池ポエム
ハンス



 端っこから滑りくる未来

あれだけバーでシュッに憧れてるのに、案外お酒に弱かったりしたら可愛いなぁ、ゆかちん。

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「前方確認!」
「はーい、頭の方持ち上げましたー」
「じゃあ足行きまーす」
「あ、枕これでいいですか?三上さん」
「うん。あとその掛け布団持ってきてー、津田ちゃん」
ふう。今日も我々ごらく部が一人の女性の命を救ってしまったようだな。
じゃなくて。ただ今、3人がかりでごらく部一の高身長を誇るJDを寝かせているところ。やっぱり背が高いと動かすのも大変だから、小さいるみちゃんと大きいみかしーと中ぐらいの津田とで、いろいろ協力した訳です。ああ、力の抜けた人間てこんなに重たいんだなぁ。
「ゆかちん、暑そうだね」
「うちわあるよー」
当のJDことゆかちんは、顔こそ真っ赤だけどなんかうれしそうな表情。悪酔いというよりこれは……単なるお酒に弱い人?
「襟元緩めてあげよっか」
みかしーがテキパキとゆかちんのブラウスのボタンを外していく。あまりの手際の良さに、思わず普段から女の子の服を脱がせ慣れているのかと疑わざるをえない。下の方まで外しすぎてるみちゃんがツッコミ入れて止めてるし。
「ゆかち〜ん、蘇れ〜」
うちわであおぐぐらいじゃ酔いは冷めないと思うけど、とりあえずバシバシあおいでいこう。
「それにしてもさー、まさかゆかちん、お酒弱いなんてねー」
「ていうかさ、なんで誰も弱い方だって予想しなかったんだろ?」
「そうだねー。可能性は2つに1つなのに」
お酒への希望を語るゆかちんが結構自信満々だったからだよなぁ。まぁ、若さゆえの過信というのはよくあるものだよ、うん。かくいう自分も若い頃(今だって若いけど)飲みすぎて店で寝ちゃったり二日酔いがひどすぎて後悔したり、やらかしたもんです。
というかそこの二人。JDを肴に酒盛り再開してるし。いつの間にかテーブルの上の余ったお酒や食べ物がゆかちんを囲むように置かれている。お供え物か!
「ほらほら、津田ちゃんももっと飲んで」
「あ、すいません」
みかしーにぐいぐい氷結を押しつけられる。正直、困惑せざるをえない。みかしーお酒強いからなぁ。
「るみちゃん、三上さんのペースに合わせなくていいよ」
「大丈夫だよ、津田ちゃん。まだ津田ちゃんが1人しかいないから」
「いや、2人以上に見え始めたら早めに教えて。止めるから」
うわあ。すでに結構ハイだ、この人。
「でもちょっと可愛いね、ゆかちん」
「うんうん。ゆかちんの可愛いとこまた1個増えたねぇ」
いつもニコニコ笑顔全開、どんなフリにも屈しない天性のひらめきと強いハートでごらく部のペットとしてがんばるゆかちん。若干20歳とは思えない落ち着き、思慮深さ。一緒にいて、年下だなぁと思うことは、あまりない。でも今目の前で、幸せそうな顔して寝てる姿は年相応というか何というか。まだまだ子供だなぁと思う。
「バーは当分先だね」
「みかゆかカクテル誕生までまだ先が長いなぁ」
「じゃあゆかちんが30才になるまでに行けたらいいね」
「うちらその頃とっくに30半ばだよ」
「その頃になったら……大酒飲み?」
「量がどんどん増えるわけじゃないですから」
「それはみかしーだけだよぉ」

「……いつかいこうね、みんなで」

不確定なはずのごく近い未来。そこへ向けて背中を押すのは、今はまだ寝ているだけの彼女のつぶやき。

2013年06月30日(日)



