.第6話:『Teenage Walk』 

 「家をでてから、何かにつけて思い出すのは谷村のことだった。こんなことになるならちゃんと言っとけばよかったって思って。
…というか、向こうに行ってちゃんと気づいたんだ、谷村が好きだ、って」

 ・・・うそでしょ・・・
 まさか藤崎から先にその言葉を聞けるとは思わなかった。

 「・・・でも、」
 え?でも??

「俺は夢を捨てられない。このまま神戸に帰る。
谷村にとっても迷惑だと思ったけど、どうしても言いたかったんだ。
ごめん、今の言葉、忘れてくれ」

・・・忘れてくれ、だと??せっかく気持ちはつながってるのに??
 自分だけ言っちゃってすっきりできればそれでいいわけ??
 あたしの気持ちはお構いなし??・・・なんか、とてつもなくむかついてきた・・・

 「・・・ムカつく・・・」
「・・・だよな、悪かったよ引きとめて。・・・ごめんな」
「そうじゃなくて!!」
 あたしはかばんの中から「あれ」を取り出し、わざと音を立てるように藤崎の手のひらにたたきつける。
「え?これって??」

 「誰かさんが急に学校こなくなっちゃったから、すっかり時期はずれになっちゃったじゃないよ!責任もって、食べてよね!!」

 そう、それは半月遅れのバレンタインデーのチョコレート。
 本当なら当日に渡したかったのに、藤崎の不在ですっかりタイミングのずれてしまったチョコレート。

「何よ、自分の言いたいことばっかり言っちゃってさ。
あたしの気持ちはどうなるんだっての!!」

 「谷村の気持ち…って…」
 こんなにおろおろ、というか戸惑った顔をした藤崎、はじめてみた。
 いつでもみんなの前を走ってて、その顔は常に自信にあふれてる男前の秀才。
でも今の藤崎は、まるで迷子になった子供のような、どうしたらいいかわからないって顔。

「…先に言われちゃったじゃん。まさか藤崎があたしを好きだって言ってくれるって思わなかった。
本当はバレンタインデーのときに言うはずだったのに…藤崎が好きだって」

 まさかこんなにすらすらと言葉が出てくるなんて思わなかった。
 藤崎を待っている間、なんていおうかずっとずっと考えていて、でもなかなかいい言葉が思いつかなかったというのに。

 藤崎の顔が一瞬きょとん、として。
 次の瞬間今まで見たことのないような満面の笑みに変わった。

 「…やっ、たああああ!!!」

 藤崎はもう飛び跳ねんばかりの勢いであたしに近づいて、あっという間にあたしを抱きしめて。
「やっベー…俺、なんかすげえうれしいんだけど」
そんなことを言いながらまわす腕に力をこめる。
「いたいよもう、藤崎の馬鹿力っ」
あたしはあたしで憎まれ口たたきながら、藤崎の子供のような笑顔につられて、けらけら声をあげて笑って、好きな人の腕の中にいる幸せを噛み締めていたのだった…。



 「え???藤崎に告られた???」

 夜、みんなと約束していた卒業記念パーティーの席上で。
 瞳子さんには御礼を言おうと思い、みんながカラオケやおしゃべりに夢中になってるのを見計らって、こっそり瞳子さんの隣に行き、報告すると。
 あの冷静な瞳子さんが予想外の大声をあげてしまい、その声にほかのみんなが振り向いた。
 「と、瞳子さん、声大きいよ…」と慌てて口止めしたがもう遅かった。

 「うそ、藤崎に告られたって??」
「やっぱり藤崎が麻衣に気があるかもって本当だったんだ!!」
「で、麻衣はなんて返事したの??」
おしゃべりもカラオケも食事もすべてそこで中断され、梢・絵里・美和子・そして瞳子さんが興味津々な顔であたしに詰め寄る。

 「麻衣、ちゃんと自分の気持ちは言えたの?」改めて瞳子さんが聞き返す。

 「…うん、ちゃんと言った。OKの返事した。
あたしが告白するつもりだったのに、先に藤崎に言われちゃったけど…」

 「やったじゃん!!」
「よかったね、麻衣と藤崎ってお似合いだもん!!」
「藤崎いなくなったからどうなるかと思ったけど!藤崎を落とすなんて、麻衣すごいじゃん!!」みんな口々に祝福の言葉を投げかけてくれて。
 改めてあたしはこんな素敵な友達を持てたことに誇りと幸せを感じていたのだった。


