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■ ご近所生活
自室前の廊下にひょいっと顔を出してみたら、ちょうどいいところに紗枝がいた。洗濯物の途中なのか、手にタオルやシーツの類をたくさん抱えて立っている。ちょっと気の毒に思ったが、紗枝の目的地はすぐそこだから、構わないだろう。 「紗枝」 驚かさないように、遠くから片手を上げて声をかける。バランスを崩さないように慎重に紗枝が振り返った。結び目の位置が、休日モードだ。 (今はオフ中な訳ね、気分的に) 極めてプライベートな心境の紗枝は、学園内で会うよりとっつきやすく感じる。ただ肩の力が抜けているというより、少しばかり浮かれ気味なのだ。紗枝から感じる、ほのぼのオーラというか、幸せオーラというか。そういうものを正面から浴びるのにも、紅愛は慣れっこになっていた。 「はい、これ」 向こう三軒両隣り、ではないが24時間顔突き合せる共同生活。同じフロアの人間同士、意志の疎通やちょっとした交流があった方がいい。誰が言い出したか知らないが(多分あの人に決まってるけど)、回覧板なるものがここには存在している。 まぁ、回せって言うなら大人しくそれぐらいはしておこう。 「ごめん、手塞がってるから乗せてくれる?」 抱えている洗濯物の山のてっぺんに、ポンと置いた。 「大丈夫?半分持つわよ」 「あら、どういう風吹き回し?」 「あのね……人聞き悪いこと言わないでよ」 紗枝がこれから帰る先が自分の部屋ではないのなら、助けも必要ないけど。案の定、紗枝は顎で行き先を指した。 「じゃあそこのドア、開けてくれる?」 白服ばかりが集まっている寮のある一角。そこで、ストイックながらも奥さんまかせな生活を送っている住民が一人いた。ドアを開けると、紗枝が中へ入っていく。 「鍵すらかかってないのね」 「玲、よくかけ忘れるのよ」 続いて何となく入ると、泥棒に入られても被害は大したことさそうな、シンプルな部屋が広がっていた。 テキパキと決められた場所に洗濯物をしまっていく。うっかり下着のしまってある箇所を目撃してしまったけど、見なかったことにしよう。 「いつも紗枝がここまでしてやってるわけ?」 デキた奥さんもいいとこだ。 「うーん、ちょうど玲も洗濯溜まってるって言ってたから。ついでよ、ついで」 今日は出血大サービスだから、と。その割には、完璧にしまうところを把握しているが。夫婦に絡むとろくなことがないので、突っ込むのはやめる。 「紅愛だってよくみのりの部屋掃除してるじゃない」 「アレは……あの子、お菓子食べた後散らかすから時々まとめてゴミ袋に入れてるだけよ」 「紅愛って意外と優しいのね」 「紗枝が私のことどう思ってるか、今日はよーくわかったわ」 お互い、刃友に随分甘いらしいってことも。 その後、トレーニングを終えて帰ってきた玲は、自分の部屋でくつろいでいる他人二人を見て、変な顔をしつつも何も言わずに黙って後ろを通り過ぎていった。
2007年08月25日(土)
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