酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年06月30日(水) 映画『ボーン・アイデンティティ』

 嵐の地中海沖。イタリア漁船が、波間に漂う男を救出。数発の弾丸に打たれ、お尻にはスイスの銀行の口座番号が印されたカプセルが埋め込まれていた。この男、記憶を失っていた。たどり着いた銀行で、自分がジェイソン・ボーンと言う名前だとパスポートを見て知る。しかしそれも束の間、違う名前のさまざまな国のパスポートと紙幣が保管されていた。ボーンは、忍び寄る気配を反射的に排除する。彼はずば抜けた戦闘技能と語学力を持っていた。ボーンに忍び寄る敵との死闘がはじまった。俺はいったい何者なのか?・・・ボーンは自分を発見できるのだろうか?

 公開当時、観そびれてしまった映画をやっと観ることができました。『リプリー』でのマット・デイモンは、うまい役者さんだなぁと感じたくらいでした。しかし、この『ボーン・アイデンティティ』のマット・デイモンは最高にセクシー。鍛え上げられた肉体が素敵。
 洋画を観る楽しみのひとつに、その背景となる風景があります。この映画では、イタリア・スイス・フランスなど美しい街並みを堪能できます。よくカーチェイスをあの街並みで撮影できたものだと感心することしきり。
 この秋には、ジェイソン・ボーンの物語の続編が公開予定だそうです。あぁ、またあの麗しき肉体を観れると思うとわくわくだわーん。
 サスペンス・アクションとして楽しめます。オススメっv



2004年06月29日(火) 『動物園の鳥』 坂木司

 ひきこもりのプログラマー鳥井真一。彼を世の中に生み出そう(笑)と努力し続ける坂木司。今回は動物園付近で発生する野良猫虐待事件を解決することに。真っ青になりながら、坂木や仲間達と動物園まで出向く鳥井だが・・・。

 さて、相変わらず言葉づかいを知らない鳥居君。物語的にはそういう態度すら受け入れられるおとな(お年より)を配していますが、やはり暴力的な発言はちょっとなぁ・・・と顔をしかめてしまったわ。
 今回は、鳥井がひきこもりになるきっかけを作った同級生が登場。つくづく加害者は被害者の心に無頓着なんだと頭に来ました。想像力欠如した人間ってサイテー。
 そんな中、新キャラ(今回で完結らしいけど)の美月ちゃんがクールでよかった。我侭にも筋が入っていて、なんてったって可愛いし(ポイント高い)グー。八方美人なんてくだらないと言い切る態度が好ましい。合わない人と無理して付き合う必要はない。どうしても関わらないといけないところは、一応おとなな顔してさらりと流しますが、心は閉ざす。心が合わないと決めた人とは付き合うだけ不愉快な思いをすることが多いもの。たとえば仕事とか社会的に仮面を被る時はあるけれど、自分の世界には好きな人しか存在させたくない。

「そういうことを言ったら、どういう結果を生むのか。何をしたら、何が起こるのか。それを考えずに口に出すのって、ある意味犯罪よりもたちが悪いわ。思ったままを口に出すのは、子供か馬鹿な大人のすることよ」

『動物園の鳥』 2004.3.25. 坂木司 東京創元社




2004年06月28日(月) 『百万の手』 畠中恵

 夏貴の目前で親友・正哉が火に呑みこまれてしまう。正哉は火事になった家の中の両親を助けたかったのだった。形見の携帯から正哉が放火犯を突き止めて欲しいと語りかけてくる。そして火事現場で見た正哉そっくりの少女。夏貴は事件に挑み、とんでもない事実に行き当たるのだが・・・

 こういう落としでしたか。いやはや、やられました。実は、もっとホラーちっくな展開かと想像していたのですが。まぁ、ある部分ものすごーく不気味にホラーではありましたが。夏貴の新しい義理の父親候補のホストあがりの東がいいキャラクターです。こういう大人が側にいてくれるなら、夏貴はきっとだいじょうぶ。

 「どんなにもっともそうな意見があっても、他人の言葉を鵜呑みにするんじゃないぞ。人間なんだからな。誰かの頭を自分の脳みそ代わりにしては駄目だ!」

『百万の手』 2004.4.30. 畠中恵 東京創元社




2004年06月27日(日) 『クラインの壺』 岡嶋二人

 上杉彰彦が書いた「ブレイン・シンドローム」が、イプシロン・プロジェクトの目に留まり、ゲーム化されることになる。彰彦はモニターとしてクライン2という機械に入り、ゲームをシュミレーションすることになる。クライン2は全身でゲームを疑似体験できるという優れものだった。倍率の高いテストをパスしてきたアルバイト高石梨紗という美人とともに嬉々として自分のゲームをモニターする彰彦。しかし、彰彦は捩れた世界に迷い込んでしまい・・・

