られてきたもので、無名作家の未発表原稿だったとか・・・。それを鯨統一郎さんが訳し、鯨さんの名で発表となったらしいです。うーん、これを額面どおり素直に信じていいものかどうか。謎の人、鯨統一郎だからなぁ(笑)。
 物語はほぼ会話形式なのでスラスラ読めるし、なんとなく展開も読めるのではないでしょうか。物語を読んだだけでは鯨さんのものか外国の無名作家のものか判断しかねますケド、鯨さんらしいっちゃーらしいのですけどねぇ・・・。最後にとりあげる言葉もどこかで聞いたっぽいし(笑)。うーん(悩)

「世の中には偶然などというものはないのだよ」

『MORNING GIRL』 2005.7.1. 鯨統一郎 原書房



2005年07月13日(水) 『夏の吐息』 小池真理子

「パロール」
 1年前、叔母夫婦の居酒屋で亜希子は「古賀」という男と知り合った。付き合っていた男と別れたばかりの亜希子は古賀と話すことに興味を感じていた。ある夜、ふらりと入ってきた男が古賀に「センセイ!」と声をかけ、古賀が詩人であることを知り・・・

 この『夏の吐息』はどれもトテモよくて、なにを選ぼうか悩んでしまいました。どの物語にも自分の心の欠片を見る様で。その中でこの「パロール」をチョイスしたのは、テーマが‘言葉’だったから。
 言葉というものは難しくて、たった一言を読み違える事もあれば、何げない呟きを邪推されることもあります。言葉が通じ合うというのは、とても感性の近い人、もしくは言葉をやりとりしあって信頼を得た人に限るのかもしれないなぁ、なんて思ってしまうほど。自分のサイトで好き放題言葉の洪水をダダ漏れさせているけれど、私を私として受け止められているかどうか、不安だったりしますね。
 話している時に、ピンッvと心に響いて通じ合える人とめぐり合うこともあります。そういう人ばかりだといいのだけれど・・・

 自分が語りかけたのと同じ量、同じ質の言葉を相手に求めても、戻ってくることは少ない。ならば沈黙を受け入れるしかない、と思っていても、沈黙の中に意味がある以上、やっぱりそこには言葉が続々と生まれ、出口を見失って膨張し、破裂しそうになってくる。

『夏の吐息』 2005.6.15. 小池真理子 講談社



2005年07月12日(火) DVD『8mm.』(EIGHT MILLIMETER)

 私立探偵のトム・ウェルズは生真面目で依頼人からの信頼を得ていた。漏れては不味い依頼をする上流階級の人間が多い。ある日、大富豪の未亡人となった女性から依頼を受ける。赴いたトムは未亡人から夫の遺品となった8mmのフィルムを見せられる。それは少女が監禁され、暴行され、殺される・・・所謂スナッフだった。未亡人の少女の生死を知りたいという要望に答え、少女の足跡を辿りはじめるトムだったが、辿り付いた先は人間の性の欲望のおぞましい世界だった・・・

 うーん、これも1,000円で購入した割には御釣りが出そうなくらい出来のいい作品でした。そう言えば公開当時なにかと物議をかもした記憶がありました。ニコラス・ケイジの作品を劇場へ出向いてまで見ようとは思わないもので見逃していました。しかし、最近の映画はそれなりに内容もしっかりしているし、映像も素晴らしいなぁ。DVDなので特典映像も盛り込まれていて監督の副音声で2回観ちゃいましたよ。
 トムは普通の心優しき男なのだけれど、スナッフ8mmを観てしまったことで本能を破壊される、と言うより、奥底に眠っていた荒々しい本能を呼び覚まされてしまう。トムの行動がどんどん常軌を逸脱していって、そこには苦悩もあって、そこらあたりが従来のヒーローモノとは一線を画しています。その部分がこの作品を成功させていると思いました。
 セックスに関しては、本当に生きている人間の数だけ嗜好があると思うのですね。大概は密室で二人で密やかに行われる。でも例外も結構あるみたい(笑)。いつも思うのだけど、互いが納得しているのであればそれはそれかと。でも暴力だったり、相手をねじ伏せたり、そうなると犯罪でしかありませんよね。そういう嗜好を持って生まれた人間も哀しいけれど存在する。でもそういう嗜好の持ち主はフィクションで満足するか、世を捨てていただかないと。
 老いてもセックスに執着する爺さんがあまりにも哀れでグロくて、巻き込まれちゃったトムってホントにお気の毒。



