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2002年10月04日(金) 君の中で骨になれるのなら〜林矢子『弾き語る秋涼 其の一』@初台DOORS〜

 夕べは林矢子『弾き語る秋涼 其の一』@初台DOORS。出演はしないものの、リハーサル段階からステージを観ていた。銀座タクト、宇田川カフェとステージが低い所が続いたから、ステージ上の彼女を見上げるのは本当に久しぶり。 DOORSはライブハウスの中でも作りがきちんとしていてPA、照明をはじめとした設備もかなり良い。1階はすべて禁煙とした配慮も煙草を吸わないものにとっては嬉しい。

 1曲目『青のかたみ』のイントロが奏でられる。何度も聴いたはずのこの曲が違う曲に聴こえる。それもその筈、僕のベースの音がない。しかも、聴いているだけでいいのに、まるで弾かなくてはならないような妙な気分。それでも何かが足りないのではなく、まるで最初からベースなどなかったように彼女は唄いあげる。元来、唄とはそういうものであるというように。間奏に入るところで少しか細くなった唄声が、波が寄せ返すように一気に巻き返してくる。それからは水面の少し上を漂うような浮遊感が心地よかった。
 続いて新曲『夏離れだより』。「なつがれ」と余り耳にしない言葉は彼女の造語。その「なつがれ」を見事音で表現したような軟らかいギターのアルペジオ。それとは裏腹に唄声は切なく、聴き終えると寂しさだけが残った。
 『雨の色は』『栞』と続き、この辺りから声も充分に出てくるようになり、一層惹き込まれる。ギターだけの弾き語りのはずが、色んな音が聴こえてくる。それはその音が欲しいのではなく、もうすでにそこに在る感じ。聴こえないものまでも聴こえて来る。
 そして『夕顔』。何故だかこの唄がこの頃聴きたくてたまらなかったので嬉しい。照明のまばゆい光の中で唄を聴くと、より黄昏れられた。ちなみに夕顔とは「よるがお」の俗称。夏の夕方、あさがおに似た白い花を咲かせる。今はもう秋だが、曲の一番最後のストロークはそんな花が咲くような音だった。


海鳥の目で空を仰ぐ君と
僕は一目で恋に堕ちてしまった
胸に残ったちいさな火傷のあと
ひろがって僕の体焼き尽くしてゆく

夕凪に羽ばたけずに僕らは一滴の言葉で漂う恋人

僕はもう何もいらないよ
君の中で骨になれるのなら
薔薇色に燃えるあの海の底へ
抱き合った眩暈の中沈んでゆけたら


 ラストにこの『楽園ワルツ』。以前、バンドで唄っていた時はアンケートでも必ず上位に入っていた曲。最近のライブでは全然やっておらず、理由は只新しい唄が歌いたいだけとのこと。しかし始まった途端、この唄に全てを持って行かれた。今までが決して悪かった訳ではない。どれも良かったはずなのに良くも悪くも、これまで聴いてきた唄を全部かき消すような力をこの唄は持っている。僕がはじめてこの唄を聴いた衝撃は並大抵のものではなかったが、今はそれが増すばかり。僕は最後の最後の1音まで息を止めて聴かずにはいられなかった。

 30分と非常に短いステージだったのだが、それでも凝縮され、唄に詞に惹きつけられた。今まで一緒にやって来て、曲にどう肉付けするかばかりを考えていたのだけれど、裸にし骨だけにすると観えてくるもの、聴こえてくるものがある。どうやら僕は随分と遠回りをしていたみたいだ。

〜セットリスト〜
1.青のかたみ
2.夏離れだより
3.雨の色は
4.栞
5.夕顔
6.楽園ワルツ

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