 すごかった。こういう作品を読んでいなくて「趣味は読書です」なんてよくも恥ずかしくなく言ってきたもんだ。読了後、穴があったら入りたくなってしまった。
 この『クラインの壺』は、1989年が初版。この作品を最後に岡嶋二人さんが一人と一人に戻っていったそう。さまざまな情報を見ていると、この作品はほぼ井上夢人さん作品に近いらしい。一世を風靡したふたりのコンビが解消される、そのことが物語のラストに暗喩されている気がした。穿ちすぎかしら。
 今でこそ、こういうオチは多いけれど、1989年に読んでいたかった。もし、1989年の私がこれを読んでいたら、きっと読書体験が変わっていたはず。それくらいインパクトの強い面白い物語でした。万が一、未読の方は是非。オススメ。

 「はじめのところから始めて、終わりにきたらやめればいいのよ」

『クラインの壺』 1989.10.25. 岡嶋二人 新潮社ミステリー倶楽部特別書




2004年06月26日(土) 『満ちたりぬ月』 林真理子

 絵美子は昔とはまったく変わってしまった夫にげんなりしていた。ぱっとしない自分に比べて短大時代の友人・圭はイラストレーターとしてきらきら輝いて見える。34歳の今、絵美子は離婚を決意し、圭を目標に生きていこうとするのだが・・・

 私が林真理子さんを好きになれない理由は、この手の女同士の友人関係を好んで描かれる点。こんなの友だちじゃないもの。互いが互いを尊敬しあっていないと友情は成り立たない。表面はどうあれ、腹の中で相手を見下して付き合うなんて時間がもったいなさすぎる。
 この物語の絵美子も圭もどっちもどっち。しいて言えば圭の方ががむしゃらに頑張って生きてきたぶに可哀想かなぁと思うけど・・・絵美子みたいな女と付き合うあなたが悪いのよって言ってあげたい。だいたい家庭とキャリアとどっちが幸せ?なんてテーマが問題外。どっちだっていいじゃん。自分が納得して選んで生きてるんだから。間違っていると気付いたら、そこから軌道修正すればいい。どちらがどうなんてことあるわけない。

 男と寝た次の日は、肌の調子がまるで違う。内側から艶が満ちてくる。

『満ちたりぬ月』 1992.3.10. 林真理子 文藝春秋文庫 





2004年06月25日(金) 映画『ペーパーボーイ』

 閑静な住宅地に丸まった新聞をぽーんっと放り投げいれられる。アメリカならではの朝の風景。ジョニーは早朝から新聞配達のアルバイトをしている。母親を亡くし、不在がちな父親。ジョニーは隣にやってきた美しい母娘メリッサとケミーにまとわりつきはじめる。メリッサは母の突然の死のため実家に帰ってきたのだった。親切で陽気なジョニーだったが、だんだんと疎ましくなってくる。そしてジョニーが本性を表し始め・・・

 これはなかなか良いサイコ・スリラーでした。主人公の少年の異常さが際立っていく過程が面白かった。心に傷を負った少年。でも母親の虐待だけが少年を異常にさせたとも思えない。やはりモンスターはモンスターに生まれるのでは。
 しかし、ヒロインのメリッサの鼻が気にかかる(笑)。どうしてアメリカ人はあの鼻をした女性を好きなのかしら。疑問だわ・・・。娘役のおじょうちゃんはむちゃくちゃキュートでした。真っ白な肌にふわふわの巻き毛。うーん、かわゆいv




2004年06月24日(木) 映画『THE UGLY(アグリ)』

 精神分析医カレンは、連続殺人犯サイモンの精神鑑定に赴く。サイモンが収容されている病院では、野放しの不気味な女性とサイモンを虐待する看守、カレンの活躍を妬んでいるドクターがいた。
 サイモンは、幼い頃から母親に虐待され、同級生に苛められていた。同級生の過激な暴力で右顔面をひどく傷つけられたこともある。ある夜、サイモンは爆発し、母親の喉笛をカッターで切り裂き殺してしまう。4年後、収容されていた病院から出たサイモンは老若男女かまわず殺しまくるのだった。
 カレンは、サイモンの心の闇を見極めようとのめりこんでいくのだが・・・

