池ポエム
ハンス



 赤い占い士

 「じゃあばあさん、過去から未来に繋がる話を、オレの身の上話に絡めて聞くかい」
 赤毛の男は突然、そんな切り出し方をした。
 いつもの、くだらないどこかの男のカツラの話や、国王一家の家庭の事情や、南の国で起こった内紛の話や、鍛冶屋の親方の不倫騒ぎや、魔法協会の廃れっぷり。とにかくどうでもいいことを永遠かと思えるほどべらべらしゃべり続けてくれる、秋の夜長の時間潰しにはもってこいの男。
 妙な赤い髪の男は不定期で、突然現れた。雲か煙のように、地から湧いて出たこともあるし、池の中から突然水中メガネ着用で現れたこともあった。
 多分時間さえ越えてわざわざ訪ねてくるんだろうさ、と老魔女は素っ気なく答えた。質問を発した愛弟子は、一見いい加減な答えに聞こえるがなぜかひどく説得力を感じて、深く頷いてしまった。
 涼しくなって山の葉がきれいな黄や赤に変わり始めた頃、いつものように男は老魔女の掃除してない暖炉の中から唐突に現れ、頭に埃を積もらせながらニコニコと挨拶した。
 馬鹿な男だと思う、と老魔女は愛弟子に言った。
 弟子はしみじみと頷いた。
 「お前さんの話はいつもくだらないな」
 「あれ、ひどいな。これでも知っているあらん限りのことを、たまにしか会えない貴方に話したくてしょうがないのに」
 片手に魔法の水が入ったコップを振り回して、上機嫌に笑った。機嫌のいい時はリアクションの大きい男だ。コップの液体が飛び散るのも気にならない。
 「つまらないとは言ってないだろう。くだらないのさ」
 千年も山で暮らしている老魔女に知らないことはあまりない。ただ暮らしているだけでなく、諸事情から様々なことを調べ学んできた勤勉な魔女だ。
 「なら、たまには違う話をしようか」
 「できるのか」
 男の目がかすかに細くなった。
 「貴方が望むなら」
 旅人などやめて、どこかの宮廷にでも行って話士になればいいだろうと、いつか勧めてみたことがあった。作り話にしろ、見聞きした話にしろ、これだけいくつも澱みなくスラスラ物語が飛び出す人間はそうはいない。頭の回転がよく、滑舌がよく、ついでに顔もいい。赤毛というのもいかにも異人ぽくて、受けるのではないか。
 しかし惜しいことに、この男は職を持っていた。
 「ずっと昔の話か、未来の予言しかしたことなかっただろう。それと、オレ以外の人間の話。今回はそれは全部無しだ。どうだい、物珍しかろう?」
 「そんなの聞いてみなけりゃわからんよ。どうしてお前さんの身の上話が物珍しいもんかね」
 この男は占い士だった。職業柄、予言と称してこれから起こる出来事を話すこともあった。ただ、老魔女はいつも話半分にその、尊い予言、とやらを聞いていた。どこぞの国王でもあるまいし、老魔女は知りたい先などありはしない。本当にその予言が当たるのなら、こんなところで辺境に住む魔女に聞かせたりしないで金持ちや権力者に売り込んで褒美を貰うだろう。安定した生活だって保障される。
 だから当たらないのだと思っている。
 インチキ占い士だというのではない。占い士には技量に個人差がある。たまたまこの男がへっぽこ占い士なだけだ。現在、協会に属する大半の魔法使いがへっぽこ魔法使いであるのと同じように。
 「まずは未来のことを話そうか」
 男はコップの中のものを全て飲み干すと、勢いよく机に置いた。角が取れて丸くなった木製のテーブルが鈍い音を上げた。
 男の飲んだものは、一杯で一晩よく眠るには十分な酒に匹敵する不思議な魔法の液体である。話は随分と長くなりそうだ。
 願わくは、これからが気になるところでいびきに変わってしまわないように。
 「あるところに、双子の占い士が生まれた」
 意外にもひび割れの多い二本の指が、ランプの下で意味ありげに揺らいだ。


2003年09月27日(土)



