感想メモ

2005年11月29日(火) さくら  西加奈子


西加奈子 小学館 2005

STORY:
逃げ出した父から年末に帰るという手紙をもらい、薫は母と妹の待つ故郷に帰ることにする。そこには小さな頃からかわいがってきた愛犬サクラが老犬となった姿があり・・・。

感想:
 テレビだったかで、とてもよいという話を聞き、読んでみようと思った本なのであるが、最初、非常に乗れず、読むのをやめようかとさえ思った。けれど、とりあえず読みすすめていくと、途中から過去の回想シーンが始まり、そこからは段々面白くなっていった。

 最近の小説は、似たようなのが多いような気もする。これも主人公薫の兄の行く末がどうも引っかかるところがあった。

 話としては、バラバラになった家族がもう一度やり直せるのではないかな・・・という、ちょっとほっとできる終わり方にはなっているので救いはある。

 妹が兄のことを好きで、兄に対してしてしまったことなんかは、ちょっと驚いた。一つ一つのエピソードが本当に変わった人たちだなと思うのだけれど、時々確かにぐっと胸に来る場面もあったりして・・・。

 でも、やっぱり最初の方がちょっとわかりにくく、面白さがそこで半減したような。もう少し最初の導入部を短くした方が、すぐに話に入っていけたような気も・・・。

 それと『さくら』というタイトルなのに、なぜか犬の名前は「サクラ」。なんでタイトルをカタカナじゃなくてひらがなにしたんだろう? かなり疑問。

 嫌いではないけれど、積極的に読みたいタイプの作品ではなかったかな。



2005年11月20日(日) 空より高く  重松清

読売新聞の夕刊連載小説

STORY:
廃校が決まっている高校で、「何かを始めよう、レッツ・ビギン」と訴えかける先生の呼びかけに応え、ジャグリングに興味を持ち始めるネタロー。ネタローに告白をし、ジャグリングの師匠となったムクちゃんやネタローの友達たちがそれぞれの卒業に向けて奮闘していく。

感想:
 重松清は初めて読んだのだけれど、あまり盛り上がらずに終わった・・・というのが一番の感想である。廃校が決まっている高校で、いまどきのちょっと無気力で何かをやるなんてかったるいと思う高校生たちが、それぞれに奮闘するのだけれど、もっとすごく奮闘するのかと思えばそうではなくて、やっぱりいまどき風の奮闘なので、読んでいる方はあまり盛り上がらない。まあ、それが現代風なのかもしれないし、いまどき熱血なんてはやらないのかもしれないけれど。

 もっと主人公がジャグリングに燃え上がるなんていうのを想像していたのだけれど、そうでもなく、中途半端な感じで終わる。ムクちゃんとの恋もすごく煮え切らず、じれったいというよりも、ムクちゃんがかわいそうだなと同性としては思ったりもした。

 先生やお父さんたちの話も絡めて、廃れ行くニュータウンを舞台にしたよい話・・・なのかもしれないが、いまひとつ煮え切らず、乗れない感じのまま、終わってしまい、ちょっと残念だった。合わなかった。

 もしかしたら夕刊の小説だったのも悪いかもしれない。やはりぶつぶつ切れるので、これがまたつながると違う感じになるのかな。宮部みゆきの『理由』も夕刊小説で読んだときはすぐに挫折してしまったくらいなので、ただ単にブツ切れなのがダメだったのかもしれない。

 その他の作品もまた読んでみたいと思う。



2005年11月18日(金) 天国はまだ遠く  瀬尾まいこ


瀬尾まいこ 新潮社 2004

STORY:
日々の生活に疲れた千鶴は、仕事も辞め、死のうと思い、あてもなく田舎へ向かう。ふらっと訪れた民宿で死のうとして失敗した千鶴は、死ぬ気がなくなり、田舎で民宿の主とともに自給自足の生活をすることになるが・・・。

感想:
 自殺をするほど追い詰められた主人公が、死に切れず、間違って生き延びてしまったとき、死の衝動はすっかり失せてしまっていた。そして、自然の中で「生きていく」ということを取り戻していく過程が、非常によく描かれていた。