 監督のスコット・レイノルズの評判がいいので期待して観ました。うーん、なんて言うかとっても中途半端でした。サイコなのか、ホラーなのか、どっちつかず過ぎました。ラストもどう解釈していいものやら。サイコかホラーか、どちらかにしっかり軸を置いてくれればもっと面白いと思うのですが。


 



2004年06月23日(水) 『Q&A』 恩田陸

 2002年2月11日午後2時過ぎ、都内郊外の大型商業施設Mで火災(?)発生。死者69名、負傷者116名。火事と思われたが、火災ではなく、事故原因は特定できず。災害から免れた人々からこぼれ出すさまざまな目撃談。不気味な万引きカップルの暴力行動? 持っていた紙袋を落とした男? サイバーテロ? 政府の実験? いったいなにがパニックを引き起こしたのか・・・。 

 質問(Q)と答え(A)だけで物語が進行するパニック&サスペンス&SF・ホラー・・・かな? 質問者と回答者もくるくる変わるし、その都度いろんな事実(?)が浮き上がってくる。組み合わせによって残酷だったり、不気味だったり、悲惨だったり。こういう進め方はますます迷宮入りしていく感じ。陸ちゃんらしいなぁ。
 しかし、この帯は掟破りでしょう。最初、帯だとは思いませんでしたもの。すごーくホラーなイラストで、これを丸々装丁イラストに使えばよかったのに。帯がつかなくなっちゃうと価値が半減しちゃうわよ。

「皆さん、日常生活を取り戻すのに必死で、ゆっくり悲しむ暇もないんですよ。忘れようとするんです。でも、それはよくありません。ひどいことが起きたのですから、むしろゆっくり悲しまなくてはならないんです。犠牲者を悼むことに時間を掛けないと、あとからじわじわ効いてくる。ちゃんと悲しまないと、心の回復が遅れるんです」

『Q&A』 2004.6.10. 恩田陸 幻冬舎


 



2004年06月22日(火) 『99%の誘拐』 岡嶋二人

 生駒洋一郎は病床で息子・慎吾へ手記を遺す。その手記には、慎吾が誘拐され、洋一郎の会社・イコマ電子工業が大手・リカード社に吸収される原因が書かれていた。11年後、誘拐犯に奪われた金の延べ棒が発見される。慎吾はリカード社で働いていた。そしてまたしても誘拐事件が起こるのだった・・・

 いやぁー、面白かったです! 最初の誘拐と、後からの誘拐。どちらも手に汗を握りました。後からの誘拐は最初の誘拐がなければ起こらなかった。誘拐された子供に危害が加えられなかったので後味も悪くないし。
 たぶん、これから読む人も多くおいでだと思いますので詳しい感想は自粛。後からの誘拐の動機と誘拐犯の心情が(表現されていないけれど)痛々しくて。西澤保彦さんが解説で書かれているように“孤独”を感じました。スピーディな展開は映像向きだと思いました。
 きっと完全犯罪については突っ込みどころ満載なのだろうけれど、フィクションだもん。十二分に楽しめるじゃん!と思います。オススメ。

 スペース・シャトル並みの正確さでやってやるさー。

『99%の誘拐』 2004.6.15. 岡嶋二人 講談社文庫




2004年06月21日(月) 『ダレカガナカニイル・・・』 井上夢人

 西岡吾郎は、警備会社になんとなく勤めていた。退屈しのぎに盗聴したことがバレ、山梨に左遷される。配属先は新興宗教道場での警備。行った途端、事件に巻き込まれ、吾郎は妙な転倒をする。その時、道場から火災発生。教祖と言われる女性が焼け死んでしまった。責任を取らされ、クビになった吾郎の頭から声が聞こえ出した。僕の頭の中に誰かが住み着いている・・・?

 1992年に井上夢人さんが上梓された破天荒な物語。SF?ミステリー?ラブストーリー? どれに分類してもとにかく面白い。12年の時を経て一気に読ませる素晴らしさ!
 私が手に入れたのは新潮ミステリー倶楽部から出版されたもの。なんと今では絶版だそうです。しかも、これが文庫落ちするときに井上さんは『ある言葉』を抹殺したそうです。それを知りたいのでまた読み返してしまうなぁ。