2005年07月11日(月) DVD『TATARI』(House On Haunted Hill)

 昔、精神に異常をきたした犯罪者を収容した病院があった。そこでは狂った医師が医学の名の元に夜な夜な人体実験を繰り広げていた。生きたまま切り裂かれる収容患者たち。暴動が起こり、火事が発生。生き残ったのはたった5人。そして現代、呪われた‘館’に5人の男女が招待される。呪われた館で一晩生き残れたら一億円が手に入る・・・!?

 3枚で3,150円というリーズナブルさに惹かれ購入。これが意外と面白かったのであります。館ものなんて出尽くした感があって、勿論この映画もそんなに大きな新しいショックはないものの、丁寧にホラーを追求していて厭きさせなかったですね。残虐な人体実験が繰り広げられた廃墟病棟、それが館にリニューアルされても漂う不気味さは消えやしない。怨念ってあるのかしら、とついつい思ってしまう。
 狂った医師ってのが本当に‘いっちゃって’て、その狂気が一番怖かったかもしれません。結局は呪いも怨念も元を正せば人間がなにか極悪非道なことをしたから生まれるのでしょう。怖いのはやはり人間。



2005年07月10日(日) 『風神秘抄』 荻原規子

 平安時代末期、16歳の草十郎は腕は立つが人との付き合いが苦手。ひとりで笛をふくことが気が楽だった。平治の乱の際、主と決めた義平が獄門、その首を曝されているのを見たときおおいなる絶望に襲われる。その時、魂鎮めの舞を舞う少女・糸世の姿に見惚れ、惹き付けられるまま笛を吹き始める。糸世の舞と草十郎の笛が寄り添った時、世界が動いた・・・?

 これは最高に面白かったです! 荻原さんの作品の中でナンバー1に好きと言い切ってしまうほど素晴らしい。草十郎と糸世の惹かれあいのもどかしさも良いし、何故だか草十郎が話せるカラスの鳥彦王のキャラ最高。この鳥の王ってのが今までの物語と微妙にリンクしてるv こんなカラスなら話したいくらいキュート。
 そして「熊野」なんですよね。本当に今年はこの「熊野」(そしてきっとカラス)が私の読書のキィとなりそうな予感。自分なりに調べたい事がたっくさん出てきました。世界遺産、行ってみるか・・・。
 分厚いし、時代モノなので敬遠されがちかもしれませんが、上質なファンタジィです。かなりオススメ。これだけのモノってなかなか読めるものじゃないと心から大絶賛。

「この世界でも異界でも、すべてのものごとはもとにもどすことなどできない。一度起きてしまったら、あらたにその先へすすめることしかできぬ。一見、もとのさやに収まるかに見えることがあっても、そこには必ず差異が生まれるのだ」

『風神秘抄』 2005.5.31. 荻原規子 徳間書店



2005年07月09日(土) 舞台『HEDWIG AND THE ANGRY INCHI』三上博史 大阪千秋楽

 去年の6月9日に観た三上博史さんの舞台はかなり衝撃的でした。去年の感想を見ていたら、「もう一度観たい」と結んであり、その夢が叶ったのですね(嬉)v
 三上博史のHEDWIGは進化していました。去年以上にパワフルに切なく。舞台というのはナマモノなのだなと思います。きっと演じていて同じ舞台はない。今回の様に一年ぶりの再演となると改善され、タイトにグレイドアップ。衣装も全く違い、三上さんの体型も微妙に違っていました(笑)v 「あ、ここ去年と違う」という場面が嬉しくて。ダンスがかなり変わっていたし、増えていたかな。ベースとなるエロエロさは変わりなし、いや、より過激になっていたかもしれない。台詞で「恥ずかしい」と言うところを「はずい」と言ってしまって、三上博史本人がちょこっと顔を出すも嬉しいハプニング。「暑い」と「恥ずかしい」がいっしょくたになっちゃったんだと言ったり、客をいじったり、あしらったり。
 たぶんリピーターが多いと言うことで「お約束」的なとこがたくさんあって、もしかすると初めて見た人たちには寂しい瞬間だったかもしれない〜。また一年後にHEDWIGに会えるといいな。三上さんの役者生命を考えると、イメージの定着が怖いかもしれないけれど、あまりにもはまり役だから。この舞台を目撃できている事に心から感謝。
 アンコールに7度くらい答えて出てきてくれて、最後にもう一度歌ってくれた時には総立ちの観客大興奮。三上博史のHEDWIGは一度観たら病み付きですv



