池ポエム
ハンス



 あの人の笑顔は

 「小僧のような笑顔」が「子象のような笑顔」だったら何がなんだかわからない。それはどうでもいいとして、できれば市井さん在籍時の頃に見てみたかった……モーニング娘。バイト先に市井さんて名字の人がいるのですよ。名前を見る度微妙な気持ちになります。下の名は違うんだけど、なかなか音的にも似てるし、何か芸能人みたいな名前なのです。
 

2003年01月29日(水)



 Hはエイチと読むのだけど

 二階に上がったら、部屋の前の廊下に人が待ち人が立っていた。目がぼや〜っとして輪郭しか見えない。でも陸路にはそれで十分だ。こんなに小さな知り合いは一人しかいない。いや、それは言いすぎか。
 「どうしたの」
 木製の階段がぎしぎし音を立てていたから、上がって来たことはわかっていたようだ。こっちを見ずに彼女は続けた。
 「別に。明日の仕事の話でもしようかと思って」
 いつもの通りのぶっきらぼうな口調。明かりの油がきれかけて薄暗いのに、トレードマークのサングラスは外しもしない。
 「暗くない?前見えてる?」
 思わず聞いてしまった。彼女は片眉を多少上に上げた。
 「お前よりは見えてるつもりだ」
 「あ、なるほど」
 こちらに歩み寄る足取りがふらふらしているのを見て指摘したのだろう。頭も不自然にゆらゆらしている。まだ許容量以内だと思ってはいる。見ためは完全な酔っ払いだが。
 「酔ってるのがすぐわかる奴だな、相変わらず」
 「ああ、そういや、そっちはわかんないもんねぇ。ポーカーフェイスの達人ですよ、あんたは」
 大勢で集まってわいわいするのがいかにも好きじゃないといった風の彼女は、確かににぎやかな場所は嫌いだった。そんなに態度で示してる人も珍しいと思う。会った当初はだから飲むのも嫌いなんだろう、下戸なんだろうと勝手に決めつけていた。答えが間違っていたことを知ったのは、何年前だったか。
 「こっちに来てるんなら一緒に来ればよかったねぇ。千歳さんも佑もいたのに」
 「別に、あいつとお前のバカ話に付き合うつもりはない」
 「あらら。確かに、バカな話しかしてないけど」
 後ろ頭をかきながら、さっきの会話を思い出した。もし本人があの場にいたら、二人とも頭をどつき倒されるに違いない。
 「とにかく入ろうよ。立ち話もなんでしょ」
 カチンというガラス瓶のぶつかる音がした。こちらを向いていた時は後ろ手にしていた物を体の前に隠すようにしながら彼女が先にドアを開けた。
 つづく

2003年01月14日(火)



 

 「チャックに手がかかった時が一番燃えるね」
 色んな意味で燃えている陸路がコップを振り回しながら言った。
 「あー、あの首まである上着ね。あれが降りるのが浅葱の合図なのか」
 隣で千歳が口を緩ませてうなずく。何かを想像しているらしい。
 「?」
 その隣では佑が一人ウーロン茶を手に曖昧な顔をしていた。
 「それでさ、癖なのか知らないけど、目ぇ逸らしてゆっくり下げてくんだよ。真っ暗な中で、シーンとしてんのに、時間かけて」
 「うわ」
 状況が鮮明に千歳の脳裏に浮かぶ。いや、暗闇に徐々に浮かび上がる白いものという連想が頭に貼りついた。今話題にのぼっている彼女の肌の白さを独り占めしているかと思うと、目の前の同僚がややうらやましい。
 「よく待ってられるね、陸ちゃん」
 「千歳さんならその瞬間に飛びかかってるか」
 「その通り」
 目だけで笑って、二人はうなずきあう。妙なところで気が合うのだ、といわれているが主に気があっているのは変態さだけなのではないかと思う。佑はウーロン茶を注ぎに立ち上がった。かれこれ一時間居座っている陸路は帰る気配を見せない。陸路が帰らないと、佑はうるさくて眠れない。
 「ふぁ〜」
 台所であくびをする。黄色と橙の皿とコップを流し場に置いて、明るい光が漏れてくる方をぼうっと見やる。ぼそぼそとした秘密の会話が少しだけ耳をくすぐる。内緒話をする声は少しも静かではないのに、無性に耳の回りを撫で回されているようだ。そのまま椅子に座り込む。台所に座り場所がない、と突然言い出した千歳が昨日買ってきた木製の椅子だ。
 「先輩はオレンジとか茶色とか、そういう色が好きなんだな」
 白い肌に灰色の髪、青い目なんかしてると自分にない色を好きになるのかもしれない。
 [つづく]

2003年01月12日(日)



 是非教えてもらいたいこと

 今日、名古屋パルコのセンチュリーシネマで「八人の女たち」を観てきました。私の生涯ベスト10には余裕で入ると思います。・・・で、それはいいんですけど、どうしても見ててわからなかったことがひとつ。いつもは映画で意味わからなかったことなんかどうでもいいからすぐ忘れちゃうのにこれは気になってるんです。「なぜルイーズはオーギュスティーヌに注射することをあれほど頑なに拒否したのか」ってことです。その後に何か理由言ってましたっけ?こんなに気になるのは、ただもうルイーズの美貌にクラッときて画面に映る度にトキメいとったせいでしょう。きれいでした、あの女優さん。伏目がちな表情が最高。

2003年01月09日(木)



 魔女たちの生活

 春が来て夏が来て、秋が来る頃に両親に言われてここにやって来た。でも、彼女はその何倍もの季節を一人で、たまには誰かと、越えてきたんだろう。だから今更弟子が一人、同居を願い出たって何とも思わなかったはずだ。一日目は口をきかなかった。二日目は単語をしゃべった。三日目に話しかけたら、相槌が帰ってきた。四日目からは覚えていない。長い年月を越えすぎると一回一回の会話なんかどうだってよくなる、のかも知れない。今ジェニーと話してる12歳の少女の中身は112歳のおばあさんなのだから。
 理由をそれとなく聞いてみるのには苦労したな。魔法使いなんだから何だってある。永遠の命を得る方法、一度死んでまた生き返る方法、死と生の境に生きるものになる方法・・・これは全部彼女の家の書棚から勝手に持ち出した本で知った知識。両親も魔法使いだったけど、こんなあやしげな本はなかった。どうも、師匠の体は死なないというタイプの不死らしいということはわかった。椅子に座って居眠りしてるとこなんかを観察したからね。少女のような容姿は何かの力で保たれている様子はなくて、まったくの自然だ。眠っている時も食べている時も変化はない。お前はいちいち笑ったり怒ったりうるさい、ってよく言われる。僕くらいの年の子供は普通そうだろう。師匠の顔は子供なのに、そういう表情の変化が乏しくて、人形みたいにつるりとしている。
 「クリス、そろそろ行くぞ」
 「え?」
 「明日また来るってさ、この子供ばあさん」
 師匠はジェニーさんを睨むとさっさと扉から出て行ってしまった。
 「明日、誕生日パーティーをやるから、今日は帰るんだって」
 ジェニーさんは師匠には一回死んでもできない笑顔で言った。
 「あんたも是非来るのよ、クリス」
 「もちろん」
 次の日、112歳を祝いたい人達が町外れの酒場に集まった。

2003年01月04日(土)
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