 繰り言、繰り言、くるくる回る
 繰り言、繰り言、くるりと回る
 繰り言機械の くるくる回り
 くるくる、くるくる、くるりんこ

『ダレカガナカニイル・・・』 1992.1.20. 井上夢人 新潮社




2004年06月20日(日) 『天使の代理人』 山田宗樹

 桐山冬子は、助産婦。生まれる生命の手伝いをするべき仕事のはずだったが、金のために命を消す手伝い(中絶)を20年間も続けてしまった。ある堕胎手術で死産で生ませる子供が一瞬だけ目を開け、冬子と視線が交錯する。その一瞬の瞳の輝きから今までの行為を悔やみ、暴露本とも言える本を自費出版。そんな冬子を軸に、中絶撲滅組織が生まれる。冬子の本のタイトルから「天使の代理人」と名乗る地下組織だった・・・

 なんともものすごい問題を目の前に叩きつけられた感じです。安易な解答なんて許されないと思いました。そして、今の豊かな日本が中絶天国と化していることに驚かされました。日本ではまだまだ公けに語るべきではないとされているし。
 産むか、産まないか。それ以前が問題だと私は考えました。避妊しないでセックスすれば妊娠する可能性がある。その知識・認識の問題じゃないかなぁ。例えば暴力的に望まざる妊娠をさせられた場合、中絶は単に子供を堕ろすこととは異なるはず。「望まれない命」と「望まれる命」の境界線なんてあって欲しくはない。快楽を追求したければ避妊をきっちりやりましょう。責任あるセックスを。

 人生、なかなか思うようには行かない。だれかが悪いわけではないのだ。

『天使の代理人』 2004.5.25. 山田宗樹 幻冬舎



2004年06月19日(土) 『薄紅天女』 荻原規子

 平安時代、阿高は東の坂東という土地で叔父にあたるが同い年の藤太と育てられた。ふたりは二連と人々から呼ばれ、愛されていた。ある夜、阿高は蝦夷たちに告げられる。阿高は彼らの巫女、明るい火の女神の転生だと。阿高は自分のルーツを求め、蝦夷の国へ向う。二連の片割れ藤太と幼馴染の茂里と広梨も同行する。
 物の怪が跳梁跋扈する都では、病に伏せった皇子を妹(皇女)苑上が気にかけていた。苑上は少年の姿に扮し、父のため兄のため災厄=阿高に立ち向かおうとする。巫女の力を受けついだ「闇の末裔」の少年・阿高と、「輝の末裔」の皇女・苑上が出会ったとき・・・

 勾玉三部作の最後の物語。この物語もまた大きな愛と絆を感じさせてくれる壮大なファンタジーでした。阿高と藤太のボブ(ボーイズラブ)な展開になるのかな?と勝手に想像していたので、苑上の突然の登場とラストには驚いてしまいました。どうやら妄想が勝手に走り出していた模様(苦笑)。
 人が人を愛し、慈しみ、大切にする。そんな当たり前で尊いことをしっかりと読ませてくれます。個人的には、『白鳥異伝』が一番おもしろいと思いましたが、この最後の物語にも泣かされました。
 勾玉三部作はかなりオススメですv

「そなたに道を説く気はないが、これだけはいっておく。だれもが一人だ。この世に生まれいずるときも、その存在を終えるときも」

『薄紅天女』 1996.8.31. 荻原規子 徳間書店



2004年06月18日(金) 映画『THE EYE (見鬼)』

 角膜移植により、光を取り戻したマン。世界は美しいと信じていた。が、しかし、彼女は見えざる者たちが見えてしまう。そして、角膜ドナーが予知能力のある女性だったと知り・・・

 これは、タイで実際に起きた事件をもとに作られた映画だそうです。主人公のマンの目つきが本当にこの世ならざるものを見ているといった風情でなかなかに不気味でした。もしも移植された臓器が記憶を持ってしまうものならば、臓器移植はできなくなってしまう。しかも記憶を持っていたとしてもおかしくないから。
 映画としてはホラーとしても中途半端。ただ主人公のふたりの女性が美しくてよかったです。ドナー役の女性の方がタイプv



2004年06月16日(水) 映画『ファイナル・デスティネーション2 《デッド・コースター》』

 キンバリーは、仲間達と車でバカンスに出かける。ハイウェイを走るうちに、フラッシュバックのように幻覚(予知夢)を見てしまう。それは、大型トラックに積もれた材木が荷崩れを起こし、次々と巻き込み事故を起こすというものだった。キンバリーは自分の車を横付けにし、後続車を堰き止める。その目前で事件が起こった。巻き込まれるはずだったキンバリーたちは、死ぬ運命を覆せたのだろうか・・・。

