感想メモ

2007年10月31日(水) ホームレス中学生  田村裕


田村裕 ワニブックス 2007

 お笑い芸人麒麟の田村が実際に体験したことをまとめたエッセイみたいなもの。

 私はあまりお笑いに興味はないので、この本がテレビなどで取り上げられているのを見て初めて「麒麟の田村」という人を知った。今も実のところ、この人のお笑いのシーンは見たことがない。

 でも、「FBI超能力捜査官」のテレビ番組で田村のお父さんの捜索模様をやっていて、最後にお父さんと再会できたのも見ていた。

 田村少年は、小学5年生で母をガンで亡くし、父もガンの闘病生活をし、そのせいで会社を解雇され、そのうちに家を差し押さえられてしまう。お父さんは「解散」の一言を残して、兄弟3人を置いて立ち去ってしまった。

 そのときの田村少年は中学2年生。お姉さんは高校生、お兄さんが大学生だった。お兄さん、お姉さんは一緒に来いと言ったのに、田村は一人で生活することを選び、公園で寝泊まりすることに。持っていたお金はすぐに底をつき、自販機の下に落ちているお金を拾ったり…。

 と、いうようなどん底の日々から、友人のお父さん・お母さん方に助けられ、3人で一緒に暮らせるようになり、高校を卒業し、お笑いの学校を卒業するまでのことが語られている。
 本当に空腹になるというのはどういうことかとか、もう少しどうにかならなかったのか?とか…色々思うところはあったのだが、高校に入った頃は、早く死んだお母さんのところに行きたくて、いつ死んでもいいと思っていた…というようなところでは、なんだかこっちもどーーんと落ち込んでくるような感じで。

 早くに亡くしたお母さんに対する手紙では、思わず涙が…。こういうのに弱いのね。

 いい人たちとの出会いがあって、今、たぶん人気があるお笑い芸人となれたわけだし、先日はお父さんとも再会できたみたいで、これからよい人生を歩んでいってほしい。お父さんのことも恨んでなくて、親孝行がしたいと言っていた田村の人柄はいい人なのだろうなぁと思う。

 でも、一番すごいのはやっぱりお兄さんやお姉さんかな。お父さんも大事にしてほしいけど、この2人にも幸せになってもらいたいものだなぁと思った。



2007年10月25日(木) メタボラ  桐野夏生


桐野夏生 朝日新聞社 2007

STORY:
記憶をなくした状態で密林の中を歩いていた僕は、独立塾から脱走中の昭光と出会い、一緒に山を下りる。昭光からギンジという名をもらい、僕はなんとか生きていこうと努力をするが…。

感想:
 朝日新聞で1年超連載されていた小説。

 久しぶりに桐野夏生を読んだ。面白い。社会派の小説だとか、ネットカフェ難民や派遣で毎日をやっとの思いで生きている人々に対する問題提起をした小説だとかいう評判は聞いていた。

 舞台は沖縄。ギンジは記憶をなくし、所持品も一切持っておらず、現金がゼロの状態である。そんな中で、ギンジは人の好意に甘えつつも、何とか自分一人でお金を貯め、自活しようとしていく。

 対照的な昭光は、宮古島生まれのボンボンで、いい加減な生き方をしている。独立塾という厳しい環境から脱走を図るが、危機感は少ない。

 この2人の対照的な様子が、2人交互の視点で描かれる。

 確かに社会派の小説なのかもしれない。記憶を取り戻すまで、ギンジの感情の揺れが細かく描かれる。

 記憶を取り戻してからも、自分の過去を振り返ったり、これからのことを考えたり…。とにかく心の変化が描かれて、引きつけられる。

 どちらかというと、昭光の行方よりも、ギンジの生き方の方が気になった。

 昭光の宮古弁がなんだか心地よい。

 沖縄の人の戦争に対する思い、基地に対する思い、文化、政治のことなどにも目が向けられていて、興味深い。

 が、最後があっけなかったかな…。ここで終わりなのか…というのが。もう少し先まで描いてほしかったかも…。

 でも、ここまでたどり着くまででも、ものすごい長編ではある。分厚くて持ち歩くのが大変だった…。



2007年10月11日(木) 彼氏彼女の事情 全21巻  津田雅美


津田雅美 白泉社

 以前、といってもずーーーーっと昔になるけれど、テレビアニメでやっているのを見て、おもしろいなぁと思っていた。原作も読んでみたいと思っていたけれど、今頃になって手に取った。(テレビアニメも全部見たか覚えていない…。見たのかな…)

 最初の方は、テレビで見たのと一緒だなという感じだったけれど、段々話がシリアスになっていくのね。最初とノリが段々変化していく。絵も…。

 学年一の秀才宮沢雪野は、高校に入学するときに総代だとばかり思っていたが、自分より上に有馬総一郎という優秀な男がいて、総代を逃す。二人は何もかも同じくらい優秀で、雪野は持ち前の負けず嫌いの性格から総一郎に勝とうとするのだが、いつの間にか二人は恋愛関係になって…。

