急速に肥大した海軍はしだいに3つの派閥に分かれて、 水面下で牽制しあうようになっていった。
【穏健派】
海軍創設当時、莫大な資金援助をした方舟ギルドと貴族階級とに、 太い繋がりがある。職業軍人タイプが多い。 現政権維持を主目としている。
【南進派】
南大陸の針葉樹林帯を占有する南部連合に対し、 強攻策をとる。高い関税や通行税の撤廃を主張。 商工ギルド、エネルギー省との繋がりがある。
【改革派】
自警団当時の古参メンバーが中心(ロフティー含む) もとより腐敗政治に不満を募らせていた下級階層を吸収。 海賊掃討作戦以前に海賊から転向した将兵が多数含まれる。 彼らは一度方舟ギルドに裏切られた経験から、 穏健派への敵対心が強い。連合政府から危険視されつつある。
| 2004年01月19日(月) |
30話 『芸術家集団』 |
巡行スピードで走行する電車もどきの中には、 運転席にドーラ、助手席にサウム、 そして後部座席の真ん中にどっかと座っているのは黄色いロボット。
「名前が無いと都合が悪いな、ロボットさん」
振返りながらドーラが言う。
「名前と言うものはありませんが、 私のタイプを設計者の名前をとってカミロデスタイプと呼んでいました」
合成音声が返す。
「なら…カミロさんでいいじゃないか?」
にこやかに言うドーラ。
「…そうですね」とロボット。
「さっきは命拾いしました。改めてお礼を言いますカミロさん」
振り返ってぎこちなく礼を言うサウム。 実際、あの時サウムには本当に天の助けに思えたのだ。 既に何匹かのヘビコウモリが上空から2人を伺っていたのだったから。 そこへ突如として現れた彼。 もう少し救出が遅かったら…
数時間走っただろうか。 ドーラはある事に気付いて電車のスピードを緩めた。 サウムは窓から首を伸ばして壁面を確かめている。
「ガガスさん、壁面に落書きのような物が見えますよ」
幾何学模様がびっしり描かれている。 描く…? 誰かが居るのだろうか。
やがて2つ目の駅に到着した。 プラットフォームにはテントのような物が並んでいる。 人が住んでいるらしい。 この前のような事もあるだろうから素通りした方が安全だろう。 そう判断したドーラは停車せずにゆっくりと進んだ。
走りながらテントの方を注意深く伺う。 一方テントの中では息を潜めて外の侵入者を見つめる者達が居た。 白いふわふわした毛皮をまとい、 顔には蛍光岩石から作った粉で化粧をしている。 彼らは“芸術家”だった。 数10年前にここへ住み付いたのだ。 彼らは白い犬を弓矢で狩り、炎の前で舞踏をし、詩を語り、壁に絵を描く。 ふいに現れた侵入者に身を固くして構えている。 やみくもに侵入者を攻撃したりしない。 彼らは平和主義者であった。 もともと迫害されてここへ逃げ延びてきたくらいだ。 やがて『真の芸術は対象を必要としない』という信念を持つようになった。 言いかえれば独り善がりなのだが。彼らには彼らの事情があるのだろう。
そんな複雑ないきさつなど露知らず、電車は駅を通り過ぎていった。
…………!