 くすぐったい

くすぐったいってめんどくさい感覚だ。あれ、何のためにあるのかよくわからない。けがの発見なら痛いで済むし。人一倍くすぐったがりの彼女はある日、口をとがらせてそんなことを言った。
(おやおや、何か不機嫌ですな)
お腹が空いているのかも知れない。最近、くすぐったがりをネタにされる機会が多かったからちょっと本気でぷんぷん丸なのかも。基本、温厚なんだけどね。20歳になってからと言うもの、こうやって二人で彼女の家でのんびりしてる時間が増えた。今日だって、明日授業ないなら泊まっていきなよ、と甘えるようなお姉さんぶってるような、程よく混ざりあった声で言われたので二つ返事でOKしてしまった。二人でのんびりって、前は主に昼間だったのに。
(これが大人ってやつなのかな?)
大人に憧れはするけど、何がどうすると大人なのかは全然知らない。一つだけわかるのは、誰よりもお手本にして憧れている大人である彼女の接し方が少しずつ変わってきてるってこと。こうして、前は隠していた不満を少しだけこぼすようになったのも、その一つ。少しは対等に見てくれているんだろうか。
親からの返信を見ると『三上さんに迷惑かけちゃだめよ』と書いてあった。うれしいけど、ちょっと恥ずかしい。親公認?確かに、ライブ前にお互い挨拶してるから面識はあるけど。
「何かあった?」
頭を拭きながらひょこっと隣に座る。特にぷんぷんはしてなさそうだ。
「ん、お母さんからメール来てた」
「そっかー」
目の前のこの人は、ただの先輩なんかじゃなく、年上の恋人。
(あ、なんかいいね、その響き)
自分で言って自分で興奮する。今はまだ親には言えない秘密。
(これが大人ってこと?)
家族に言えない秘密ができることが、大人。なんとなくそんな気がした。湯上がりでほかほかしている彼女の首筋にそっと手を伸ばす。
「ひゃっ!な、なに、なにするのゆかちん」
「まだなんにもしてないけど…くすぐったいのがいやなんだよね、みかしーは」
「そうだけど」
本当はその白い肌に、柔らかい肌に、触れたい。
(お、これもなんか大人っぽいかも)
「くすぐったいって、警戒してるからなんだって」
これは本当?嘘かも知れないけど、前にネットで見た豆知識。鉄壁のバリアーに侵入されることを激しく嫌う彼女が極度のくすぐったがりなのは、何だか理屈に合う気がして。
「私なら警戒しなくっていいんじゃない?」
今はこの説を積極的に採用している。
「そ、それはそうだけど。ていうか、私ゆかちんのこと警戒なんてしてないよー」
ですよねー。ていうか、これだけ親しくしといて警戒されてたら悲しいっす。だから彼女がくすぐったがるのはそういうことじゃなくて。
「私には慣れていこうよ、みかしー」
いつかくすぐったく感じないで触れ合えるように。彼女は、そっと私の手を取って、黙って自分の両手で包みこんだ。
「…慣れたら、私どうなるの?」
「どうって?」
「ゆかちんに触られたら、くすぐったくないならどう感じるの?」
「?どうなんだろう」
何も感じないっていうのは違う気がする。焦って読み飛ばしたから、結論はよく知らない。彼女の手はとても暖かい。一生懸命がんばって、自分の手を受け入れようとしてくれている。ぎゅっと目をつぶって、彼女は自分の手をそうっと心臓の上に導いた。
(え…心臓の上って、それって)
「ど、どう、かな?ゆかちん」
(む、え?みかしー、大胆すぎるよ!?)
ぎゅうっと。確かな厚みが手に押しつけられる。着替えの時に某T氏の胸が柔らかそうだなって思ったけど、人間やっぱり見た目じゃわからない。
「あ、あの、すごくうれしいんだけど私」
「ぜったい指動かさないでね!今なら、この状態なら大丈夫だから!」
「ええええ!逆に拷問だよ」
くすぐるという動作を考えてみると、確かに指が動いている。ただ手をくっつけているだけなら、くすぐったさに襲われない。ちなみに、その夜はそれ以上特に何もなく。煽られるだけ煽られて行き場をなくした情熱を持て余して、いつも以上に眠れなかった。
聞こえてくるのはいつものように、寝言と寝息だけ。
(大人って…大人って)
手に残った柔らかな感触だけが、大人への扉の道しるべ?導き手は彼女の謎の気分次第?少しだけ頭を抱えたくなる。まだ、先は長い。しかもたどり着く先がちゃんとした大人なのかは、甚だ不安。
(ちゃんと私を大人にしてよ…みかしー)
仲間に言えばきっと、頼む相手間違ってるってツッコミ入れられそう。

2013年06月26日(水)