 これは、『ファイナル・デスティネーション』の続編です。前回は飛行機墜落を予知し、生き残った人たちが魅入られた死神から逃れられるのか? でした。前回のたったひとりの生き残りクレアが登場し、クレアの運命もつながっていることに驚かされます。
 定められた死を逃れる。言わば自分を魅入った死神との激闘。このホラーの面白いところは次々に死んでいく登場人物たちのとんでもない死に方(殺され方)にあります。ひえ〜っ!と叫びながらもラストまでぐいっと見せてくれる。ラストはねぇ・・・自粛。
 こういうスプラッタ・ホラーを観て、またおかしな事件が発生したとか叩かれるといやだなぁと思います。確かに残酷で悪趣味かもしれないけれど、あくまでもフィクションであり娯楽だと思うのだけど。



2004年06月14日(月) 『白鳥異伝』 荻原規子

 橘の一族の娘・遠子は、拾われた子供・小倶那(おぐな)と双子のようにして育った。ある日、都から来た皇子に見出され、小倶那は皇子の御影人となるべく、郷を出ていくことに。遠子は、小倶那に女にならず待っているから帰って来てと約束を取り付けるが、数年後、小倶那は生まれた郷を焼き滅ぼす禍々しい者となりはてていた。遠子は、忌むべき力を持った小倶那を殺すために何者にも「死」をもたらすという伝説の勾玉を求めて旅立つのだが・・・

 勾玉三部作の二作目です。前作以上にスケールアップ。登場人物も魅力的。悲劇の主人公・小倶那と飄々としたプレイボーイの菅流(すがる)。このふたりが両極端で面白かった。でも私が好きなのは、七掬(ななつか)v
 出生の秘密に翻弄される小倶那は、痛々しい悲劇の主人公。その彼を想い慕い続ける根性娘・遠子。この遠子が子供から女へと変貌を遂げるさまも素晴らしかった。男と女の愛の育ち方・深まり方は本来こうあるべきなんだと思います。
 忌むべき力を持ってしまった小倶那を倒すために、遠子が散らばった勾玉を菅流とともに探す旅にもじーんっとくる。あきらめないことが大きな力になる。そんなことまで教えてくれる物語。最高にオススメですv

「生き方は自分で選びとるものだ。他人に口は出せない。文句を言ってもしかたないさ」

『白鳥異伝』 1996.7.31. 荻原規子 徳間書店



2004年06月13日(日) 『星月夜の夢がたり』 光原百合 絵:鯰江光二

「暗い淵」
 友人が死んだ。彼女の母親から頼まれて、彼女がお世話になった人をアドレス帳から拾い上げていく。そして最後に走り書きの電話番号に気付き・・・

 光原百合さんの現代の御伽話たちです。光原百合さんらしいテイストから、意外にダークなものまで多岐に渡ります。鯰江さんの絵がフィットしていて、かなり良かったです。
 中でも「暗い淵」は、間違えたら怖い都市伝説になりそうな本当はとてもせつなくて哀しい話。ありそうだなぁ・・・。

 私には私をつかまえてくれる手があった。彼女にはなかったのだろうか。この世界の何も、彼女を引きとめてはくれなかったのだろうか。

『星月夜の夢がたり』 2004.5.30. 光原百合 絵:鯰江光二 文藝春秋




2004年06月12日(土) 『ビッグゲーム』 岡嶋二人

 プロ野球球団新日本アトラスは、《オフクロ》(コンピューター)を駆使し、データ野球で優勝を狙っている。情報収集合戦の繰り広げられる試合中にアトラスの覗き部屋(情報管理室)のスタッフ沼部が転落死した。そして連続して起きる不審な殺人事件・・・?

 この物語は昭和60年に出版されているのですね。コンピューターで管理するデータ野球。今でこそ新鮮ではありませんが、きっと当時は衝撃だっただろうなぁ。プロ野球を愛する人ならば、今でも楽しく読めること請合います。面白い。
 しかしながら、ふたりの才能をうまく合作させるって並大抵ではないでしょうにねぇ。感心しちゃう。

 野球はゲームです。試合に勝とうが負けようが、優勝の行方がどうなろうが、それが人の命を左右していいはずはない。

『ビッグゲーム』 1988.10.15. 岡嶋二人 講談社文庫




2004年06月11日(金) 『ハッとしてトリック!』 鯨統一郎

 サッカー選手の安東が、奇妙な死に方をした。現場に居合わせた週刊誌記者の黒木典江は、先輩の犬飼大志郎と取材に当たる。安東の周囲を探るうちに、自殺ではなく他殺だと確信する。そして第二の殺人事件が・・・