妙に張り詰めた空気を感じ取ったドーラ。
「退散だっ!」
本能的に危険を感じた2人は即座にバイクに跨ると、 車体を傾けその場でグルリとターンして、アクセルを全開にした。 前輪を持ち上げて走り出す鉄の馬。 だがそこへ発射された捕虫ネットが2台を絡めとってしまった。
ドゥドゥドゥドゥ…
虚しく鳴り響くエンジン音。 倒れこんだふたりは無様に這い起きると、 脛に巻いてあるナイフを掴んで振りかざし抵抗した。 だが多勢に無勢。 青い鎧に包まれた信者達によって取り押さえられてしまった。
「聖地を荒らす不届き者めがっ」
ツルハシで小突かれながら2人は担ぎ上げられて、 最寄の電波塔の太い柱に括り付けられた。
「リンチ(私刑)は本部に認められているんだからなぁ」
防塵マスクをはずした青いやつの1人がそう吐き捨てていった。 このまま夕暮れ時になれば、ヘビコウモリの餌食だ。 いっそ一思いに殺せばよいものを。 2人は顔を見合わせて思案した。
「…まだ諦めるな」
とドーラ。
「ガガスさんは怖くないんですか?」
サウムは泣き出しそうだった。
「怖いさ。だがこんな所で生きたまま食われるのはご免さ」
縛られた手首と足首を捩ってみるが固くてダメだ。 そろそろ日も暮れるという頃だった。 ドームの方でなにやら騒ぎが起きた。
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キレネーズと新入りの3人が、こぞって地下へ降りてみると、 そこには1体の黄色いロボットが居た。 このように自分は墓守をしていると言うので、 さっき上がってきた連中はなんだと訊いてみたら、 北の国からやってきた旅人だと言う。 そうか、じゃあ死んでもだれも気に掛けないだろう…と呟くと、 黄色いロボットは胸のLEDを激しく点滅させると、 ふいに4人を突き飛ばして地上へと駆け上っていった。 踊り場から踊り場へひとっ跳び。 開口部から飛び出すと、 作業を止めて今宿営地へ戻ろうとする信者をひとり捕まえて、
「旅人をどこへやった殺したのか?!」
胸ぐらをグイと絞める。
「さっさあな」
「答えないとこうだ」
黄色いロボットは空いている片腕をクズ山の方へ向けた。 次の瞬間、クズ山が丸ごと蒸発した。 巨大なスプーンで抉ったかのように凹んでいる。 そこから蒸気が立ち昇る。
「いっ言うよ。あいつらなら西の塔に縛られているよ。生きたまま」
手を離された巡礼者はドサリと地面に落ちた。
(いったいなんなんだアイツは)
ロボットは長く影をのばし始めた塔へと走っていく。 それを見た信者たちは咄嗟に小火器を発砲する。
パンパンパン!
早くて命中しない。いや命中していても効いていないのだ。 ロボットは疾走しながら後ろに180度腕を回転させると、 適当な所へ例のエネルギー砲を放った。 18人の青いやつが蒸発した。 それを見て腰が退けた仲間達は、一目散に逃げ惑う。 宿舎の後ろに隠れようとしているのもいる。
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「なんだか騒がしいなぁ」
ドーラは首を伸ばして遥か彼方の聖地を伺った。 何かが疾走してくるのが見える。 土埃を舞い上げて黄色い物がぐんぐん近づいてくる。 ……彼だ。
「助けに来ました」
指先から出る光線で縄を焼き切りながら言う。
「どうして?」
とサウム。
「あなた方はこれからの世界に必要なニンゲンですから」

ブロロロロォーン!
葛折れの階段をモトクロスバイクで昇り行く2人の男。 一階分先を行くのはドーラ。 続いてサウム。 運転の慣れていないサウムは遅れまいと必死だ。 どれほど踊り場を廻っただろうか… 目が回るのを我慢してハンドルを操作する。
ようやく「F1」の表示に辿り着いた。 案の定シャッターが下りている。 そんなこともあろうと用意してきたプラスチック爆弾を、 練り合わせて壁面とシャッターの隙間に押しつけた。 信管を差しこむと二人は「B2」まで降りて起爆した。
バズゥーーーン!
こもった音が階段を伝ってくる。 塵が舞う。 サウムは耳を押さえていたにも関わらずキーンとなった。
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キレネーズはなんだか気まずくなって誰にも見られていない事を確かめてから、 それをクズ山の方へ放り投げてしまった。
(あんなものを献上したらよけいに罪が重くなってしまうよ。はぁ)
ひとりごちた。 さてと、気を取りなおして掘り掛けていた場所へ戻ったその時だった。
バズゥーーーン!
すぐ目の前の土盛りが吹き飛んだ。 腰を抜かすキレネーズ。 その場に固まった。
(仲間の誰かが危険物に当っちまったか?)
たまにこういうことがある。 古代の廃棄物の中にはまだ気の抜けていないボンベだのが混じっていて、 いきなり爆発するのだ。 だからこうして重たくて暑苦しいアーマードスーツをまとっている。 キレネーズはしゃがみ込んだまま土ぼこりの向うから何かが現れるのを見た。
ブロロロン!
