○プラシーヴォ○
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2002年04月29日(月) ゴリ押し

通勤時間がさらに長くなっちゃうから
今日は、自分の家に帰りなさい




何がなんでも私を家へ帰そうとする
ハム男


だけど私は首を縦に振らなかった


「今日も、ハム男の家に泊まるから」


がちゃ子がそうしたいのなら
別にいいけど

ハム男は呆れたように
笑った



とりあえず、
お芝居を見る約束があったので
一旦ハム男の側を離れる


22時頃、電車の中で携帯が鳴った

「ハム男?
 今から帰るからね」


電波が悪くてすぐに切れた


慌ててかけなおして
もう一度同じことを言う



電波が悪いと思っていたけど
一度目の言葉もハム男に聞こえていたらしく


「なんで、何度も同じことを言うの?
 …迎えに来て欲しいの?」


ガツンときた


迎えに行ってあげようか


ではなく


迎えに来て欲しいの?



少し違うだけで
こんなにデリカシーの無い言葉になる


ウウン
ムカエニキテ イラナイヨ



とぼとぼと夜道を歩く


イラナイと言ったからには
拗ねるのを止めよう



部屋に入ると
にこにこ顔のハム男



私も慌てて笑顔をつくる


ビールを飲んで
テレビを見て
笑う


でも、さすがに付き合い出して
2年とちょっと


私の体から出る
張り詰めた空気を感じ取ったらしい



私の目の前ににじり寄って
私のおでこの傷をそっと両手で触ってる

虫に刺されただけの
たあいの無い傷


それが、まるで
何十針も縫った傷のように
ハム男が何度も何度も撫でる


そしてそこにキスをする


唇にも



「…可愛いなあ
 がちゃ子は」


ふと視線を上げると
酔って真っ赤になったタコ…
いえいえハム男の顔



ああ、楽になった


怒るのって疲れる
ハム男、ありがとう


2002年04月24日(水) ぐたぐたぐったり

ゴリさんという漫才師さんとセックスをする夢を見て
息も荒々しく目が覚めた



私…どんな心理状況なのかしら


通勤片道2時間弱は
やはり厳しい


ムダ話が多くて
開店準備になかなか着手しない
経営者にも腹がたつ


分かってる


これは私の選んだ道



だけど

胸がモヤモヤで


つらい


2002年04月21日(日) きゃめら

注文していた

『SMENA8M』というカメラが到着した


トイカメラといわれる部類のものらしく
すべてマニュアル
電池いらず


レンズだけはものごっつい
性能のいいものを使っているらしく
結構人気があるらしい


よく分からないけれど

今日からお前は
私の友達だ


すごくアバウトに回転する
フィルム残数カウンターとか
押した気がしないシャッターとか


どんくさいところが
私にそっくりね


2002年04月20日(土) 遅い歩み

古本屋で買った『GTO』16巻500円を
読みふけるハム男


うがうが〜と噛んだり引っ張ったりして
邪魔をする私


んもう、という顔で笑い、
チュチュ、と私にすばやくキスをして
また本へ視線を戻す


邪魔するのに疲れて
私もテレビを見たり
お茶を飲んだり
またハム男の横に寝そべったり


ハム男は本を読みながら
足や、肘や、体の一部を
必ず私に触れるようにしている


「ん〜」

という声に振り向くと
ハム男がひょっとこのような顔をして
キッスを求めている


にじりよってキスをすると
嬉しそうにまた本を読み出す




これが幸せってやつですかい?



今日は本当に
数え切れなくらいキスをした


この幸せの根本には
「寂しさ」
がしきつめられている


月曜日から私はプー太郎を卒業して
働き出す


少し遠い勤務地だから
ハム男の家からは通えない


必然的に日曜日の夜には
家に帰らなくてはいけなくなる


会う時間が少なくなる


日曜日の夜を過ごせるのが
きっと今日が最後だから



寂しくて寂しくて


キスを繰り返す私たち



平均すると
一ヶ月に10日会えれば万々歳、の私達


2年が過ぎても
まだ付き合って三ヶ月目くらいの気がする


ハム男をあまり知らない
ハム男もきっと私をあまり知らない


何年付き合ったら
私達はうんざりしだすんだろうね


会えなくて寂しい、は
会えて嬉しい、と一緒だね


2002年04月19日(金) こんなん出ました

うう〜む
うう〜む


見えます…


ハム男くんは
「昼ころ電話する」
と言っておきながら、夜の21時ころ電話してきて


「がちゃ子、今どこにいるの?
 自分の家?
 じゃあもう俺の家にこないんだね
 じゃあ今から飲みに行ってくるね」

と、やんわりと飲みに行くことを
がちゃ子のせいにして正当化するでしょう



と、一人でモンモンと考えていると
ハム男から20時ころ電話がかかってきた


やっぱりね


「あ、がちゃ子〜
 今どこにいるの〜?」


やっぱりね


「…ハム男の家じゃないよ
 自分の家にいるよ」


「あ、そうなの?
 じゃあ今から迎えに行くよ〜
 20分くらいで着くからね」


やっぱり…えええええ?!




