[ 天河砂粒-Diary? ]

2004年03月29日(月) 「文字書きさんに捧ぐ46の台詞」開始?

何か、書きたい。しかし、新しく連載をする気力は無い。
そんな腑抜けさんのための、「○○のお題」シリーズ!
ということで。
文字書きさんに捧ぐ46の台詞を、不定期連載(?)することにいたしました。
目指せハードボイルドです! 嘘です。ごめんなさい。(諦めるの早すぎ……)
またしても、現代ファンタジーになるのではなかろうかと思われます。
行き当たりバッタリ度120%という新鮮さでお届け予定です。
気が向いたときに、おつき合いいただけると嬉しいです。
尚、ページ下部にメールフォームも設置してみましたので、
ご意見、ご感想、雑談など、お気軽にご利用ください。
お待ちしております。

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『天使と術師と探偵と』

<プロローグ>

 その日は朝から暇だった。
 いや、正確に言うならば、その日「も」朝から暇だった。
 友人から「道楽探偵」という名で呼ばれる男、ヤヒロは、その名の通り道楽でやっている探偵事務所で、ぼんやりと新聞を眺めていた。机の隅に置かれたコーヒーカップは、とうにカラになって、今ではカップの底で、飲み残しのコーヒーがまだら模様に干からびて固まっている。
「うーむ」
 新聞の隅から隅まで。それこそ、一行広告からテレビ欄に至るまでを一字一句漏らさずに目を通し終えたヤヒロは、ため息混じりに唸る。
「暇すぎて、どうにもこうにも」
 平和に窓から差し込む光に目を細めて呟くと、応接用のソファーの上で、それまで黙って本を読んでいた少女が眉をひそめて言った。
「やだ、ヤヒロ。独り言なんてオヤジ臭い」
 両サイドで結んだふわふわの髪が、光に透けて栗色に輝いている。
「そんなに暇なら、仕事でもすれば良いじゃない」
 呆れたように首を振る少女の頭で、ペパーミントグリーンのリボンがひらひらと揺れた。
「依頼がなければ仕事もできないんだよ、キリエ」
「じゃあ、散歩にでも行けばいいでしょ?」
 ぴょんと、ソファーから飛び降りて、キリエと呼ばれた少女がヤヒロに近づく。
「そもそもよ。イザリの買い物について行ってたら、こんなに暇にはなってなかったと思うわ」
 くびれのない、すとんとしたウエストに両手をあてて、椅子に座ったヤヒロを見上げる。
「……不在の間に、依頼人が来たら困るだろう」
「朝から誰も来て無いじゃない」
 もっともな指摘だった。
「……来るかもしれないだろう」
 なんとかそう切り返したが、誰がどう聞いても苦し紛れの強がりにしか聞こえないことは、ヤヒロ自身も自覚していた。
「呆れた大人だわ。33歳にもなって」
「まだ32だ」
「そういう細かいところにこだわる時点で、もう、逃れようもなくオヤジなのよ」
「逃れようもなく……」
 オウム返しに呟いて、ヤヒロはがくりと肩を落とした。
 オヤジと言われたことよりも、12歳の小娘に言い負かされているという事実がひどく情けない。
「だいたいね。依頼が来ないなら、チラシを蒔くとか、ご近所にご用伺いして回るとか、そういう営業努力くらいしなさいよ。ぼんやり事務所で待ってたって、そうそう依頼が舞い込んでくるはずが無いじゃない。そんなんだから、道楽探偵なんて呼ばれるのよ」
 一気に畳みかけられて、ますますうなだれる。
「チラシ蒔いたり、ご用聞きしたりってのは、ハードボイルドじゃないんだよなぁ」
「何言ってるのよ。感情を抑えて、淡々とチラシ配り、ご用聞きすればいいじゃない。ハードボイルドは精神論よ。その人の、心のあり方よ。行動うんぬんの話じゃないわ」
「キリエ……」
 意味をわかってしゃべっているのか? と、言いかけたセリフを、ヤヒロは寸前で飲み込んだ。何を言っても、言い負かされそうな気がする。
 それに。実際のところ本当に、ヤヒロにとって、この探偵事務所は道楽なのである。
 基本的な収入は、曾祖父の代から続く不動産業で得ている。家を貸すだけでは、今の時代なかなか生活もままならないが、この辺りでは有名な、古くからの大地主ともなれば、寝ていてもお金は入ってくる。その分、税金もごっそり引かれてしまうわけだが。その辺の税金対策としても、むしろ、探偵業では儲からない方が、ありがたかったりもするのだ。
 しかし。だからといって、かなりの期間、依頼がゼロという状態は正直、探偵事務所としてのアイデンティティに関わる問題でもあり。ヤヒロとしてもその辺のバランス取りが、非常に難しいところでもあるのだった。
 前回、依頼があったのは、2週間前。そろそろ次の依頼が欲しい気もする。
(チラシ配りねぇ……)
 思わずぼんやりと窓の外に視線を彷徨わせたヤヒロの耳に、壁掛け時計の、12時を知らせるチャイムが響く。
「腹減ったな」
 ほとんど条件反射でそんな呟きを漏らしたヤヒロを、あきれ顔で見つめながら、
「ヤヒロにハードボイルドは、絶対に似合わないと思うわ」
 ペパーミントグリーンのリボンを左右にゆらして、キリエは大きくため息をついた。

プロローグ 完
→お題その1「一円玉で五十円ってのは酷じゃないか?」 へ続く


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