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■ 名前には意味があると思っている
「陸路」 「……はい」 振り返った先には、ニコリと笑ってこちらを見ている社長の姿。 「遅い。まだ5秒ぐらい間があるな」 ご丁寧に腕時計を見ながら言う。 「なんか、まだ慣れなくて」 「まぁこれからだね。これから陸路は陸路になるんだから」 数日前に名前をもらった。自分の名前を持つのは生まれて初めてだから、いまだに呼ばれてもピンとこない。そんな自分を、昨日から名付け親の社長が頻繁に呼んでいる。たくさん呼ばれることが慣れる近道だ、とかなんとか言って。 「それに社長以外に呼ばれないし」 村の女たちには一応言ったが、別れまでの間に名を呼ばれることはなかった。彼女たちは最後まで、陸路ではなく芽奈の子と口にした。 「これから幾らでも呼ばれるさ」 鈴寧だけは、少し驚いた顔をして、それでも小さな声で一度だけ呼んでくれた。名前の通り、鈴の音のような声だと思った。 名は体を表す、と昔老婆が言っていた。だから陸路には名がないのだとも。果たして、生まれて途中で名をもらった者も、名に沿うような人間になれるのか。陸路は社長の顔を見る。 「我ながらいい名前をつけたなぁ。陸路」 陸路。陸にある道。配達屋である社長が、これがある限りどこへでも届けにいくと心に決めている、その象徴。 「お前は配達屋の子なんだよ」 砂雨の夜、岩陰でボロ布をかぶって聞いた社長の声。村を飛び出して社長を追いかけたあの日、陸路は人になった。 「ねえ、社長」 「うん?」 これからは胸を張ろう。貴方にもらった、ただ一つの名があるから。
2005年03月20日(日)
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