 卵とにわとり

「ゆかちんが見たら怒るだろうなー」
「怒るっていうか、ショック受ける?」
「あぁ〜。顔がね」
「そ、顔がね、きっと『こんなん』になると思う」
『こんなん』な表情を作りながらも、食べる手は止めない。るみさん、さすがです。ていうか、やっぱりるみちゃん、ベースはSだよね。ほら、人間、優れたSである人は優れたMでもあるっていう、上手い人はどっちも上手いみたいな話。
「そっかなー」
「どっちがいいの?」
「え?何、今度は津田ちゃんが聞くんだ?」
「だってあたしが尋問されてばっかなのも、不公平じゃない?」
「そう?あたし津田ちゃんになら尋問されたい。拷問は・・・ちょっと厳しいかも」
「しませんよ、てか尋問もしないから。るみちゃんじゃないんだから」
「え〜、あたしだって津田ちゃん以外に尋問なんてしないもん」
「あたしにもしないでください」
「またまた〜」
「最近、ほんとゆずこ分が増えてきてるよね」
「どうする?これが地になっちゃったら」
「役に乗っ取られるのも役者としては本望なのかなぁ」
「・・・」
「干しバウム、食べきっちゃいそうだね。後でおんなじの買い直そっか」
「・・・あ、うん」
干しバウムって、本来ふかふかのふわふわであるはずのバウムクーヘンが哀れにも干からびているという奇妙な一品。その見た目に反して、すごくおいしい。グミみたいな、干し芋みたいな絶妙な食感がたまらない。たまらないので、本来ゆかちんにあげる用だった物を二人で食べ尽してしまったわけで。
「・・・何か考えてる?」
「え?」
「るみちゃんがゆずこでもちなつちゃんでも、あたしはどっちでもいいよ」
SでもMでもどっちでもいいのと同じで。
「他の別の役でもいいし、何の役でもないるみちゃんがあたしの知らないどこかにいたとしても、それでもいい」
私たちは仕事を通じて知り合った。子供の頃や学生時代からの友達ではないし、恋人?っていうかどうかもよくわかんない。だから仕事の時の気持ちがはみ出てるような形で、相手に特別な気持ちを抱いているのかもしれない。でもそれって、そういう仕事だから。自分じゃない人や者の気持ちを、自分のことみたいに考えてみる。それが自分の気持ちか、役としての気持ちか、明確に分けることはできないんじゃないかな。
人に寄るかもしれないけど。少なくとも、るみちゃんはなんか特別。
「ゆかちん、もしかしてこれ知ってるかもね」
「あ〜そうかも。世界中のバウムを味わってるだろうから」
「ね。ドイツ行ってるぐらいだもん、これ蒲田だよ?」
「蒲田・・・ドイツより全然近い」
「もっと珍しいもの探してこよっか?」
「そうだね」
20歳を迎えたバウムマイスターのために、次の収録の時に珍しいバウムを渡して驚かせたい。そうそう、そんな趣旨だった。でもなぁ、20歳になったゆかちんは、今までと変わらずバウムを最上の物として愛せるだろうか。もっとおいしい物を知っちゃったら、それはそれで悲しい。ゆかちんが大人になっちゃった、とみかしー辺りは泣くだろう。
「お酒おいしいって言い出したりとか?」
「じゃあもうバウムって呼べないじゃん」
「JDバウムあらためJD酒」
「それあかんやつや」
「うん、ダメな感じするわ」
「・・・津田ちゃんが結衣先輩じゃなくなったとしても」
「え?」
「変わらないことってないじゃん、私たちだって。ゆかちんほどじゃないけど、まだ若いし。これから成長してったり、退化?してったりするし」
「退化はしないんじゃないかな」
「でも、私は結衣先輩より」
「うん」
「唯ちゃんより」
「うん?」
「津田ちゃんが好き、かも・・・」
「え」
「ほ、本体の方がね」
「それは、眉毛じゃなくて?あたしの顔見て言ってる?」
「言ってる、今日はちゃんと顔見てる。死ぬほど恥ずかしいけど」
「あたしも死ぬほど恥ずかしいです」

これは誰の気持ちなんだろう。
仮初めの言葉に色をつけて、己の声で口にする時。その時、他人事は濃い意識となって、吐き出した分だけ体に入っていく。吸い込んだ気持ちは、元々自分だと思っていた部分を勝手に染めていく。もう、前の状態には戻れない。

(今度、聞いてみよう)
先輩とか、後輩に。みかしー・・・でいいか、まずは。

2013年06月13日(木)
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