2台のバイクだった。 跨ったままの二人はゴーグルを外して辺りをうかがった。 あちこち凸凹に穿り返された廃棄場だった。 青いアーマードスーツを纏った人間がこっちを見ている。
「ここはまだ埋め立て中でしょうか」
とサウム。
「いや。発掘しているらしいな」
バイクのエンジンを切って降りた。 彼らを取り囲む様ににじり寄ってくる青い連中。 つづく
| 2004年01月13日(火) |
27話 『ロボットの墓場』 |
ドーラは腕時計を見る。
「もう6時間経ったな」
たまに擦れ違う白い犬以外、何の変哲も無い走行。 ハンドルを握る必要が無いのでドーラはタバコにゆっくり火を点けた。
「そろそろ駅に着いてもいいころでは?」
サウムが助手席から話し掛ける。
「400�舛�らい走っているな」
走行メーターに目をやる。
「あ、看板が」
灰色の壁面に色とりどりの広告が張られている。
「ようやく1つ目の駅に着いたなっ」
徐行運転しながら先の様子を注意深く伺うドーラ。
カタン……カタン……キィーーっ
停止した。
プラットフォームだ。
2人は額にヘッドランプの着いたヘルメットを被ると電車から降りた。 レールの間を慎重に歩き進める。 脇の高さくらいのプラットフォームに明かりを向ける。
「登ってみましょう」
先にドーラがよじ登り、サウムの手を引いた。 その時、暗がりの奥からピーっと口笛のような音が鳴った。 白いふわふわした犬達がどこからともなく集まってきた。 そして音のした方へ歩み寄る。 何かが居る気配… 気配の正体は胸のLEDを点滅させて近づいてきた。
「怖がらなくていいよ。あれはニンゲンだ」
合成音声だった。 じゃれ付く犬たちを撫でながら声の主は続ける。
「ニンゲンに会うのなんて何世紀ぶりだろうか」
二人の前に現れたのは2メートル近い背丈の、黄色いロボットだった。 犬を撫でる手付きはとてもしなやかで、まるで人間の様だった。
「こちらへおいで下さい。私の仲間たちを紹介しましょう」
手招きをしてプラットフォームの先へ歩いていくロボット。 二人は呆気に取られながらも着いて行くことにした。
「この子達はニンゲンに捨てられたペットの子孫なんです」
この子とは犬達のことらしい。
「…そうでしたか」
やっと口を開いたドーラ。 サウムはドーラより1、2歩遅れて着いて来る。
「”仲間たち”っていったい?」
声が震えている。
「さあ、ここが仲間たちの眠る広場です」
黄色いロボットは向き直って手をかざした。 その方向へ目をやると整然と横たえられた幾百体のロボットが見えてきた。 きちんと向きを揃えて胸の上で指を組んでいる。
「彼らもニンゲンに捨てられたんです。 この駅の上にあるジオシリンダーは、 いつしか大きな廃棄場にされてしまいました。 生きたまま放りこまれた私達ロボットは、 長い階段を降りてここに辿り着いたのです。 やがて廃棄場は一杯になり誰も降りてこなくなりましたが。 それから数世紀が経ち、ひとりひとり寿命を向かえてこのように…」
屈んで一体の表面を触るドーラ。
「あなたはどうして?」
見上げる。
「私は自ら停止するまで稼動し続けます。そのように造られました」
「墓守…ですか」
「そうですね」
言いようの無い哀しさがこみ上げてくるドーラだった。
「ではナルーザスさん、息子さんのことはご心配なく」
ドーラは棟梁と固く握手を交わし肩を叩き合った。
「こんな柔な息子で良ければ連れて行ってやってくれ」
強がっているが内心淋しそうな棟梁。
「今生の別れでもあるまいに。あははは」
棟梁の奥さんが雰囲気を和ませる。 昨晩ドーラは村人達が餞別にくれた保存食 (海獣の乾し肉と油)を丁寧に貨車へ積みこんだ。 期待と不安で良く眠れなかった。 そして今日、出立である。
村人のほとんどが見送りに出てくれている。 なんだか勇気が湧いてきた。 助手席のサウムは窓から乗り出して手を振った。 モーター始動。 スーンという軽やかな音。 動き出す電車もどき。 レールの繋ぎ目に来るたびに車輪がカタンカタンと鳴る。 心地よいリズム。 時速60�舛泙脳紊欧襦� ヘッドライトの届かない向こう側にはヒカリナメクジの光点が煌く。 ヒーターを強くした。
