READING THINKING WAITING
DiaryINDEXpastwill


2004年11月19日(金) 『教わる技術』その2

『教わる技術』で、もう1つ面白かったのは、一般に言われる「プラス思考」についての提言です。

プラス思考というのは、ときとして「よくないことが起きた場合にいかに良く解釈するか」といったふうにとられがちですが、「よくないことが起きた」と言っているその時点で、すでにネガティヴなアングルで事象をとらえていることにお気づきでしょうか?

…と、多くの人が陥りがちな、プラス思考についての誤解を指摘しでいます。

起こっていること、起きている事象というのは、ポジティヴでもネガティヴでもなんでもありません。よくポジティヴシンキングとか、プラス発想とかいう言葉がありますが、起こっていること自体は中立です。
(中略)
視点がポジティヴかネガティヴか、だけなのです。だったらポジティヴなアングルで見るほうが楽しいですよね。


考え方をポジティヴにするのと、ものの見方をポジティヴにするのは、どこが違うのだ…と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、全く違うことだ思います。

例えば、ピアノの練習で新しい曲に取組む時、譜読みが苦手な生徒さんを見ていると、こんな風に思っているように見えます。
「また、全く知らない曲を練習しなくちゃならない。大変だなぁ…」
逆に、新しい曲を喜んで練習してくる生徒さんは、
「今度の曲は、どんな曲かな…」
と、新しい曲に興味を持って、取組んでいるように見えます。
これは、能力の差ではなく、気持ちの持ち方の差なのですが、長い間には、能力の差となって表に表れてくるものでもあります。
一度大変だと思い込んでしまってから、その曲に興味を持つのは、なかなか難しい。
プラス思考についての記述を読みながら、そんなことが思い浮かびました。

第7章の高等テクニックでも、ピアノの学習や指導に役立ちそうなものがいくつもありました。
その1つは、“バーチャルキャリア”という考え方です。

未経験の仕事を上司や先輩から細かく聞き、それを自分の頭の中でシュミレーションすることは、それだけでバーチャルキャリアをつんだことなるのです。
(中略)イメージトレーニングはスポーツの世界でも盛んに行われており、非常に有効であることが実証されています。


…とあります。
実は、私が、インターネット上で、レッスンが困難なケースについて相談に答えたりしているのは、お役に立てるのが嬉しい…というのはモチロンあるのですが、私自身が、その生徒さんをレッスンするとしたら…というのを、シュミレーションしている面があるのです。
そういった経験は、自分が実際に指導するときの反応のよさとして、役立っている気がします。

もう1つ、レッスンの現場にそのまま使えるのは、「知ったことは必ず実行する」という事です。
この本にもありますが、かなりの効果が出る方法というのは、まず間違いなく、それをやったことがない人にとっては、大変なことです。
そのため、せっかく良い情報を得ても、実行しない人が多いのではないでしょうか。
そして、実行しなければ、結果は返ってきません。
この点について、著者は、決して、実行しない人を責めてはいません。ただ、以下のように書いています。

この問題には、正解がないのだと思います。どちらかを選択するか?ということだと思います。
《欄外記述》正解はないかも知れませんが、私でしたら迷わず「やってみる」方を選択します。それは、知ってしまったことをやらない、ということが自分で許せないからです。


ピアノを習っている方でも、レッスンで習ったことをやってみようとなさらない方がいらっしゃいますし、指導者でも、せっかく勉強しても、それをご自分のやり方として、取り入れようとなさらない方がいます。一人の人間ができることには限界がありますから、実行しないことによって成果が得られないことさえ承知していれば、それも良いのかも知れません。

書いているとキリがありませんが、そのくらい、ちょっと頭を使えば、ピアノのレッスンに応用できる情報満載でした。
しかも、ただのハウトゥ本ではなく、方法論を実行するのに必要な覚悟の部分にも言及しています。

そう、どんなに良いことを教わっても、それを自分のものにするには覚悟が必要。
そんなことを改めて思い出させてくれる1冊でもありました。


2004年11月18日(木) 『教わる技術』その1

ピアノを教える仕事をしているわれわれは、“教える技術”についての情報には、興味を持って接することが多いと思います。
しかし、実際には、教える側の意識だけでなく、教わる側の意識の多い少ないによって、その効果は、大きくも小さくもなります。
また、指導者自身が勉強する場合でも、同じ情報に接しているのに、本質的なことをつかめる人、つかめない人の差は大きく、また、必ずしも、その差は学歴や経験、その人の演奏力とは関係ありません。
どれもこれも、個人差…と一言で片付けてしまいがちですが、その個人差とは、一体具体的にどんなことなのか…。そんなことを考えているときに、以下の本に出会いました。

『教わる技術』(水上浩一著、ソフトパブリッシング刊)

著者の水上浩一さんは、元ギタリスト。
そのため、この本の中には、ギターの技術を名手から盗む…と言った話もあり、いわゆるビジネス書でありながら、音楽をやる私たちに理解しやすいように思いました。
逆に言えば、音楽を身につける過程で必要な数々の要素は、決して、音楽習得のみに通用する特殊なものではなく、この社会を生きていくのに必要なものに転化していくことが可能なものである…という証明のようにも思いました。

