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■ 飴と鞭
生徒会室を漁っていたら(立派な情報収集です)、何やら鍵のかかった引き出しを発見した。 「む」 二、三度力ずくで引っ張っても、頑なにガシャガシャ言うだけ。怪しい。いまいちセットが決まらなくて変な方向にハネたままのアンテナ(アホ毛)もそう告げている。 部屋の反対方面を調査中の紗枝に合図を送る。 「おい」 大切なものなら鍵くらいかけてしまっておくはずだ。もっと大切なら、こんな風に漁られても仕方ない場所に置いておくはずがない。そう思って、時々は生徒会室を家宅捜索することにしている。そのおかげで見つかった極秘情報も、少なからずあった。 「少なくとも紅愛よりは情報通だよな」 「それはそうでしょ。で、何か見つかった?」 紗枝が傍らにしゃがみこむ。 「あぁ。ここ、開けてくれ」 ひつぎが普段使っている机とは別に、事務机がもう一組あった。その、下から2番目の引き出し。一番下や一番上ではなく、2番目(上から数えると3番目)というところが怪しい。 「閉まってる引き出しがあった、じゃなくて“開けてくれ”なのね」 色々すっ飛ばしすぎじゃないか、と紗枝のため息混じりの声がそう言っている。 「いちいち言わなくたって、最終的にはそうなるだろ」 「それはそうだけど」 「お前に開けられない鍵はない。自信持っていけ」 「自信持っていいのかしら、そういうことに」 普段から人の部屋に勝手に不法侵入してその腕を披露しまくってる癖に、なぜか不服そうなところがよくわからない。その割りに、ためらいなく鍵を掴むと細い針金を駆使してたやすく開けてしまった。 「よし」 一気に引き出しを開ける。思ったより軽く、ほとんど空かと思うほど手ごたえがない。鍵はかかってるのに中身は空、というひつぎがやりそうなくだらない冗談にハマったかも知れない。 手を突っ込んでも、特に触れるものはない。 「ンだよ〜……」 膨らんだ期待が萎んで、力が抜ける。今日は収穫なし、か。 「あ、玲よく見て」 「あ?」 紗枝が自らの手を引きだしに突っ込んで、何かを掴む。二人分の腕が入って、窮屈になった。 「いてっ!」 「ほら、これ」 スチールの鋭いところに手が引っかかって、少し擦りむいた。 「なんだこりゃ」 つまみあげた先には、茶色く細長いものがぶらりと垂れ下がっている。それが何かはわかっている。原始的で、使い勝手は自由自在な。 「紐、ね」 「まぁ、紐っつーか縄だよなぁ」 細めで、少し毛羽立っていて、それでいて切れたりしなさそうな。事務用品と見なせば、引き出しからこれが出てくるのは不思議ではない。 せっかく見つけたけれど、貴重品には程遠いようだ。 「あーあ、無駄足だったか」 「そろそろ、ここ以外の場所も探さなきゃダメかもね」 生徒会室から半歩廊下へ踏み出したところで、発見した紐を手に持ったままだったことに気づいた。 「返してきたら?」 「いや、ちょうど雑誌くくりたかったから、もらってく」 「あ、じゃあついでに私も捨てたい雑誌あるんだけど」 「いいぜ。部屋の前に置いといてくれ」 使ってなかった引き出しから紐を一本持ち出したところで、バレることもないだろう。そんな気軽な気持ちで廊下を進む。もしバレたとしても紐一本。血相変えて犯人探しをすることもない。 「あ、静久」 「よう、宮本」 この方向だと間違いなく生徒会室に向かう途中だろう。あと一歩遅かったら、漁っている最中に発見されるところだった。二人、目も合わさずに同時に胸を撫で下ろす。 「早いですね」 適当に挨拶を交わして、すれ違う。それだけのはずだった。 玲が上げた右手に握られていた、紐。それを目に留めた瞬間。 「!」 何か、気配が変わった。 剣待生たるもの、殺気というか相手の気の持ちようは対峙していれば何となくわかる。まったく友好的だった静久から、何か張り詰めたものを感じる。 「あの、神門さん」 声と同時に、手が伸びる。紐に向かって。 「あ、な、なんだよ」 「その、それは……」 明らかに紐を狙っているのに、はっきり口にすることを避けている。 複雑な静久の態度を、とりあえずその場は力押しで退けることにした。もしかしたら、この紐は何かとても重要な秘密の一旦を担っている可能性がある。
アレは、アレに似ていた。 廊下ですれ違った玲が握っていた、紐。見間違うはずはない。どれだけ月日が流れても、あの紐はアレでしかないのだ。慌てて生徒会室に駆け込んで、使われていない事務机の、下から2番目の引き出しを開ける。鍵はちゃんとかかっていた。でも……。 「やっぱり……でもどうやって?」 紐がなくなっている。いくら手を突っ込んでも、冷たい感触がするばかり。がっくりと膝をつく。 「どうしたの?静久」 数分遅れで静久を追っていたこの部屋の主が、後ろからそっと声をかけた。 「あ……ひつぎさん」 「そこには、アレしか入っていなかったはずだけど?」 鍵付きの引き出しに、厳重にしまってあったはずの茶色い荷紐。それで縛るものはただ一つと決められていた。 「それが、どうやら紛失したみたいです」 「そう……」 大事なものがなくなったというのに、報告を受けたひつぎは安堵しているように見えた。 「ひつぎさん、今ちょっと安心しませんでした?」 「ふふ。わたくしにとっては、愛しくもあり憎くもあるものだから、当然よ」 その紐は、紐でありながら固有の名前も持っていた。 「なくなってみると、ありがたみがわかるんですよ。ああいうものは」 「それなら、今後は静久は何でわたくしを縛りつけるつもりかしら?」 その名も、おしおき紐。 主な使いみちは、悪さをしたひつぎをしばらく固定しておくこと。 「今後は……今後は」 「物理的な束縛でない方がわたくしとしては嬉しいのだけど」 「?」 紐は数日後、二代目が登場したらしい。
2008年01月02日(水)
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