「いまの見ましたか? 犬でしょうか」
サウムがふいに言う。
「犬がこんな地下に居るのか?」
「だってほら、あそこにもまた」
線路の脇にうずくまっている白いふさふさしたものはやはり犬だった。 試しにクラクションを鳴らしてみた。 ふさふさはビクンと起き上がってキョロキョロしている。 その顔には目が無かった。 ドーラは犬を轢かないように気をつけなければと思った。
| 2004年01月11日(日) |
25話 『ドーラの冒険が始まる』 |
アルバトロスの船倉には分解されたトラック。 左右のカタパルトにはコンテナを改造した貨車が1両ずつ。 ようやく北の海上駅に着いたのは夕暮れ時だった。
ドーラは村人に出迎えられるとまず村長(むらおさ)の元へ急いだ。
「今回戻って来たのにはある計画があってのことです。 それは地下鉄の復興に先駆けて、 自分自身で全軌道を確認するために旅立つことなのです」
「ほぉ、それは難儀なことよのう」
なんだかのんびりした答えが返って来た。
「ぜひ協力を…あなた方の協力が必要なのです」
ドーラは前のめりになって訴える。
「協力と言われてもあれだよ。ここは見てのとおり寂れた寒村じゃ。 男手は足りんし若者も少ない。何が出来るかね?」
しぶい。
「大したことではありません。 私の用意してきた列車を地下へ降ろして組みたてて欲しいのです」
微妙な間が空く。
「良かろう。それに乗ってあんたは旅に出るというんだね」
「はい」
簡潔に話はついた。
---翌日
がらんどうのエレベーター通路から、 重い部品をひとつひとつ降ろして行く。 なかでも水素タンクは慎重を要した。 コンテナは大きすぎて通らないので、 2つに切り分けてから降ろし、下でまたくっつけた。 作業は船大工の棟梁ナルーザスさんが、 若い衆を先導して引き受けてくれた。 ナルーザスさんの跡取息子のサウムという若者が、 何故かドーラによく懐いて、あれこれと世話を焼いてくれた。 きっと職人気質のドーラの姿にある種の憧れを抱いたのだろう。
「ドーラさん、実は僕も連れて行って欲しいんです」
藪から棒になんだろぅ。
「地下鉄の旅へ…かい?」
ドーラは連結器の調整をしていた手を休めて訊いた。
「僕はもう20歳です。子供ではありません」
やけに真面目腐った顔で言う。
「そうだね、私もキミの歳には海へ出ていた」
しばし沈黙が流れる。
「棟梁は知っているのかい?つまり…」
ドーラは整備中の列車(のようなもの)を見上げてから、 プラットフォームの向うへと続く暗闇を指し示した。
(この先には何が待ちうけているか解からない。危険な旅なのだ)
「僕は一生こんな小さな村で終わりたくない。 外の世界を見たいんだ。それがどんなものであれ」
うつむきながらも真剣に語るサウム。 自分にもこんな情熱的な時代があったっけと少し照れたドーラだった。

| 2004年01月10日(土) |
24話 『子供達大活躍』 |
13才の三男コザイルと12才の次女テトゥが、 クヴィスの引き摺るシーカヤックの上ではしゃいでいる。
「ここぐるぐる降りていくの面白いー!」
とテトゥ。
「これは遊びじゃあないんだぞ」
1つ年上のコザイルはしかめっ面をして見せた。 と言ってもこの薄暗がりでは相手に見えていないが。
「到着いたしました。さあ船を漕ぎ出しましょう」
クヴィスは腰に結んだロープを解いて2本足で立ち上がった。 彼がこっちを向くたびに額のサーチライトが眩しい。 2人は膝を伸ばしてパドリングの用意をした。 クヴィスは船の艫をえいと押し出した。 すーっと流れるように進むカヤック。 舳先に取りつけたランタンが湖面を映し出す。 それは神秘的なほどに透明な深い深い湖だった。
「わぁ〜 なんかいっぱい泳いでるぅ!」
テトゥは身を乗り出して目を輝かせた。
「クヴィスさんの言うにはウナギとかエビが棲んでいるんだって」
