ソレイユストーリー
▽▲▽▲▽ ソレイユストーリー ▽▲▽▲▽

2004年01月09日(金) 23話 『地底』

トライホイールの後部に取り付けられているドーザーブレードで、
ドームの上に堆積した土砂を掻き分ける。
しだいに透明な耐圧ガラスが見えてきた。
光が差し込むに連れ、
奥で眠っていたヘビコウモリ達がにわかに騒がしくなった。
彼らにとっては安住の地を追いたてられる訳だ。
天蓋がすっかりキレイになると、
今度はモノレールの発着口を塞いでいる土砂を掻き分けていった。
しだいに現れるプラットフォーム。
その突き当たりには防災用のシャッターが降りていた。
クヴィスはそこに歩み寄ると、例のレーザーカッターを高出力にして、
馬蹄形に侵入口を切り込んだ。
そして両手で思いきり押し倒す。
ガーンと巨大な空洞が響く。
中から冷たい空気が吹き出して来た。
後ろで見守っていたリアラはヘルメットを被り中へ入っていった。

「テラスの3段目までは砂が堆積しています」とクヴィス。

「そうね。始めはそこで栽培をはじめましょう」

「地下水のくみ上げはポンプでは無理です。
 簡単なモーター式の釣瓶井戸をこさえます」

「そうしてくれる。私と子供達は地下水の様子を調べてみるわ」

ズミ、セトスが母親について長い長いテラスを下降していった。
もちろん危険に備えて電撃ロッドと機関銃を携行している。
11階層あまり降りた所に高架チューブが架けられていた。
チューブの下の梁には無数のヘビコウモリが、
まだ眠たげにぶら下がっている。
起こさなければ害は無いだろう。
三人はプラットフォームに入っていった。
自分たちの足音の他に何か気配がした。

クゥ〜クゥ〜

ヴグググッ!

獣の声だ。

セトスが持ってきた強力なサーチライトをそっちに向けると、
なま白い小型の獣が3〜4匹逃げていった。

「聞いた事があるよ。地下犬だよきっと」

セトスは二人に説明した。

「あれはもともと人間のペットだったんだ。
 けれど野生化してこんな暗がりで生きるようになった。
 今では視力も退化している。
 きっとヒカリナメクジやキノコなんかを食べているんだろう」

リアラはなんだか可愛そうに思えた。
ふと紅粉鳥のことを考えた。
あの子は自然界で生きていく力が無いのだからもっと哀れなのかしら…

ズミが急に「魚釣りをしようじゃないか!」と叫んだ。
陽気なズミ。

「地底湖にはどんな魚がい る の か な あ えへへ〜」

おどけて見せる。
三人はさらに下って地下水が溜まっている階層までやって来た。
明かりを照らす。
時々パシャッと何かが撥ねる。
 
「泳いじゃおうか!」

ズミが服を脱ぎ捨てるとドボンと跳び込んだ。

「ひぃえ〜冷てぇ〜〜!」

「気をつけなさいー」

とリアラ母さん。

「あ、ぁぁしっ、足になんか触った!」

血相を欠いてジャバジャバとテラスに這い上がったズミ。
その様子があまりにもこっけいだったので、
リアラとセトスは腹を抱えて笑い転げた。
笑い声が深い暗い地底でこだました。

 
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クヴィスの分析結果によると、地下水は科学的汚染はされていなく、
簡易濾過器で充分飲料になるそうだ。
泳いでいた魚はメクラウナギの一種で、
主に小エビを餌としているらしい。
これも食用になるそうだ。

さてこれからが農園再開のための本格的な仕事。
クヴィスが土木の専門知識を持っているおかげで、
リアラ達はかなり助かった。

「お別れですね」

リアラはお世話になったモーウィーに、
何と言って良いか解からないくらいだった。

「私達はこれから西海岸まで鉄塔を辿っていく
そこで海の連中と交易してからまたここへ戻るつもりだ」

どれくらい先の話だろぅ…

「コモナをここへ置いて行く」

含み笑いをするモーウィー。

「助かります。男手は幾らあっても足りませんから」

リアラの後ろで話を聞いていたキームがふいに何処かへ走り出した。
たぶん恋する彼の所へ行ったのだろう。心浮かれて。

「テレビのニュースによると、
沿岸部の難民はかなり被害に遭っている様子です」

リアラは人事と思えなかったのだ。

「…あなたがたは海の人間を嫌っていらっしゃる様ですが、
 私もあの子達も元は海の人間でした。
 どうか…沿岸部で難儀している人達を見つけたら、
 ここのことを知らせてあげて下さいな」

「ここ」とは水と食料に恵まれたジオシリンダーのことだ。
これから苗を植えつけて、育てていけば優れた農場にもなるだろう。
荒れた商用ブースを手直しすれば立派な住居にもなる。

「私達は海の人間達と最低限の接触を持つことで
 長いこと存続してこられた一族です。
 彼らは好戦的すぎます。しかし今は様子が違うみたいですね。
 海賊も難民化して以来、海軍に志願しなかった大半は、
 沿岸部でコロニーを形成して地味に暮らそうとしているというし。
 まぁ…それも悪くないでしょう。やってみます」

リアラの顔がパッと明るくなった。
かつてロフティーの家族が虫たちに農場を荒らされて、
已む無くバラバラになって箱舟の親方に買われて行ったこと、
そのことがロフティーの心に深い傷を負わせてしまったこと。
ある日自分の元を離れていった彼だけれど、今でも気掛かりなのだ。
そう…いまごろ彼は何処で何をしているのだろう。
ニュース番組の情報では、正式な海軍の司令官に任命されたそうだけれど。
彼の心は日々おだやかなのだろうか。それとも…                   


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