 鯨統一郎さんの作品は、自分的には大きく当たり外れがあります。外れと言っても、それなりに面白いし、楽しめます。ただどうにも「やっつけ仕事」みたいに読めてしまうのです。今回のこの作品も敬遠していたのですが、高瀬千穂の名前が登場するという情報から読みました。そのためだけに読んだようなもの。感想は、「うー、いろんな要素が盛り込まれている火曜サスペンスドラマみたい」です。表紙の黒木典江を思い浮かべて読み進めることをオススメします。

 たしかに、たとえば高瀬千穂っていう人のニックネームがタカチだった場合、地の文で“タカチは”って表記してもいいわけですもんね

『ハッとしてトリック!』 2004.4.25. 鯨統一郎 中央公論社




2004年06月10日(木) 『スペース』 加納朋子

 駒子は、瀬尾さんに妙な瞬間にしょっぴかれ(?)、見逃してもらう別れ際に叫んだ。また読んでいただきたい手紙がある、と。そして駒子が瀬尾さんに送った手紙とは、駒ちゃんからはるちゃんへのたくさんの手紙の束だった。その手紙の中に隠されていた謎とは・・・。

 この物語は、『ななつのこ』『魔法飛行』に続く、駒子シリーズ第三作。珍しく《はじめに》で加納さん御自身からできれば前の作品を読んで欲しいと書かれています。この言葉の意味が読み終わった後にわかります。前の作品を踏まえて読めば面白さ倍増v
 「スペース」と「バック・スペース」と物語がリバーシブルになっていて、「バック・スペース」を読んで「やられたぁ〜」と手をあげました。降参です。うまいなぁ。そして私は「バック・スペース」の方が好きです。ぞくぞくするラストなので。人は自分の居場所を探しているものだよなぁと思います。なにを書いてもネタバレしそうなのでこの辺りでやめておきます。三作まとめてオススメ。

 生きていればきっと、逃げ出すよりほかに道がないときだってある。遮二無二突進していって、その結果無残に激突するよりは、回れ右して逃げ出す方がずっといい。
 一度打ち込んだ文字を、バックスペースキーでなかったことにしたっていいじゃないか?
 少しぐらい、後戻りしたっていい。やり直したっていい。まったく別な、新たな文字を打ち込むことだってできる。
 そう思っていた方が、人生どんなにかラクだろう。

『スペース』 2004.5.28. 加納朋子 東京創元社




2004年06月09日(水) 舞台『HEDWIG AND THE ANGRY INCH』 主演:三上博史

 まだ東と西に壁があった頃、東ドイツの少年ハンセルは、アメリカ兵ルーサーに出会う。彼に求婚され、壁を越えるために性転換手術を受ける。しかし、手術ミスで股間に1インチのペニスが残ってしまう(=アングリー・インチ)。母の名ヘドウィグを名乗り、ロックスターを夢見るハンセル。ある日、17歳の少年トミーに恋をする。ロックを教え、愛を育む二人だったが、トミーはアングリー・インチを見て逃げ出してしまう。しかも、ふたりで作った歌でトミーだけがロックスターに登りつめていくのだった・・・

 大好きな役者さんを生で見ることが出来る。しかも、その役者さんが好きそうな、その役者さんならではの演目で。こういうチャンスをつかめたら幸運。
 三上博史さんという役者さんは、独特の役を演じるがゆえに好きでした。昔から熱烈に。その彼が、おそらくは惚れこんで演じているであろう《性転換手術に失敗したロックスターを夢見る男?女?》とあれば、間違いはありません。のっけからノリノリの三上さんのパワーと歌声の素晴らしさは日常をアッサリ消し去ってくれました。ほぼ三上さんの一人芝居(ロック・ミュージカル)でした。
 ヘドウィックが「正面から私を愛して」と叫ぶシーンは涙が出ました。エロチックで哀しくて最高に素晴らしい舞台だった。
 アンコールに何度も答えて照れくさそうに出てきてくれる三上さんに今まで以上にめろめろです。あぁ、も一回観たい・・・。




2004年06月08日(火) 『ネグレクト』 海野真凛

 麻里子は大学生になり、プレイ・ボーイのボンボンにひっかけられる。初心な麻里子は周囲の心配をよそに初めての恋愛に夢中。そして妊娠。はじめから遊びだった男の態度は醜く豹変し、麻里子は捨てられる。呆然とする麻里子はひとりで娘を出産。愛した男にそっくりな娘・愛を麻里子はだんだんと疎むようになり・・・

