ソレイユストーリー
▽▲▽▲▽ ソレイユストーリー ▽▲▽▲▽

2004年01月07日(水) 21話 『ジオシリンダー』

人間が仁王立ちして両腕を水平に伸ばしたような形状の鉄塔。
それらが延々と点在するこの砂漠。
変化の無い退屈な風景に突如出現した異様な物…

鉄塔達が作る見えない直線を遮る様に立ちはだかる、
直径200メートル、高さ70メートルあまりの円墳。
それは捜し求めていた"駅"の一部だった。
トライホイールのキャラバンはクヴィスの指示に従い、
巨大な車体を傾けてその円墳に登っていった。
頂上にすりばち状の穴が穿ってある。
まるで中に巨大な蟻地獄が住んでいるかの様だ。
始めに地面に降りたのはモーウィだった。
彼女はすり鉢のギリギリの所まで歩いていった。
固いブーツの踏みしめた砂がさらさらと流れて穴に吸い込まれていく。
この中にはいったい何が有るのだろうか…

クヴィスはトライホイールのウインチのワイヤーを腰に繋いで、
勇敢にも暗闇の奥へと降りていった。
額のサーチライトが暗闇の中で一筋の光を作った。
ゆっくりと下降しながら、クヴィスは周囲の状況を探索した。
エコーによる距離の測定でおおよその広さが解かった。
この建造物は約200メートルの円形で、
よく解からないがかなりの深さだった。
ウインチの長さが足りないので一旦引き上げてもらった。
今度はジオテックドームの梁を伝ってドームの内側を調べる。
クヴィスは手長ザルのような動作で軽妙に梁を伝っていく。
果してドームの縁、モノレールのプラットフォームらしき所に辿り着いた。
色褪せた広告が照らし出される。
笑顔の女性が髪をなびかせていた。
プラットフォームから延びる止ったエスカレーターを降りていくと、
緩やかに螺旋状に下降する通路に出た。
通路の内縁にはかつて人々の購買意欲を刺激したであろう、
着飾ったマネキンが並んでいる。
そのうちトレジャーハンターに荒らされたと思しき商店を見つけた。
電飾やアクリル看板がごっそりと剥ぎ取られている。
アンティークとしてのいくらかの価値があるのだろう。

さらに進むと透明な高架チューブにぶつかった。
これが駅の中心部へ繋がっているらしい。
クヴィスの導いた駅という名の巨大な建造物は、
かつて人類が昆虫から身を守る為に築いた砦のことなのだ。
古の時代、砦は無数に存在した。
しかし海上へと生活の場を移していった人類は、
放棄した砦を昆虫の根城にされないために破壊した。
たった一つを残して。
大陸の中央に位置するこのジオシリンダーだけは、
遠い未来の人類へ文明復興の希望をかけて残されたのだった。

夕暮れになると希望のタイムカプセルに開けられた小さな穴から、
無数のヘビコウモリがエサを求めに飛び発って行った。


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