Juliet's Diary HOMEDiary INDEXpastwillsellection


2003年08月30日(土) 待ち人は、つよし

”これから、この車の中でのこと、忘れてくれる?”

結局、3ヶ月、というのは、勘違いで、実際は、もっと、短い。
あっという間の、2ヶ月だった。スマコン、あったし。


おいかしいと、思っていた。なんか、ヘンだ、と、思っていた。
木村に話すと、木村も、そう思っていた。
たっくんに、話したら、不思議そうな顔を、した。
世の中に、”女のカン” というものが、存在することを、知った。


”つよしくんさ・・・。会社、辞めるの?”
”そうだよ。もう、辞表、出して、受理された”

辞表は、まだだと、思っていた。すごい、ショックだった。


”オレは、やる気のある職場で、働きたい”

その言葉に、返す言葉を、わたしは、持っていなかった。



”やる気出せ、って、言うけどさ。
ほんとうに、やる気のあるヤツは、辞めていっているんだよ”
昔、担当だった、営業マンが、言った言葉。
”だから、ここに残っているのは、やる気がなくて、低能、で、バカばっかだ!
おまえら、みんな、バカだ! バカ集団で、売上なんか、上がるわけねーだろ!”

営業部、どっと、バカウケ。ほんとうに、そうだと、思った。
自分は、やる気もなくて、特技もなくて、どうしようもないから、
ここに、残っているのだと、痛感した。笑うしか、なかった。



”アイツと同期なのも、イヤなんだよね”

アイツとは、社長の息子。いわゆる、Jr. 通称、デ部長。
わたしと、つよしと、同じ歳。

ちなみに、”つよしとらぶらぶ忘年会” のメンバーは、
たっくんを除く、3人全員が、Jr. と、同期。
年齢も同じで、いっしょに、営業所を、新規に立ち上げたりと、
苦楽を共にし、デ部長の信頼も、篤い。
彼らも、それが、わかっているから、まだ、ほぼ、平社員のクセして、
役員デ部長に、容赦なく、苦言を、進呈している。

つまり、将来の社長の、両腕ともなる、メンバー達。
まるで、出世するのが、わかっているような環境も、イヤなのだと。

確かに、つよしは、出世するだろう。
特に、管理部門では、需用は、高い。
業務、営業、センター、そして、資材。
当社の、総務経理以外の、その全ての業務を、経験している。
そういう若手は、いまのところ、つよししか、いない。




”世の中は、そんなに、あまかへんで”

まさか、社長に向かって、やる気のない会社だから、とは、言えまいに。
今日、つよし、最後の出社日に、社長自ら、お声かけ。
もっと、世の中を、見てみたい、と、ウソ八百?の、つよしの、言い訳。

”この8年を、捨てて、また、1から、はじめるつもりなんか?
うまくいけばいいけど、そんなに、世の中、甘くないで”

昼休み。つよしの席とは、背中合わせ。
わたしは、お弁当を食べながら、背中で、聞いている。


”次のは、決まってないんやろ?”
”しばらくは、就職活動です”
”お前、営業がダメだったのは、自分でも、わかっとるやろ?”
”はい、わかっています”
(実は、つよしは、営業部では、数年、ということもあり、
あまり、よい成績を、残していない。勿論、つよしは、自覚している)


”それやったら、なおさらや。
お前は、ここ(管理部門)では、なかなか、いいようやんけ”

がんばれ、社長! 
今更、って、気もしないけど、世の中、どう、ころぶか、わからない。


”世の中を、見たいなんてな、若い男には、あるもんや。
カミさんが、おってもな、他の女と、××したいことと、おんなじや”

はっ? 社長、なにを、おっしゃって?
今は、そんな、話とは、ちょっと、違うような。
つよしも、チカラなく、わらってるやんけー!

”まぁ、それとは、次元が、ちゃうがな。でも、そういうことや”

あのー・・・。ちょっと、それは、大分、話が、脱線して・・・。



”オレは、まだ、受け取って、おらんで”

ふっ、っと、空気が、変わる。
つよしの勤務予定は、実は、9/15まで。
今日が最後なのは、有給消化が、あるからで、実際の退職日は、2週間後。


”オマエが、辞めてくれて、よかったとか、使えないとか、
オレは、そういうことは、一切、聞いておらん。
むしろ、辞めて欲しくない、と、聞いておる”

お弁当の箸が、止まってしまう。

”営業からひとり、後任にするようやけど、
ソイツが、管理で、でけるかは、やってみな、よう、わからん。
でも、ソイツは、営業部では、でけている。オマエも、管理で、でけている”


社長が、ぽんと、つよしの肩を。


”あと、15日。家で、ゆっくり、考えや・・・”



涙が、止まらない。
ぱたぱた、ぱたぱた、止まらない。

つよしが、辞めることが、悲しいのか?
社長が、優しいから、うれしいのか?

引き止められずに、退職する人も、多いのに。
社員数だって、そんなに、少ないというワケじゃ、ないのに。



”じゅりさん・・・。はい、ティッシュ・・・・”

業務課では、トイレットペーパーが、常備してある。
でも、今回は、鼻炎者の、たっくんが、自前の、やわらかテイッシュを。


わたしの、鼻をすする音だけが、社長の去った後に。
でも、つよしは、なにも、言わない。
おそらく、社長が言っても、彼の気持ちは、変わらない。




”じゅりさんも、いっしょに、いなくなっちゃえばいいのに”

前述の営業マンが、軽口で。(軽口魔王が、多いのよ)

”うん。わたし、つよしくんに、ついていくの”
”あら。つよしくん、よかったわねー。じゅりさん、ついってってくれるって”
(コイツは、男だけど、おねえ言葉です)


そしたら、つよし!

”じゅりさんが、オレに、ついてきてくれるのは、うれしいんだけど(笑)”

わたしも、営業も、びくっり!
”つよしくん・・。冗談でも、あまり、聞きたくない言葉だったよ・・・”
ちょっぴり、いや、かなり、薄気味悪い。


そしたら、案の定、最後の挨拶は、
”もう、一生、会わないと思うけど” だってさ!


”あれ? オレに、ついてきて欲しい、って、言っていなかった?”
”そういう冗談、やめてくれる?”

向かいの、たっくんの席に、座りながら。
まったく、自分の冗談は、いつもOKで、かまってやろうとすると、拒否するなよ。

”龍兄。目の前に、人相の悪い人が、座っています”
”また・・。最後の最後まで、そんなことを・・(龍兄、呆)”



つよしは、絶対、自分の考えを、変えることは、ないだろう。
でも、わたしも、たっくんも、木村も、龍兄も。そして、他の社員の多くも。

きっと、きっと、待ってしまう。
2週間後に、不機嫌そうに、出社してくる、彼を、待ってしまう。


ありえない。まず、絶対、ありえない。
でも、それでも、待ってしまう。
そして、わたしは、ここまで、惜しまれて、辞める人を、他に知らない。


”もう、二度と、会わないと、思うけど”

っつーか、送別会、あるし。
でも、おそらく、それ以降は、ほんとうに、会うことは、ないでしょう。
けど、やっぱり、最後の最後まで、さよならは、言わないことに、致します。

じゃ、お疲れさまでした。


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