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■ 赤い占い士
「じゃあばあさん、過去から未来に繋がる話を、オレの身の上話に絡めて聞くかい」 赤毛の男は突然、そんな切り出し方をした。 いつもの、くだらないどこかの男のカツラの話や、国王一家の家庭の事情や、南の国で起こった内紛の話や、鍛冶屋の親方の不倫騒ぎや、魔法協会の廃れっぷり。とにかくどうでもいいことを永遠かと思えるほどべらべらしゃべり続けてくれる、秋の夜長の時間潰しにはもってこいの男。 妙な赤い髪の男は不定期で、突然現れた。雲か煙のように、地から湧いて出たこともあるし、池の中から突然水中メガネ着用で現れたこともあった。 多分時間さえ越えてわざわざ訪ねてくるんだろうさ、と老魔女は素っ気なく答えた。質問を発した愛弟子は、一見いい加減な答えに聞こえるがなぜかひどく説得力を感じて、深く頷いてしまった。 涼しくなって山の葉がきれいな黄や赤に変わり始めた頃、いつものように男は老魔女の掃除してない暖炉の中から唐突に現れ、頭に埃を積もらせながらニコニコと挨拶した。 馬鹿な男だと思う、と老魔女は愛弟子に言った。 弟子はしみじみと頷いた。 「お前さんの話はいつもくだらないな」 「あれ、ひどいな。これでも知っているあらん限りのことを、たまにしか会えない貴方に話したくてしょうがないのに」 片手に魔法の水が入ったコップを振り回して、上機嫌に笑った。機嫌のいい時はリアクションの大きい男だ。コップの液体が飛び散るのも気にならない。 「つまらないとは言ってないだろう。くだらないのさ」 千年も山で暮らしている老魔女に知らないことはあまりない。ただ暮らしているだけでなく、諸事情から様々なことを調べ学んできた勤勉な魔女だ。 「なら、たまには違う話をしようか」 「できるのか」 男の目がかすかに細くなった。 「貴方が望むなら」 旅人などやめて、どこかの宮廷にでも行って話士になればいいだろうと、いつか勧めてみたことがあった。作り話にしろ、見聞きした話にしろ、これだけいくつも澱みなくスラスラ物語が飛び出す人間はそうはいない。頭の回転がよく、滑舌がよく、ついでに顔もいい。赤毛というのもいかにも異人ぽくて、受けるのではないか。 しかし惜しいことに、この男は職を持っていた。 「ずっと昔の話か、未来の予言しかしたことなかっただろう。それと、オレ以外の人間の話。今回はそれは全部無しだ。どうだい、物珍しかろう?」 「そんなの聞いてみなけりゃわからんよ。どうしてお前さんの身の上話が物珍しいもんかね」 この男は占い士だった。職業柄、予言と称してこれから起こる出来事を話すこともあった。ただ、老魔女はいつも話半分にその、尊い予言、とやらを聞いていた。どこぞの国王でもあるまいし、老魔女は知りたい先などありはしない。本当にその予言が当たるのなら、こんなところで辺境に住む魔女に聞かせたりしないで金持ちや権力者に売り込んで褒美を貰うだろう。安定した生活だって保障される。 だから当たらないのだと思っている。 インチキ占い士だというのではない。占い士には技量に個人差がある。たまたまこの男がへっぽこ占い士なだけだ。現在、協会に属する大半の魔法使いがへっぽこ魔法使いであるのと同じように。 「まずは未来のことを話そうか」 男はコップの中のものを全て飲み干すと、勢いよく机に置いた。角が取れて丸くなった木製のテーブルが鈍い音を上げた。 男の飲んだものは、一杯で一晩よく眠るには十分な酒に匹敵する不思議な魔法の液体である。話は随分と長くなりそうだ。 願わくは、これからが気になるところでいびきに変わってしまわないように。 「あるところに、双子の占い士が生まれた」 意外にもひび割れの多い二本の指が、ランプの下で意味ありげに揺らいだ。
2003年09月27日(土)
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