 すいか最終回

 すいか、昨日をもって最終回を迎えました。
 一時間前にここに書いてあった腐れ感想は恥ずかしいので消しました。好きな作品なので百合妄想もほどほどにしたいと思います。
 いつの間にか母親と妹も見始めて、ビデオに撮ってあった1話から7話を回し見て、最後の方は母親はリアルタイムで見ていたそうです。妹の奴はまだ最終回を見ていません。さっきビデオを貸したので、もう見終わったかも知れません。
 6年ぶりぐらいに毎回ちゃんと見たドラマでした。



2003年09月21日(日)



 続・間取りの手帖

 「そんなこともあったっけねぇ」
 今、清磁の部屋のベッドの上には、豪勢な桃色混じりの茶色の髪をした少女が寝っ転がっている。
 「大体さぁ、紛らわしいんだって、ロクちゃんが」
 「わざとだよ。あの人、前から千明からかっておもしろがってるとこあるから」
 相変わらず柱は部屋の真ん中に居座っていて、清磁の部屋は人を呼びにくい家具配置のままで。だけど今はさほど気にならなかった。
 「子供相手にひどい冗談だよ。ったく」
 少し昔の三人で集まった時の話を、ふと思い出した。数年越しの真相に、聞かされた相手は怒りつつ呆れている。なぜあの時、すぐに事情を説明しなかったのか忘れてしまった。説明したのかも知れないが、なかなかうまく説得できなかったのかも知れない。そのぐらいとっくの昔のどうでもいい記憶だ。
 なぜか今日、急に思い出した。
 今、ベッドの上にいる、少し大人になった彼女を見てだろうか。
 「子供相手?子供ならあんな勘違いはしないだろ」
 「うるさいなぁ。子供っていうのは、そういう小学校低学年までじゃなくって、高学年以上の子供ってことだよ」
 「あれって、二三年前だったかな」
 「そんぐらいじゃない?」
 小学生と、中学生と、怪しい短大生が一つ部屋に集まって何をしたんだったか。どう考えてもちぐはぐな組み合わせだっていうのに、あの三人に限ってはしっくりいっている。
 「清磁とロクちゃんが幼なじみだってこと、完璧に忘れてた。おかげでだまされた」
 うつぶせになってまだぶつぶつ文句を言っている。
 「いいじゃない、昔のこと」
 「思い出させたのは清磁でしょうが」
 騙すのは大好きだが騙されたら十年は忘れない、らしい。
 うつぶせというのは、どうも苦手な体勢だ。呼吸がしにくい。隣で平気でうつぶせになっている彼女は、寝る時は常にうつぶせだと、日頃から豪語している。
 仰向けの方がずっとマシだ。
 「思い出したんだよ」
 「なんで?」
 「さぁ」
 「今、一緒に寝てるから?」
 彼女の目が笑いを含んでいた。起き上がって、正面からこっちを見つめる。長い髪が首元にかかってくすぐったい。
 「そうかも」
 軽く触れて、また定位置に戻る。眠たいらしい。
 「ロクちゃんは、最近来ないの?」
 「今いないよ」
 「またどっか行ってるの?あの人、職業旅人なんじゃないの」
 「最近、アンケートの職業欄には本気でそう書いてるらしい」
 「うわ」
 返事は棒読みだった。しばらくすると静かな寝息だけが部屋に響いた。


2003年09月19日(金)



