短編小説部屋...まどう ゆう

 

 

ポケットから溢れた想い。(振り/ハナタジ) - 2011年02月15日(火)

田島はちょっとお腹が空くと必ず言う言葉がある。

「花井、何か頂戴!!」

「…またかよ」

仕方がないなというスタンスをとって、苦笑を浮かべながらも花井はポケットからいつもアメやクッキー等のお菓子を出して渡してくれる。

「ほら、三橋にもあげろよ?」

「うん、ありがと花井!」

差し出された田島の手にいくつかのお菓子を落とすと花井は決まって三橋と一緒に食べろよと告げる。

それは三橋が結構、食べるのが大好きだという事もあるが、きっとお前だけにあげるんじゃないという意味も含まれているんだと田島は思っていた。


今日は14日バレンタインデー、野球部の部員達は朝練の時から何だかそわそわしていた。

1年しかいない野球部は何かと注目をされていたし、昨年の優勝校の桐青を倒した事もあって人気は上がっていた。

義理チョコであっても貰えるのは嬉しいと思ってしまうのが男心ってものなのだ。


いっぱいチョコレートやプレゼントを貰った田島はそれらを入れる紙袋まで貰ってしまった。

美味しいモノをいっぱい貰えてとても嬉しかったが、田島は何か物足りないと感じていた。


マネジの篠岡や監督の百枝からもチョコを貰った部員達は放課後練習の後に部室で来月の御返しはどうするなんて話をする程に盛り上がっていた。

「それは来月までに考えれば良い事だろう?」

今日は月曜なんだからさっさと着替えて帰れよと主将の花井に言われた部員達はそれぞれ返事をするとバタバタと帰る準備に取りかかる。

「じゃあ、先に行ってるぞ」

着替え終わった者達からコンビニで食料調達する為に声をかけてから部室から出て行く。

「おー、お疲れ!」

花井は着替え終わってはいたが、部誌当番なので机に向いながらそう答えている。

「田島、行くぞ」

泉に声をかけられたが、田島は先に行っててと断ると花井と一緒に部室に残る事にした。

「どうした、田島」

いつもなら腹減った〜と我先にと部室から飛び出して行く田島が残った事を花井は不思議に思っていた。

「ねぇ花井、何か頂戴」

今日、田島がこの言葉を言うのは初めてだった。

バレンタインという事もあって、色々とお菓子とかを貰う機会が多くてお腹を空かさなかったのだ。

「…これやるよ」

いつもみたいに仕方がないって感じではなく、鞄から取り出した板チョコを花井は田島へと差し出した。

「誰かから貰ったヤツ?」

「違うよ」

いつもポケットから出してくれるお菓子もとても嬉しかったのだが、このチョコはいつもと違う意味が隠されている気がして田島は自分の胸がドキドキと高鳴るのを感じていた。

物足りなかったのは花井に今日は何も貰ってなかったからだ。

そう気付いた田島は差し出された板チョコが今日貰ったモノの中で一番なのだと思った。

「ありがと、花井」

御返しは来月の14日に渡すなと田島がニカっと笑うと花井もとても嬉しそうに笑うのだった。


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ハナベバレンタインも終わってませんが、ハナタジもハッピーバレンタイン〜♪

可愛い話になってると嬉しいっすv









...

ハッピーバレンタイン♪1(振り/ハナベ) - 2011年02月11日(金)