 NEGLECTとは、‘顧みない’とか‘無視する’という意味ですよね。高校時代に覚えました。この英単語がまさか虐待用語として有名になるなんて。
 私は子供を産まなかったので、子育てについてとやかく言う資格を持ちません。だけど与えられた母からの愛情の大きさはこの身いっぱいに受けて育ったので、母親に子供への愛がない状態というものを理解しがたいのです。時に怒られても、その根底にある愛を疑ったことなんてありませんでした。
 この物語の主人公・麻里子は変な男に躓き、そのまま人生で起き上がることができなかった・・・。その皺よせが娘・愛に向ってしまったのは不幸の連鎖。その生い立ちゆえに愛が巻き込まれる事件も断ち切れなかった連鎖の続き。
 興味あるテーマなので読みましたが、心がぎしぎしするような痛みを感じました。

『ネグレクト』 2002.6.15. 海野真凛 文芸社



2004年06月07日(月) 『博士の愛した数式』 小川洋子

 1992年、私はあけぼの家政婦紹介組合から派遣された家で《博士》と出逢う。不幸な事故のために記憶する機能を喪失した天才数学者。博士は私の10歳の息子を《ルート》と呼んだ。息子の頭のてっぺんがルート記号のように平らだったから。私は博士とルートと過ごしたあの美しい日々を・・・

 小川洋子さんは岡山の方。なのに何故か今日まで一作も拝読していませんでした。『博士の愛した数式』も友人から送ってもらわなければ読まずにいたでしょう。人生には知らずに読まずにいてはいけない本が存在する。まさしくこの物語はそういう一冊。この美しい魂の物語を読ませてくれてありがとう。
 数字と1992年の優勝を逃した阪神タイガース。そのふたつの要素をこんなにうまく融和させるなんてすごいです。阪神ファンは特に必読。必ずデス。

「理由は神様の手帳にだけ書いてある」

『博士の愛した数式』 2003.8.30. 小川洋子 新潮社


 



2004年06月06日(日) 『卒業』 重松清

「まゆみのマーチ」
 幸司は、危篤状態の母のもとへ駆けつける。病室にすぐに行けず、ロビーにいると妹のまゆみが近づいてきた。幸司は、まゆみに心になにか重いものを抱えて生きてきた。小学六年生の時、児童会長として在校生の挨拶をすることになっていた。そこへ入学してきたまゆみはいつもいつも歌をうたわずにはいられない少女だった。動揺した幸司の挨拶はさんざんなものになってしまった。少しも静かにしていられないまゆみは異端視される。歌を禁じられ、マスクをさせられたまゆみは口の周りが腫れあがってしまう。そしてついに心が壊れた。そんなまゆみを叱ることなく、母は『まゆみのマーチ』を歌い続けたのだった・・・

 嗚咽。読みながら最後は文章が涙で滲んでしまいました。母親の愛って本当に海よりも山よりも宇宙よりも・・・なににも比類できないくらい大きなものなのだなぁ。
 この物語の主人公・幸司は今ひとり息子の引きこもりに対峙しています。母の死に面し、かつて変わり者ゆえに自分に被害を与え続けた妹まゆみから母がその時どうんなふうに接したかを聞き、なにかを得ます。そして自分の息子に対する自分の態度が見えてきます。
 重松清さんと言うのは、切っても切っても金太郎飴な物語作りをする方ですが、これは久々に脳天をぐしゃっと握られた感じでした。切っても切っても金太郎飴だけど、金太郎の表情が違ってるんですね・・・。
 親が子を無条件に愛し、慈しむ。その貴さに感動。

 「一歩ずつでいいから、お父さんと一緒に外に出よう」

『卒業』 2004.2.20. 重松清 新潮社




2004年06月05日(土) 『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』 獄本野ばら

 ダメ親父のバッタもん商売が失敗。兵庫県尼崎から茨城県下妻へ逃げだすダメ親父と桃子。見渡す限り田園風景。そこに佇む桃子はロリータファッションばりばりだった! どんなに周囲から浮きまくろうと自分の信念をまげずロリータまっしぐらな桃子。ある日、お洋服を買うお金ほしさに父親のバッタモンに手を出す。そのバッタモンに喰らいついてきたのは、ヤンキーのイチゴだった。ロリロリひらひらな桃子と今時ヤンキー根性一直線のイチゴ。まったく接点がないふたりの間にいつしか奇妙な心の交流が生まれ・・・

 面白かった! 獄本野ばらさんの物語ははじめて読ませていただきましたが、こういうノリの物語を書かれるのですねぇ。これは映画化されるはずです。テンポが良くてくだらないギャグに笑える。かなりオススメです。
 しかし、マイペースな桃子に深田恭子ってぴったりだなぁ。小説の桃子はもう少し小さくて華奢な感じですが、ものの語り方がフカキャンにぴったりだと思います。映画も観にいきたくなってしまいました。

