 |
 |
■■■
■■
■ Hはエイチと読むのだけど
二階に上がったら、部屋の前の廊下に人が待ち人が立っていた。目がぼや〜っとして輪郭しか見えない。でも陸路にはそれで十分だ。こんなに小さな知り合いは一人しかいない。いや、それは言いすぎか。 「どうしたの」 木製の階段がぎしぎし音を立てていたから、上がって来たことはわかっていたようだ。こっちを見ずに彼女は続けた。 「別に。明日の仕事の話でもしようかと思って」 いつもの通りのぶっきらぼうな口調。明かりの油がきれかけて薄暗いのに、トレードマークのサングラスは外しもしない。 「暗くない?前見えてる?」 思わず聞いてしまった。彼女は片眉を多少上に上げた。 「お前よりは見えてるつもりだ」 「あ、なるほど」 こちらに歩み寄る足取りがふらふらしているのを見て指摘したのだろう。頭も不自然にゆらゆらしている。まだ許容量以内だと思ってはいる。見ためは完全な酔っ払いだが。 「酔ってるのがすぐわかる奴だな、相変わらず」 「ああ、そういや、そっちはわかんないもんねぇ。ポーカーフェイスの達人ですよ、あんたは」 大勢で集まってわいわいするのがいかにも好きじゃないといった風の彼女は、確かににぎやかな場所は嫌いだった。そんなに態度で示してる人も珍しいと思う。会った当初はだから飲むのも嫌いなんだろう、下戸なんだろうと勝手に決めつけていた。答えが間違っていたことを知ったのは、何年前だったか。 「こっちに来てるんなら一緒に来ればよかったねぇ。千歳さんも佑もいたのに」 「別に、あいつとお前のバカ話に付き合うつもりはない」 「あらら。確かに、バカな話しかしてないけど」 後ろ頭をかきながら、さっきの会話を思い出した。もし本人があの場にいたら、二人とも頭をどつき倒されるに違いない。 「とにかく入ろうよ。立ち話もなんでしょ」 カチンというガラス瓶のぶつかる音がした。こちらを向いていた時は後ろ手にしていた物を体の前に隠すようにしながら彼女が先にドアを開けた。 つづく
2003年01月14日(火)
|
|
 |