ぼくたちは世界から忘れ去られているんだ

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2004年07月10日(土) きれいな気もしてきただろ?
 テスト中、わたしの気持ちはどんどん内側へ向かっていった。水槽の中の小鳥のように。鳥かごの中の魚のように。どうしてこんなところにいるんだろう、って思ってた。間違ってる、って。小鳥は鳥かごの中にいるべきで、魚は水槽の中にいるべきなのに。いや、それは間違っているな。小鳥は大空を舞うべきで、魚は海やら川やらで、のびのびと泳ぐべきだ。
 でも、つかまってしまったのだった。誰が自分をつかまえたかなんてもう憶えちゃいない。ただ、大きな、あるいは小さな手が、自分をつかまえるとここへつれてきたのだった。
 わたしも同じだ。生まれたころは、小さかったころはこんなところにいなかった。もっとだだっ広い、いや、狭かったかもしれないが、とにかく、ぜんぜん違うところにいたはずだ。それが、どうしてこんなところでテストなんかを受けてるのだろう。わたしの頭の上にはくだらないマンガのように疑問符が飛び交っていた。
 ナゼ、ドーシテ、ワタシハコンナトコロニ。
 理由がいるかい?ってよく彼は云っていた。わたしが、「どうして」と訊ねると彼は必ずと云っていいほど云った。
「理由がいるかい?」って。
 わたしはなんで理由を知りたいのかなんてことすら忘れて、小さくなった。そう、彼の前ではわたしはいつも小さかったのだ。
 理由がいるかい。いるのだろうか。いらないのだろうか。少なくとも訊いたときのわたしには必要に思われた。でもそんなのまやかしだった。うそっこだった。わたしは云い直す。
「ううん、別に、たいして意味はないんだけど、ただ、ちょっと、気になって、それだけ」
 彼は笑いもせず続ける。
「理由がいることなんてあるの?理由って何?僕にはわからない。でも君が知っているなら教えてほしい」
 挑発してんのか、ってぐらい真摯で澄んだ目。わたしは結局彼の問いには一度も答えられなかった。彼と森ではぐれてからもう何年たつだろう。彼はあの薄暗い森にまだいるのだろうか。わたしが見捨てた、と思って。別にわたしは見捨てたわけじゃない。ただ、助かりたかっただけだ。いや、見捨てたのかなあ。よくわかんないや。
 彼に、道端とかで、ひょいって会ったらいいのに、っていっつもって云っていいほど思ってる。
 渋谷で。あるいは日比谷で。そんな人の多いところで、運命の再開、とかそんな陳腐な言葉がよく似合う出会い方をする。
 彼はきっとまたいつものように、やあ、と云うだろう。わたしはいつものように、あ、と言葉に詰まるだろう。彼と会ったとき、わたしはいつも言葉に詰まっていた。先生に指名された子供のように。
 彼は別に饒舌だったわけではない。でもなんとなく、彼のしゃべったことは印象に残っている。それは別に面白かったとか、ためになったとかそういうわけではない。ただ、なんとなく、ことばの尻尾がわたしの心のドアーに挟まって、とるのは忍びないと思っている、というような。
 なんか話がずれてしまった。テスト中の話だったのに彼の話になっている。
 まあ、このへんで。


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