池ポエム
ハンス



 シドのバンダナをずらし隊

 「伝説の男〜♪ 伝説の男〜♪」
 べんべべべべん、べんべべべべん。
 始めて話した時から、シドははっきりと言っていた。
 欲しいモンを手に入れるために、星を奪る。見たまんまの、わかりやすい奴。何か隠してる引き出しでもあるのかと、楔束当初はしばらく観察したりもした。
 結果、見たのはバカだけだった。
 こいつは、最初から最後までずっとこんな調子なんだろう。
 欲しいモノをちゃんと手に入れたところだけは、根っからバカのこいつにしては上出来と言ったところか。口だけとは言わないが、変なところでヘコんだりもする奴だから、目標達成まで折れなかったことだけは褒めてやってもいい。
 それでも、疲れるには十分なほどフォローしてやったけど。
 お前はパンクじゃなかったんかい、と心からツッコミたいけどもう放っておく。やっと手に入れた念願のベースを、夜通し弾いてるのは構わない(隣の部屋の生徒には迷惑だけど)。問題は、曲だ。調子っぱずれな「ガッツ伝説」を熱唱してご機嫌な姿を見ると、よくコレと4年もやってこれたもんだと自分で自分を褒めたくなった。
 でもそれも、あと少しで終わり。疲れるバカのフォローも、少しは楽しかった星奪りも。シドが目標を達成してバックレるって言うのなら、続ける理由もなくなる。
 (……最後、ね)
 夜風に乗ってバカの声が寮の至るところに流れていく。そろそろ止めた方がいい。
 「ガッツ、ガッツ、VIVAガッツ♪」
 「シド! そろそろやめな」
 「ちくわで星を見る♪」
 (このガキャあ……)
 心から聞いてないバカの、脳天を引っつかんでこちらを向かせた。掴みやすい無造作な髪を引っ張られて、やっと周囲の状況に気づいたらしい。目をパチパチさせて、マヌケ面を作る。
 「んっだよ、ナンシー。今サイコーにノッてるとこなんだぜ!?」
 ノッてるのか、その曲で。ベース芸人と化したシドをじっと見ていたら、ほんのごくわずかでも感傷に捕らわれた自分がばかばかしくなった。こいつ相手に、シリアスは似合わない。最後まで、バカ騒ぎのまま駆け抜けてやれ。
 大事な大事なシドの相棒を押しのけて、髪を掴んだまま無理やり口づけした。
 「は、えっ!? ナ、ナナナナナナナ」
 「七?」
 「ちっがっ!」
 爆発しそうに赤い顔で、そのままベースごとシドは後ろへ引っくり返った。髪を離して、支えてやらなかったからガターンと派手な音を立てて椅子ごと床に転がる。
 訳がわからず赤い顔で放心しているシドを見下ろして、一言だけつぶやいた。
 (……まっ、悪くなかったかな)
 ラストステージまで、いい夢見たままイケそうだ。

2007年05月17日(木)



 Light

 太陽の光に目をしかめる動物。
 途端にまぶしそうな表情をする炎雪を見て、その場にいた全員はそう思った。続いて、視線が何となくその隣に集まる。誰も口に出しては言わないが、説明しろと言っている。普段なら、他人の視線一つで期待に応えたりしない瞑子も、思わず眼鏡を抑えた。
 「……太陽の光は好きじゃない、と言ってるわ」
 瞑子の通訳に、獣が不機嫌そうに呻く。3つの視線が今度は一斉に窓の外へ向かった。
 「今日、曇りですよ」
 今朝から一度たりとも顔を出さない、頑なな太陽。光など一分たりとも逃がす隙のないぶ厚い雲が空を覆っている。静久の言葉に、玲と紗枝も頷く。大体、今の話題に上っていたのはお天気ではない。お天気ではなくて、お天気屋な学園の頂点のあの人の話。強大な太陽の光のごとき、あの人。
 静久は単純な連想だと思った。太陽のような、静久の刃友。ただ、それは静久一人が感じているイメージであって、全員の共通見解だとまでは自惚れていない。ましてや、生徒会の仲間でありながらいまいち掴めない炎雪のこと。
 少々、意外だった。
 人より動物に近しい戦闘狂にも、光を感じ取る力はあるらしい。
 「まぁあいつは無駄にペカペカしてるからな」
 まぶしいって気持ちはわからんでもない、と玲が足を投げ出す。
 「神門さん、無駄にペカペカって何ですか!」
 「無駄じゃねーか。突っ立ってるだけで目立つんだよ、あいつは」
 「無駄じゃありません! あれこそが、会長を会長たらしめている内側からの崇高なオーラと言うものです!!」
 玲に反論しながらも、静久はひつぎにはミラーボールが似合いそうだ、などと自分もふとどきな想像を思い巡らすのだった。
 「獣は夜活動するものですよ」
 玲と静久の口ゲンカに隠れて、まだ会話は続いていた。紗枝が瞑子に視線を送る。
 「祈さんは……どちらが好きかしら」
 「どちら、とは?」
 夜の闇の中でだけ、本性の血が騒ぐ獣。昼の光の中では、牙も引っ込んでしまうのか、退屈そうにぼんやりと虚ろな目をしている。誰よりも獣の側にいる人間であるはずの瞑子のレンズの奥の瞳。日の光を覆い隠すような、暗い影が差して見える。
 「さぁ。どうでしょう」
 炎雪がつまらなそうにそっぽを向いた。まるで、食欲を失って急に走るのをやめたチーターのようだった。


 『わたくしも闇は嫌いじゃないわ』
 求めるもののために、いつかはこの人の前に立つ。その少し前。護衛にしておけば心強い刃友から離れた隙に、彼女と遭遇した。廊下を一人で歩く。向こうから、彼女もたった一人で歩いてくる。
 目に刺さるような直線的な光が、冷えた廊下を刺し貫いた。暗闇を切り分ける、明確な光。有無をいわさぬ力強い刃物のよう。
 『頂点に立つ人のセリフとは思えないわね』
 いつまでも、光をまとって立ち続けるのだと思っていた虚像は、予想外に迷いなく言い放つ。
 『……氷室さんは、ご存知だと思っていたわ』
 『何?』
 太陽に祝福される者は、全ての原理を知っている。


 その日は、夜が更けても曇りのままだった。暗くなってしまえば、ぶ厚い雲も存在を隠す。廊下を歩く。先行く炎雪は、真っ直ぐに自室へと向かっている。
 「あなたは、闇が好きなのね」
 だから、自分を選んだ。光を嫌い、闇を好むなら、それ相応の人物が必要だ。炎雪は振り返らない。聞いているのか、いないのか。日本語をどこまで解するようになってしまったのか、時々こうしてテストしては、一人可笑しくなる。
 「メイ」
 早足を少しも緩めず、ここでは他に聞くことの出来ない発音が耳に届く。
 「知っているか」

 『光は闇、闇は光だ』

 肩を掴もうと手を伸ばしたら、突然駆け足になる。空振りした瞑子の手を、炎雪の熱い手が掴む。
 「……違うわ、炎雪」
 貴女の国ではそうだとしても、ここでは、この世界では違う。
 「光は、光よ」
 なぜかあの人を前にした時と同じように。
 炎雪は眉をしかめた。

2007年05月08日(火)
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