 実際のところは、自殺未遂の人は、何度も繰り返す人と二度と死のうと思わないという人に分かれるのかもしれない。主人公は後者で、田舎で何のあてもなく、ただ毎日を過ごしていくうちに段々自分を見つめなおし、このまま田舎にいてもしょうがないという結論に達する。

 生活に疲れたら、こうしてちょっと日常を離れてみると、案外うまくいったりするものなのだろうか・・・とちょっと思った。



2005年11月17日(木) 図書館の神様  瀬尾まいこ


瀬尾まいこ マガジンハウス 2003

STORY:
学生時代バレー部で活躍したものの、後輩を死に追いやったということで部を退部することになった清。学校の非常勤講師として就職し、バレーボールに関わろうと思っていたのに、なぜか部員1名の文芸部の顧問になることになってしまい・・・。

感想:
 人を死に追いやったということで、色々なことをあきらめ、投げやりに人生を過ごす主人公が、就職先の高校で文芸部の学生と接するうちに自分を取り戻していくという話。その過程がゆっくりと描かれていてなかなかよい味を出していた。

 図らずも人を死に追いやるということは、死んだ人の家族もそうだろうけれど、本人も相当の苦しみなのではないかと思った。時が悲しみを癒してくれるものなのかな。



2005年11月12日(土) 理想の生活

 NHKの夜ドラ。境正章主演。

 話は定年を迎えた等々力勝利が、計画通りの理想の生活をしようとするが、息子は年上のこぶつきの女性と同棲するといって二世帯住宅を飛び出し、妻とは寝室を別にされ・・・とどんどん計画が狂っていく・・・というもの。面白おかしいタッチで描かれた喜劇風でいながらも、時にちょっとしんみりさせるような感じのドラマだった。

 一番思ったのは、今、読売新聞の夕刊で連載している重松清の『空より高く』に似ているということだ。主人公がこちらは定年後の老人(とまでは行かないか・・・)たちであることが違うが、モチーフが似すぎている。

 『空より〜』の方は、主人公は高校生。廃校が決まっている高校の3年生が後がないどん詰まりの状況を何とかしようと奮闘する話。玉川ニュータウンだったか、とにかくやはり昔はみんなが夢を持って移り住んできたが、今では寂れてしまったニュータウンが舞台である。

 ドラマは、やはり今では寂れてしまい、商店街などもほとんど閉まってしまった町で定年後の男女が奮闘する話。息子や娘たちもみんな出て行ってしまい、恐ろしく若者が少なくなっているという設定である。

 最後には祭りをするという設定も、どちらも同じ。ただし、小説の方はまだ続いているので、もしかしたらまだ何かあるのかもしれないが・・・。

 どちらも本当に似ている感じで、ちょっとびっくりしてしまった。ただドラマの方はやはり定年後の男性が主人公であるから、仕事人間を貫いてきた夫たちの哀愁みたいなものが結構ていねいに描かれていたと思う。



2005年11月05日(土) ティム・バートンのコープス ブライド

 夫が見たいと言い張るので、見に行くことにした。

 『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』を作った人(=ティム・バートン)が監督らしい。私はこっちは見たことがないので、どうでもいいのだけれど。

 見に行ってみたら、結構ツボにはまり、笑いが満載・・・。のような気がしたのに、劇場のお客さんはあまり笑ってなかったので、一人静かに笑っていた。隣の夫も結構笑っていたように思ったけれど。