2005年07月08日(金) 『セイジ』 辻内智貴

 大学四年生の「僕」がひと夏を過ごしたドライブイン‘HOUSE475’。そこで僕は不思議なセイジさんと言う男性とセイジさんの周りに集う人たちと忘れがたい日々を送る・・・

 や、参りました。陸の魚、そういう人種の気持ちが少しわかる気がするだけに心に深く深く響いてしまいました。人生を生きるということが、毎日を生きるということが、決して楽しく美しいばかりではないから。どんなにそれがせつないことであっても前へ前へ生きていかなければならないのだろうけど・・・

「・・・・・・俺たちの、行きっパナシの人生はよ、そうやっていつも、置き忘れたものを追いかけて追いつけない、まぬけな旅だよ・・・・・・」

『セイジ』 2002.2.20. 辻内智貴 積信堂



2005年07月07日(木) 『蝶狩り』 五條瑛

 桜庭調査事務所の所長兼所員の「わたし」は探偵と言う聞こえはいいが、実際は法に触れないことならなんでも引き受けるナンデモ屋。私のもとに来るやっかいな調査。様々な事件を解決しながら、「わたし」は大きな事件に巻き込まれていく・・・

 短篇がリンクして大きな物語となっていく。こういうカタチは読みやすく、わかりやすい。ちょっとした時間に一編だけ読めると言うのは嬉しいものv
 五條瑛さんは全てを追いかけられていないけれど、非常に興味のある作家さんです。文章が相性がいいと言うか、単純に言えばシンプルに好みなのです。軽いハードボイルドなとこもグー。男も女もそういう矜持を忘れちゃいけないよね・・・。
 角川さんが好んで映像化しそうな物語なので期待して待っていよう。キリエを誰が演じるか見物だわー。

『蝶狩り』 2005.5.30. 五條瑛 角川書店



2005年07月06日(水) 『蒲公英草子 常野物語』 恩田陸 

 『光の帝国』で陸ちゃんが、ぎゅうぎゅうに詰め込んでしまった素敵なキャラたちの中から、「大きな引き出し」の春田一家の先祖(に当たると思うのだけど。時代から考えると)が登場します。後は読んでください。やはりネタバレになるようなことは一切書けないわ〜。
 こういう物語を読んで必ず思い出すのは、筒井康隆さんの『七瀬シリーズ』だったり、飯田譲治さんの『NIGHT HEAD』だったり、宮部みゆきさんの『龍は眠る』だったりします(他にもいっぱい)。もともとそういう‘不思議な力’モノにはえらく弱いので今回の『蒲公英草子』も無条件に大好きですv 普通の人とは違う大きな力を持って生まれた人間は、物語の世界では必ず息をヒソメテ密やかに生きています。でもどうしても不思議ななにかが畏怖として感知され、迫害あるいは利用されてしまう。せつなくて哀しくて心に痛いけれども、読まずにはいられない。そういう物語なんですよね・・・。

『私は運命を信じています。でも運命は変わります。運命を待っているだけではどうにもなりません。こちらも歩いていかなければならない。これが私の信条ですね』

『蒲公英草子 常野物語』 2005.6.10. 恩田陸 集英社 



2005年07月04日(月) 『酔っ払いは二度ベルを鳴らす』 東直己

 うふふふふ。北海道在住の酔っぱ作家・東さんの酒にまつわるエッセイ。短くて笑えて身に覚えがあって(苦笑)酔っ払いにはオススメエッセイです。私はたまたま酔いどれ作家さんにかわいがっていただいてますが、あのお方にも是非こういうの御願いしたいものにございます。酔いどれは酔いどれの悲哀をこよなく好物とするのでありますから。ちょっとした移動時間に読めるエッセイって重宝する〜。

『酔っ払いは二度ベルを鳴らす』 2005.6.30. 東直己 光文社文庫 



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