池ポエム
ハンス



 ご近所生活

 自室前の廊下にひょいっと顔を出してみたら、ちょうどいいところに紗枝がいた。洗濯物の途中なのか、手にタオルやシーツの類をたくさん抱えて立っている。ちょっと気の毒に思ったが、紗枝の目的地はすぐそこだから、構わないだろう。
 「紗枝」
 驚かさないように、遠くから片手を上げて声をかける。バランスを崩さないように慎重に紗枝が振り返った。結び目の位置が、休日モードだ。
 (今はオフ中な訳ね、気分的に)
 極めてプライベートな心境の紗枝は、学園内で会うよりとっつきやすく感じる。ただ肩の力が抜けているというより、少しばかり浮かれ気味なのだ。紗枝から感じる、ほのぼのオーラというか、幸せオーラというか。そういうものを正面から浴びるのにも、紅愛は慣れっこになっていた。
 「はい、これ」
 向こう三軒両隣り、ではないが24時間顔突き合せる共同生活。同じフロアの人間同士、意志の疎通やちょっとした交流があった方がいい。誰が言い出したか知らないが(多分あの人に決まってるけど)、回覧板なるものがここには存在している。
 まぁ、回せって言うなら大人しくそれぐらいはしておこう。
 「ごめん、手塞がってるから乗せてくれる?」
 抱えている洗濯物の山のてっぺんに、ポンと置いた。
 「大丈夫?半分持つわよ」
 「あら、どういう風吹き回し?」
 「あのね……人聞き悪いこと言わないでよ」
 紗枝がこれから帰る先が自分の部屋ではないのなら、助けも必要ないけど。案の定、紗枝は顎で行き先を指した。
 「じゃあそこのドア、開けてくれる?」
 白服ばかりが集まっている寮のある一角。そこで、ストイックながらも奥さんまかせな生活を送っている住民が一人いた。ドアを開けると、紗枝が中へ入っていく。
 「鍵すらかかってないのね」
 「玲、よくかけ忘れるのよ」
 続いて何となく入ると、泥棒に入られても被害は大したことさそうな、シンプルな部屋が広がっていた。
 テキパキと決められた場所に洗濯物をしまっていく。うっかり下着のしまってある箇所を目撃してしまったけど、見なかったことにしよう。
 「いつも紗枝がここまでしてやってるわけ?」
 デキた奥さんもいいとこだ。
 「うーん、ちょうど玲も洗濯溜まってるって言ってたから。ついでよ、ついで」
 今日は出血大サービスだから、と。その割には、完璧にしまうところを把握しているが。夫婦に絡むとろくなことがないので、突っ込むのはやめる。
 「紅愛だってよくみのりの部屋掃除してるじゃない」
 「アレは……あの子、お菓子食べた後散らかすから時々まとめてゴミ袋に入れてるだけよ」
 「紅愛って意外と優しいのね」
 「紗枝が私のことどう思ってるか、今日はよーくわかったわ」
 お互い、刃友に随分甘いらしいってことも。
 その後、トレーニングを終えて帰ってきた玲は、自分の部屋でくつろいでいる他人二人を見て、変な顔をしつつも何も言わずに黙って後ろを通り過ぎていった。

2007年08月25日(土)



