池ポエム
ハンス



 供食のススメ

食べ物を共有する人たちは、仲間。



ある日突然、スタッフさんの一人に言われた。
「みなさん、シェアしてもらっていいって公式さん(仮称)に言われたんですけど・・・」
最近この現場に入ったらしい、まだあまり話したことのないスタッフさんが不安そうに言う。なんだろう、なんかおかしいところでもあったんだろうか。
「え?全然いいですよ」
スタッフさんの手元には、水が二本。私たちの人数は、四人。でも移動中だけなら二人で一本あれば十分じゃないかな。ごく自然にそう思っていたのだけど。
「いいんですか?」
「はい。いつもそうだし」
なるほど、とかほうほう、とかつぶやきながら水を渡してくれる。それを持ってみんなのところへ戻る。一本をみかしーに渡して、と。パキッと音を立ててふたを開け、軽く一口飲む。飲みながらみかしーを観察すると、磁石に引き寄せられるようにゆかちんが現れた。二人とものどは乾いていないのか、水はみかしーのいろいろ入ってるかばんに放り込んで向こうへ行ってしまった。
「津田ちゃーん」
「あ」
るみ来た。なんかしら日常会話を交わして、さて移動でもするかと思った・・・その時。
「・・・水」
「ん?ん」
さっきまで持っていた水が、いつのまにかるみの手に渡っている。渡っているだけならいざ知らず、るみはすでにふたを開けて一口飲んでいた。なんか意識なかったなぁ。無意識のうちにるみが来ると水渡しちゃってるんだ。そんでもってるみはそれ飲んでるんだ。
と、思ったら水がほしいと思ったらしくるみがこっちに渡してくれた。違うと言う必要もないのでついつい口に含む。
「あれ?」
「どしたの?」
これ、回し飲みだ。まだ会ってから数分しか経ってないのに、一つの水があっちいったりこっちいったり。
「う〜ん」
ついペットボトルを持ってじっと見つめてしまった。スタッフさんが不安そうだったのは、そういうことか。回し飲みって、学生時代のノリだよなぁ。今まで何の違和感も感じてなかったけど。
「水、いつもと違う?」
「あ、ううん。そうじゃなくて」
るみはどうなんだろう。
「うちらってさ」
「うん」
「回し飲みとかよくするよね」
「回し飲み!懐かしいね、その響き」
「あはは。学生っぽいよね」
「なに?津田ちゃんあんまりダメな方?そうでもないよね」
「あー、私は全然気にしない・・・るみは?」
「う〜ん・・・全然知らない人とかはダメだけど、なんていうかさー、仲間?みたいな感じになっちゃえば平気」
「仲間!いいねぇ、少年漫画っぽい」
「ほんとだー、ちょっと自分で言ってて恥ずかしかった」
なんて言って、るみはちょっとだけ照れてばたばたした。そうかあ。仲間。仲間。何度か心の中でくり返して、それから今日も頑張ろうって思った。



こんにちは、スタッフAです。入社2年目、最近とある現場に入るようになりました。
今はキャストさんたちの食事に同行しています。目の前で、あの方々が食事を取っているのですが・・・。
「あ!津田ちゃん」
「・・・るみ、またぁ?」
「お願い!津田ちゃんの好きなのも一つあげるから」
「も〜、しょうがないなぁ」
ちなみに、このやりとりは3回目です。何度かご一緒してわかったのですが、一回の食事に5回まで嫌いなものを食べてあげる券が使用できるそうなのです。てか、食べられないもの多すぎるだろって話なのですが。
男らしく好きなものも嫌いなものもどんどん食べていく津田さん。お二人の体力差の原因はこの辺にあるんだろうな。
と、思ったら反対側の二人組にも異変が。大坪さんがものすごいさりげなく三上さんの様子を伺っています。
「津田ちゃん、私も私も!」
「三上さんは自分で食べてください」
「えー!なんでそんな冷たいのー」
津田さんにすげなくされて騒ぐ三上さんはさっぱり大坪さんの視線に気付いていない模様。その隙に大坪さんの箸がそっと動いて、トマトを三上さんの食事の方にトス。
「るみちゃん、それちょっとちょうだい?」
「三上さんは自分の分食べてください」
「ちょっとぉー、二人してひどいよー!」
憤慨しながら、三上さんはそのトマトを自分の口にイン。で、大坪さんはというと、一部始終を見ていた私の視線に気付いて、唇に人差し指を当てて、いたずらっぽく笑ったのでした。
これが同じ作品を作る仲間の絆ってやつなんでしょうか?経験した現場が数えるほどしかない私にはよくわかりませんが・・・家族みたいな雰囲気の、四人です。