つり竿を準備しながら答えるコザイル。 エサはとりあえず練り餌。ダメもとでチャレンジだ。
「さあ、このへんでいいだろう。竿を下ろしてみようよ」
二人は冷えた空気と薄暗闇に怯えながらも、 ぺちゃくちゃお喋りをして気を紛らわせた。
「ねえってば全然釣れないじゃない〜」
「そうだね。おかしいねぇ」
もう2時間以上こうしている。 クヴィスは念の為、機関銃を構えて上のヘビコウモリの巣のあたりを警戒していた。
「いかがですかお2人ともー」
とクヴィス。
「ダメーー!」
二人の声がジオシリンダーの中でこだました。 なんだか虚しくなった。
「あのさ、さっきから考えてたんだけどね、 このお魚って何を食べているの?」
「そりゃあエビだの小さいのでしょう」
「だったらね、まずエビとかを獲ってね、 それを針に付けないとダメなんじゃないかしら?」
「兄ちゃんだってそのくらい考えついたサ。 でもあのエビは光が当るとスーっと潜ってしまうんだ。 きっと光が怖いんだよ。だから網を仕掛けておいて暗くしないと」
「なんだか面倒ね」
「そういや、前に本で読んだことがあるよ。 ウナギの仲間は狭い場所に入り込む習性があるって」
「…ふぅーん」
「あ、今凄いこと思いついちゃった!」
「どうしたの?」
「オレ天才かも。餌なんて必要無かったんだよー」
そう言うが早いか彼はつり竿を仕舞ってクヴィスの待つ岸へ向かった。
---地上にて
「ピピリとアーミ、そこいらを掘ってペットボトルを探して来い」
鼻の穴を膨らませたコザイルは年下の姉妹に命令した。
「またエバってるぅ。」
砂遊びをしていた二人は膨れっ面をしながらも言う通りにした。 30分程して背負い籠一杯のペットボトルが集まった。
「こんなんで何をするのコザイル兄ちゃん?」
と11才のアーミ。
「まあ見ているがいい。凄いぞ!」
コザイルは紐とドライバーとカッターで何か作り始めた。 それは見事な“仕掛け”だった。 勇みこんで再び地下に降りるコザイル。 今度はピピリ、アーミを連れて行った。 もちろんクヴィスのガード付きで。
さっきのようにカヤックを漕ぎ出すと、作ったばかりの仕掛けを次々に沈めて行った。 仕掛けに結びつけられた「浮き」が点々と連なっている。 30個くらいの仕掛けを沈めると、独り言を言った。
(これでバッチリだ。間違いない)
翌朝、彼は成果を確かめる為また地底湖へ向かった。 結果は大漁であった。 どの仕掛けにも一匹ずつのメクラウナギが入っていた。
「母さん喜ぶだろうなっ……」
トライホイールの後部に取り付けられているドーザーブレードで、 ドームの上に堆積した土砂を掻き分ける。 しだいに透明な耐圧ガラスが見えてきた。 光が差し込むに連れ、 奥で眠っていたヘビコウモリ達がにわかに騒がしくなった。 彼らにとっては安住の地を追いたてられる訳だ。 天蓋がすっかりキレイになると、 今度はモノレールの発着口を塞いでいる土砂を掻き分けていった。 しだいに現れるプラットフォーム。 その突き当たりには防災用のシャッターが降りていた。 クヴィスはそこに歩み寄ると、例のレーザーカッターを高出力にして、 馬蹄形に侵入口を切り込んだ。 そして両手で思いきり押し倒す。 ガーンと巨大な空洞が響く。 中から冷たい空気が吹き出して来た。 後ろで見守っていたリアラはヘルメットを被り中へ入っていった。
「テラスの3段目までは砂が堆積しています」とクヴィス。
「そうね。始めはそこで栽培をはじめましょう」
「地下水のくみ上げはポンプでは無理です。 簡単なモーター式の釣瓶井戸をこさえます」
「そうしてくれる。私と子供達は地下水の様子を調べてみるわ」
ズミ、セトスが母親について長い長いテラスを下降していった。 もちろん危険に備えて電撃ロッドと機関銃を携行している。 11階層あまり降りた所に高架チューブが架けられていた。 チューブの下の梁には無数のヘビコウモリが、 まだ眠たげにぶら下がっている。 起こさなければ害は無いだろう。 三人はプラットフォームに入っていった。 自分たちの足音の他に何か気配がした。
クゥ〜クゥ〜
ヴグググッ!