私が一番して欲しかったこと


驚いた


2002年04月18日(木) 堂々めぐり

明日、泊まりに行ってもいい?


メールを打って20分後、
ハム男から電話が鳴った


「明日は友達と飲みに行くかもしれないから…
 土曜日に迎えに行くよ、ね?」


優しい優しいハム男の声


ハイ、ワカッタワ


私がそう返事すれば
いつもどおりここで電話は終わるはずだった



だけど



缶ビールを2本空けた私の口は
スルリと滑った


「じゃあ、いいよ
 土曜日も、迎えに来てくれなくていい
 今週は、会わなくていい」


「…どうしたの、どうしてそんな…」


「先週だって、飲みに行った次の日
 二日酔いで迎えに来てくれなかったじゃない
 もう、信じられない
 もう、待つのは嫌」


受話器の向こうからハム男の笑い声が聞こえる


「じゃあ、いいよ
 明日は飲みに行かない
 だから、泊まりにおいで」


「嫌…嫌よ
 私のせいで遊ぶ約束をキャンセルしないで
 飲みに行けばいいじゃない
 今週くらい会わなくてもいいじゃない
 私も、遊ぶ予定を立てるから
 放っておいて」


トマリニコイヨ

イヤヨ、ノミニイケバイイジャナイ


笑ってしまうくらい
同じことを繰り返し言い合って


「もう、どうしてそんなに意固地なんだよ
 どうしても飲みにいかなくちゃいけないって
 わけじゃないんだから、俺はいいんだよ」


「私だって、どうしても明日
 ハム男に会わなくちゃいけないわけじゃないんだから
 いいんだってば、ね?」



とにかく、明日の昼、電話するから!


これでオシマイ!
という感じで最後の言葉を投げたハム男


電話を切った後、
私はハアハアと息を荒げる程だった



いつもいつもモンモンとして言えなかったことを
言ってやった



もう信じられない
待つのは嫌



スッキリした〜



2002年04月16日(火) 愛情表現

私がタイに一週間一人旅をしてから
めっきりハム男が優しくなった気がする


いつも、夜が苦手でさっさと寝ようとする私を

「は〜いはい、ネンネ〜ネンネ〜」

と自作の子守唄でさらに寝かせようとするくらいなのに
タイから帰ってきてすぐの時、


「まだ寝ちゃだめ
 ここ、ここ」

と私の頭をグイっと自分の膝に乗せて

「よく帰ってきたね
 おかえり、えらいね
 よしよし、すごいよ、がちゃ子は」

と、内容があるんだか無いんだか
よく分からない言葉をブツブツと呟き続けた


そして私の鼻の頭の皮を
剥いてくれようと必死になったり

くしゃみをする時に手で口を押さえずに
ハム男を唾まみれにしても
文句ひとつ言わずに笑ってくれたり

エッチが終わった後、
ぐいぐいと私の股をティッシュで拭いて

「あ、生理終わったみたいだね」

と教えてくれたり

ハム男からキスをせがんでくるようになったり


うまく言えないのだけれど
私の方へ視線が向いている気がする


2002年04月14日(日) 手抜き

朝10時に迎えに来てもらう約束をしていた

そして朝10時に電話が鳴った


「ごめん、頭が痛い…
 昼から迎えに行くよ」


ハム男の寝起きの声

いいよいいよ
もう今日はいいよ
寝ておきなさい


優しく答えると
ハム男はしばらく黙った後


少し寝てから電話するよ


と言った



私はこの時点で半分あきらめた
昨日、久しぶりに会う友人と
飲みに行く旨を聞いた時から
嫌な予感はしていたのだ


急に一日の予定がぽっかり空いてしまい
しばらく考えて
お寺に行くことにした


関西で有名な
安産のお寺
もちろん水子供養のスペースもある


電車の振動に合わせて
ふと涙が落ちそうになる


二日酔いを我慢するほどでもない
私との約束

私との約束の軽さ

ハム男の中での
私の軽さ



うらうらと揺らめく春の陽射しを受けながら
もうすっかり来慣れたお寺へ足を踏み入れる


水子を供養するお地蔵様のところへ行くと
すでに一組の夫婦が手を合わせていた

そして私の後ろから足早に
もう一人女性が来て
お賽銭を入れ、水をかけようと柄杓を手にする

ところが

柄杓のそばの水が湧き出ているべきところは
カラカラに乾いていた

女性が狼狽して
側にいた連れの男性に訴える


水くらいいいじゃないか


男性はそう言って女性を連れて出る


なんなんだこの寺は
賽銭箱はいたるところにおいてあるくせに
供養するのに必要なものに
手を抜くってどういうこと?