あー、なんか眠くなってきたなぁ。ゆかちん、やっぱりUNO強いなぁ。そろそろ寝たいけどみかしーより早く部屋戻ったら次のラジオでネタにされそう・・・気合い入れてもう少し頑張るか。
と、思ってたんだけど。気がついたら、自分以外の三人の話し声で意識を取り戻した。
(あ・・・寝ちゃってた)
どれくらい寝てたかわからないけど、三人は起こすこともなくそっとしといてくれたみたい。目を開けてみんなに何か言わなきゃ、と思ったけど、なんとなく耳に入った言葉に不穏なものを感じてそのまま寝たふりすることにした。だって、こんなですよ。
「ねぇ、誰からする?」
(する?何を?ていうか、されるの私?)
「ここは年上の私から」
「みかしーはいつもみたいにトリをお願いしまーす」
「トリ!?こういう時のトリって全然おいしくないよー」
「じゃあ、年下の私がみんなのために味見・・・毒味する!」
「今先に本音が出たー!」
「ちっ」
「黒いー、今時のJD黒いよー」
「じゃあジャンケンしよ!平等に、ジャンケン」
(さすがるみナイス仲裁・・・って、止めて!先に止めてよ!)
「勝った人が最初ね」
「ねぇ、好きな順番選べることにしない?」
「いいけど、それなんか意味あるの?」
「あるよー」
「あ、わかった!」
「ゆかちんわかっちゃったの?これだから最近のJDは」
「いやー、もうなんたって今年20になりますから。大坪は大人ですよー」
「え、え、え?二人だけでずるいよー。おとな4才の私にも教えてー」
「さんじょうさんにはまだ早いかなー」
「そんなぁー。私みんなより一番大人なのにー」
(??私も意味わかんないんだけど・・・)
「さいしょはばうむー!じゃんけんほい!」
(あ、バウムでやるんだ。なんで?)
「やったー!」
「ええええええ!」
「ふっ、計算どおり」
(なんか悲喜こもごもあるみたいだけど、本当に私何されるの?)
「じゃあ一番、三上いきまーす」
(みかしー、多分一番負けたんだな)
そうこうしているうちに、みかしーが近づいてくる。よく考えたらさっさと起きればよかったんだけど、楽しそうな雰囲気につい飲まれてしまったらしい。ぎゅううっと。とっても力強くみかしーは寝てる(ふりの)私を抱きしめてくださった。
ってか、何すんの。人が寝てると思って。
(ひゃっ)
寝てるという設定を忘れて声が出そうになる。あー、焦った。みかしーが急に手をなで回すから。UNOを持っていた手が机の上に投げ出されていて、触るのにちょうどいいみたい。
「はいしゅーりょー」
「ええー、短いよー」
「それ以上触ったら津田ちゃん起きちゃうよ」
(もう起きてるんだけどね)
「じゃーん!」
「お、定番」
「やっぱ寝てる人にはこれやらなきゃね」
「それ、油性?」
「そこまで鬼じゃないよー。明日メイクする時津田ちゃん怒られちゃうし」
(あ、これはもうアレだ。なんというか、ゆかちんらしい)
「まずはー、額に肉かなー」
「津田ちゃんの場合はカルパッチョじゃない?」
「じゃあ、額にカルパッチョ・・・っと」
(字数多いわ!じゃなくて、マジで書くの!?うわ、うわー!!)
「ついでに『瑠美命』って書いてくれる?」
「じゃあ『由佳命』って書いとくね」
「あ、『枝織命』も!」
(多っ!全然一本に絞れてない。とんだ浮気者だよ)
「『”技”織命』っと」
「字がちがーう!」
(もう・・・人の体だと思って・・・もう)
「じゃあ最後私ねー。私は、津田ちゃん起こしまーす」
「やっぱりー。るみちゃんそれ狙ってるんだろうなーって思った」
「ゆかちん譲ってくれたの?」
「うん。その役目はるみちゃんだよ」
「ありがと」
(え?なんかいい話になってる?)
「よーし、全力フルコースで起こすぞー!」
(やっぱよくない!怖い、すっごい怖い!)
肩とかばっきばきにされるんじゃないだろうか。ちなつちゃんばりのハードな力具合で。あまりに恐ろしい想像に、寝ている設定を忘れて体に力が入ってしまう。
よし、もう起きよう、ここで起きなきゃ我が身がやばい。
そう思った時、ふわっと柔らかい感触と、一番気持ちが安らぐ好きな匂いに顔を包まれる。
(え、あ、え?)
起きるタイミングを逃して、体の力が抜けていく。細い華奢な指が髪を通って、耳元にくすぐったい感覚が走る。
「津田ちゃん、起きて」
(〜〜〜〜〜〜〜!!)
語尾にハートマークが50個ぐらいつく感じの、ささやき。