 アニメの主人公たちの表情とかがとにかく面白いし、ミュージカル仕立てでコミカルな動きが楽しい。

 主人公ビクターがおどおどして慌てる様がやっぱり受ける。それから最初の方の導入部がすごくよくて、これから何が起きるのかとわくわくさせられる。

 何となく英国っぽい雰囲気を感じさせる作品だった。

 ノリが嫌いな人には全く受け付けないかもしれないので、好き嫌いは分かれる作品かな。



2005年11月04日(金) 野ブタ。をプロデュース  白岩玄


白岩玄 河出書房新社 2004

STORY:
自分をクラスの人気者に演出している修二。いじめられっ子の転校生信太を人気者にプロデュースすることにして・・・。

感想:
 今、テレビでドラマ化されているものの原作本。しかし、テレビとは設定も話もかなり違う。こちらはプロデューサーは修二一人。転校生も男子である。

 いじめられっ子の転校生を人気者にしていく過程はなかなか面白い。しかし、この本はそこで終わりではない。その先がこの作者の言いたいことであろう。

 ネタバレになるので、詳しくは書かないが、終わりまでを読んで思ったことは、一度貼られたレッテルをはがすのは相当難しいのか・・・ということである。いじめられっ子を人気者にというのは、いじめられっ子の性格も悪くなかったからだと思うのだが、何とかうまくいった。それができるのであれば、もう一度悪評を払うべく一から人間関係を築けばよいのではと思うのだが、それをせずに主人公が選択した道というのが、現代の高校生を象徴しているのだろうか・・・とちょっと思ってしまった。

 一から演出しなおす方が、失敗して転落したところからもう一度人気を取り戻すよりも、簡単ということなのかなーと・・・。



2005年11月03日(木) 火垂るの墓 (ドラマ)

 ドラマ・コンプレックスの第1弾作品。あの有名なジブリのアニメ『火垂るの墓』の憎たらしい(?)おばさんを主人公にしたという話題のドラマを見た。

 一番泣けたのは、やっぱり最初のシーンかも。どうしてもアニメ版が頭にあるので、最初の死んだ場面もよく覚えており、あのあとちょっとの差でおばさんたちが探しに来ていたのか・・・と感動がこみ上げた。

 しかし、話はあのアニメとは違う。もしかしたら原作に忠実なのかもしれないが、あいにく原作を読んだことがないのでわからない。エピソードなども若干違うのでこれはアニメと別物と考えた方がよいだろう。

 松嶋菜々子が鬼おばを演じているわけだが、やはりこの人の考えること、わからない。演技もよくわからなかった。時代に流されて・・・ということはわからなくはない。でも、やはり納得がいかないことが多かった。また一緒に暮らしていた要潤が演じていた足の悪い義弟も、自分の分を少し分けてやるとか考えられなかったのか・・・と思った。

 いつも思うのは、この兄のまっすぐすぎるところか。海軍大佐の息子として、日本は勝つし、国のために軍人は戦うと信じ込まされ、自分も海軍に入ると思っていたであろう清太は、プライドも高く、おばさんとうまく折り合っていこうというところが足りない。父に「父が出征すればお前が大黒柱だ。母と妹を守れ」と言われる清太。それに対して「自分の命に代えても守ります」と言い切った清太。しかし、母は空襲で死亡し、妹と二人残される。

 おばの家に行くことになったときに、本当に妹を守るつもりならば、おばに頭を下げてでも生き延びることを考えねばならなかっただろう。しかし、プライドや妹につらい思いをさせてはということを重視し、おばの忠告を無視、隣組の活動などにも参加しないため、配給も自分の分が出なくなっている。やっかいものでプライドが高い清太におばの怒りがこみ上げていき、おばの夫が戦死したときにそれが爆発!

 お互いに折れればいいのに、結局そういうことができない二人。周りの人もどうにかしてあげれば、悲劇は避けられたはずなのに、親戚がいながら、何もできなかったのは、どうしてだったのか。

 時代や戦争のせいと言えばそれまでなんだけれど、世の中の処世術みたいなものも考えさせられると思った。

 ただやはり松嶋菜々子のおばさんはどうも理解できなかった。やはりこの考え方はよくわからない。もっと悪い奴なら理解もできる。けれど、そうでもない。そうでもない人がこうなることに恐ろしさを・・・というわりには、そこまで悲壮感や切迫感が漂っているわけでもなくて、ただのいじめみたいな感じにしか見えなかった。何となく自分が嫌いだからご飯をあげないって感じかな。

 何とも言えないのだけれど、見終わったあとで、感動とかはなかった。むなしさというか、やるせない感じだけが残ったような。演出の仕方とか、このおばさんを主人公にしたところに、ちょっと無理があったのかなとも思った。

★原作本は『火垂るの墓』


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