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■ Sの人とYの人
ロビーに出てみると、彼はベンチに腰掛けていた。白い壁にもたれて、いつものピンと伸ばした背筋で、腕を組んで。黒いシャツの薄い体が多少前のめりになっている。 「?Sさん」 台本は傍らに置かれて。考え事でもしているのかな、と思ってYはそっと近づいた。彼の眉間にしわを寄せた表情は、実に考え込んでいるという雰囲気が出る。それに、なんだか考え事が似合う。そんな人だ。ぼーっとしてるのも似合うけど。 「お待たせ」 Sの横に座り、顔を覗きこむ。と、そこで次に掛けようとした声と、触れようとした手を引っ込めた。 「寝てる……」 こんなに背筋を伸ばして、どこにももたれかからないで眠れる人をYは見たことがない。多分、電車の中で寝ても隣の人に迷惑かける確率0パーセントだ。すぐ間近で顔を見つめ、はぁーっとため息をついた。表情も、何か考えていて目を閉じているようにも見える。なんだかシリアスな寝顔だった。 「かわいい、のか?」 せめてわかりやすく気が抜けていたり、穏やかだったりすれば賛辞が思いつくものを。と考えて、男相手にそれもおかしいかと思い直す。台本の中の彼の演じている彼も、同じ寝方をしそうだ。となると自分が演じている彼は、やっぱり自分のような眠り方をするのか。 「あ」 軽く閉じられていたまぶたがぱちっと開いた。 「お待たせしました」 「あ……」 いつもの顔よりやや呆然とした感じで、こちらを向く。首は動かさず、軽く瞳だけがYを捉えた。 「俺、寝てた?」 Yはこけたい気分になった。少し間を置いて、何を言い出すのかと身構えたら。 この人の驚く顔はあまり見られない。割に感情表現は豊かだが、普段人と話す時には驚くことはあまりしない。よっぽど意外だと、黒い瞳を丸くして「えっ」と言う。 「寝てましたよ、フツーに」 「そっか」 何事かぶつぶつ言いながら、髪を触りつつ立ち上がる。 「Sさん?」 なんでもないよ、行こうK君、と彼は率先して歩き出した。
2004年12月31日(金)
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