 間取りの手帖

 清磁家二階一番奥の部屋。戸を開けると、中ではベッドを挟んで千明と六時が向かい合っていた。言いたいことは少し思い浮かんだが、この二人に告げる気力もなかったので黙って中に入って戸を厳重に締める。持っていた盆を慎重に机に置いた。
 改めてじーっとにらめっこをしている二人を観察する。もう一度確認するが、ここは清磁家の一人娘、守の自室。
 「あの」
 張り詰めた空気に小さな隙間を空けてみる。
 「何?清磁(守)」
 呼び名は異なるが、とにかくハモって返事された。なんだか続けにくい。
 「何っていうか、にらめっこしてるの、それ」
 清磁の部屋は少しレイアウトが変わっていて、部屋の真ん中に柱がある。誰に言っても邪魔だろうと応えを返されるその邪魔な柱を頭に、窓の方に向かってパイプベッドをぽんと置いていた。朝日が差すとまぶしくてたまらないから、窓側には足を向けて寝ている。
 ベッドを挟んで押しいれがある側には、三つ下の友人千明が座っていた。
 「だってさ、清磁。ロクちゃんが」
 ベッドを挟んで清磁の机が置いてある側には、五つ上の友人六時が座っている。
 「むっちゃん」
 また少し呼び名は異なるが、六の付く年上の友人は頭を掻く。
 「いや〜、別に何もしてないよ、私は」
 「じゃあ、とりあえずベッド挟んで向かい合う配置はやめにしてよ」
 真ん中に置いてる自分が悪いのかも知れないが、長年の伝統は今更どうしようもない。六時はにこやかな顔で千明を呼び寄せた。
 「ほら千明ちゃん、こっち側に集合だってさ」
 「片側に三人寄ったら狭いよ」
 「なら向こうに二人が押しかけるかい?」
 ちらっとまだ膨れてる千明を見ると、
 「でかい二人に押しつぶされるのはヤだ」
 と両腕でバッテンを作った。
 「じゃあ……」
 「その話をしてたんだけどね」
 「何が?」
 「ベッドの上に座れば案外広いよって話してて。千明ちゃんが、ここに座ったことあるのかって聞くから」
 「うん?」
 清磁はなんとなくお盆を手に取り直した。
 「座るっつーか寝たことあるよって言っちゃってさ。そしたらみぞおちに」
 今度は六時の頭に木製お盆(使用年数3年半)が叩き込まれた。



 今、カウンターがぴったり1000でした。やったー。

2003年09月13日(土)



 蛙の子たち

 「むー」
 「なんか機嫌悪いっすね」
 「別に」
 「先に佑が来てたと思うけど、なんかありましたか?」
 「なら言わせてもらうけど」
 「あ、なんかあったんだ」
 「お前の愛弟子は背がでかいぞ」
 「はぁ?」
 「年は大体同じくらいなのに、こんなに背が違うなんて……正直予想以上だった」
 「予想ではどんくらい?」
 「3、4センチは向こうのが高いかなーって」
 「実際は?」
 「……」
 「佑は164ぐらいだって前言ってたから、社長とはだいぶ違うでしょ。だって社長昔150越えたって喜んでたぐらいだから」
 「うるさい!」
 「……はい」
 「そういえば千歳も背、大きいけど」
 「おかげさまで」
 「何かコツでもあるの?君たち師弟は」
 「ないですよ。大体、佑は初めて会った時からあのぐらいだったし」
 「もっと遡ればさ」
 「はいはい」
 「三鞍も背高かったよね。うろ覚えだけど」
 「あっはっは、そりゃよちよち歩きの社長からすれば三鞍さんはチョモランマみたいなもんだったでしょう」
 「遺伝かなぁ」
 「血は繋がってないっす。あ、でも社長の背丈は遺伝かも」
 「母さんてどんなぐらいの背だった?」
 「先代は……こっちも子供だったからよくわかんないすけど、あんまり大きくはなかったような。私が13ぐらいの頃にはもう抜いてたかな」
 「遺伝かぁ」
 「似てきましたよ、最近」
 「そうかな」
 「こういうのって、そうだ、生き写し」
 「それは言いすぎだよ」
 「いやいや。たまにね、社長がふらっと歩いてるの見ると、あれって思うんですよ。昔に戻ったみたいで」
 「医者と高田の前には行かない方がいいかもな」
 「なんでですか」
 「間違えて熱烈な歓迎されたらヤだから」
 「じゃあ、主任の熊をも絞め殺す抱擁と、先生の世紀のプレミアもんの泣き顔とどっちがいいですか」
 「できればどっちも回避したいよ」


2003年09月09日(火)



 アホとお知らせ

 「あのさぁ、男との初めてと女との初めてって別々にカウントするのかな」
 「何バカなこと言ってんですか」
 軽いため息とともに吐かれたセリフとともに、頭上にぺらぺらの下敷きが振り下ろされた。縦で。
 「いた!今縦だったでしょ!!」
 「横じゃ威力がないですから」
 「縦はありすぎ」
 「じゃあ斜めで」




 当サイト、弱くなりました。名前、と内容が。
 しばらくもっちり進行です。


2003年09月05日(金)
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