ソレイユストーリー
▽▲▽▲▽ ソレイユストーリー ▽▲▽▲▽

2010年03月02日(火) ショートストーリー

『遠い未来の話』


ここは機械の島。
花も木も、魚も鳥も犬も馬も・・・
住人達も皆ロボットである。
と言っても、肉眼では容易に見ることは出来ない。
全てはミクロの世界だから。
ロボット工学とバイオテクノロジーがオーバーラップしかけた頃に、
科学者と呼ばれる者のあるグループが、私的好奇心と有り余る援助金で、
これらの創造を成し遂げた。
それから数世紀後、彼らは何処か遠くへ行ってしまった。

ある時、機械人の中でも頭脳の優れた者が荒野を旅していた。
そしてとても深い谷底へ降りたとき、彼は今まで見たことのない遺物に遭遇した。
それは長年の風化作用で腐食しかけた何かのフレームやネジの山だった。
一見すると自然の岩山のように見えた。
彼は考古学者らと共に、遺物を発掘しては街へ運び詳しく調査した。
何千何百という遺物は、試行錯誤の末一つに復元された。
それは現存するどんな生物にも当てはまらなかった。
手も脚も無く、ただフレームが蛇のように絡み合って複雑な迷路になっているのだ。
物体は巨大なトレーラーで、街から離れた中央博物館へ移された。
復元を引き継いだ生物学者達は、早速復元図を描いた。
それは無数のマッスルシリンダーで肉付けされ完成した。
人々は興味深く見学に集まった。有る者は「芸術品」として、
有る者は「遺跡」として鑑賞し、口々に論評し合った。

数世紀後・・・
何時しか遺物は人々から忘れ去られた存在となった。
島全体が、種族的衰退を始めると、街の発展も停止状態となった。
そんな中、ただ遺物だけが本来の姿を保っていた。

そしてマクロの世界では・・・

あるマイクロマシーンの研究者が以前使っていた研究室へ足を向けていた。
何のために? それは彼しか知らない事だ。
網膜スキャンでロックを解除すると、重いドアーが開いた。
彼はガラスケースを開けるとミクロの世界を電子顕微鏡で観察し始めた。
緩んだ口元から聞き取れない小さな呟きが発せられる。

「・・・これはいったい」

ある日、機械の島で大地震が起きた。全ての建物は積み木細工のように崩れてしまった。
・・・その時だった。沈黙するオブジェに甘んじていた遺物は、初めて作動を開始した。
創造主の意志によって組み込まれたプログラムは敵を見つけ、
そこへ向けて内部のエネルギーを放射し続けた。
そう・・・自らを崩壊させてしまうまで。

マクロの世界では・・・
研究者が見守る中、電子顕微鏡の中の世界はみるみる崩壊していく。
彼は諦めにも似た表情を浮かべると、研究室を後にした。


 おわり


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