 心の痛みを紛らわす安易な手段を覚えてしまったら、きっと人は何か大切なものを損なってしまうのです。

『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』 2002.10.10. 獄本野ばら 小学館



2004年06月04日(金) 『空色勾玉』 荻原規子

 狭也(さや)は、悪夢に悩まされていた。夢の中ではいつも六つ。五体の鬼に追われている・・・。15歳になった今、養父母のもと幸せに暮らしているはずなのに。ある日、男女の恋を謳歌する祭りの夜に、狭也はたくさんの男友達から求愛される。そこで悪夢の鬼たちが現実に現れる。そして狭也は闇御津波(くらみつは)の大御神に仕える一族、水の乙女だと知らされる。自分の出自にとまどう狭也は、祭りに紛れ込んできた輝の大御神の月代王(つきしろのおおきみ)に見初められ、闇の者である狭也が、光の王に恋をするのだが・・・

 壮大なスケールのファンタジーなので、うまいこと要約できません。手におえません。すごかったー。昨日の夜に一気に読んでしまいました。この世のはじまりとか光と闇の闘いとか勾玉とか、私の好きな要素がぎっしり。児童文学なんて括りにいれちゃいかんですよ、これは。かなりオススメの古代日本ファンタジーです。次を早く読みたい。

 あの女の子がいつまでたってもたどり着くことのできなかった場所とは、あたし自身だったのかもしれないわ

『空色勾玉』 1996.7.31. 荻原規子 徳間書店
 



2004年06月03日(木) 『誰か』 宮部みゆき

 杉村三郎は逆玉の輿。財閥令嬢(訳あり)菜穂子と恋愛無理矢理結婚。周囲の妬み嫉みもなんのその、愛する菜穂子と一人娘・桃子との生活を何よりも誰よりも大切に慈しんで生きている。義父の大会社の広報室で働いているのだが(義父命令)、その義父から断れるわけもない頼みごとをされる。義父の運転手をしていた故・梶田さんの娘さんたちに会って梶田さんの思い出本を作る手伝いをしてやって欲しいと言う。梶田さんの娘はふたり。聡美と梨子。年齢も離れ、性格も対照的。そして杉村は、梶田さんの人生を辿りはじめるのだが・・・。

 まったく宮部みゆきと言う人は底知れない。ただ甘甘の物語ではなく、人間ならではのいやらしさがピリリと効いていて、ものすごくせつなくなる。救いは杉村夫妻のラブラブっぷり(笑)。あんな夫婦っていいわーv
 人は誰しも清廉潔白に生きていられないと思う。万が一にも私が死んだ後、自分の人生を辿られたら恥ずかしいなぁ。あんなことや、こんなことや・・・ハッ!そんなこともっ!! ダメだ。妙な死に方をしてもそのまま死なせてください。
 残された人間の思いも痛いほどわかります。亡くなった旦那のこともっと知りたかったことありました。でも、きっと知らないままでいた方がいいのではないか、今ではそう思うようになりました。きっと私の知らない彼の人生を私が侵すべきじゃない。そして知ることが怖いのかもしれない。だってもうこの世にいない人なのだから。

「こんな素晴らしい才能の持ち主でも、寿命が尽きれば死ななくてはならない。神様は、そういう点でだけ厳密に公平なのね。そんなの、かえって残酷な気がするわ」

『誰か』 2993.11.25. 宮部みゆき 実業之日本社 



2004年06月02日(水) 映画『クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち』

 フランス、ロレーヌ地方の古びた修道院の13号室で壁にかけたキリスト像から血がしたたりはじめた。妙な事件担当(笑)の一匹狼ニーマンス警視は科学捜査でキリストの磔の姿で生き埋めにされた死体を発見する。そこから連続して起こる連続猟奇殺人事件。次々と殺される現代の12使徒。その背景に隠されていた謎とは・・・。

 うーん、ジャン・レノ素敵v もうジャン・レノを見ているだけで満足だったりするのですけどね。てへへ。これは3年前(勿論観ました)の映画の続編。でも設定としてはジャン・レノ扮する犬が怖い(かわゆい)ニーマンス警視が同じなだけ。今回タッグを組む若い刑事レダがよかったですわー。彼はちょっと注目だ。
 物語は不気味でスリリングでスピード感満載。個人的に残念だったのは最後の最後の最後の落ちですね。あれじゃルパン3世だよ。



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