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読書日記。「忘れられた日本人」「境界の発生」「水木しげるのラバウル戦記」 - 2004年08月15日(日)

「忘れられた日本人」宮本常一 岩波文庫

友人に強く奨められて読む。
さすが
私の好きな岩波文庫第7位 
にランクされるだけのことはある。
圧倒的な「書物」としての存在感。

土佐の山中の乞食小屋に住む盲目の元ばくろうが語った
「土佐源氏」の女性とのマグワイの数々もすごいが、
(映画にしたらおもしろいだろうな)
わたしがとても強くひきつけられたのは
冒頭「対馬にて」の「寄り合い」の方法だ。

今のわれわれの国や組織の物事の決め方とは劇的に違っていて
それは感動的といってもいいほどだった。
もちろん小さな共同体だから可能な方法だとも言えるのだろうが、
一見雑談のようなその話し合いは、大勢の人間が何日も時間をかけて行う。
協議は区長と地域組とのあいだをなんども往復し、
時々に議題はうつりゆき、また元に戻り、
多くの人がそれに関わる過去の体験を持ちより、
やがてゆっくりとひとつの結論に収斂してゆく。

強引な結論は決定後の齟齬を生む。
小さな共同体においてそれは致命的なことだ。
(国家や地球規模で言っても実はそれは致命的なはずだ。
ただその齟齬をないものとして次に進んでゆくだけなのだ。)
対馬の人々が自然にとってきた賢明な方法から
「場のはたらき」ということを考え、
「時が熟す」ということばを思った。
また、その「時の熟す」のにじっと寄り添って、
そこに隠された哲学とも呼ぶべきものを
ていねいに拾い上げた著者の精神の深さを感じた。

素朴な食材だが滋味に富む食事を味わっていただいたような読後感である。



「境界の発生」赤坂憲雄 講談社学術文庫

おもしろかったのだけれど情報量が膨大で
一読しただけではとてもとても。
読みながらアメリカとイラクのことを考えたり、
自分の身のまわりの境界のことを考えたりしていた。


「水木しげるのラバウル戦記」ちくま文庫

想像もつかないくらい過酷な状況をたんたんと語る語り口が
逆になんとも言えぬものすごさ。

水木先生の肉体の強靭さと人間スケールのでかさ精神の自由さに驚嘆。
やっぱりカリスマです。
水木先生が尊敬の意味をこめて「土人」と呼ぶ現地の人々との交流と
戦時にも変わらぬ姿を見せる自然のエレメントが美しい。


その他、最近読んだのは
「夜の鳥」トールモー・ハウゲン 河出書房新社
「くらのかみ」小野不由美 講談社
「食の世界地図」 文春新書  など

現在、白川静「回思九十年」を読んでいるところ。



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