獣の声だ。
セトスが持ってきた強力なサーチライトをそっちに向けると、 なま白い小型の獣が3〜4匹逃げていった。
「聞いた事があるよ。地下犬だよきっと」
セトスは二人に説明した。
「あれはもともと人間のペットだったんだ。 けれど野生化してこんな暗がりで生きるようになった。 今では視力も退化している。 きっとヒカリナメクジやキノコなんかを食べているんだろう」
リアラはなんだか可愛そうに思えた。 ふと紅粉鳥のことを考えた。 あの子は自然界で生きていく力が無いのだからもっと哀れなのかしら…
ズミが急に「魚釣りをしようじゃないか!」と叫んだ。 陽気なズミ。
「地底湖にはどんな魚がい る の か な あ えへへ〜」
おどけて見せる。 三人はさらに下って地下水が溜まっている階層までやって来た。 明かりを照らす。 時々パシャッと何かが撥ねる。 「泳いじゃおうか!」
ズミが服を脱ぎ捨てるとドボンと跳び込んだ。
「ひぃえ〜冷てぇ〜〜!」
「気をつけなさいー」
とリアラ母さん。
「あ、ぁぁしっ、足になんか触った!」
血相を欠いてジャバジャバとテラスに這い上がったズミ。 その様子があまりにもこっけいだったので、 リアラとセトスは腹を抱えて笑い転げた。 笑い声が深い暗い地底でこだました。
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クヴィスの分析結果によると、地下水は科学的汚染はされていなく、 簡易濾過器で充分飲料になるそうだ。 泳いでいた魚はメクラウナギの一種で、 主に小エビを餌としているらしい。 これも食用になるそうだ。
さてこれからが農園再開のための本格的な仕事。 クヴィスが土木の専門知識を持っているおかげで、 リアラ達はかなり助かった。
「お別れですね」
リアラはお世話になったモーウィーに、 何と言って良いか解からないくらいだった。
「私達はこれから西海岸まで鉄塔を辿っていく そこで海の連中と交易してからまたここへ戻るつもりだ」
どれくらい先の話だろぅ…
「コモナをここへ置いて行く」
含み笑いをするモーウィー。
「助かります。男手は幾らあっても足りませんから」
リアラの後ろで話を聞いていたキームがふいに何処かへ走り出した。 たぶん恋する彼の所へ行ったのだろう。心浮かれて。
「テレビのニュースによると、 沿岸部の難民はかなり被害に遭っている様子です」
リアラは人事と思えなかったのだ。
「…あなたがたは海の人間を嫌っていらっしゃる様ですが、 私もあの子達も元は海の人間でした。 どうか…沿岸部で難儀している人達を見つけたら、 ここのことを知らせてあげて下さいな」
「ここ」とは水と食料に恵まれたジオシリンダーのことだ。 これから苗を植えつけて、育てていけば優れた農場にもなるだろう。 荒れた商用ブースを手直しすれば立派な住居にもなる。
「私達は海の人間達と最低限の接触を持つことで 長いこと存続してこられた一族です。 彼らは好戦的すぎます。しかし今は様子が違うみたいですね。 海賊も難民化して以来、海軍に志願しなかった大半は、 沿岸部でコロニーを形成して地味に暮らそうとしているというし。 まぁ…それも悪くないでしょう。やってみます」
リアラの顔がパッと明るくなった。 かつてロフティーの家族が虫たちに農場を荒らされて、 已む無くバラバラになって箱舟の親方に買われて行ったこと、 そのことがロフティーの心に深い傷を負わせてしまったこと。 ある日自分の元を離れていった彼だけれど、今でも気掛かりなのだ。 そう…いまごろ彼は何処で何をしているのだろう。 ニュース番組の情報では、正式な海軍の司令官に任命されたそうだけれど。 彼の心は日々おだやかなのだろうか。それとも…
巡礼者の1人キレネーズという男が、 仲間達と共に”修行”と呼ばれる発掘作業に追われていた。 そこはかつてジオシリンダーと呼ばれた街。 今は巨大なゴミ箱と化している。 人類は海上へ逃げ延びるさい、住居を昆虫らの繁殖地にされまいと、 天蓋の一部に穴を開け、そこから残土や産業廃棄物、 はては強力な農薬散布によって殺した昆虫らを、 かまわずどんどん放りこんで埋め戻してしまった。 それから7世紀あまり経った現在。 ドームはある宗教団体の“聖地”とされていた。 信者達は自らの原罪を清める為に、 過酷な手作業の発掘をさせられていた。 キレネーズはスカイブルーのアーマードスーツに身を固め、 今日も単調極まりない作業に従事している。
いくら掘っても半分砂になりかかった虫の死骸ばかり出てくる。 何か価値の有りそうなものを見つけないと、 次の報告会で身を小さくしていなければならないな。 自分にあてがわれた新米の連中はまったくやる気が無いし。 はぁ、こんなことで本当にオレの罪は清められるんだろうか… そんなことを思い巡らしながら、えいっとツルハシを落すと、 虫の死骸の下になにか固い物が当った。 慌ててしゃがみ込んで手でがさがさと穿った。
(…これはなんだろぅ?)