 ゆかり誕

 ルームメイトは何でも知っている。綾那がここ数日、うんうん唸るほど悩んでいるのも知っている。
 (こういう時って、絶対綾那からは頼ってくれないよね……)
 ゲームに熱中しているふりをして、コントローラーを握る指がちっとも動いていない。そんな頑なな友人の背中に、熱い視線を送る。暑いのは順の視線だけではない。8月に入って、めっきり気温が高くなった。じわじわと体力を奪っていく太陽。でもこの日差しを浴びると、ある人物のことを考えて、頭から離れなくなる。綾那にとって、8月の日差しは一人の人物に直接結びついていた。
 (気候=染谷って発想が、そもそもスゴいんだけどねぇ)
 パブロフの犬みたいに、反射的にそう思うようになってしまっている。あの二人の過去の繋がりの全てを知る訳じゃない。不自然なまでに綾那の中に深く根ざした、他人。その根を無理に抜こうとしたら、本体の方までやられてしまう。
 だから、見守るしかなかった。
 (ま、どっちにしろ、キミは染谷の誕生日を祝うべきだわ)
 生まれてきてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。でなければ、綾那は今ここにいなかっただろうから。
 (ありゃ?ってことはあたしも祝った方がいいのかな??)
 不機嫌な獣みたいに、綾那がうぅ、と呻いた。
 「順」
 コントローラーを投げ出して、綾那が振り返る。眉間には、くっきりと派手なシワ。吹き出したいのを堪えて、愛想よく応じる。そんな、いかにも苦悩してますみたいな顔しなくてもいいのに。嘘をつけないのが彼女のいいところだ。
 「お前、なら……」
 「何?ゴメン、よく聞こえない」
 「だから!」
 勢い余って、両手をバンと床につく。下の階に相当響いただろうな、今の。
 「夕歩に何をもらえたら嬉しい?」
 「は?」
 唐突に出てきた刃友の名前。予想外。不意打ちと、夕歩という効果抜群の名前に一瞬口がぽかんと開いてしまう。だから、よく知っている相手は苦手だ。こちらの大事なものも、知られている。
 (あたしにとっての夕歩は、綾那にとっての染谷みたいなもんだと思ってるんだ)
 それが当たらずとも遠からずなことは、秘密にしておこう。親しき仲にも秘密あり。まだ15年しか生きていないながらも、順の知っている秘訣である。
 「そりゃもう、あたしがもらって一番嬉しいのは夕歩自し……っ!!」
 トゲトゲのついた硬いものが頭の横を旋回していった。
 「真面目に聞いた私がバカだったな」
 「あー、ゴメンゴメン」
 いくらなんでもそんなものはもらえない。
 はっきり言って、染谷だっていきなり綾那が全身にリボン巻いて突撃していったらリアクションに困ると思うし。染谷も綾那も、破壊行動に出る以外のリアクションはあまり持ち合わせていないから。
 「不器用だよねー」
 似てるといえば、とてもよく似ていた。
 「……うるさい」
 逆立てていた毛が鎮まって、綾那はがっくりとその場にしゃがみこむ。
 「でもさー、綾那って染谷と付き合い長いじゃん?昔はどうしてたの、誕生日」


 友達に、手紙を書くのは初めてだから。
 他の同い年の子からもらった、いくつかの手紙とは全く異なる。可愛いシールも何もない、一枚の便箋を丁寧に折り畳んだ手紙。
 突然差し出されたそれを受け取った日。
 数年前の、8月5日。


 「どうして、今になって」
 俯いて、何かをためらっているような綾那の表情を思い出した。
 今でも、その時の様子を思い出せる自分が少し恐ろしくなった。忘れられない、飾り気のない手紙。綾那がくれた。精一杯の心を。
 「綾那」
 実家に置いてきたとばかり思っていたのに。少し紙は茶色くなったけど、引き出しを開けると静かに収まっていた。
 「……」
 丁寧な、子供の文字で。
 ゆかりと会えて、うれしかった。
 ゆかりがいてくれて、よかった。
 「私もよ」
 今でも、気持ちは変わっていない?貴方はあの時の、剥き出しな心のままでいるの?
 戻ることのない返事が、手紙の中に封じられている。
 今の二人には、それだけ。

2007年08月16日(木)



 元拍手ネタ

拍手に置いてあったネタです。


☆ビューティペア(+空気)による女臭審査会

天「近頃、生徒たちの間で『におい』に関する話題が盛んなようね」
宮「におい、ですか?? 初耳です」
天「少しマニアックなテーマだから、静久にはまだ早いかしら」
宮「っ!」
天「ここから先は18才未満立ち入り禁止にしなければ。帯刀、音声に適当にピー音を入れなさい」
帯「了解しました、ひつぎ様! この帯刀が適度にエレガントなピー音を即座に入れてみせます!!」
宮「ま、待ってください! 私だって負けませんよ!!」
天「あら」
宮「マニアックどんとこいです! て言うかひつぎさんも洸さんも18才未満じゃないですか!!」
天「わたくしは精神が54歳だからオールオッケー。あと空気に年齢はないわ、静久」
帯「ひ、ひつぎ様ー!! 私はピッチピチのひつぎ様と同じ17歳ですよー!!」
天「(無視)では、わたくしについてきなさい」
宮「(熱血)ハイッ!」

ラウンド1 神祈のかほり
天「静久はよく神門さんと触れ合ってるようだけど……」
宮「え? あぁ、神門さんとはなぜかよく鉢合わせるんですよね。でもにおいを気にしたことはないです」
天「静久でも気づくような、強い香りをまとってはいないわね、彼女は」
宮「あ、でも髪はふんわり柑橘系の香りがします」
天「ふーん?」
宮「ひつぎさん? どうしたんですか、表情が険しいですけど」
天「いいえ、どうもしないわ。仲良きことは美しき哉、です」
宮「はぁ??」
天「タネ明かしをするなら、それは祈さんも同じよ」
宮「そうなんですか!?」
天「えぇ。ちゃんと確認しました」
宮「気づかなかったです。さすがひつぎさん!……でも、どうやって確認したんですか」
天「親切な祈さんはわたくしのリクエストに応じて、髪をほどいてくださいました」
宮「えっ」
天「艶やかで美しい深緑の髪だったわ」
宮「……それ、なんだか神門さんに怒られそうですね」
天「その通りよ。3日ほど顔を合わせる度に睨まれたわ」