 ここまでは普通の恋愛漫画って感じかな。そして、高校生だから、恋愛の形もとても初々しくて、思わずこっちがぽっとしてしまいそうなくらい…。

 その後、雪野や総一郎の「濃いい」友達たちとの交流があって学園物の様相を呈したり、それぞれの友達カップルの葛藤とか、付き合いを描いたり…。

 最後に総一郎の家にまつわる血縁のドロドロしたものが描かれて…。

 結局は色々な「彼氏彼女」の事情を描いている…と言えばいいんだろうけど、私にとっては、周りのエピソードはここで入れないで本題にいこうよ〜と思わず言いたくなる展開も…。

 幼児虐待とか、愛されない子供とか、複雑な家庭の事情とか…それぞれに考えさせられるところもあるんだけれど、やっぱりちょっと子供向けなのかなぁ…というのも否めない感じはある。でも、たぶん、若い世代の子にはこういうのの方が受けるだろう。

 最後は愛の力で丸く収まるのもとても後味がいい。いろんな要素が詰まった漫画で、若い人にはオススメ…。



2007年10月08日(月) 幸せのレシピ

 高級レストランのシェフとして働くケイト(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)は独身でバリバリ働くキャリアウーマン。店のオーナー(パトリシア・クラークソン)にはカウンセラーのところに通うように言われ、少し精神的に不安定と思われている。そんなとき、姪ゾーイ(アビゲイル・ブレスリン)を引き取ることになる。突然、小学生の子供と同居をすることになり、戸惑うケイト。その上、自分が不在だった間にオーナーは新しい男性スー・シェフのニック(アーロン・エッカート)を採用。職場のキッチンはニックの色に染まっていて…。

 子役の女の子がとてもかわいい。ずっと一人で暮らしていると、子供の扱いなんかすっかり忘れている。だから、最初はなかなかコミュニケーションがうまくいかない。ケイト自慢の料理も、子供にとっては食べたいとは思えないもので、とにかく何かを食べさせようとする場面はなかなかよかった。段々子供と仲良くなっていく過程もスムーズに描かれていて、見ていてほのぼのとしたり…。

 何かひねりが加わってどうにかなるのか?と思ったけれど、そういうこともなく、安心して最後まで見ていられる。とてもよい映画だった。

 レストラン映画だから、おいしい料理がたくさん出てくるけれど、実は一番おいしそうだなと思ったのは、ニックがまかないで作るスパゲティーと、みんなで作ったピザだったりして…。やっぱり飾らない料理の方が私は好きなのかも…。



2007年10月07日(日) 夕凪の街 桜の国  こうの史代


こうの史代 双葉社 2004

 映画化された『夕凪の街 桜の国』の原作漫画。

 映画を見た夫にとてもよい映画だったと聞き、原作を読んでみることにした。

 2部構成になっており、「夕凪の街」は、広島で原爆を受けた平野皆実が主人公のお話。「桜の国」は(一)と(二)に分かれており、(一)は皆実の姪の石川七波が小学生の頃、(二)は七波がOL時代のお話。

 結構複雑な人間関係だし、断片的にしか出てこない描写が多いので、つながりを把握するのに少し時間がかかるけれど、「注」を読んだりして、何度か戻ったりすると、こういうことだったのか…というのがわかってくる。

 印象に残ったのは、「母さんが三十八で死んだのが原爆のせいかどうか誰も教えてはくれなかったよ。おばあちゃんが八十で死んだ時は原爆のせいなんて言う人はもういなかったよ。なのに凪生もわたしもいつ原爆のせいで死んでもおかしくない人間とか決めつけられたりしてんだろうか」という台詞。

 原爆を受けてすぐに亡くなった人だけでなく、それから何十年も経って、突然症状が現れて亡くなる人も多い。でも、時が経てば経つほど、原爆が原因なのかどうなのかもわからなくなるし、周りもそのことを忘れていっているということなんだろうなぁ…と。でも、中にはその血が流れることを拒む人もいるのかもしれず…。

 短いけれど、色々なものが詰まった漫画だった。



2007年10月01日(月) プロヴァンスの贈りもの  ピーター・メイル


ピーター・メイル 小梨直訳 河出文庫 (2004)2007

STORY:
突然リストラを宣告されたマックスは、亡き叔父よりプロヴァンスの田舎のブドウ畑や家をすべて譲り受けたことを知る。友人チャーリーの助けを得て、プロヴァンスに渡り、ワイン造りに取り組もうか考えるが、叔父の娘を名乗る人物が現れ…。

感想:
 この本は、映画『プロヴァンスの贈りもの』の原作本。映画の方は見なかったのだが、本を読むことに。作者はかつて『南仏プロヴァンスの12か月』でベストセラー作家となったピーター・メイル。そういえばこの本、当時はすごい人気だった。読んだことはないのだけれど。

 どんよりと憂鬱なロンドンの空の下、マックスは上司の冷たい仕打ちを受け、図らずもリストラされる。借金ばかりが残されどうしようか途方に暮れているときに、叔父の財産を相続する話が持ち上がる。友人のチャーリーが気前よく軍資金を出してくれ、フランス・プロヴァンス地方に飛ぶ。するとロンドンとは打って変わって素晴らしい天気。気分もよくなり、人生を前向きに考えられるようになっていくが…。

 最初が悲惨なだけにあとから明るくなっていくのは楽しめる。それと同時にワインの知識とかプロヴァンス地方の食事とかの描写もあって、なかなか面白かった。 


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