この本の一番最初に書いてあることは、
「知らないということを自覚すること」
なのですが、これは、非常に大切なことだと納得がいきます。
見ていても、これができている人は、必ず進歩します。

例えば、ピアノを習い始めたばかりの方は、大人でもお子さんでも、ご自分がピアノを弾けないことを知っています。
ですから、レッスンも真剣に受けるし、課題にもマジメに取組む場合が殆どでしょう。
ところが、レッスンがある程度進み、ちょっと曲らしい曲が弾けるようになってくる頃から、個人差が出てきます。
入門教材を終えたて、少し曲らしい曲が弾けるようになって、クラシックの名曲が弾けるようになり始めた頃、年齢的に長くピアノを弾いているという自負が生まれ始めて…など、それぞれの段階でピアノが弾ける…と思っている人(そのこと自体は悪いことではないのですが)が、思い込んでしまったために、その先のためのアドヴァイスを受付けてくれない…そんな悩みは、少し長く指導している方なら、経験しているのではないでしょうか。

あるいは、指導者の立場でも、同じことが言えます。
駆け出しの頃は、教えることの何もかもが難しく思えるものですし、そのため、すべての情報にアンテナを向けているものですが、経験を積むことによって、自分のできること、教えられることにばかり目がいってしまうケースは、ありがちです。
指導者の立場で、そうであっても、誰も文句を言うことはありません。
そのことで不利益をこうむるのは、指導されている生徒さんなのですが、その不利益も、大抵は、指導を離れて時間が経ってから、明らかになるものです。

この本では、良い例、悪い例が具体的に、でも、一般化されて(この加減が絶妙なのは、著者のバランス感覚のよさかも知れません)挙げられていて、読む人が自分のケースに当てはめてイメージしやすくなっているように思います。
特に第2章の「アプローチ編」では、何かを学ぶ際、入り口でつまづきがちな一つ一つを丁寧に説明していて、ピアノ学習に応用できることが沢山あるように思いました。
たとえば、「飲み会の誘いは断らない」なんていうのは、ピアノとは関係ありませんが、しかし、緊張しすぎないでコミュニケーションを計るという風に読み替えれば、やっぱり、教わる技術の一つといえると思います。

さらに、第3章で、どんどん良い情報を学ぶことができる人とそうではない人の違いを、“成功スパイラル”という言葉で説明しています。
そして、第4章では、「勝手に弟子入り」と名づけて、誰からでも学べる“奥義(?)”が紹介されていて、何かを教わる…というのは、何も、上下関係にこだわる必要はないのだ…ということがわかります。
これは、社会的地位がある方、ある分野で成功された方のほうが、柔軟に年若い人とも交流し、そこから学んでいらっしゃるのを目の当たりにするにつけ、実感することでもあります。
また、このレベルになるには、まずは、アプローチ編をある程度モノにする必要がある…というのを理解しやすく、ピアノを学習する上での心構えに通じる部分が、数多くあります。

(つづく)


2004年11月03日(水) チェルニー30番の前に…

ピアノを習って、チェルニー30番に入るまで…というのは、ある意味で、一番難しい段階という事ができると思います。
チェルニー嫌いは、ピアノ学習者には珍しくはありませんが、しかし、テクニック的なことを避けて通ると、結果的に遠回りをすることになるのは、指導する側は良く知っていますから、何とかしてチェルニー的なものへの筋道もつけたい…と、頭を悩ませるわけです。

チェルニー30番をやらなくてもいい、そこまでの進度を望まない…という場合でも、今、取組んでいる曲のテクニック的な苦労を最小限のものにしたい、とか、発表会などで少し大きな曲を人前で格好よく弾きたい…という場合には、やはり、普段のレッスンでどのようにテクニックの勉強をするかが問題になってきます。

少し前に、学研から出た、『新編こどものチェルニー』全3巻(井内澄子編)は、こういった、悩みや問題に、1つの答えを示してくれるように思います。
このテキストの特徴は、今まで、チェルニー30番に入る前によく使われていたチェルニーの曲集、100番、110番、リトルピアニスト、第1過程練習曲など…から、使いやすいもの、勉強になるものを抜粋し、学習しやすい順序で並べてある点にあります。
しかも、抜粋編纂しているのは、ピアニストで、その昔NHKの『ピアノのおけいこ』で指導なさっていた井内澄子先生。
選曲も、並べ方も、実際のレッスンを進めていくのに、無理がない上に、編集することによって、本編にはなかった教育的な意図も生まれていて、子どもが自然に、音楽的な理解も深めることができるます。
1曲ごとに、イメージをふくらませやすい題名もついているので、他の曲集と同じように取組めると思います。
3冊に分かれているので、1冊が終わるのに時間がかかりすぎることもありませんし、可愛らしいイラストもあって、楽しく練習できるでしょう。

楽譜を読んで両手で弾く…という、導入の段階から、テクニック的なことをクリアして、楽曲を音楽的に弾けるようになるための架け橋として、様々な使い方ができます。
編纂なさった、井内先生の、お子さんたちにピアノを楽しくしっかり上達して欲しい…という気持ちが伝わってくる気がします。


♪ |MAILHomePage

My追加