「・・・ひどいよ、るみ」
「みんなじゃなくて私限定!?」
「みんなが見てる前であんなことしなくっても」
「狸寝入りしてる津田ちゃんも悪い」
UNOが終わって日も暮れて。二人の相部屋に戻って、早速若干揉めております。原因は、もちろんさっきのアレ。あの、人前で、寝てる人を誘惑するって罪だと思う。
顔の落書きを落としていよいよ本格的に寝ようって時に。人の気も知らないで。なんで私がこんなに怒ってるかわからないんだろうな。
「津田ちゃんは知らないんだ」
「何を?」
「原始の世界の掟」
「原始?」
また訳のわかんないことを。うちら平成の世を生きてる身だってば。
「獲物はみんなで山分けするんだよ」
「ほっほー、つまり私は獲物だと」
「そゆこと」
得意げに胸を張るるみはすでにTシャツに着替えていた。獲物。獲物ね。と、言いつつ私が今どこを見ているのかは推して知るべし。るみこそ、そんな細い手足でのんびりしてていいのかな。
どっちか獲物かなんて、すぐに逆転するのに。

「津田ちゃん?」
「るみ、鹿とライオン、どっちがどっちの獲物か知ってる?」

2013年01月26日(土)



 あらゆる状況を想定してるみかしーを隠蔽するるみかしー

ふと窓に外を見ると、薄曇りの空。冬は曇りの日が多い気がする。その分厚いネズミ色の雲から白い雪が降るのも時間の問題だろう。西も東とおんなじくらい寒いね、と隣で彼女は言った。白い息を吐きながら。頬を赤くして、でもなぜか嬉しそうに。そんな顔を独り占めしている。いつもは四分の一で、そうでなくてもこの人を慕う人は山のようにいて、正直ライバルが多いとかそんなレベルじゃないのだから。

(あの時、楽しかったな・・・)

まだ一週間も経っていないのに。あれから数回会ってはいたけど、じっくり話す時間はとれていなかった。携帯を確認する。メールはない。無理言って作った時間に、こうして人の少ない店で待ち合わせをしているのは、話しておきたいことがあるからだ。次の、いろんなことをしゃべる仕事の前にどうしても。 ほらあの人天然じゃないですか、だから意識していてもうっかり何言うかわからないし、中途半端に口を滑らせてフォローしようとして余計意味深になったりしたら大変じゃないですか。

(ありとあらゆるパターンを想定して・・・)

昨日、一人でシミュレーションしてたら少し胃に負担がかかった。ので、半分は責任とってもらうことにしたのだ。ほら、こういうのってどっちかだけが悪いってことはないってよく言うし。正直、あの時は超テンパった。あたし悪くないもん、て都合のいいつぶやきを10回ぐらい脳内でくり返して、その後ふと隣にいる彼女が幸せそうな顔しているのが目に入って、やっとちょっと落ち着いて服を着た。ああいうのやばい。ここ2年ぐらいで一番心臓さんが働いてたかも。あ、服着てからも、起きたら何て言おうか超悩んだんだっけ、だってまだ肌色部分が多い愛する人に向かってですよ、何て言ったら気が利いてるかな〜なんて、まだ若輩者には難しすぎるというか何と言うか。

(でもアレはないわ・・・我ながらサムすぎる)

『モーニン、ハニー。昨日はかわいかったよ(どやっ)』

「るみちゃん、遅れてごめんね」
「あ、全然いいよ、ハニー」
「ハニー?」
「あ、ちがっ、なんでもないの!今の間違い!聞き流してみかしー!!」

いつの間にか、わかりにくい半地下のこの店の、完全に死角になっている間仕切りのあるこの席にたどり着いていた彼女。ほんとに最近、キャラ同様存在感なくなってる?