見た事もない物体。 掌サイズの角の取れた2つの四角錐の底辺同士を、 ペタンとくっつけたような形状。 良く解からないが金属の様だ。 にんまりとしながらキレネーズは作業長の元へ急いだ。 とその時、持っていた物体の底辺がブーンと鳴って30cmほど離れた。 離れた空間にホログラムが映し出された。 キレネーズは立ち尽くす。 ホログラムの映像は、裸の男女がベッドの上で縺れ合っているものだった。 キレネーズはなんだか気まずくなって誰にも見られていない事を確かめてから、 それをクズ山の方へ放り投げてしまった。
(あんなものを献上したらよけいに罪が重くなってしまうよ。はぁ)
ひとりごちた。
| 2004年01月07日(水) |
21話 『ジオシリンダー』 |
人間が仁王立ちして両腕を水平に伸ばしたような形状の鉄塔。 それらが延々と点在するこの砂漠。 変化の無い退屈な風景に突如出現した異様な物…
鉄塔達が作る見えない直線を遮る様に立ちはだかる、 直径200メートル、高さ70メートルあまりの円墳。 それは捜し求めていた"駅"の一部だった。 トライホイールのキャラバンはクヴィスの指示に従い、 巨大な車体を傾けてその円墳に登っていった。 頂上にすりばち状の穴が穿ってある。 まるで中に巨大な蟻地獄が住んでいるかの様だ。 始めに地面に降りたのはモーウィだった。 彼女はすり鉢のギリギリの所まで歩いていった。 固いブーツの踏みしめた砂がさらさらと流れて穴に吸い込まれていく。 この中にはいったい何が有るのだろうか…
クヴィスはトライホイールのウインチのワイヤーを腰に繋いで、 勇敢にも暗闇の奥へと降りていった。 額のサーチライトが暗闇の中で一筋の光を作った。 ゆっくりと下降しながら、クヴィスは周囲の状況を探索した。 エコーによる距離の測定でおおよその広さが解かった。 この建造物は約200メートルの円形で、 よく解からないがかなりの深さだった。 ウインチの長さが足りないので一旦引き上げてもらった。 今度はジオテックドームの梁を伝ってドームの内側を調べる。 クヴィスは手長ザルのような動作で軽妙に梁を伝っていく。 果してドームの縁、モノレールのプラットフォームらしき所に辿り着いた。 色褪せた広告が照らし出される。 笑顔の女性が髪をなびかせていた。 プラットフォームから延びる止ったエスカレーターを降りていくと、 緩やかに螺旋状に下降する通路に出た。 通路の内縁にはかつて人々の購買意欲を刺激したであろう、 着飾ったマネキンが並んでいる。 そのうちトレジャーハンターに荒らされたと思しき商店を見つけた。 電飾やアクリル看板がごっそりと剥ぎ取られている。 アンティークとしてのいくらかの価値があるのだろう。
さらに進むと透明な高架チューブにぶつかった。 これが駅の中心部へ繋がっているらしい。 クヴィスの導いた駅という名の巨大な建造物は、 かつて人類が昆虫から身を守る為に築いた砦のことなのだ。 古の時代、砦は無数に存在した。 しかし海上へと生活の場を移していった人類は、 放棄した砦を昆虫の根城にされないために破壊した。 たった一つを残して。 大陸の中央に位置するこのジオシリンダーだけは、 遠い未来の人類へ文明復興の希望をかけて残されたのだった。
夕暮れになると希望のタイムカプセルに開けられた小さな穴から、 無数のヘビコウモリがエサを求めに飛び発って行った。
| 2004年01月06日(火) |
20話 『コモナの昔話』 |
コモナは慣れた手付きでホイールキャップの真ん中を外すと、 現れた銀行の金庫ドアーのようなハッチをギイと開けた。 中はがらんどう。ちょっときな臭い。 コモナが目で合図するので、キームは背伸びして中を覗きこんで見た。 内側ぐるりにフイゴアンコウの歯のような物がびっしり並んでいた。 なんだかゾクッとした。
「ミキサーさ」
コモナは背負っていた籠を降ろすと、中身をアンコウの口に放り込んだ。 ガサガサと音を立てて虫ガラが流れ落ちる。 キームはポンチョの下から伸びる逞しい腕に見とれた。 そんな自分に気付いてちょっと赤くなる。
「だいたい1ヶ月で良質のパウダーになるよ」
さっきと逆の手順でホイールキャップを閉める。
「そんなにかかるの?」
とキーム。
「ねえ、キミはどうして海へ逃げなかったの?」
質問に質問で答えるところが不器用な青年らしい。