 「…あ、でもさ。藤崎が神戸に行っちゃえば遠距離恋愛だよね。どーするの?」


 絵里だったか梢だったかが言った言葉に、あたしは思わず答えに詰まる。
 …そう、なんだよねえ…。


 それから藤崎が神戸に戻るまでの一週間、何か理由をつけては二人で会い、デートを繰り返した。
 そして、あたしたちのこれからのことについてもきちんと話をした。
 多分今までのあたしなら、離れてしまうことに不安を感じて、泣いたり拗ねたりして相手を困らせていたかもしれない。でも、なぜか今回のあたしは冷静だった。
 藤崎が神戸に行くのはあたしが彼の夢を聞いたときからずっと揺るがなかったこと。地震で神戸があんな状態になって、結局4月の美容学校への入学が延期になりそうなのに、それでもあの街でがんばることを決めた藤崎をとめられないことも知っているし。
 それよりも何よりも、住む場所は違ってもあたしたちは同じ夢を追いかけていくから。それが、あたしに勇気をくれているのかもしれない。 

 いよいよ明日は藤崎が神戸に戻る、最後の夜。
 最後に二人で食事して、おしゃべりして、わざわざ遠回りしてあたしの家の近くまで藤崎が送ってくれて。

 「なあ谷村、うちの学校の卒業のときの『伝説』って知ってるか?」
 突然藤崎がこんなことを言い出し、一瞬何のことかわからなかったが、すぐにぴんときた。
 「わかった!…ちょっと藤崎ここで待っててくれる?」
藤崎をその場に待たせ、あたしはいったん家に戻る。自分の部屋に駆け込んで、「あれ」を取り出し、すぐに藤崎のもとへ。
 「おまたせ。藤崎、これのことでしょ?」
 あたしは手の中に握り締めていた「あれ」を藤崎に渡す。
 「そう、これ。…さすがに女子は知ってるな」
 藤崎はやわらかく微笑んで、服のポケットからあるものを取り出し、あたしの手に握らせる。

 「せっかく俺たちはあの学校で出会えたんだから、『お約束』は守らなきゃな」

 城山高校には、いつから始まったことなのかわからないが、卒業の際のある「お約束」が存在する。
 制服がブレザーのうちの学校は、卒業式のカップル成立の定番「第二ボタンもらい」ができない。その代わりに、男子がタイピンを、女子がスカーフ止めのリングを交換する、そういう伝説。

「ありがとう、大事にする。…今度はいつ会えるかわかんないけど、がんばろうな。いつか、二人とも超一流の美容師になれるように。これ、お守りにするよ。」

 次はいつ会えるかわからない、約束のない別れのはずなのに。
 なぜか涙は出なかった。幸せのほうが勝っていたからかもしれない。
 恋愛感情だけじゃなく、目指す夢まで同じものを追いかけて、心がつながっていることを確信しているから。

 「俺、谷村にあえて本当によかった。みんなに猛反対されて、本当にやりたいことをあきらめずにすんだのは、あの学校で谷村に会えたからだと思う。
これからも俺の支えになってくれよな。」

 別れ際に藤崎がくれた、あたしにとっては最上級の言葉を胸に、あたしはがんばっていけると思った。
 たとえいつか恋が破れても、藤崎が気づかせてくれた夢や目標はきっと消えないと思うから。

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 …そして、あれからいくつもの季節が流れて、時代は21世紀になり。
 あたしは挫折することなく、美容師への道を歩みだした。1年遅れたけど、藤崎もあの街で見事夢をつかみ取り。

 気が付けば、2002年。あたしは25歳の誕生日を、とある場所で迎えていた。

 「…麻衣さん、そろそろ時間ですよ?」
「わかった、今行く」
とある大ホールの控え室。出されたお茶をぐっと飲み干し、今や商売道具であるはさみや櫛の入ったウエストポーチを巻きつける。

 その瞬間、控え室に響いた携帯メールの着信音。
「いよいよだな。まさか、こんな日が来るなんて夢にも思わなかった」

 画面に映し出されたその言葉に
「本番では手加減しないから」と返事を返す。

 あたしはアシスタントの子とともに控え室を出て、これから『戦場』となる大ホールの舞台に立つ。

 数分後、幕が上がり、まばゆいばかりのスポットライトの群れがあたしと、これからあたしが戦う相手を包み込む。


「それでは、ただいまより、オールジャパン・シザーズリーグ・決勝戦を開催します。
…全国の予選を勝ち上がり、見事決勝に勝ち上がったのはこの2名!!
関西地区代表・『ASK』所属・藤崎千尋!
…そして、九州地区代表・『ティアラ』所属・谷村麻衣!!」


(『Teenage Walk』阿愨海…次回いよいよ最終回です!!…長かった…(笑))


 

2003年12月07日(日)


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