こんな事を考える事、事態が自分らしくないとは良く分かってはいた。

だけど渡したいと思ったのは確かで、諦めるという選択肢は初めからなかった。


あの入部前の顔合わせの時の印象はお互いに最悪だったと思う。

花井にとって三橋の引き立て役にされてしまった事や「入んのやめます」宣言の下りは忘れたい出来事だろう。

でも中学での花井のプレイを知っていたオレにとっては入部してくれて、こうやって一緒に野球が出来てとても嬉しかったのだ。

花井にそれを告げた事もなかったし、これからも告げるつもりは全くなかった。

だからこれはただの感謝の気持ちで、1年なのにキャプテンで大変だからいつも有難うって事なんだと誰にも聞かれていないのに阿部は言い訳を考えている。

そう、阿部はバレンタインデーに花井にチョコレートを渡したいと思っていたのだ。

水谷辺りなら「友チョコとか流行っているらしいよ〜」とか言って自然に渡せるかも知れない。

しかし、これが自分となるととてもらしくないと思ってしまう。

だったらバレンタイン前から何気なく花井にチョコを渡したりして、これが日常と変わらないと感じさせてしまえば良いのではないかと阿部は思い付いた。


「…花井、これやるよ」

当番で部室に残って部誌に向っている花井にカロリーメイトを阿部は差し出した。

「お、悪いな」

サンキュと言って花井は受け取ると早速、封を開けてもそもそと食べ始める。

「ん」

もそもそ食べながら花井は袋に残っているもう1本を阿部へと食べるだろうと差し出す。

「オレは良いよ」

「でも阿部だって腹減っているだろ?」

机に置いていたお茶を飲んで花井はにこりと笑う。

こういう気遣いが出来る所も好きなんだよなとふと思ってしまい、阿部は薄らと顔を赤くするのだった。


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ちょっと長くなってしまったので1とさせていただきました。

先が読めちゃいそうですが、次も読んでいただけると嬉しいです。




...

バーテンダー(ハナタジ/未来・プロ田島編) - 2011年02月04日(金)

最近の自分が荒れているのは分かっていた。

故障をしている訳ではないのに、いつもと同じ様にプレイをしているのに結果が出せない。

プロ3年目でまだまだこれからの時期にスランプだなんて言ってられないと我武者らになればなる程、ヒットが打てないでいる。

先輩達はいつも調子が良いヤツなんていない今は偶々そういう時期なんだよと慰めてくれたが、その慰めさえも鬱陶しいと感じてしまっていた。


次の日の練習や試合に響かない様に泥酔するまで飲むなんて事はなかったが、それに近い状態まで飲んでしまった田島は足取りも重く通りかかったバーに入って行った。

そこはとても落ち着いた雰囲気のあるバーで、こんな酷い酔い方をしている自分には不似合いな所だった。

もしかしたら入店を断られるかも知れないと思ったが、バーカウンターに立つバーテンダーはふわりと田島に向って微笑みを浮かべた。

「いらっしゃいませ」

その優しい声に田島はぺこりと頭を下げるとカウンターの席へと座る。

「お客様、何を差し上げましょうか?」

一人でバーに入るのは初めてだったし、カクテルの名前なんて詳しくない田島はそう聞かれて戸惑ってしまう。

ここに入ったのはただ酒を飲みたいという気持ちだけだったのだが、今ではそんな思いがなくなってしまっていた。

それは目の前に立つバーテンダーがとても綺麗な目で自分を見つめてくれているからだった。

「あの、何かオススメなカクテルを…」

バーテンダーから目を離せなくなった田島はそう答えるのが精一杯。

「はい、畏まりました」

にこっと笑ったバーテンダーはシェーカーを取り出し、メジャー・カップで計った材料を次々に注いだ。

そして最後に氷を入れるとシェーカーを胸の前でリズム感良く数回振った。

シェイクが終わったものをグラスへと静かに注いで田島へと差し出してくれた。

「いただきます」

綺麗なグリーン色のカクテルを一口、飲んでみるとふわりとメロン味が口の中へと広がった。

「美味しい…」

ちょっと甘い様な気がしたが、この甘さが自分の荒立っていた気持ちを落ち着かせてくれるみたいに感じた。

「気にいっていただけましたか?」

このカクテルはグリーン・ファンタジーと言いますと優しく笑って教えてくれた。

「お客様にお似合いじゃないかと思いまして、このカクテルにしました」

今夜はこのカクテルで最後にして下さいねとバーテンダーは続けると水を入れて田島へと差し出した。

「はい、そうします」

この人の言う事なら素直に聞けるなと不思議に思いながらも、田島はカクテルの残りを口にする。


このバーに立ち寄ってカクテルを飲んだ次の日から今までのスランプは何処へ行ったのかという程に田島の調子は元に戻った。

彼は自分の救世主だと思った田島がバーの常連になって、どんどんとバーテンダー花井に魅せられていくのは少し先の話…


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『バーテンダー』ドラマ化記念の短編です(笑)

原作はまだ読んだ事はないのですが、前にアニメ化された時に見て好きになった作品です。

今度のドラマも楽しみです〜。


何だかとても長めになってしまいましたが、シリーズ化したら私が楽しい作品かも…(カクテル本とか持ってる程のカクテル好きです)



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