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■ ハロウィン企画
紅愛の部屋を出入りする生徒が後を絶たない。今日は来客が多くて、一人去ってはまた現れる。朝からこの調子で、そろそろ昼になる。さすがにくたびれて、「ただ今休憩中」とでも看板を出そうかと考えていたところ。あまりに慌ただしい部屋の様子に、ルームメイトはとっくによそへ避難済み。少しは手伝ってってほしい、と目で訴えたのに軽やかに「がんばってね〜」なんて言って逃げられた。 まぁ、こればかりは基本的に自分でやるしかないので、本気で手伝ってほしかったわけじゃないけど。 今日は楽しい西洋のお祭りの日。寮全体が浮かれているのに、どうして参加する気もさほどない自分がボランティアしなければならないのか。散らばった道具をまとめながら、窓の外に目をやった。頭にかぼちゃをかぶった背の低い子が猛ダッシュで駆けて行く。その後ろから、バットみたいな物を持って頭にコンビニ袋をかぶった子がすごい勢いで追撃して行くのが見えた。 「あんな仮装もありなの?」 よその国のオバケのことはよくわからない。 紅愛のところに訪ねてくるのは、大抵がドラキュラの仮装をしたい人ばかり。始めは長いつけ爪を再現したくて相談に来た。ちょっと工夫していい感じのを作ってあげたら、口コミで広がって寮中からドラキュラ志願者が集まってしまったというわけ。 「うちはドラキュラの館じゃないっての」 ハロウィンに関心はないけど、一つだけ気がかりがある。この行事はお菓子が欠かせないものだから。 「……来るかしら」 お菓子と聞けば学園の至るところに現れる、強くて頼もしい正義じゃなくて紅愛の味方。食材庫に侵入してまでお菓子を求める彼女なら、今日は朝から浮かれているに違いない。会う人会う人に公然とお菓子を求めてもいいなんて、この世の楽園だ。ひょっとしたら、会長たちに勝ってお菓子の学園を作るより楽しそうだ。 あちこちでお菓子をもらってご機嫌になったみのりを思い浮かべたら、少し胸が痛くなる。もう充分満足して、ここまでは来ないかも知れない。 「私だけ、なのに」 みのりにお菓子をあげるのは。 「誰でもいいもんね。アナタはお菓子が好きなんだから」 それが二人の始まりなのに。たかが行事で、特別を越えられてしまって。学園の喧騒の隙間で紅愛はため息をつく。 突然、ノックもなしにドアが開いた。 「紅愛〜?」 予想外に、みのりの両手は空いていた。手ぶらでひょっこり現れて、窺うように中を見渡す。 「どうして……」 「ん?ノックしたけど返事ねーからさ」 どうやら暗い考えに落ち込んで、耳に入っていなかったらしい。戸惑う紅愛にはお構いなしに、みのりが颯爽と中に入って来る。目の前に立つと、勢いよく叫んだ。 「とりっくおあ……」 (あ!) この行事にお決まりの、決めゼリフが飛び出す。心臓がドキッと跳ね上がる。先ほどの自分の悲観が恥ずかしくなる。ちゃんと貰いに来てくれた。忘れてなんかいなかった。ひらがな全開の発音の続きを受け止める。ところが、みのりは宙を睨んで止まった。 「……あー、えーっと。なんだったかな〜?」 (トリート!トリートよ、みのり!!) 子供の学芸会を見守る親みたいな気持ち。手出しはできないけど、心から応援している心境。 「あっ!」 紅愛の心の声が通じたのか、みのりの顔がパッと輝く。 「とりっくおあ、とりーとめんと!」 ……。 …………。
その日の夜、遅くまでのかぼちゃ騒ぎを尻目に、二人の生徒がシャワールームに向かって行くのを多数のオバケが目撃したらしい。 「ほら、行くわよ」 「い、いーってば!」 「みのりが言ったんじゃない。イタズラか、トリートメントかって」 「う……ちっと間違えたんだってば」 「でも私はトリートメントを選ぶわ。特別丁寧にしてあげるから」 「や、やだっ!!」 ずるずると。非力な紅愛が怪力のみのりを引きずっていく珍しい光景。 「おい、なんだありゃ」 頭につけられた耳をしきりと気にしながら、玲は変なものを見てしまった報告を傍らの魔女へ。 「今日の紅愛は力強いわね」 「てか、みのりはなんであんなに及び腰なんだ?」 狼男と魔女は、知り合い二人が闇へ消えていくのを見つめていた。
2006年10月29日(日)
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