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■ 間接祭り開催中
ここに、一本の缶ジュースがある。味はオレンジ。 まぁ、この際味は何でもよくて。 静久はそれを、半分飲んで机の上に置いていた。半分飲んで。ちょうど休憩に入って、一口飲んだところで電話が入り、ある書類を探してほしいとひつぎに目で指示されたからだ。腰を上げて、書類棚をひとしきり探して、目当ての物を手渡して、また席に、席に戻ろうとした。 「静久?これ一口もらうわよ」 「はい。あ、え?」 振り返るより先に返事をしてしまって、後からその意味に追いつく。光より速い自慢の俊足も、缶に口をつける前に取り上げるなんて芸当はできるはずもない。 「まぁまぁね」 簡単な感想とともに、すでに缶は元の位置に置かれたところだった。 「の、飲んだんですか!?」 電話中のひつぎが同じ室内にいるから、洸の目の前まで駆けて行き小声で。 「何よ。いいって言ったのはアナタじゃない」 「だって、それは……それは、その」 確かに、洸は了解を取った。話半分で許可をしたのも自分。責める要素は一つもない。けれど、何か言わずにはいられなかった。でないと、この恥ずかしさの行き場がない。今なら恥ずかしさで窓から大空へ羽ばたける。ちょうど雲ひとつない晴天だし。 「いいじゃない、一口ぐらい」 ケチ、と洸が眼鏡の奥から呆れた視線を送った。 「違うんです、別にジュースはいいんですよ、何でも」 「じゃあ何よ?」 元々ジュースの中身は、静久の一口で半分まで減っていた。押し付けるようにして、缶を渡される。思わずその開け口に視線を落とす。肝心なのは中身じゃない。問題なのは、中身を飲むためには、人は誰でも缶に触れなければならないということ。 (不意打ちなんて、卑怯ですよ……) 心の準備というものが、と抗議したくてもまさかそんなことを言う訳にもいかない。ただ缶を両手で握り締めて、静久は俯いて沈黙した。オレンジなのにホットになりそうな勢いだった。 「静久」 「あ、はい」 電話を終えたひつぎが、いつの間にか静久の後ろに立っていた。黙って手を差し出す。シェイクハンドを求めているのではなくて、何となく自然と缶を渡してしまった。ぬるいオレンジジュースを。ぼんやりしている静久も、訝しげな洸も、缶の行く先に注目する。 ぬるいし、握り締められて少しヘコんだ缶を手にすると。 ひつぎはそのまま一口飲んだ。 静久の前を、光の速さで影が飛んだ。真っ直ぐ、ひつぎに向かって。スタァンといい音を立てて、ひつぎのブーツが回転した。軽やかに影をかわす。そのまま勢い余って洸は床に顔から突っ込む。かと思ったらすぐに起き上がって、またすぐ缶めがけて手を伸ばす。 「ひ、ひつぎ様ぁぁ!それ、それ下さいっ!!」 ゾンビのように這い上がってくる洸を、いやそうに振り切って。 「お断りするわ。これはわたくしが永久保存します」 缶を洸の手が届かないように、高くかざして真顔で言い切った。強力すぎるライバルを前に、静久は心の中でがっくりする。まさか、言えるはずはない。特にひつぎには。 (洸さんの……バカ) 誰よりも敬愛する人と、誰よりも恋い慕う人を比べたら、普通は後者に悪態が行くはずはないのだけど。 何より、この三人は特殊だから。 静久はなおも足蹴にされている洸の姿にため息をついた。
まさか本当に、空になった缶を棚に飾っていると知ったら、さすがのあの子でも引くのではないか。想像してみたら、引いた顔にも少し興味が湧いた。あえてさりげなく、この部屋に呼んでわざと目撃させるのもいいかも知れない。 それぐらいしないと、想いの深刻さに気づかない鈍感な子だから。 間に第三者が挟まってしまったことだけが、本当に残念でならない。今度は人に奪われる前に、すかさず横取りしよう。何なら、直接奪ってしまおう。 まどろっこしいことを好まないひつぎは、自分らしいやり方を見出してひっそりと微笑んだ。
ひつぎ→静久→帯刀→ひつぎ、でグルグル回ってバターになってしまえばいい話。バターまであと20周ぐらいでしょうか。
2007年01月28日(日)
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