池ポエム
ハンス



 思い出

 「ねぇ」
 「ダメです」
 遠慮がちに袖を引く。窓を開けたままにしていたから、今夜は誘われるのではないかと思っていたけど。
仕事が一段落して、海の匂いにあの人は気づいた。
 「見て、アルディラ」
 夜空に浮かぶ月がことのほかきれいなことにも、気づいてしまったらしい。先程までの、眉間にしわを寄せた表情とは違って、優しい眼差しが月を捉えている。
 「ダメですよ」
 それなのに自分は素っ気ないことしか言えない。本当はこの人を喜ばせたい。その術も、最近は何となくわかるようになった。でも言えない。理解することと、実行することは同じではない。それも同時に学んだことだった。
 不正解とわかっていてそちらを選ぶ。人間は随分と難しいことを、時に簡単に行ってしまう。それを愚かの一言で済ませられなくなったのは、目の前にいる人物のおかげだ。
 「大丈夫だよ。見つからないって」
 窓から身を乗り出して、外の空気を吸い込む。自分と違って人間。だから自然を求める。そういうものだろうか。機械で構成され、機械に囲まれて生きてきた自分は、それほど自然に関心がなかった。この人が腕を取り、風に触れさせてくれるまでは。
 それから、お湯も。
 「マスター」
 多少低い声で、今にも飛び出して行きそうな後ろ姿に声をかけた。
 「は、い」
 窓にそっと手をかけて、静かに閉める。外気の残りが室内にわずかに残る。食事中に待てと言われた動物みたいな目で、こちらを見つめてきた。思考のどこかが鈍く熱くなった。なぜだかわからないが。
 「浸かり過ぎは、よくありません」
 「いや、大したことないよ、あれぐらい。東の国には朝昼晩と湯に入って怪我や病気を治すという治療法が……」
 「貴方は全くの健康体です」
 部屋の隅の椅子に腰掛けて、背を丸めてしまった。わかりやすい。
 「マスター」
 「たまにはさ。君と入りたいと思ったんだ」
 ガツンと何かぶつかった音がした。よく見ると手元に持っていた資料が全て床にバラバラになっている。
 「珍しいね。君が物を落とすなんて」
 ぼーっとして立っていると、あの人が素早く落ちた紙や本を拾ってくれている。慌ててしゃがんで二人して拾った。手が触れた。
 「私よりも、君の健康が心配だな」
 「いえ、私は」
 「夜ならば見つからないよ。近いうちにきっと、行こう」
 あの人の手の平は温かかった。結局、その夜の約束はどこか長い時間の中に埋もれてしまって、今に至る。この浜辺で、別の人間と共に在る。
 だから謝らなくていいの。貴方はあの人に似ているから。

2005年01月30日(日)



 H2ドラマ化記念

 イメージだけで考えてみるH2。
 なぜイメージだけかというと、読み返すのがめんどくさいから。アレ、多いもん。全巻家に揃ってるけど、長すぎて多分二度読み返したりしない。その程度の軽いH2読者。だから細かいところや何があったかはあんまり覚えてない。覚えてないけど印象的なのは、最終回だ。なんで印象的かというと、妹が最終回の意味を何度も尋ねてくるから。私だってあんまりよくわからないのに、あの最終回。あまりに何度も聞くから(それだけ興味深いのではなく、ただ前聞いたことを忘れてるだけ)、そのたびにあの最終回の意味を一人で考え続け、答えるたびに考察は深くなっていった、ような気がする。とにかく少年漫画にしては妙な最終回、だと思う。はっきりしない、何がどうだったか曖昧な、そんな話。でもあだち充作品はそうすっきりした最終回ってないなぁ。ちなみに一番好きなのはラフの最終回だ。はっきりした答えはやっぱりないんだけど、余韻がいい。
 そんな訳で、覚えていることだけでここから先のことを書くから違ってても気にしない。
 H2をパッと見て誰でも気づくのは、主要人物が四人だってこと。ヒロイン二人に、ヒーロー二人。で、四つと聞いて私が最初に考えたのは、血液型だった。単純やね。四人いれば一つずつ当てはまる。四人バラバラの方がおもしろいし、関わり方に違いが生まれていいのではないかと。
 国見比呂。あだち充作品の主人公はみんなAB型的だとどこかで読んだことがある。作者がAB型だから、タッチの主人公三人は全員AB型なんだ、という意見だった。ならもうここは、主人公の比呂はAB型で。この方が英雄との対比がおもしろいから。
 橘英雄。比呂と対照的にO型説を推したい。理由は主に、ひかりへのはっきりした愛情の示し方。「お前のためにホームランを打つ」を身をもって実践するストレートな男。しかも全打席ホームラン。やり過ぎ。比呂より背が高く、全体的に体格がいいのも特徴。顔つきも表情豊かではないが、きりっとしていて男前である。ひかりとのデートで、彼女の前をおどけて逆立ちで歩くコマが心に残っている。無骨に見えて、サービス精神も旺盛。
 比呂がAB型で、英雄がO型だとしたら、最終回はなんだか納得がいくのだ、私は。比呂のしたことの意味を、英雄は一生わからないんじゃないかなぁ。逆に比呂は、相手が英雄じゃなかったからひかりを自分のものにしたかもしれない。まぁその辺は、最終回についての回で。

2005年01月13日(木)
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