「…どうしてって」
キームは家族と共に居たかったからとしか答えられない。
「ねえ、もっと昔のこと教えて」
はぐらかす。
「うん。歴史の流れのなかにおいて何時でも迫害されてきた部族がいた。 僕等のように丘で旅の生活をしている者は、 海民からしたら正気の沙汰ではないんだ。 でもね、僕等のような者がいるから彼等の文明は成り立っているんだよ。 貴重な木材に代る建材として、このパウダーは無くてはならないのさ」
いつのまにか自慢話に変わっているのが可笑しくなってキームはクスと笑った。
「あ、話が逸れちゃったね」
コモナも照れ笑いした。 白い歯がこぼれた。
「そうそう昔の話だったね。 ここら辺一帯はその昔ジェル状の湖だったんだ。 気候も穏やかで。当時湖に繁殖していたクラゲの一種が、 乾燥化に適応して今でも生き残っているんだよ。 こんな砂と岩だけの世界にね。彼らはね、 雨季になると一斉に地表に現れるんだ。 そして体積を100倍にも膨らませて水分を体に蓄える。 そうして翌年の雨季になるまでまた地中深く潜ってしまう。 砂クラゲは見た事あるかい?」
「いいえ」
そう答えるに決まっているのに意地悪。
「そろそろ夕食の時間だね」
二人はお腹をさすって笑い合いながらタラップへ向かった。 あと数日でこんなやりとりも出来なくなる。 "駅"に着いてしまったら陽気なコモナともお別れだ。 キームはコモナとの別れが淋しかった。
つづく
| 2004年01月05日(月) |
19話 『コモナとキーム』 |
虫拾いの青年コモナはいつもの様に、 後部デッキのハッチから上半身だけ出して、周囲の警戒をしていた。 高倍率の双眼鏡は目の周りに押し当てられて顔と一体化している。 そろそろ下で干し肉を噛んでいる仲間に交代を願おうとしたその時、 遥か彼方の砂丘の向うに、冴えたブルーの点々を見つけた。
アレはなんだろぅ。。。 コモナは双眼鏡の倍率を調節して、それらの正体を探った。
アレは……人だ。 歩いているらしい。 かなりの人数だ。 ざっと見て100人はいる。 族長のモーウィがいつのまにか彼の背後に立っていた。
「あいつらか? ふん…『巡礼者』だよ」
とモーウィ。
「あんな派手なアーマードスーツで何をしようってんですか?」
双眼鏡から目を離して振返るコモナ。
「苦行により自らの罪を砂で洗い清めるつもりらしいが、 まぁ実際やっている事はトレジャーハンターなのさ」
「しかし遺跡の管理はかつての移民局が…」
「どこにだって抜け穴ってのはあるのさ。あくまで巡礼だからね」
「宗教を傘に着たハイエナですか」
「せいぜい虫に気をつけておくれってところか。ふ…」
二人のまとったフード付きのポンチョは風にはためいて音を立てた。 モーウィのフードにかしめられているバンダナは、 凝った彫刻の施された革製だ。それが族長の印である。 コモナはチラとそのバンダナを見る。かすかな憧憬の念を込めて。
夕暮れの虫ガラ拾いの作業が一段楽した頃。 コモナと、リアラの養女キームが小高い岩陰に腰を下ろしている。 小休止だろう。 少年は風の音に耳を傾けながらぽつりぽつり話し始めた。
----ここは、遥か大昔はこんなんじゃなかったんだって。 僕らの部族はその頃は森というところに住んでいたんだ。 森なんて言っても絵でしか見たことが無いけれど。 自然と調和したとても豊かな生活を送っていたんだって。 いまは絶滅してしまった哺乳類もいっぱい獲れたんだ。 独り占めや、溜めこんで財産にするヤツなんていなくって、 みな平等に分け合って生活していたんだ。 だけど他の多くの人間達は貪欲すぎた。 目先の豊かさに目がくらんでなんでもかんでも獲り尽くして、 自然の形を変える事で豊かになれると信じていた。 地下資源を独り占めしたくて仕方が無い連中は、 僕らのような少数部族を一掃してしまおうと考えたんだ。 そうすれば森の下の地下資源も自由に出来るからね。 大昔、DNA操作された昆虫が世界を滅ぼした。 その末裔がいまだに丘を席巻している。 ボクらは森を失ったけれど、代りに生きる術を見つけたのさ。 ボクらの森を食い尽くしたムシを生活の礎にしちまったのさ。 可笑しいだろう…?
コモナとキームは立ち上がり、トライホイールの前輪に近づいた。
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