なんとなくモヤモヤしたまま電車に乗る

お寺の最寄駅から帰る途中に
ハム男の家の駅がある


私は怒ってるんだ
ここでハム男の家に行くのは
プライドが許さない


でも

会いたい


…悩んだ末、降りた


おいしいケーキ屋でショートケーキを買って
ハム男の家についた

もう16時だ

部屋に入ると
電気が点いた部屋でハム男がスカスカと
寝息をたてていた


私に気づいて目を覚ますと
なんとも嬉しそうに笑顔を見せる

がちゃ子〜
がちゃ子〜と何度も呼びながら
頭をなでる


ケーキを食べ終わった私を
ベッドに引き寄せ抱きしめる

「迎えにいけなくてごめんな
 頭痛くて…腰痛くて…」

もう私は泣いていた

二日酔いごときで約束を破られるなんて
情けなさ過ぎる


ハム男はただ謝りながら
自分のシャツで私の涙を拭き続ける


「がちゃ子…好きだよ」


分かってるよ


2002年04月12日(金) 慣れ

2年前
付き合いだした当初は
毎日かかってきていた電話

最近では
2日に一回
3日に一回のペース


私からかけることは
滅多にない


これはもうクセづいてしまって
寂しくても自分からかけられなくなってしまった


結婚して15年
一度も「いってらっしゃいのチュウ」
をしたことのない夫婦が
今朝こそするぞ
今朝こそするぞ〜と
意気込むくらいの感覚


私から電話するって
それくらい異常なこと


だから、電話がかかってこなくても
なんとなく平気になってしまった


昔はモンモンとしてたのに




…嘘
嘘だ


ああ、私って意外と平気なんだ
って思った瞬間
左胸のあたりから



カシャン



と音がするのが聞こえる



シャッターを切るような
ゴミ箱の蓋を閉じるような


そんな音


平気でいれるように
普通でいれるように

ハム男からの電話が無い夜でも
泣かずにすごせるように


意識をバッサリ閉じる音


付き合いだして3年目に突入するのに
毎日声が聞きたいのは
おかしいだろうか



毎日顔を会わせていると
飽きそうで怖いくせに

声は
聞きたい


2002年04月10日(水) 道が伸びてく

朝、携帯の着信音で目が覚めた


見たことの無い番号
聞いたことのない相手の声


私が以前、面接のお願いをしておいて

「やっぱり遠いから、やめておきます」

と失礼千万な断り方をした
タイマッサージ店からの電話だった


実はタイから帰ってきてから

「以前お断りさせていただいたのだが
 やはり、もう一度面接を…」

とこれまた失礼千万×100の
メールを送っていたのだ


ここならば、東京や岡山よりは
遠くないし
気合をいれれば家から通えるから


ゼヒキテクダサイ

とのこと


いい加減な人しか集まらなくて
頭を抱えていたところだったと
電話の向こうで店の人は苦笑する

タイに行って一人でマッサージを習ってくるような
熱意のある、がちゃ子さんとぜひ働きたい


ええ ええ
はい じゃあ13時にお伺いします
ええ ええ
それでは失礼します


起きぬけでかすれていた声が
ようやくなおったころ
会話は終了した


ああ…うそみたい
きっとなにか落とし穴があるに違いない

幸せになれていない私
嬉しくて踊る心と
怖くて震える心が同時に…


2002年04月09日(火) 自分には決して起こりえないと思っていた

マッサージの職につきたいけど
地元では求人が少なすぎる


都会では

寮完備
保険完備
初心者オーケー
人員大募集

の店がワンサとある


心臓がバクバクする


遠距離恋愛になるか?

まさか


以前、なんとなく京都で働きたいと
面接を受けまくっていた時でさえ
ハム男は泣きそうだった


俺から離れる気か?と
悲しそうな声で何度も問うた



死ぬまでに一度は住んでみたい土地だし
新幹線でも飛行機でもすぐに会えると言っても


遠い気がする
とても遠い気がする

と、
ハム男は繰り返す


今度は
「気がする」
だけじゃ済まない


物理的にも遠い場所へ


私は行きたい


ハム男を置いて?

行けるのか?


2002年04月07日(日) 無償

よく帰ってきたね
えらいね
俺にはとても真似できないよ


一週間のタイ一人旅を終えた私

ハム男がサラサラと頭をなでながら
いっぱい誉めてくれる


酔っ払っているハム男は
行動が突飛になってきた


おもむろにベッドから降り
サイフを開ける

「ア○ム」
と書かれた明細書が
2〜3枚ひらひらと出てきた


「…借金したの?」

嫌悪感をあらわにする私を見て
ハム男が笑う

「ちがうよ、キャッシュカードとして
使ったんだよ
買い物をしただけだよ」


そして再び私の横に腰を下ろすと

「もしがちゃ子が、どうしてもお金が必要になっても
一人で黙って消費者金融から借りちゃダメだよ
俺に、言いなさい
俺の名義で、俺が借りてあげるから」


あまりにも急な提案に
私はただ目を点にするばかりだった


消費者金融からお金を借りる怖さを知っているハム男


私をそれから守ろうとしているハム男


私はなにから
ハム男を守ってあげられるの?


「俺、がちゃ子といるときだけ
テレビをつけないで寝られるよ

過去に4回ほど金縛りにあってから
すんごい夜が怖かったけど…

がちゃ子がそばにくると
ポワーっと暖かくなってグウグウ寝ちゃうよ」


そう言いながら、ハム男はすでに
目の焦点を合わすのに必死だった


そっか
私は
なんだか見えないものから
ハム男を守ってあげてるんだね


がちゃ子 |偽写bbs

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