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■ 占い士の村にて
墓石にひしゃくの水がつたう。 全方位誰かの墓に取り囲まれて、頭の上だけは青空が開ける。ここは特別な土地だ。入る前に神妙な顔で言った墓地の管理人さんと、やけに無表情な同行者が気になった。ラムレスはそのどちらの顔も真似できない。 黄色い花を腕に抱えて、小さいのがやって来た。 訪問者にそっとそれらを添え、るのではなく無造作に投げ置く。柔な花びらは取れてまぶすように散らばった。 「ちょっと!」 後ろの方で管理人さんが、できれば散らかさないでくださいね、と力なくつぶやいた。 「それぞれ好きな供え方ってもんがあるのさ」 「頭から花びらかぶるのが好きな人だったの?」 スティは墓石の真正面に立っている。背中から見ると、悲しいのか嬉しいのか全くわからない。散らしたきれいな花びらと、顔を隠した人間が墓石の前で何を思うのか、ラムレスは知らない。 そもそもこの墓は誰のものなのか。 「知らずにお参りするなんてねぇ」 村に着いた途端に墓地に行くと言い出したスティを止められず、ぼやきながら後姿を追いかけた。トットニールは何も言わずに付き従う。彼女はまた、紺のフードをしっかり被りなおして言った。 「知らない方でも、会っておきましょう」 「あ、トットニール宗派違うけど、いいの」 「死者と生者を繋ぐ地に違いはありません」 積極的にスティを追うトットニールの足早な姿を見送る。 「そういうもんかなぁ」 庭木と人を繋ぐ術以外は門外漢のラムレスにはよくわからない。後ろの切り株から長いため息が聞こえた。 「そういえば、管理人さん」 「ハイハイ」 ここの管理人には、さっきから一部始終つきまとって眺められている。 「正確にはオレ、管理人じゃなくてここの雑用係なんですけどね」 ラムレスより頭一つ大きいが、確かに動きはまだ年若い感じがする。 「この村に、最近戻って来た人はいませんか」 いくらなんでもラムレスの探し人はまだ墓の下に潜っちゃいないだろう。地の上で探さなければ。気づいたら半日以上過ぎている。スティのおかげで辿り着いたはいいが、目的を忘れるところだった。 「戻ったっていうか、戻って来て追い返された奴ならいましたよ。そいつが門に落書きなんかするからクビにされたんです」 「クビ?」 「五日前までは門番やってたんです」 体は大きいからなるほど似合いそうだ。もうクビになっているけど。次の仕事が見つかってよかったじゃないの、と言おうとしたが雑用係青年は隙間なくしゃべり立てた。 「七色っつうんですかね、やけに派手な髪した男とマントかぶって顔を隠した二人組で、この村の出身だから入れてくれって言ってきたんです」 ラムレスは、一見浮かびそうにないその二人組の容姿を事細かく想像することができた。 「そいつらの名前なんか載ってないんですよ。だからオレは嘘言って入りこもうとする奴らだと思って追い返そうとしたんです」 「載ってない?」 雑用係青年は本をめくる手つきをした。 「村人の名簿っす」 「載ってない人は入れないの?」 「そりゃもちろん。なんたってここは占い士の村ですからね。地図にもない秘境。これがどういうことかわかりますか」 意気揚々と秘密を話す。日に焼けた健康的な顔色は秘密とか秘境とかそういった隠し事とは無縁そうだった。 「じゃあ、私たちはなんで入れてもらえたの?」 ラムレスはとある田舎の教会生まれ、トットニールはその教会から一番近い町で生まれたと聞いている。占い士の村とは関係がない。そこまで考えて、理由は聞かなくてもなんとなくわかった。 墓の方から、ひしゃくの柄は木製で椀の部分は鉄製、というこだわりのトークが耳に入ってきた。
2003年11月28日(金)
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