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■ 綾那争奪戦7
番外編「最強の二人の場合」
「ただいま戻りました」 視聴覚部屋のドアに手をかける。会長室ではなく真っ直ぐにここに来て正解だった、と静久は思った。早速先程の星奪りの様子を上映しているあの人の姿があった。やはり、あの組の大乱闘を見ているのか、ご機嫌な雰囲気を醸し出している。わかりやすい。 「ご苦労様」 一時停止してこちらを見てくれた。そのまま手招きして、傍らまで呼ぶと再生ボタンを押す。 「やはり黒鉄さんと無道さんの仕合いですか」 会長はふわりと微笑むと、静久にしゃがむように促した。訳がわからないが、とりあえず言われたままに座ってみる。そっと綺麗な手が髪に触れる。 「貴女の誕生日のことを思い出すわ」 それはまだ一ヶ月ほど前のことだった。あの日、一年に一度しかないという日に起きた出来事が一瞬で脳裏に浮かぶ。できれば二度と、とは言わないがあまり頻繁には体験したくない。会長は優しげに静久の髪を梳いている。静久の顔は自然と赤く染まった。 「ひつぎさん、その、誕生日ルールはこれからも続けるんですか」 今年があれば来年もある。静久とひつぎが離れることなどあるはずもないのだから、このルールを続ける限りまた起こってしまうだろう。アレが。静久が先のことを考えて気を重くしていると、会長は他人事のような口調で言った。 「どうかしら。先のことはわからないものだから」 自分の意志ぐらい確定してほしいものだ、と少し思ったが彼女はそういう人。とっくにわかっていることだった。
「さっきはさすがね」 「まぁ、慣れてますからね」 色々と無茶な要求には、とつけ加える。同じように無茶な要求実行部隊でありながら、あまり報われていない自称会長一の側近は珍しくケンカ腰ではなかった。即席とは言え、鐘を鳴らすために協力プレーを成功させたから、今日ぐらいは連帯感を感じているのだろうか。 「静久、貴方視力いくつ?」 そう聞く彼女は眼鏡常用者だ。 「2.5です」 「アフリカに行っても立派にやっていけるわね」 褒められているのかなんなのかいまいちわかりにくい。 「それはそうと、誕生日の日にあの方と何をしてたの?」 幾度となく彼女には尋ねられた質問だった。しかし一度としてまともに答えていない。意地悪をしている訳ではない。それを口に出すと、再び脱力というか羞恥というか、思い出したくない感情が蘇ってくるから封じているのだ。おかげで余計に誤解されたらしく、追及は一層厳しくなっている。 「貴方とひつぎ様が誕生日の日に何事かあったのは、知ってるのよ」 その日、彼女は用で学園を留守にしていたから知らないのだ。でなければ情報収集は学園一。知らないはずがない。学園の裏側で大活躍の隠しカメラにも、運よく映っていなかった。 「そんなに大したことじゃ……」 「じゃあ言いなさいよ」 「ヒントじゃダメですか」 なぜかクイズ形式になってきた。彼女は仕方なく頷く。 「動きです」 「動き?動作のこと?」 「まぁそんなものですね」 首を捻る。確かにこれでわかったらすごい。更に二つ目。 「二人で一緒に動きます」 言い終わった途端、彼女の眼鏡の奥の瞳がじっと静久を凝視した。何かまずいことでも言っただろうか、と自分の出したヒントを反芻する。気づかれたのだとしたら相当勘がいい。 が、彼女は突如頬を染めるとヒステリックに叫んだ。 「不潔っ!!覚えてなさいよ、静久!!」 「は?」 何と勘違いしたのか知らないが、そのままドアを派手に閉めると全力で駆けて行ってしまった。残された静久には何が何だかわからない。しばらくして、今度はごく普通にドアがノックされた。 「はい、どうぞ」 「写真部でーす」 入って来た一般生徒は首から古そうなカメラを提げていた。どうぞ、と数枚の写真を差し出す。つい受け取って目を通し、今度は静久が固まった。 「この前の会長と宮本さん、お似合いでしたよー」 「いつの間に」 「だって、あんな風に校内を堂々と歩いてったら撮らないわけにはいかないですよ。素晴らしい被写体なんですから」 写真には、誇らしげな表情で静久をお姫様抱っこするひつぎと、しがみついて顔を隠している静久の姿が写っていた。
「一度やってみたかったのよ」 会長室で優雅にひつぎは語った。正面で机を挟んで向かい合っている玲と、その斜め後ろに控える紗枝があからさまに妙な顔をする。 「やってみたかったって、何をだよ」 「略奪愛」 開け放っていた窓から涼しい風が吹き込む。夏も終わりに近づいて、下がってきた気温のせいだけではないらしい。玲は気を取り直してひつぎに問い直した。 「それとお前が宮本担いで校内をウロつくのと、どう関係あるんだ」 「あら。わたくしはちゃんと奪って来たわ」 「どこから、何を」 突っ込むところが多すぎて、そろそろイヤになりかけている玲がこめかみを押さえながら必死に言葉をつなぐ。人は玲を短気な性格に見るが、本当に短気な人はそろそろキレている。 「静久を求める多くの剣待生たちの群れから、静久自身を」 玲の後ろでポン、と手を打つ音がした。 「それでわざわざ宮本に人が群がるようなルール作りやがったのか。何考えてんだ」 「ふふふ。確か神門さんの誕生日は……」 「あー、もういい!」 刀を掴み、踵を返して玲はパッとひつぎに背を向けた。二人の背を見送るひつぎのテーブルの上には、一枚の写真が大切そうに置かれていた。 大股で歩く玲の後ろを紗枝がさりげなく着いていく。 「してあげよっか?」 「あぁ!?何を」 「お姫様抱っこ」 「お、ひめ……」 玲、絶句するしかない。紗枝はいつもと同じ淡々とした調子で言った。 「いいじゃない。別に、減るもんじゃないし」 もうこれ以上何も考えたくない気分になる。返事はせずに、玲は黙って前を見て歩き出した。『つーか、あたしはされる方なのか?』という疑問が頭の中をいつまでも回っていた。
本当に【完】
2005年09月28日(水)
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