☆ビューティペア(+空気)による女臭審査会

ラウンド2 月星のかほり
宮「星河さんはいいにおいがするって、クラスでも評判みたいですよ」
天「静久は隣のクラスだものね」
宮「合同体育の時、星河さんと準備運動する人を決めるのにちょっとした争いが起きてますから」
天「さすが、総受けね」
宮「総……?」
天「ふふ、それこそ星河フェロモンをまったく受け付けない静久は知らなくてもいい言葉よ」
宮「はぁ。確かにいいにおいですけど、争うほどのことはないと思います」
天「それで、結局静久が体育の時は一緒に準備運動してるんだったわね」
宮「はい。毎回毎回自分のことでケンカが起きるのがうっとうしいから、だそうです。私なら、生徒会でよく知ってますし」
天「果たして、それだけかしら」
宮「?」
天「っくくく……本当に報われないわね。おもしろかわいそうとは、このことを言うのかしら」
宮「月島さんは甘いにおいがしそうですね」
天「静久は月島さんの方に興味があるみたいね」
宮「月島さん、ぬいぐるみみたいで一度抱きしめてみたいです」
天「今度ぜひお願いしてみたら? わたくしはその様子を記念撮影します」
宮「はい」
天「静久は本当にぬいぐるみが好きねぇ」

☆ビューティペア(+空気)による女臭審査会

ラウンド3 天宮のかほり
天「そういえば、わたくしこの間、こんなものを手に入れました」
宮「? ハチマキ、ですね。私の」
天「ちっちっちっ」
宮「?」
天「ただのハチマキと一緒にしてもらっては困るわ」
宮「え……私のハチマキはどれもみな同じ物ですよ」
天「これは、使用済みです」
宮「しよう、ずみ?」
天「Yes、使用済み」
宮「あの、ひつぎさんはご存知でしょうけど」
天「はい」
宮「私、毎日ハチマキ取り替えてますよね」
天「はい。よく知ってるも何も、窓から静久のハチマキがひらひらするのを眺めるのがわたくしの日課です」
宮「そんな日課は別に教えていただかなくて結構ですから。じゃなくて、どうしてひつぎさんがそんな物を?」
天「闇取引で」
宮「誰とっ!?」
天「静久、この学園には闇に近しい存在もいるのよ」
宮「そんな危ない存在と私のハチマキに何の関係が!?」
天「……と、言うわけでこれは持ち主に返却します」
宮「あ、どうも」
天「静久」
宮「は、はい」
天「(静久のうなじに鼻を近づけて)」
宮「く、くすぐったいです! ひつぎさん!」
天「その人固有のにおいが一番よくわかるのは、首周りだそうよ」
宮「そうなんですか……あっ」
天「わたくしはやはり貴方のにおいが一番馴染むわ」
宮「あ、りがとうございます」


☆枕が変わると眠れない

星「玲、入るわ……よ」
神「おー」
星「……お邪魔だったかしら」
神「あ?何が。あたしが借りを返したいから呼んだんだぜ?遠慮なく入れよ」
星「その体勢で言われても全然説得力ないんだけど。大体、人出迎えるならいちゃつくのやめてくれない?どこ見たらいいか困る」
神「別にいちゃついてねーだろ。寝てたら紗枝が勝手に枕にしてきただけだ」
星「普通寝てる人間を枕にしないから。それは恋人レベルよ」
神「んなわけねーだろ。お前変な本の読みすぎなんじゃねーの?」
星「しっつれいね!そっちが常識知らずなのよ!!」
祈「もー、二人とも私のことで争わないで」
星「誰のせいよっ!!」
神「ほら、紗枝。何か紅愛がうるせーからどけ」
祈「えー。折角玲のお腹枕にちょうどよかったのに」
神「最近前より腹筋ついてきたからな」
星「あんたたち、そんなことで確認し合わないでよ……」
神「何言ってんだ、あたしの腹はそこいらの低反発枕よりすごいぜ」
星「あーはいはい。今日からあんたのことはテンピュール神門って呼んであげるわ」
祈「残念だけど、紅愛には貸さないからね」
星「結構です」
神「紗枝、紅愛にはもっと使い込んだのがあるからその必要はねーぞ」
祈「使い込んだ……?」
神「そば枕月島」
星「みのりはそんなジャリジャリじゃないわよっ!!」
神「……」
祈「……使ってるんだ」

2007年08月15日(水)
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