 |
 |
■■■
■■
■ 上がり調子
どうでもいいことだったとは今でも思わない。 でも、それ以上に。
「なんで?」 千明が少し眉をしかめる。 「なんでって、変な質問じゃない?」 「そうかな。そう思ったから、言っただけ」 「私だって、聞きたかったから聞いただけ」 「そ、か」 日が落ちる。ふかふかとした足もとの感触。草の匂い。 「千明は誰か好きなんだ?」 彼女は何を思い浮かべただろう。家族や、兄弟や、友達や。清磁の母は、たまにしか家にいない父は、規律の向こうに情が透けて見える優しい人だ。 「こら、質問に質問で返しちゃいけません」 「そんなの知らないよ」 「先生が言ってた」 目の前の麻川千明という人は。 3つも年下には思えないくらい、強くて優しい。公園のぼこ山の中の闇で見た一筋の五本指。夢中で掴んでいた。今、それがこうしてまた引いてくれる手に繋がっている。 あの時会えてよかった。 「後でさ、清磁が、泣きやんだら、言うから」 涙はとうに乾いてた。たまらなく悲しいという気分が大波のように押し寄せて、止まらなくなっていたのに。いつの間にか悲しいことなんか忘れる。だから悲しいというのは怖いことではないのだと。これもまた、三つも下の彼女に教え諭された。 4年経って。 彼女の好きな人を知っている。 好きとはどういうことかと聞かれたら、きっと一文字も答えられない。
2003年12月26日(金)
|
|
 |