「そりゃあラジオでハニー扱いされてるけどさぁ、でもるみちゃんなら全然いいよ。むしろるみちゃんのハニーになりたい」
「ちょっ、みかしー!!」
「 今日外寒いねー。私も紅茶にしよっかなー」
「あ、あのねみかしー」
「?」
「違うの、こないだのね、『アレ』は、ミスチョイスっていうか、そんなつもりじゃなくてね、気持ちは真剣だったんだけど、なんか恥ずかしくなっちゃって!」
「こないだ?」

焦って声が大きくなる。彼女は反対側に素早く座り、マフラーを外しながら話を聞く態勢。でもついでに視線がケーキセットと言う文字を捉えている。こんな時まで食いしん坊キャラを忘れないというより、それが素なんだけど。 ああもう、こっちがこんなに静かな店の雰囲気を掻き乱して焦ってるって言うのに、どこまでもマイペースな。

「あ、そっか。私がハニーならるみちゃんのこともハニーって呼ばなきゃね」
「え?!」
「大丈夫、ちゃんと2人だけの秘密にするから」
「ええええ!?」

なんか指絡めてきてるし。気持ちの切り替え早っ!

「てかさー、片方ハニーだったらもう片方はダーリンじゃない?」
「でも私たち2人とも女子だよ?」
「じゃあ結婚したら両方お嫁さん?」
「あっ、いいね〜それ!お揃いのドレス着ようよ!!」
「いいよーって、そうじゃなくて!」
「?」
「話が未来に行き過ぎてるから!」
「えっと、じゃあ現在の話しよっか」

そこまでおおいに脱線して、ようやく一息ついたらしい。これ以上ないくらいベストなタイミングで店員さんが紅茶を運んでくる。これ、いつ割って入ろうか気を遣わせてしまったパターンだ。後でお店に一言謝っとこう。

「は〜、あったかい」

幸せそうに両手でカップを包む。小さなことに心から嬉しそうなその表情が、大好きなんだってつくづく思う。

「収録の前にみかしーとちゃんと話しときたいと思って。ごめんね、無理言って」
「いいよ。私も、話したかったし」

今度は彼女からではない。それとなく空いた手をお互いが伸ばした。



『もう〜、朝からイケメンキャラはきついよ〜』
『みっ!』
『み?』
『みかしー、とりあえず、服、着て』
『ふく〜ぅ?』
『あの、目のやり場に困るから』



「あの時すごいびっくりした〜」
「うん、みかしーちょっと故郷の言葉になっちゃってたもんね」
「るみちゃんだってホテルの服着ればよかったのに、獅子舞着て帰ったもんね、部屋に」
「そうそう。あたしも超テンパってたもん。よく考えたら、朝起きたら隣に獅子舞がいるってシュールだよね」
「ほんとだねー。津田ちゃんがいたら突っ込んでくれたのになー」
「ネタとしてはおもしろいけどさー」
「どうする?」
「う〜ん。あたし的には、まるっと封印が一番安全かなー」
「そうだね・・・じゃあ話題が出た時用の話考えとこっか?」
「2人で夜中まで、話してたことにする?」
「そっかー、私ツイッターにるみちゃん来たこと書いたから」
「そうそう」
「一緒に寝たことは言ってもいいかな?」
「それ絶対ゆかちんに突っ込まれるよ〜」
「寝息とか?」
「じゃあまぁ、獅子舞と一緒に寝て、寝息はあたしもさっさと寝ちゃったからあんまりわかんなかったってことで」
「うん。決まりだね」
「実際、みかしーの寝息そんなに気にならなかったけどね」
「ほんと!?よかったぁ」
「だって・・・もっと別のことが気になるじゃん、あの状況なら」
「る、るみちゃん・・・こんな明るいところでそんな」
「や、違うってば。そうじゃなくて、あーもう、なんかみかしーとそういうの想定してなかったから焦るー」
「・・・私も。るみちゃんのこと好きだけど、ここまで仲良くできるなんて思ってなかった」

この店が間接照明でよかった。
柔らかく茶色い光が2人を覆い隠す。あと少ししか時間がない。最後に、もう一度いちゃちゃして別れてもいいかな。そんなことを思いつつも、間仕切りの向こうにめっちゃ店員さんの気配を感じる。
この人、さりげなくケーキセット頼んでるんだもん。

「時間ないから、包んでもらおっかな」
「・・・うん、そうしなよ」

年が明けたら、またゆっくり会おう。そうしたら、もう少しだけ・・・。

2013年01月19日(土)
初日 最新 目次 MAIL HOME